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不眠症

  • 2023年4月8日
  • 2023年4月9日
  • 神経
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不眠症とは

 人間には健康に過ごすために必要な理想的な睡眠時間が年齢ごとに概ねあるとされています。年齢と共に短くなる傾向にあり、18~64歳では7~9時間、65歳~は7~8時間が理想的と考えられています。

 必要な睡眠時間に個人差はあるものの、その人にとって睡眠が不十分になると

・疲労/倦怠感を感じる

・過敏になる

・怒りっぽくなる

・落ち着きがなくなる

・集中力/注意力/警戒心が低下する

・やる気が下がる

・協調運動が障害される

などの症状が現れます。

 不眠症は、睡眠に適した状況が十分に存在するにもかかわらず、持続的に睡眠の量や質の低下していることにより、上記のような症状で日常生活に支障をきたしている状態を指します。

 不眠症と診断したら、下図のStepで診療を進めます。

不眠症の要因

 人間の睡眠と覚醒は複数の因子の影響を受けながら成り立っています。そのため不眠症は一つの決定的な原因で発症・持続するというよりも、複数の要因が重なり合って発症すると考えた方が治療上も役立ちます。臨床的な観点から要因は大きく3つ、①素因 ②促進因子 ③遷延因子 に大別されます。

 ①素因 は単独では不眠症は発症しませんが別の要因が重なったときに不眠症を発症しやすくする要因であり、対人関係のトラウマや、抑うつ状態・不安など慢性的な精神状態の異常、交代勤務などによる不規則な睡眠覚醒パターン、慢性疼痛などが含まれます。

 ②促進因子 は、不眠症発症に直接つながりうる因子で、重大な事故、離婚、死別、転職/退職などが含まれます。

 ③遷延因子 は、発症した不眠症を慢性化させる要因であり、寝床でのテレビ視聴やスマホいじり、眠くないのに長時間寝床で過ごす、長時間の昼寝、寝不足に対する不安などが該当します。

 続いて生理学的観点から原因を考えてみます。

 人間の脳では、睡眠に傾ける神経系と覚醒に傾ける神経系とがあり、それらの活動がどちらが優位かによって睡眠と覚醒が入れ替わる仕組みになっています。

 睡眠には、GABA(γ-アミノ酪酸)やアセチルコリンが、覚醒にはオレキシン/ハイポレクチン、ヒスタミン、アセチルコリン、セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミン、グルタミンが関わっており、これらの因子に影響する薬剤が不眠の原因となったり(例:SSRI、SNRI、β遮断薬など)、逆に睡眠薬として利用されたり(例:ベンゾジアゼピン、抗ヒスタミン薬など)します。

 また、これらの神経系の活動は

・概日リズム:細胞レベルでの体内時計、光刺激による中枢神経系でのメラトニンの増減

睡眠ドライブ:体内でのアデノシン(ATPの分解産物)量

睡眠環境:光、音、温度など

・身体疾患/睡眠関連疾患/精神疾患

の影響をうけて変動します。

そのため、昼夜のリズムにあわない光刺激や、睡眠時の不快な音や気温、活動量の極端な少なさ、過剰な昼寝、痛み・かゆみ・呼吸困難・尿意といった不快な身体症状、また精神疾患にともなう不安や過敏性などが不眠症の原因となりえます。

 

不眠症の治療

 不眠症の治療は「不眠の要因の除去/低減」が最も重要であり、睡眠薬は補助的に用います。

 睡眠薬はあくまでも対症療法にすぎません。また、様々な副作用(ふらつき・転倒、前行性健忘、翌日日中の眠気・集中力低下・ふらつき、頭痛、消化器症状など)が比較的よく見られる上、要因の除去/低減が不十分な状態では休薬や服薬終了へ持ち込みがたく長期の服用となってしまいます。

 そのため、不眠症の患者をみる場合は単に睡眠薬を処方するのではなく、詳細な問診によって、目の前の患者における不眠症の①素因 ②促進因子 ③遷延因子を明らかにし、介入できる要因の除去/低減を試みることが最も重要になります。

