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【研修医必見!】初めての糖尿病診療

 さて、前回のシン・高血圧総論に引き続き、糖尿病総論を全面改訂してみました。いやー、返す返すも初期の頃の記事はクオリティが低くてお恥ずかしいです…。

 

 

 糖尿病標準診療マニュアル1)によれば、糖尿病とは、「インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝症候群」と定義されています。

 

 さらに糖尿病は1型糖尿病と2型糖尿病に分類され、前者は自己免疫性に膵β細胞が破壊されることによる絶対的なインスリン不足を病態としています。一方、後者は複数の遺伝因子、過食・運動不足・肥満などの環境因子、加齢といった複数の要素が絡み合い、膵β細胞量の減少によるインスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたすことが病態となります。

 
 糖尿病は1型と2型に限らず、膵疾患や遺伝子異常などの特定の機序、他疾患によるものが存在しています。具体的には急性膵炎・慢性膵炎・膵腫瘍などの膵疾患による膵性糖尿病、肝硬変などの肝疾患による糖尿病、MODY(muturity-onset disbetes of the young)やミトコンドリア糖尿病、ステロイドによる糖尿病、妊娠糖尿病などがあります。

 

 まず、糖尿病のリスクを具体的な数字を出して紹介していきます。例えば、2型糖尿病では、脳・心血管疾患の発生率が健常人と比較して2~3倍高いことがわかっています2)。また、糖尿病性腎症は2022年現在、透析患者の原疾患で最も多く、39.5%を占めています3)。糖尿病網膜症は2019年度視覚障碍者の原疾患として10.2%を占め、全体の第三位でした4)

 

 これらを踏まえ、糖尿病を治療する目標は、高血糖に起因する代謝異常を改善し、

・脳・心血管疾患(冠動脈疾患、アテローム血栓性脳梗塞)

・三大合併症である末梢神経障害・腎障害・網膜症

・高血糖緊急症

を予防し、患者の予後とQuality of lifeを改善することにあります。

 糖尿病の本態は血管障害にありますが、“糖がおしっこにでる病気”というそのネーミングから、患者さん達はそのことを理解していないことがほとんどです(いっそ血管ボロボロ病とかに変えちゃった方がいいような…)。このため、HbA1cという数値だけでなく、糖尿病の病態を知り危機感を持ってもらうことで、治療に対するモチベーションを高めることが期待できます。時間の限られた外来ではありますが、管理人はそこまで説明するように心がけております。

 

〇診断

 糖尿病標準診療マニュアル1)における糖尿病を診断する上でのフローチャートを示します。

1)より引用

 ①早朝空腹時血糖値126mg/dl以上

 ➁75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値 200mg/dl以上

 ③随時血糖値 200mg/dl以上

 ④HbA1c 6.5%以上 

のうち、①~③のいずれかと④が確認されれば糖尿病の診断となります。HbA1cのみでは糖尿病と診断することができない点に注意しましょう。また、①~③のいずれかを満たし、糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)や糖尿病網膜症が存在すれば、④がなくても糖尿病と診断できます。

 

 多くの場合、空腹時血糖、随時血糖、HbA1cを用いて診断することがほとんどだと思います。この3つの条件では診断には至らないものの、糖尿病疑いが強い患者さんではOGTTまで行うことが望ましいです。ただ、私の病院ではマンパワーの関係でそこまで行うことは難しく、個人的にはOGTTを行った経験がありません。

〇問診

 診断に使用するため、口喝、多飲、多尿、体重減少など、高血糖に関する症状は必ず問診するようにしましょう。続いて、網膜症(視力低下)、神経障害(下肢のしびれ)、足病変(足の白癬・潰瘍)など、合併症について聴取を行います。眼科通院歴も併せて確認するとよいでしょう。また、動脈硬化のリスクである高血圧、脂質異常症、脳・心血管疾患の既往、喫煙歴についても聴取を行います。

 

 若いころの体重と現在の体重、食生活、運動習慣といった生活習慣を確認し、糖尿病の発症に寄与しているものがないか評価を行います。

〇身体所見・検査での留意点

 神経障害の有無を評価するため、アキレス腱反射と内踝の振動覚低下(C128音叉で10秒以下)を確認します。また、糖尿病性足病変の確認のため、靴下を脱がせた上で、足趾に潰瘍がないか確認する。同時に閉塞性動脈硬化症を評価するため、足背動脈を触知するかについてもチェックするとよいです。

