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緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)

緩徐進行1型糖尿病の診断基準

緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の診断基準が改訂されましたので、これを機にSPIDDMについてまとめなおしてみようと思います。

まず、以前の診断基準が以下になります。

そして、改訂された診断基準が以下になります。

ポイントとしては、

・抗GAD抗体、ICA以外の膵島関連自己抗体でも診断が可能となった

・インスリン分泌能によりprobableとdifiniteに分類された

の2点が挙げられると思います。

新しい診断基準を元に、今後治療方針についても提言がでるかもしれません。

ここからは、緩徐進行1型糖尿病について現状わかっていることをまとめていきます。

緩徐進行1型糖尿病について

〇緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)とは

一見2型糖尿病として発症し、進行性のβ細胞障害が認められる病態のことを指します。海外ではLADA(latent autoimmune diabetes)と呼称されています。本邦では「経過が緩徐であること」に、海外では「自己免疫が主体で成人に発症すること」に対してという、着眼点の違いからネーミングが異なっているようです。

発症年齢は40-60歳で非肥満体型、初期は食事療法のみでコントロール可能な程度ですが、数か月から数年で増悪し、最終的にはインスリン導入が必要となります。

2型糖尿病として診断されている患者のうち、実は7.5-10%が緩徐進行1型糖尿病であったとの報告もあります。

〇膵島関連自己抗体について

膵島関連自己抗体にはグルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体、膵島細胞抗体(ICA)、Insulinoma-associated antigen-2(IA-2)抗体、亜鉛輸送担体8(ZnT8)抗体、インスリン自己抗体(IAA)の5種があります。緩徐進行1型糖尿病ではこれらが単独、あるいは重複して陽性となります。

①膵島細胞抗体(ICA)

その名の通り膵島細胞に対する抗体のことで、個別にはGAD抗体やIA-2抗体が含まれます。膠原病でいう抗核抗体のような立ち位置と言えますね。通常はサル膵切片を用い、蛍光抗体染色法で存在をチェックします。検査が煩雑であることもあり、近年は直接GAD抗体やIA-2抗体を測定することが多いです。

➁グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体

GADは膵島だけでなく、中枢神経系や精巣にも存在する酵素です。1型糖尿病患者の約70%に認めるとされます。2型糖尿病患者において抗GAD抗体の存在はインスリン依存状態の予測因子となりますが、判明した所で対応策がないため、現時点ではルーチンで評価を行う必要性は低いとされています。

③Insulinoma-associated antigen-2(IA-2)抗体

IA-2は神経内分泌性蛋白質であり、プロテイン-チロシン-ホスファターゼ(PTP)関連蛋白質の一種で。インスリンの遺伝子転写に関わっています。IA-2抗体は1型糖尿病患者の58%に認めるとされ、インスリン自己抗体または抗GAD抗体よりも遅く出現することがわかっています。

④亜鉛輸送担体8(ZnT8)抗体

亜鉛輸送担体8(ZnT8)抗体は1型糖尿病患者の60-80%に認めるとされます。また、IAA、IA-2抗体、抗GAD抗体、ICAが陰性である1型糖尿病患者の26%で単独で陽性になることが報告され注目を集めています。通常、ZnT8抗体が陽性となるのは1型糖尿病発症のごく早期のみでその後陰性化するとされています。

⑤インスリン自己抗体(IAA)

インスリン自己抗体は幼児で発症する1型糖尿病で陽性になるとされます。なお、インスリン皮下注を行うとほぼすべての患者で陽転化するといわれているため、2週間以上インスリンを使用した患者では1型糖尿病のマーカーとして使用できない点に注意が必要です。

〇診断と治療

治療は結局のところはインスリンが中心になります。1型糖尿病ということで基本的には経口血糖降下薬は推奨されませんが、機序からSGLT2阻害薬とαGIは選択肢となり得ます。ただし、まだエビデンスレベルは高いとは言えません。

1型糖尿病ですから最終的にはインスリン強化療法(即効型インスリン+持効型インスリン)は避けることはできませんが、緩徐進行1型糖尿病の初期にはインスリン分泌能は保たれているため、この時点での治療をどうするかは議論の分かれる所のようです。実臨床ではBOT(経口血糖降下薬+持効型インスリン)から開始し、徐々にインスリン強化療法に切り替えていくという手法がとられることが多いようですが、施設間、医師間で方針が異なるそうです。前述の通り、診断基準の改訂に合わせて緩徐進行1型糖尿病についての治療指針が出されるのを待ちたい所です。

プライマリケア医としてのポイントは、2型糖尿病の中に紛れ込んでいる緩徐進行1型糖尿病を見逃さないことです。2型糖尿病の治療中、急に血糖コントロールが悪化した場合、悪性腫瘍の合併と合わせて緩徐進行1型糖尿病の存在を疑います。プライマリーケアの場面でどこまで検査を行うかは線引きが難しい所ですが、悪性腫瘍のスクリーニングを行いつつ抗GAD抗体とCペプチド測定を行うのがよいでしょう。1型糖尿病の治療には専門的な知識が必要となりますから、抗GAD抗体が陽性であればその時点で代謝・内分泌内科に紹介とします。また、悪性腫瘍が否定的かつ抗GAD抗体が陰性の場合は、その他の自己抗体による緩徐進行1型糖尿病の可能性がありますから、さらなる精査のために代謝・内分泌内科に紹介を検討します。結局の所紹介するのかよって感じですが、この辺の指針みたいなものも学会から提示されるとよいのですけどね・・・。

参考

・up to date

・日本糖尿病学会 緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の診断基準(2023)

http://www.jds.or.jp/modules/study/index.php?content_id=50

・ホスピタリストのための内科診断フローチャート 第2版