不眠の要因の除去/低減

 具体的には

1)処方の最適化

使用中の薬剤をすべて確認し、薬の有益性と有害性を天秤にかけて最適な処方となっているか再検討

2)併存疾患の評価/治療

睡眠を妨げうる睡眠関連疾患や精神疾患、疼痛/掻痒/呼吸困難/頻尿などをおこす身体疾患が併存していないか評価し、あれば治療

3)不眠に対する非薬物療法

睡眠環境や生活様式について助言(睡眠衛生指導)や認知行動療法

を行います。

 3)の睡眠衛生指導としては

・睡眠への誤解を解く:加齢とともに睡眠時間は短くなり、中途覚醒が増えるのは普通。日中の過度な眠気や集中力低下などで日常生活に支障が出ていなければそれでOK。

起床時間を固定する

・朝日を浴びる

定期的に運動する(特に就寝の4~6時間前が推奨) *ただし、就寝2時間前は激しい運動は避ける。

寝室環境を整備する

  - 防音(例:扉/窓を閉める、絨毯を敷く)

  - 遮光(例:遮光カーテンを取り付けて閉める、扉や雨戸を閉める)

  - 適温(例:冷暖房器具を使用する)

規則正しい食生活

昼食後はカフェインを避ける

・就寝前は飲酒/喫煙しない

・寝床で考え事をしない

・眠い時だけ寝床に入る

・就寝直前はスマホ/パソコン/テレビはみない

などが有用とされています。

睡眠薬

 睡眠薬はあくまで対症療法であり、前述の要因に対する介入だけでは不十分な場合にのみ検討します。

 現在臨床現場で使用できる睡眠薬は

①オレキシン/ハイポクレチン受容体拮抗薬

②メラトニン受容体作動薬

③非ベンゾジアゼピン系睡眠薬

④ベンゾジアゼピン系睡眠薬 

の大きく4系統あります。

 ①のオレキシン/ハイポクレチン受容体拮抗薬は、オレキシンシステムを抑制する薬です。オレキシンシステムは、視床下部から皮質および覚醒を促進する複数の神経伝達物質 (ヒスタミン、アセチルコリン、ドーパミン、セロトニン、およびノルエピネフリン) の核へ投射し、覚醒を促進および安定化する働きを持っています。この薬剤がオレキシン受容体にアンタゴニストとして結合することで、覚醒ドライブを減少させて睡眠を促します。③・④と比べてふらつきなどの副作用は少なく、安全性は高いですが、やや高価な薬です。

 日本では、2023年4月現在、スボレキサント(ベルソムラ®)、レンボレキサント(デエビゴ®)の二種類が使用できます。

②メラトニン受容体作動薬は、概日リズムをつかさどるメラトニンの受容体に作用し、入眠を促します。効き目はマイルド即効性はなく頓用での効果はありませんが、副作用が少ない点で優れます。

 日本では、ラメルテオン(ロゼレム®)が使用できます。

 ③、④はベンゾジアゼピン受容体作動薬であり、GABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位に結合し、Cl-流入を促し、神経の働きを抑制します。ベンゾジアゼピン結合部位にもいくつか種類があり、催眠・鎮静に寄与するものの他、筋弛緩や抗不安に寄与するものもあります。④のベンゾジアゼピン系は結合部位の選択性が低いため、不眠の治療としてほしい催眠作用以外に筋弛緩作用によるふらつきや転倒が問題になりやすい一方、③非ベンゾジアゼピン系は催眠・鎮静に寄与する結合部位により特異的に働くため、ふらつき・転倒は比較的少なく安全性が高いと考えられています。また、④は身体依存を形成し、急な減薬/中止で離脱症状を生じることがあります。

 ④は多くの種類がありますが、③はエスゾピクロン(ルネスタ®)・ゾピクロン(アモバン®)・ゾルピデム(マイスリー®)の三種類が日本で使用できます。

 選択は下記のフローチャートに従って行います。有効な用量であればおおむね内服初日~1週間程度で効果が得られます。ただしメラトニン受容体作動薬は12週間の連用で最大効果が発揮されるとされます。