 糖尿病患者は歯周病のリスクが高いため、口腔内を視診し齲歯や歯肉炎の有無を評価します。不衛生な場合は歯科受診を勧めましょう。


 糖尿病と診断した患者では、合併症の把握のために以下のような検査を行います。

・血液検査(糖・HbA1c、血算、肝腎機能、電解質、脂質)

・尿検査(尿アルブミン定性)

・胸部X線写真

・心電図

微量アルブミン尿は尿定性検査では蛋白陰性となってしまうため、必ず尿アルブミン定量検査を提出するようにしましょう。また、尿ケトン体の有無は糖の利用障害の指標になり、陽性の場合は早期の血糖コントロールが望ましいため、併せてチェックしましょう。

 網膜症の評価のため、眼底検査は必須です。一度眼科へ紹介し精査を依頼しましょう。

 

 足背動脈の触知が弱かったり、すでに足病変がある場合にはABIを追加します。

 
 可能であれば空腹時Cペプチドを測定しておくとよいです。これはインスリン分泌能の指標であり、薬剤選択や1型糖尿病を疑う際の参考となります。Cペプチド≦0.6ng/mlで確実なインスリン分泌低下と判断します。また、1型糖尿病の指標として抗GAD抗体を始めとする膵島関連自己抗体がありますが、初診時にルーチンで測定する必要はありません。詳しくは下記の記事も参照ください。

 

〇インスリンの絶対適応、相対適応の確認

 糖尿病の診断をした後、まず以下のインスリン治療の適応について確認します。

 絶対適応がある場合、原則として糖尿病専門医への紹介を行います。相対適応も可能であれば紹介が望ましいですが、少なくとも自院での入院による血糖コントロールを検討しましょう。

〇血糖コントロール目標の設定

 まず、血糖コントロール目標、つまり目指すべきHbA1c値を決定します。個々の症例で適切な値を設定する必要があり、初学者が悩む部分です。

 

 かつては血糖値が低ければ低い程よい、「the lower, the better」という考え方が主流でしたが、2008年のACCORD試験5)をきっかけに、血糖を下げることが必ずしも患者の利益に結び付かないことが判明し、大きく潮目が変わりました。具体的には、治療へのモチベーション、年齢、糖尿病の罹病期間、併存症などの要素を参考に、場合によってはHbA1c 8.0%以上の緩い管理を行うことがあります。以下に糖尿病標準診療マニュアル20241)より引用した個別化血糖目標例を示します。

 ちなみに、私は治療目標を

①HbA1c 7.0%未満という厳格な管理を目指す群

②HbA1c 8.0%前後の緩やかな管理とする群

の2パターンに分けて考えるようにしています。

 基本は①として管理を行いますが、下記に該当する患者さんは➁として管理を行っています。
・80歳以上の高齢
・糖尿病の罹病期間が10年以上
・アドヒアランスに難がある
・併存疾患が複数ありポリファーマシーの傾向がある

 

 もっと踏み込むと、診察室での様子で、直感的に「あ、この人の治療ではあんまり無理はできないな…」と思ってしまうようなら➁として対応するのがよいでしょう。

 
 実際には上記以外の要素も考慮し、0.5%刻みにより細かく数値設定を行っていますが、慣れるまでは上記のようにざっくり血糖管理目標を決めるとよいと思います。

〇食事・運動療法

 糖尿病の治療で最も重要な要素が食事・運動療法であり、それでも血糖コントロールがつかない場合に血糖降下薬を追加していくことになります。


 総エネルギー量は目標体重×エネルギー係数を目標とし、具体的な数値にすると大体2,000kcal前後が目安となります。

 外来で適切な指導を行うことには限界があるため、管理栄養士による栄養指導を活用しましょう。管理人は初診の患者さんには一度は栄養指導を入れるように心がけています。

 

 運動は1回15~30分間、1日2回(1日の歩数で約8,000~9,000歩)、週3日以上を目標とします。いきなりがっつりとした運動は難しいので、まずはウォーキングから初め、可能な範囲で身体活動量を増やしていくとよいです。地域のゲートボール大会など、複数人で取り組めるとより継続がしやすいでしょう。

