今回は脂質異常症に関するまとめです。実は私も高LDL-C血症に対し薬物治療中の身です。本当に他人事ではないので、特に力を入れて勉強してみようと思います^^;
脂質代謝について
小腸の上皮細胞から吸収された中性脂肪、コレステロールはリポ蛋白にくるまれて輸送されます。カイロミクロンは腸細胞から産生され、リンパ管に分泌されたのちに静脈循環へと戻っていきます。カイロミクロンは85%が中性脂肪ですが、輸送中にLPL(lipoprotein lipase)による代謝を受け、中性脂肪が加水分解されます。加水分解された中性脂肪は遊離脂肪酸、グリセロールとなり、周囲の細胞でエネルギーとして消費されます。最終的にカイロミクロンは中性脂肪が少なくなり、カイロミクロンレムナントとなり肝臓で吸収されます。
肝臓で産生された脂肪は同じく肝臓で産生されたリポ蛋白のVLDLにより血中に放出されます。これもLPLに代謝を受け、中性脂肪の少ないLDLとなり、組織のLDL受容体と結合してエンドサイトーシスにより末梢組織細胞に取り込まれます。LDLが組織に取り込まれるよりも多く血中にあふれている場合、血管内皮細胞に取り込まれてマクロファージが貪食することで泡沫細胞となります。これが動脈硬化の原因となります。
HDLは肝臓で合成されるリポ蛋白であり、最初はほとんどコレステロールを含有していませんが、末梢組織細胞からABCA2酵素を介してコレステロールを末梢組織から回収する役割を担っています。
脂質異常症の定義
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版によれば、下記が脂質異常症の診断基準となっています。
脂質の測定の方法
脂質異常症の検査項目には総コレステロール(TC)、中性脂肪(TG)、HDLコレステロール(HDL-C)、LDLコレステロール(LDL-C)の4種がありますが、4種すべてを測定すると査定を受けてしまいます。通常はTGとその他2項目を選択して評価をすることになりますが、どれを選択すればよいのでしょうか。
そもそもLDL-CはFriedewald式(TC-HDL-C-TG/5)で算出される間接法、または直接血中LDL-Cを測定する直接法で計測されます。前者は食後の検体やTG濃度が400mg/dL以上の検体では使用できません。後者は原理の異なる複数の試薬がありますが、基本的には食事による影響は少なく、採血は随時で構わないとされ、TGの数値によらず正確な数値を算出することができます。
2022年の動脈硬化性疾患予防ガイドラインには直接法と間接法のいずれが優れているかについての記載はありませんでしたが、AHAのガイドラインでは基本的に間接法を推奨しています。up to dateにもいずれが推奨されるかの記載はありませんでしたが、検査法による誤差がでるため、一人の患者において両者を混合して使用しないことが付記されていました。
結論としては、現状直接法と間接法のいずれを用いてもよいのではないかと考えます。
脂質異常症のリスクと介入の意義
脂質異常症の治療目的は、ASCVD(Athrosclerotic Cardiovascular Disease:動脈硬化性心血管疾患)を予防すること、この一言に尽きます。ASCVDには、具体的には冠動脈疾患、脳梗塞・一過性脳虚血発作、末梢動脈疾患が含まれます。脂質にはTG、LDL-C、HDL-Cなど複数の項目がありますが、それぞれの数値とASCVDのリスク、そして介入の意義についてまとめます。
LDL-Cの上昇は将来の冠動脈疾患の発症や予測となり、脳梗塞に対して正の相関があることが分かっています。また、LDL-Cを40mg/dL低下させることで総死亡率が5年で12%低下するというデータもあります。1)
一方で、LDL-Cよりもnon HDL-C、TC/HDL-C、LDL-C/HDL-Cの方がLDL-C単独よりも心血管疾患のリスクのよりよい予測因子であるというデータもあります。また、HDL-C自身も心血管疾患のリスクと有意に逆相関することがわかっています。
