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膵島関連自己抗体

  

 膵島関連自己抗体とは、膵β細胞を抗原とする自己抗体の一群です。主に以下の4種類が知られています。

・グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体

・Insulinoma-associated antigen-2(IA-2)抗体

・亜鉛輸送担体8(ZnT8)抗体

・インスリン自己抗体(IAA)

 

 なお、膵島細胞抗体(ICA)という検査項目がありますが、これはサル膵切片に対し、蛍光抗体染色法で認識される抗体群のことを指し、膠原病診療における抗核抗体のような立ち位置の検査です。この中にGAD抗体やIA-2抗体が含まれています。検査方法が煩雑であることもあり、近年は使用されなくなってきています。

 

 膵島関連自己抗体は膵β細胞の破壊に関与しているとされており、1型糖尿病の診断マーカーの一つとして用いられています。

 

①GAD抗体

 GADは膵島だけでなく、中枢神経系や精巣にも存在する酵素です。1型糖尿病患者の約70%に認めるとされます。2型糖尿病患者において抗GAD抗体の存在はインスリン依存状態の予測因子となりますが、判明した所で対応策がないため、現時点ではルーチンで評価を行う必要性は低いとされています。

 

➁IA-2抗体

 IA-2は神経内分泌性蛋白質であり、プロテイン-チロシン-ホスファターゼ(PTP)関連蛋白質の一種で。インスリンの遺伝子転写に関わっています。IA-2抗体は1型糖尿病患者の58%に認めるとされ、インスリン自己抗体または抗GAD抗体よりも遅く出現することがわかっています。

 

③ZnT8抗体

 亜鉛輸送担体8(ZnT8)抗体は1型糖尿病患者の60-80%に認めるとされます。また、IAA、IA-2抗体、抗GAD抗体、ICAが陰性である1型糖尿病患者の26%で単独で陽性になることが報告され注目を集めています。通常、ZnT8抗体が陽性となるのは1型糖尿病発症のごく早期のみでその後陰性化するとされています。なお、現時点で保険収載はされておらず、測定する場合に病院の持ち出しになってしまいます。

④IAA

 インスリン自己抗体は幼児で発症する1型糖尿病で陽性になるとされます。なお、インスリン皮下注を行うとほぼすべての患者で陽転化するといわれているため、2週間以上インスリンを使用した患者では1型糖尿病のマーカーとして使用できない点に注意が必要です。

 

 本邦では1型糖尿病は発症様式により劇症、急性発症、緩徐進行の3パターンに分類されています。膵島関連自己抗体は急性発症型と緩徐進行型(SPIIDMとも)で陽性となることが多く、劇症型では原則陰性です。膵島関連自己抗体は1型糖尿病であれば必ず陽性となるわけではないのですが、診断の上で重要な所見となります。

 

 また、2型糖尿病と診断されたうち、最大で10%が何らかの膵島関連自己抗体を保有しているとされています。このような症例は経過でインスリン分泌能が低下していくことが多く、かつては膵島関連自己抗体陽性例の全てがSPIIDMと診断されていました。しかし、近年膵島関連自己抗体を保有している患者の全てがインスリン依存状態に移行するわけではないことが知られるようになり、それに併せて昨年に本邦のSPIIDMの診断基準が改訂されました。この新しい診断基準では、膵島関連自己抗体の陽性だけではなく、空腹時血清Cペプチド値の低下という客観的なインスリン分泌能低下の所見が必須項目となりました。

 

 このように、膵島関連自己抗体陽性=1型糖尿病とは言えないわけですが、膵島関連自己抗体陽性例ではインスリン依存状態になるリスクが高いことも示されており3)、判断が難しい所です。特に2型糖尿とSPIIDMに関しては、ズバッと2つに分けて診断できるものではなく、オーバーラップしている部分が多い関係性なのかもしれません。

 

 さて、そんな膵島関連自己抗体ですが、どのタイミングで測定するのが正解なのでしょうか?

 

 本邦の現行のガイドライン4)では膵島関連自己抗体を測定するタイミングについては言及がありませんが、ADAのガイドライン5)ではルーチンの測定は推奨しておらず、診断時の年齢が若い、意図しない体重減少、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)があるといった、1型糖尿病のリスクが高い患者に対して検査を行うよう勧めています

 

 また、UpToDateでは、1型糖尿病の家族歴がある人では、小児期から定期的な膵島関連自己抗体のスクリーニング検査を推奨していますが、これは近年テプリズマブという1型糖尿病の発症を遅らせる薬剤が登場しており(本邦未承認)、1型糖尿病の発症前に介入が可能となったことを踏まえてのものだと考えます。ちなみに、このテプリズマブですが、①1型糖尿病の近親者、➁膵島関連自己抗体が2つ以上陽性、③経口ブドウ糖負荷試験で耐糖能異常を認める、という条件を満たすハイリスク者に対し使用することで、発症を二年遅らせたそうです6)

 私個人としては、コストを考慮し糖尿病の患者さんに対する膵島関連自己抗体のルーチンでの測定は行っていません。ADAが示すような1型糖尿病のリスクがある症例や、経過中に急に血糖コントロールが悪化しSPIIDMが疑われるような症例に対して検査を検討しています。

 

 前述の通り、膵島関連自己抗体は4種類が存在しており、単独で陽性となることもあれば複数が陽性となることもあります。いずれの自己抗体もSPIIDMの診断基準に含まれており、万全を期すのであれば全て提出するのが確実なのでしょう。ただ、そもそも亜鉛輸送担体8(ZnT8)抗体は保険収載がなく、実臨床では確認することが難しいです。

 

 UpToDateによれば、複数の膵島関連自己抗体を測定することで1型糖尿病の診断精度が上昇するとされており、GAD抗体に加えて1つ、または2つの抗体を測定することを推奨しています。このため、GAD抗体を最低限測定し、加えて可能であれば保険収載のあるIA-2抗体またはIAA抗体を測定するのが現実的な落としどころかと考えます。この点に関しては正解がなく、事前に各施設の糖尿病内科や検査科と相談しておくのがよいでしょう。

1)Diabetes Metab Syndr Obes. 2019 Nov 28:12:2461-2477.

2)Diabetes Care. 2010 Sep;33(9):1970-5.

3)Lancet. 1997 Nov 1;350(9087):1288-93.

4)糖尿病診療ガイドライン2019 日本糖尿病学会

5) Diabetes Care. 2024 Jan 1;47(Supplement_1):S1-S4.

6)N Engl J Med. 2019;381:603-13.