 なお、

・空腹時血糖250mg/dl以上

・尿ケトン体陽

・眼底出血

・腎不全

・高度の自律神経障害

など、全身状態が不安定な場合には運動は禁止します。

 

〇総論

 糖尿病の治療薬には血糖降下薬とインスリンがありますが、インスリン適応がない場合は血糖降下薬で治療を開始していきます。血糖降下薬には複数の種類がありますが、最初に

・ビグアナイト薬

・SGLT2阻害薬

・GLP-1受容体作動薬

・DPP-4阻害薬

の4種類を使いこなすことを目標としましょう。

 

 

 糖尿病診療においては脳・心血管疾患の予防が大きなウェイトを占めるという話をしましたが、ビグアナイト薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬の3つは血糖降下作用と独立して脳・心血管疾患の予防効果があり他剤に優先して使用すべきです。一方、DPP-4阻害薬には脳・心血管疾患の予防効果はありませんが、比較的副作用が少なく使用頻度が高いです。次いでαグルコシダーゼ阻害薬、グリニド薬が使われる頻度が高いのですが、内服回数が朝・昼・夕の1日3回となってしまうため、アドヒアランスが悪化しやすいのが難点です。なお、SU剤とチアゾリジン薬は副作用が多く、近年は使用する機会がめっきり減ってきています。また、最近GIP/GLP-1受容体作動薬やイメグリミン(ツイミーグ®)などの新薬が登場していますが、まだエビデンスに乏しく、プライマリケアのセッティングで使用するものではないため名前のみの紹介に留めておきます。

 

 インスリン製剤としては、各医療施設で採用のある超速効型インスリン、持効溶解型インスリンを1種類ずつ覚えておくようにしましょう。具体的には以下の記事もご参照ください。

■ビグアナイト薬


 ビグアナイト薬は肝臓での糖新生を阻害することで肝臓のグルコース産生を減少させ、末梢組織で糖利用を促進させる効果があり、総じて全身での糖代謝を改善する薬剤です。メトホルミン(メトグルコ®)が該当します。

 
 血糖降下作用が強く6)、脳・心血管疾患の予防効果7,8)や体重減少効果9)があり、副作用が少なくコストも安いといいことづくめです。様々な新薬が登場している中でも、圧倒的に信頼性の高い薬剤であるといえ、現在も血糖降下薬の第一選択です
 

 具体的には、メトホルミン 500mg/日から開始し、1~2か月の外来ごとに500mgずつ増量していきます。維持量は血糖コントロールや年齢、体格、腎機能を総合して決定しますが、臨床試験では2,000mg前後の用量で投与されているため、可能な限り増量が望ましいです。私は最低でも1000mg/日までは増量するようにしています。なお、本邦での最大投与量は2,250mg/日です。


 副作用として嘔気、下痢といった消化器症状が出やすいです。通常は軽度かつ一過性であるため、事前に患者に説明の上、少量から漸増していくことで忍容性が高まります。乳酸アシドーシスは重篤かつ有名な副作用ですが、100,000人年あたり4.3例と非常に稀です10)。超高齢者、腎機能低下例、肝不全、寝たきりなど、全身状態が悪い患者ではリスクが高いため、投与を避けることが推奨されています11)。単剤での低血糖リスクは低いですが、SU剤との併用でリスクが高まります。また、意外と知られていない副作用としてビタミンB12欠乏症があります。長期内服例では定期的に欠乏がないか血液検査によるチェックが望ましいです。

■SGLT2阻害薬

 

Sodium glucose cotransporter 2(SGLT2)は近位尿細管に発現しており、尿糖の90%を再吸収しています。SGLT2阻害薬はこのSGLT2を阻害し、尿中に糖を排泄することで血糖降下作用を示す薬剤です。色々種類がありますが、エンパグリフロジン(ジャディアンス®)またはダパグリフロジン(フォシーガ®)を覚えておきましょう。


 SGLT2阻害薬は脳・心血管疾患の予防効果に加え12,13)臓器保護作用がある点が特徴です。糖尿病の有無に関わらず、かつ心駆出率に寄らず心保護作用を持ち14,15)、心不全領域でも多用されています。また、腎保護作用も糖尿病の有無に関わらず、蛋白尿のあるCKD患者において効果が認められています16)。このため、心不全合併例や蛋白尿のあるCKD合併例にはビグアナイト薬より優先して使用することがあります