TGについては、いくつかの研究では心血管疾患の予測因子であることが示唆されていますが、その予測の力は小さいようです。その結果、TGはほとんどのリスク層別化モデルにおいて主要な構成要素から外されています。また、高TG血症に対する治療のエビデンスも乏しいです。
以上より、心血管疾患のリスク評価を考えた場合にはTCとHDL-Cを測定し、HDL-Cそのものやnon HDL-Cを評価し、さらにTC/HDL-CやLDL-C/HDL-Cを見るのがよいと考えます。なお、治療においてはLDL-Cが目安となるので分けて考える必要があります。
続いて一次予防、二次予防の違いについて見ていきましょう。一次予防におけるスタチン療法は心血管イベントを減らすことがわかっていますが、その効果は非常に小さいとされています。MEGA studyでは、NNTは5.3年間で255人程度とされています。かなりNNTが大きいですね・・・。
二次予防については治療目標値を原則としてLDL-C 100mg/dl未満(家族性高コレステロール血症、急性冠症候群、その他ハイリスク病態を有する患者では70mg/dl未満)として治療を行います。HPSというスタディではNNTが5年間で19人と小さく、一次予防と比較し治療効果の高さが伺えます。
脂質異常症の管理目標
実際に脂質異常症の管理を行う上でまず意識すべきなのは、対象の患者さんが
①一次予防:ASCVDを起こさない
➁二次予防:再発しないようにする
のいずれであるのかということです。
以下、ガイドラインから改変・作成したフローチャートを示します。
FHが否定できた場合、まずは冠動脈疾患またはアテローム性脳梗塞が既往にあるかを確認します。ある場合、二次予防目的ということになり、即薬物治療を開始します。この際、目標LDL-Cは100mg/dL以下とします。
続いて、糖尿病、慢性腎臓病、末梢動脈疾患の有無を検索します。これらがある場合、ASCVDの高リスクとしてLDL-C<120mg/dLを目標に治療を行います。
それらもない場合、久山町研究によるスコアをつけ、リスク分類を行います。以前は吹田スコアが採用されていましたが、こちらが冠動脈疾患の発症のみをエンドポイントにしていたのに対し、久山町スコアは、冠動脈疾患に加えて、脳梗塞の中でも動脈硬化や脂質異常症と関係の深いアテローム血栓性脳梗塞の発症をエンドポイントとしているのが特徴です。久山町研究によるスコアは、①年齢、➁性別、③HDL-C、④LDL-C、⑤収縮期血圧、⑥糖代謝異常、⑦喫煙の習慣を参考にASCVDリスクを高、中、低に分類するものです。それぞれLDL-Cの目標値は<120mg/dL、<140mg/dL、<160md/dLです。
下記の日本動脈硬化学会のHPからアプリをダウンロードすることが可能です。
https://www.j-athero.org/jp/general/ge_tool2/
また、私は下記のmayo clinicのスコアリングも使用しています。
https://statindecisionaid.mayoclinic.org/
リスクの母体が日本人でないことに注意が必要ですが、リスクベネフィットを可視化できてわかりやすいためオススメです。
家族性高コレステロール血症
以下に成人(15歳以上)家族性高コレステロール血症ヘテロ接合体の診断基準を示します。
①高LDL-C(未治療時のLDL-C≧170mg/dL)
➁腱黄色腫(手背、肘、膝等またはアキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫
③FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(2親等以内)
家族性高コレステロール血症は一般人口の300人に1人程度、冠動脈疾患の30人に1人、早発性冠動脈疾患や重症高LDL-C血症の15人に1人程度認められるとされます。また、冠動脈疾患のオッズ比は非家族性高コレステロールと比較すると10-20倍といわれています。
家族性高コレステロール血症の患者には後述のスタチン、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬(エゼチミブ)、PCSK9阻害薬を使用し、一次予防にLDL-C<00mg/dL、二次予防にLDL-C<70mg/dLの厳格な脂質コントロールを行います。それでも効果不十分であればLDLアフェレシスも検討します。