睡眠薬使用上の注意点

 睡眠薬を使用する際は、少量から開始し、可能な限り最小の有効用量を用います。基本は単剤で治療し、効果不十分な場合でもい最大推奨用量は超えないようにします。

 内服10~30分で眠気が生じるため就寝直前に内服してもらいますが、同時に食事摂取による血中濃度低下を避けるため夕食から間隔を空けるようにします。

 また、睡眠薬を使用する場合は禁酒を指示します。これは飲酒との併用によって副作用の頻度と強度が高まる恐れがあるためです。

 定期内服しても寝つけない場合、頓用の追加を求める方もいらっしゃいますが、持ち越し効果が生じやすいことに注意が必要です。どうしても追加頓用を処方するのであれば、超短時間作用型にするとともに、使用は起床予定時刻の6~7時間前までにするよう指導することがガイドラインで勧められています。

睡眠薬の減量/終了

 睡眠薬は種々の副作用から使用期間も必要最小限を目指す必要があります。しかし、一方的に医療者から減薬・終了を提案しても、患者さんは再び眠れなくなる不安から受け入れてくれないことがしばしばあります。それを防ぐためには、睡眠薬導入時に睡眠薬は一時的な補助であり、いずれこれがなくても眠れることを目標に共に治療に取り組むことを共有しておきます。

 そのうえで、「夜間の不眠症状の改善」と「日中の心身の調子がよい」ことを確認ができたらいよいよ減薬を試みます。

 急な減薬は不安・焦燥感、知覚過敏、睡眠の質の悪化をおこしやすいため、1種類ずつ3/4程度にまず減量します。頻度は低いですが、それでも上記症状が数日〜数週間程度でうるため、減薬時に説明しておきます。

 1〜2週間以上空けて再評価し、大きな問題がなければさらに減量前の1/2程度に減量していき、終了を目指します。

不眠症の治療経過

 不眠症は下図のような経過を辿ります。理想的な経過は黒線に示したように、治療開始ですみやかに寛解し、維持期を経て、漸減・休薬でき、再発しないものですが、臨床現場では赤点線で示すような治療に反応しない難治性のものや、寛解後減薬前に再燃したり、減薬・休薬後に反復・再発することも珍しくありません。うまくいかない場合はその都度、診断と治療の見直しをしながら患者さんをささえていくこととなります。

不眠症の評価

 これまでに述べた原因と治療を念頭に、診療で「不眠症かも?」と思ったときには次のような項目を確認します。

平日/休日のおおよその就寝時間と起床時間

•職業と勤務シフト

•睡眠の質:起床時の爽快感の有無、中途覚醒の有無

•昼寝の有無:アリなら頻度・時間

•日中の活動を制限するような疲労感や眠気の有無

 これらから不眠症と考えられる場合は、さらにその素因・誘発因子・遷延因子を確認していきます。具体的には、

併存疾患とその症状、内服状況

未診断/未治療の疾患が隠れていないか:睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、排尿障害、疼痛、心不全、COPD、喘息、アトピー性皮膚炎、etc…

就寝〜起床前後の環境:音、光、気温、パートナー/子供/ペットの有無 etc…

食事/運動/飲酒/喫煙/カフェイン摂取状況

 これらを確認する上で、睡眠日誌をつけてもらうとより詳細に把握できます。睡眠日誌とは、①寝床に入った時間 ②入眠した時間 ③夜間に目が覚めた回数 ④再び眠りにつくまでの時間 ⑤目覚めた時間 ⑥寝床から出た時間 ⑦昼寝の回数と時間、可能ならば、寝る前の行動・夜間目が覚めた時の行動・睡眠の質・カフェイン/アルコール/薬剤の使用状況(何時に・どのくらい)を7~14日以上にわたり記録してもらうものです。これをもとに患者個人に則した生活指導や併存疾患の治療を行います。

 また、表のような睡眠薬処方時に処方が長期化しやすい因子や減薬/休薬が難しくなりやすい因子がないかも確認しておくとよいかもしれません。

参考文献

•河合真: 睡眠専門医がまじめに考える睡眠薬の本, 第1版, 丸善, 東京, 2022

•厚生労働科学研究・障害者対策総合研究事業「睡眠薬の適正使⽤及び減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究班」および⽇本睡眠学会・睡眠薬使用ガイドライン作成ワーキンググループ 編:睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン ー出⼝を⾒据えた不眠医療マニュアルー, 2013

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