 副作用として低血糖、性器感染症、脱水、頻尿があります。以前は尿路感染症の増加が懸念されていましたが、さほどリスクは高くないようです。また、高齢者ではサルコペニアの原因となることがあり特に注意が必要です。また、血糖が正常のケトアシドーシスが報告されており、内服中の患者で全身倦怠感、悪心、嘔吐といった症状がある場合には血液ガス分析検査を行う必要があります。

■GLP-1受容体作動薬

 

 GLP-1受容体作動薬は体内でGLP-1受容体のアゴニストとして働き、糖依存性にインスリンを分泌することで効果を発揮します。また、胃内容物排出を遅延させ、食後のグルカゴン分泌を抑制し、食事摂取量自体を減少させるなど、多面的な作用を持ちます。

 

 脳・心血管疾患の予防効果17,18)に加え、体重減少効果が高い点が特徴です19)。このため、近年は肥満治療薬としての役割も担うようになってきています。薬剤により作用時間が異なりますが、現在では長時間作用型が主流です。デュラグルチド(トルリシティ®)セマグルチド(オゼンピック®)を覚えておきましょう。いずれも週1回の注射製剤です。注射薬ということで導入に難色を示す方も少なくありませんが、下手な内服薬よりもアドヒアランスが向上する場合があります。ただし、注射製剤ということで薬価は高いです。

 

 近年セマグルチドの経口薬としてリベルサス®が発売されていますが、脳・心血管疾患の予防効果についてプラセボと比較し有意差を示すことができていません20)。服薬方法も面倒であり、朝一で内服してそこからしばらく飲み食いができません。これ、自分自身に当てはめて考えるとイメージしやすいのですが、出勤前にこのような食事制限がかかるとかなりしんどいですよね。同じような薬剤として骨粗鬆症のBP製剤がありますが、あちらは週1回の内服であり、そこまで問題となることはありませんが、毎日これをやるのは大変です。実臨床でもリベルサス®を使うと明らかにアドヒアランスが悪くなる傾向があるため、私はあまり使用していません。

 

 副作用としては嘔気、嘔吐、下痢、便秘といった消化器症状の頻度が高く、10~50%の頻度とされます21)。消化器症状を許容できずに薬剤継続が難しいことも少なくありません。他に膵炎や胆嚢・胆管疾患の増加、皮膚症状に注意します。また、DPP-4阻害薬とは一部効果が被るため併用することができません。元々DPP-4阻害薬を内服している場合には中止する必要があります。

 

 GLP-1受容体作動薬は若く肥満のある患者さんでよい適応があります。SGLT-2阻害薬同様、高齢者では食欲抑制効果が裏目に出てサルコペニアの原因となることがあるため注意が必要です。

■DPP-4阻害薬

 

 インクレチンはグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)といった複数のホルモンの総称であり、膵β細胞に結合することで糖依存性にインスリンを分泌します。DPP-4阻害薬はジぺプチルペプチダーゼ(DPP-4)を阻害し、インクレチンの分解を阻害することで効果を発揮します。

 

 複数の薬剤がありどれを用いてもよいですが、投与回数や腎機能調節の必要性が異なります。管理人は普段はシタグリプチン(ジャヌビア®)を使用し、腎機能が悪い症例ではリナグリプチン(トラゼンタ®)を用いています。

 

 副作用が少なく高齢者にも使用しやすいですが、脳・心血管疾患の予防効果は示されていません22)。このため、ビグアナイト薬やSGLT2阻害薬を使用しても血糖コントロール目標を達成していない症例に上乗せするような形で補助的に使用することが多いです。

 

 稀に水疱性類天疱瘡やDPP-4阻害薬関連の関節痛・関節炎など、自己免疫疾患を誘発することがあるので注意します。

〇実際の血糖降下薬の使い方

 ここまでビグアナイト薬、SGLT2阻害薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬の4種を紹介してきました。この項では、私の実際の血糖降下薬の使い方を具体的に紹介します。