続発性脂質異常症
続発性脂質異常症の原因として、下図のようなものがあります。
生活指導
薬物治療の前に重要なのが生活指導です。以下、食事療法と運動療法についてポイントを簡潔にまとめます。
〇食事療法
①総エネルギー摂取量を制限する
➁適正な体重を維持する(BMI 22前後)
③飽和脂肪酸を減らし、不飽和脂肪酸を増やす
〇運動療法
・種類:速歩、ジョギング、水泳、サイクリングなどの有酸素療法
・30分以上をできれば毎日(最低週3日)
・中等度(3METs)以上
スタチン
スタチンは高LDL-C血症の治療の第一選択であり、要となる薬剤です。作用機序や薬剤選択についてそれぞれ確認していきましょう。
〇作用機序
スタチンはHMG-CoA還元酵素を阻害することで体内でのコレステロール合成を抑制することが作用機序となります。
〇代謝
代謝に関してはほとんどが肝臓のCYPを介しますが、プラバスタチンは腎臓排泄、ピタバスタチンは胆汁排泄という特徴があります。シンバスタチン、アトルバスタチンはCYP3A4を介するので薬物相互作用に注意が必要です。ロスバスタチンはCYP2C9を介しますが、ほとんど関与はないとされています。その他、ピタバスタチン、ロスバスタチンはシクロスポリンとの併用が禁忌となっています。
〇強度
スタチンがどの程度LDL濃度を低下させるかをスタチンの強度と表現します。スタンダート、ストロング、スーパーに分類でき、ロスバスタチンがスーパーに分類され最も力価が強いです。基本的にはアトルバスタチンとロスバスタチンの2種でカバー可能です。
以下、アトルバスタチンとロスバスタチンの用量と治療前LDL-C値の目安です。
*スタチンの増量は添付文書に従って徐々に行いましょう
〇副作用
①横紋筋融解症
・入院を要するもの:1万人年:0.44(2万人に1人発症する/1年間にて)
・筋痛 2~7%:スタチン開始から数週間~数か月で起こることがある(CK上昇は伴わない場合もある)
*基本的にスタチンの中止により可逆的に改善するが、壊死性ミオパチーなど稀にあり注意が必要。
*CK>10 ULN or 症状がある場合にスタチン中止する
・CK上昇、筋力低下 0.1-10%
→スタチンとフィブラート製剤の併用は基本的に禁忌
➁肝逸脱酵素
③糖尿病
フィブラート系
〇作用機序
肝臓のPPARなどに作用しTGを低下させます。
〇エビデンスと使い方
高TG血症の治療にはまずは食事療法の介入を行います。脂質異常症の治療はスタチンでの薬物介入がフィブラート製剤よりも優先されます。スタチン+フィブラート系の併用は限られた患者でしか心血管イベント抑制効果は十分に示されておらず、併用により横紋筋融解症リスクが上昇するため、使用する場面は限定的です。
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬
エゼチミブ:ゼチーア®が該当します。
〇作用機序
小腸近位の上皮細胞表面に高発現しているコレステロール吸収を担うトランスポータータンパク(NPC1L1)を選択的に阻害することで、胆汁性や食事性のコレステロールの吸収を阻害します。
〇エビデンスと使い方
心血管イベント後の二次予防におけるエゼチミブ+スタチン併用とスタチン単独とを比較したIMPROVE-IT試験で、併用群は心血管イベントと脳梗塞を有意に減少させましたが、心血管死と総死亡は減りませんでした。そのため、二次予防においてスタチンを使用してもLDL-Cが100mg/dl未満とならない場合、エゼチミブの併用を検討するのがよいでしょう。
〇副作用
・便秘、下痢、腹痛、悪心・嘔吐といった消化器症状
・肝障害
・CK上昇
また、陰イオン交換樹脂、シクロスポリン、ワーファリンとの併用注意。
ニコチン酸
ナイアシン:ユベラ®が該当する
〇機序
脂肪細胞からの遊離脂肪酸を抑制することで、肝臓での超低比重リポ蛋白(VLDL)産生抑制やリポ蛋白リパーゼの活性亢進、マクロファージからのコレステロール逆転送亢進という作用機序でTG低下、HDL-C上昇を促すとされます。
