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ベムペド酸(ネクセトール®)について

 脂質異常症の治療において、スタチンは依然として中心的な役割を担っています。一方で、スタチン不耐や目標LDL-C未達といった臨床的な課題も少なくありません。

 近年、そうした背景の中で登場したのがベムペド酸(bempedoic acid)です。スタチンとは異なる作用機序を持ち、「筋障害が少ない可能性があるLDL-C低下薬」として注目されてきました。本邦でも2025年11月にネクセトール®として薬価収載され、使用が可能となっています。

本記事では、

・ベムペド酸とはどのような薬か

・これまでに示されてきたエビデンス

・それを踏まえた現時点での立ち位置

について、私なりに整理してみたいと思います。

 ベムペド酸は、ATP citrate lyase(ACL)阻害薬です。ACLはコレステロール合成経路において、スタチンが阻害するHMG-CoA還元酵素より上流に位置する酵素であり、ベムペド酸はこの酵素を阻害することでLDL-Cを低下させます。

参考文献(1)のJ Am Coll Cardiol. 2021 Mar 30;77(12):1564-1575.より引用、改変

本剤の特徴として重要なのは、

・プロドラッグであること

・活性化に必要な酵素(ACSVL1)が肝臓にのみ存在し、骨格筋にはほとんど存在しない

という点です。

 このため理論的には、スタチンで問題となるスタチン関連筋症状(SAMS)が出にくい可能性が期待されてきました。

LDL-C低下効果と安全性(CLEAR Harmony試験)

 2019年にNEJMに報告されたCLEAR Harmony試験2)では、
 アテローム性心血管疾患または家族性高コレステロール血症を有し、最大耐量スタチン治療中の患者を対象に、ベムペド酸の安全性とLDL-C低下効果が検討されました。

・LDL-C低下率:約 16〜18%

・全体の有害事象発生率はプラセボと同程度

・痛風発作の増加が認められた

という結果でした。

 この時点では、
「LDL-Cは下がるが、心血管アウトカムはまだ不明」
という位置づけでした。また、期待された通り、筋症状はほぼみられませんでした。

 なお、日本人に限った臨床試験も行われており(CLEAR-J試験)、ほぼ同様の結果が示されています3)

単剤で心血管アウトカムを予防できるのか?(CLEAR Outcomes試験)

 その後、2023年にNEJMに掲載されたのがCLEAR Outcomes試験4)です。この試験は、スタチン不耐患者を対象に、ベムペド酸が心血管イベントを減らすかを検証した初の大規模Cardiovascular Outcomes Trial(CVOT)でした。

・対象:スタチン不耐で、ASCVD既往または高リスク患者13,970人(平均年齢65歳±9.0歳)

・主要評価項目:4点MACE(心血管系による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、冠動脈血行再建術)

・結果:HR 0.87(95% CI 0.79–0.96)

と、ベムペド酸単独での心血管イベント抑制効果が初めて示されました

 ただし、副次評価項目において、非致死性脳卒中、心血管死、全死亡については有意差は示されませんでした。

参考文献(4)より引用

 また、NNT(治療必要数)を計算すると、おおよそ63となります。これは、約63人の患者にベムペド酸を投与すると、1人の主要心血管イベント(心血管系による死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、冠動脈血行再建術)を予防できるということです。

 有害事象としては、高尿酸血症・痛風発作に加え、胆石症の発症がベムペド酸群で多くみられましたが、重篤な有害事象は両群で差はありませんでした。

 UpToDateや総説論文を踏まえると、ベムペド酸の立ち位置は、以下の通り比較的明確です。

・第一選択はあくまでスタチンであり、それに代わるものではない

・スタチン不耐、あるいはスタチン+エゼチミブでもLDL-Cが不十分な症例で選択肢となる

・PCSK9阻害薬ほどのLDL-C低下効果はないが、内服薬である点は利点

 UpToDateでも、ベムペド酸は
「スタチン不耐患者における代替・追加療法」
として位置づけられています。

 実際、本邦でのベムペド酸(ネクセトール®)の添付文書でも、

HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分、又は以下に示すHMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない患者に使用すること。
・副作用の既往等によりHMG-CoA還元酵素阻害剤の使用が困難な患者
・HMG-CoA還元酵素阻害剤の使用が禁忌とされる患者

と明記されています。

 私の印象としては、同じようなポジションであるエゼチミブと比較し、単剤で心血管イベント抑制効果が明確に示されている点は強みであると感じました。

エゼチミブについて

 また、PCSK9阻害薬と比較すると薬価も抑えられており(2026年1月時点で、レパーサは140mg(24,302円)を2週に一回投与であるため、おおよそ48,603円/月。一方、ネクセトール®は371円/錠であり、11,130円/月)、アテローム性心血管疾患の二次予防や、家族性高コレステロール血症の診療を行う機会の多い循環器領域では、有用な選択肢となりうると考えられます。

 ただ、そうはいっても一般的には安い薬とはいえませんし、新規薬剤であることも踏まえると、少なくとも私が主戦場とするプライマリケアのセッティングでは積極的に使用する場面は多くないと考えます。

 以上、ベムペド酸について解説してきました。ベムペド酸はスタチン不耐という臨床的ニーズに応える形で登場し、心血管アウトカムに関するエビデンスも徐々に整ってきました。
 一方で、その効果や位置づけはあくまで補完的であり、既存治療を置き換える薬ではないという点を理解したうえで、慎重に使っていく必要があると感じます。

1)J Am Coll Cardiol. 2021 Mar 30;77(12):1564-1575.

2)N Engl J Med. 2019 Mar 14;380(11):1022-1032.

3)Circ J. 2025 Jul 25;89(8):1256-1265.

4)N Engl J Med. 2023 Apr 13;388(15):1353-1364.

5)UpToDate