 まず、合併症のない患者さんでは、最初にビグアナイト薬から開始します。消化器症状を軽減するため500mg/日の少量から開始し、1~2ヶ月ごとに500mg/日ずつ増量していきます。少なくとも1,000mg/日までは増量した上で効果判定を行うとよいでしょう。なお、アドヒアランス向上のため、1日3回ではなく1日2回で内服してもらうのがオススメです

 

 十分なビグアナイト薬で血糖コントロール目標を達成しない場合、SGLT-2阻害薬のダパグリフロジン(フォシーガ®)とDPP-4阻害薬のシタグリプチン(ジャヌビア®)を適宜追加していきます。

 

 それでも目標を達しない場合はDPP-4阻害薬をGLP-1受容体作動薬に切り替えを検討します。

 

 これらにαグルコシダーゼ阻害薬やグリニド薬を併用することもありますが、内服薬が煩雑になりアドヒアランスが低下する恐れがあるため注意が必要です。

 

 3~4剤の併用でも効果が乏しい場合、インスリンの併用を患者さんと相談するようにしています。

 

 心不全や蛋白尿を伴うCKDがある場合はSGLT2阻害薬を優先して導入し、高度の肥満がある場合はGLP-1受容体作動薬を優先して使用します。
 

 実際には高齢、アドヒアランスの問題、腎機能低下、経済的問題といった要素が絡み合い、上記の通りにいかないことも多々ありますが、まずはこのようなフローで考えてもらうと理解しやすいと思います。

 

〇毎回の外来で確認すること

 体重の推移、内服のアドヒアランス、残薬、生活習慣について毎回聴取を行います。また、コントロールがつくまでは毎回診察前に血液検査を行い、血糖、HbA1cを確認して薬剤調整を行うようにしましょう。

 

 薬剤ごとの副作用の確認も必須ですが、どの薬剤も低血糖を起こしうるため、最低限低血糖症状がないかは毎回チェックをしましょう。

〇血糖コントロールが急激に悪化したら

 時折、HbA1cが7.0%前後で推移していたのに、急に9.0%まで悪化してしまった!ということがあります。このように血糖コントロールが急に悪化した場合、①悪性腫瘍➁緩徐進行型1型糖尿病(SPIIDM)の可能性の2つを考えましょう。


 悪性腫瘍については膵癌によるインスリン分泌低下を第一に疑いますが、どの部位の腫瘍でも悪液質によって耐糖能が悪化する可能性があります。私は悪性腫瘍のスクリーニングとして、最低限腹部エコー胸部X線写真を行うようにしています。悪液質で耐糖能が悪化している場合、かなり進行していることが多く、大体はこの2つの検査で引っ掛けることが可能です。

 
 SPIIDMは1型糖尿病の中でも最初は2型糖尿病との鑑別が難しい病型です。2023年に日本糖尿病学会が提唱したSPIDDMの診断基準をお示しします23)

 

・膵島関連自己抗体が陽性である
・ インスリン分泌能が緩徐に低下し、インスリン依存状態となる

という2点が本診断基準のキモとなります。膵島関連自己抗体には抗GAD抗体、IA-2抗体、ZnT8抗体など複数の種類がありますが、SPIIDMを疑った際には少なくとも抗GAD抗体だけは確認しておくようにしましょう。また、インスリン分泌能は前述したC-ペプチドで確認します。

 

 SPIIDMの治療に関してはインスリンが基本となりますが、メトホルミンやDPP-4阻害薬の有効性も示唆されているようです。他の1型糖尿病と同様、アクセスが可能であれば糖尿病専門医に紹介するのが望ましいでしょう。

〇糖尿病の合併症・併存症の管理

 糖尿病の合併症・併存症の管理は以下のように行います。

・高血圧:家庭血圧の測定を指導し、早期発見に努める。

・脂質異常症:適宜血液検査で確認し、高LDL-C血症がある場合にはスタチン導入を検討する。

・腎症:年1回は尿アルブミン定量検査を行う。微量アルブミン尿がある場合、SGLT-2阻害薬とACE阻害薬/ARBの導入を検討する。

・網膜症:年1回は眼科に通院するよう指導する。

・神経障害:年1回はアキレス腱反射、振動覚を確認する。神経障害性疼痛がある場合にはプレガバリンなどの神経障害治療薬を検討する。

・足病変:年1回は足の診察を行う。白癬がある場合には治療を行う。

・末梢動脈疾患:年1回は足背動脈の診察を行う。触知が悪ければABI(Ankle Brachial Pressure Index)など精査を検討する。

・歯周病:定期的な歯科受診を促す。

 