〇エビデンスと使い方
システマティックレビューでスタチンへの追加で総死亡、心血管死、心血管イベントを減らせないとの結果であり、エビデンスに乏しいです。また、耐糖能異常、皮膚の紅潮、麻痺、嘔気など副作用も多いため、基本的には使用しないことが推奨されます。
多価不飽和脂肪酸
EPA:エパデール®などが該当する
〇機序
Ω-3系多価不飽和脂肪酸に属しており、ニシン、サバなどの魚油に含まれています。肝臓でのVLDL合成を抑制し、TGを減少させ、わずかながらHDL-Cを増加させる効果を持つとされます。
〇エビデンスと使い方
複数のトライアルが行われていますが、総死亡、心筋梗塞、脳梗塞のいずれも減少させることができませんでした。薬価も高いため、EPAを積極的に使用する理由は乏しいです。
陰イオン交換樹脂
コレスチラミン:クエストラン®、コレスチミド:コレバイン®が該当します。
〇機序
腸管内で胆汁酸を吸収し、胆汁酸の再吸収による腸管循環を阻害することにより、コレステロールから胆汁酸への異化を促進し、結果としてLDL-Cを低下させます。
〇エビデンスと使い方
複合心血管アウトカムを減少するという結果でしたが、心筋梗塞、総死亡といった個々のアウトカムを減らす効果は証明できませんでした。スタチンを吸着してしまうため、併用の効果が薄いです。ただし、妊婦にも使用できるため、スタチンがどうしても使用できない場合に選択肢になりうるとされます。
〇副作用
・便秘、腹部膨満感といった消化器症状
・ジギタリス、スタチン、ワルファリン、サイアザイド系利尿薬、甲状腺ホルモン製剤を吸着してしまう
PCSK9阻害薬
〇機序
PCSK9は”Proprotein Convertase Subtilisin/Kexin type9″の略で、2003年に発見され、フランスの家族性高コレステロール血症患者がPCSK9を過剰発現していることが分かり、脂質異常症におけるターゲットとして注目されるようになりました。
簡単に言うと、PCSK9は肝臓のLDL受容体を分解する働きをします(下図)2)。
LDL受容体は普段血中のLDLを回収する働きをしているので、PCSK9によってLDL受容体が分解されると血中LDL濃度は上昇します。細胞内コレステロールが低下すると、SREBP-2という転写因子が活性化し、LDL受容体発現を増加させることで細胞内にコレステロールを取り込もうとし、同時にPCSK9の産生が誘導されることでLDL受容体が過剰に発現しないようにバランスをとっています。スタチンは血中LDL濃度を低下させますが、同時に細胞内コレステロールも下がってしまいます。このため、PCSK9の産生が誘導され、LDL受容体の発現が低下するため、スタチンの効果が一部相殺されることになります。
モノクローナル抗体であるPCSK9阻害薬は、このPCSK9を阻害することで肝臓のLDL受容体の分解を抑制し、血中LDLを細胞内に取り込み血中LDL濃度を下げる働きがあります。スタチンの使用によってPCSK9発現が亢進してしまうのをPCSK9阻害薬が阻害することで、相乗的な効果が期待されます。この機序からわかるように基本的にはスタチンの併用が望ましい薬剤ということになります。
〇エビデンスと使い方
心血管イベントを減らすことが分かっていますが、総死亡については報告によりまちまちです。どのような副作用があるかも未知数の部分があり、適応は家族性高コレステロール血症または高コレステロール血症で、心血管イベント発現のリスクが高く、スタチンで効果不十分な患者に限定して使用します。
参考
・up to date
・医学事始
論文
・Lancet. 2005 Oct 8;366(9493):1267-78.
・J Lipid Res . 2012 Dec;53(12):2515-24.
文献
・医学書院 標準生理学
・羊土社 Gノート 動脈硬化御三家
・羊土社 研修医のための内科診療事始
・動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版