 以下の場合は専門医への紹介を検討します。

 

 糖尿病診療に慣れていない場合、血糖降下薬を3~4種類導入してもコントロールがつかず、インスリンが必要な時点で紹介を検討してもよいと思います。特に年齢が若い場合は現在の血糖コントロールが予後に直結するため、無理して抱え込まないのが無難です。

 

最後に、ここまでの内容を踏まえて重用事項をチェックリストとしてまとめました。ご参考ください。

 

治療目標:
□短期的目標:血糖値を至適範囲内にコントロールする
□長期的目標:脳・心血管疾患、三大合併症(神経障害・腎障害・網膜症)、高血糖緊急症を予防する

 

外来引継ぎ時の確認事項:
□治療経過 □血糖コントロール目標
□食習慣、運動習慣、喫煙歴などの生活習慣
〇他の脳・心血管疾患リスク因子の確認
 □65歳以上 □男性 □喫煙 □高血圧症 □脂質異常症 □肥満 □50歳未満発症の脳・心血管疾患の家族歴
□腎症:血清Cre値、eGFR、尿アルブミン定量
□網膜症:眼科通院歴、眼底検査
□神経障害:アキレス腱反射、振動覚
□1型糖尿病の評価歴:膵島関連自己抗体、空腹時血清Cペプチド値

 

最低限覚えておくべき薬剤:
□ビグアナイト薬:メトホルミン(メトグルコ®)
□SGLT2阻害薬:ダパグリフロジン(フォシーガ®)、エンパグリフロジン(ジャディアンス®)
□DPP-4阻害薬:シタグリプチン(ジャヌビア®)、リナグリプチン(トラゼンタ®)
□GLP-1受容体作動薬:デュラグルチド(トルリシティ®)、セマグルチド(オゼンピック®)
□超速効型インスリン:アスパルト(ノボラピッド®)
□持効型溶解インスリン:デグルデグ(トレシーバ®)、グラルギン(ランタス®)

 

外来での確認事項:
□体重 □家庭血圧の平均値
□内服のアドヒアランス・残薬 □血糖、HbA1c □低血糖症状
□食習慣、運動習慣、喫煙歴などの生活習慣

専門医へ紹介するタイミング:
□1型糖尿病、もしくはその疑い
□妊娠希望、もしくは糖尿病合併妊娠
□糖尿病急性合併症の出現:糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群、低血糖による意識障害
□インスリン導入が必要だが、担当医がインスリン管理に不慣れな場合
□頻回低血糖で管理不安定
□網膜症がある
□腎症のCKDステージが紹介推奨の水準まで悪化
□神経障害、足病変など、その他の合併症の管理が難しい

 

1)糖尿病標準診療マニュアル2024 日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会

2)Cardiovasc Diabetol. 2022 May 14;21(1):74.

3)2022年度末の慢性透析患者に関する集計 日本透析医学会

4)Jpn J Ophthalmol. 2023 May;67(3):346-352.

5)N Engl J Med. 2008; 358: 2545-2559.

6)N Engl J Med. 1995; 333: 541-549.

7)N Engl J Med. 2008; 359: 1577-1589.

8)Ann Intern Med. 2016; 164: 740-751.

9)N Engl J Med. 2006; 355: 2427-2443.

10)Cochrane Database Syst Rev. 2010 Apr 14;2010(4):CD002967.

11)メトホルミンの適正使用に関するRecommendation 日本糖尿病協会

12)N Engl J Med 2015; 373:2117-2128.

13)N Engl J Med 2017; 377:644-657.

14)N Engl J Med 2019; 381:1995-2008.

15)N Engl J Med 2022; 387:1089-1098.

16)N Engl J Med 2020; 383:1436-1446.

17)N Engl J Med. 2016;375(19):1834.

18)Lancet. 2019;394(10193):121.

19)Diabetes Obes Metab. 2017 Apr;19(4):524-536.

20)N Engl J Med. 2019;381(9):841.

21)Cochrane Database Syst Rev. 2011 Oct 5;2011(10):CD006423.

22) BMJ. 2017; 357: j2499.

23)糖尿病 2023, 66(7):587-591.