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ニューモシスチス肺炎

Pneumocystis jiroveciiの微生物学的特徴

ニューモシスチスは以前は原虫に分類されていましたが、現在はリボゾームRNAおよびその他の遺伝子配列の相同性、細胞壁の組成、主要な酵素の構造に基づいて真菌に分類されています。

ただし、真菌培養で増殖せず、抗寄生虫薬の効果があり、エルゴステロールではなくコレステロールを含む細胞壁をもっているため、典型的な真菌とは一線を画する存在といえます。

生活環は栄養型、前シスト型、シスト型からなり、感染中は栄養型がシスト型よりも優勢となります。

病態

P.jiroveciiの主な感染経路は空気感染です。ヒトの75%が4歳までに感染するといわれています。健康な成人におけるニューモシスチスの保菌率は0-20%とされています。

ニューモシスチスの免疫制御には肺胞マクロファージと肺胞上皮細胞、CD4+T細胞が関わってます。CD4+が慢性的に減少している状態ではこの免疫制御のバランスが崩れ、CD8+T細胞や好中球などによって肺に炎症が起こってしまうとされます。

疫学

HIV感染者

現在はARTの広がりによりHIV患者におけるPCP発症率は低下してきており、2000年代初頭の研究では100人あたり1例/年未満であると報告されています。PCP症例のうち、90%以上の症例がCD4+T細胞<200/mm3の状態で発症しているとされます。

非HIV感染者

生物学的製剤や免疫抑制療法の進展により、患者数が増加してきています。造血幹細胞移植と固形臓器移植を受けている患者の両方にリスクがあり(5-15%に発症)、同種造血幹細胞移植が自家造血幹細胞移植よりもリスクが高く、心臓および肺移植の方が腎移植よりもリスクが高いです。

血液腫瘍患者、特に白血病およびリンパ増殖性疾患の患者はPCPを発症するリスクが高いとされます。これらはステロイドやシクロホスファミド、メトトレキサート、シタラビンなどの化学療法の影響も多いと思われます。

自己免疫性疾患により免疫抑制薬を服用している患者も発症のリスクがあります。具体的にはPSL 20mgが3週間以上持続する場合や、シクロホスファミド、リツキシマブ、アレムツマブおよびTNF-α拮抗薬を使用している場合がリスクが高いとされています。

結節性多発動脈炎、多発血管炎、皮膚筋炎/多発性筋炎、関節リウマチで間質性肺疾患の症例で発症率が高いです。

臨床症状

典型的症状は

①労作性呼吸困難

➁乾性咳嗽

③発熱

です。進行すれば呼吸不全を合併します

数日から数週間の亜急性経過であり、経過で細菌性肺炎との鑑別が可能です。口腔カンジダ症と大幅な体重減少をよく認めるため確認するようにしましょう。HIV患者よりも非HIV患者の方が経過が早く、重症となる場合が多いです

診断

血液検査

LDHの上昇はPCPを示唆します。βDグルカンの上昇は感度が高く、PCPの除外に有用です。

HIV患者ではCD4が200/mm3だと発症のリスクが高いといえます。

画像所見

発症初期は胸部X線写真が全く正常に見えることが多いので注意が必要です。

典型例は両側びまん性のスリガラス影です。大葉性肺炎、膿瘍、空洞痙性、胸水合併例も報告されており、画像だけで否定はすべきではありません。

典型例
典型例
結節影を呈する非典型例
微生物学的検査

診断の基本は誘発喀痰やBALF中にP.jiroveciiのシストを確認することによります。

フルオレセイン結合モノクローナル抗体を使用した直接蛍光抗体法は栄養体とシストの両方を可視化することができ、最も有用な手法です。気道分泌物のPCR検査も有用です。

治療

ST合剤

ST合剤3-4錠を8時間ごとに3週間服用します。重症の場合は点滴での使用も検討されます。

・副作用は皮疹、発熱、血球減少、肝機能異常、腎機能低下、低ナトリウム血症などがあり注意しましょう。

ステロイドの使用について

・PaO2<70mmHgもしくはA-aDO2>35mmHgの場合、上記治療に加えステロイドを併用します。

PSL 40mgを最初の2日間は1日2回、次の5日間は1日1回、さらに残りの11日間は20mgを1日1回、経口投与します。

第二選択薬について

・ペンタミジン3-4mg/kg/日静注を3週間

・アトバコン750mg経口を1日2回食後投与

・その他、CLDM+プリマキン、ダプソン+TMP、カスポファンギンなども選択肢にはなりえます。

非HIV患者の免疫抑制療法について

・可能であれば免疫抑制薬を減らす、中止することが望ましいが、個々の症例に合わせます。

・特にメトトレキサートはST合剤との薬物相互作用があり、注意しましょう。

HIV患者に対するARTについて

・可及的速やかにARTを開始します。IRISの発症率は低いとされています。

予防

・下記のいずれかを用います

①ST合剤

➁ペンタミジン

③アトバコン

■対象患者は諸説ありますが、下記はup tp dateの記載を元にしたものです

・PSL 20mg以上に相当するグルココルチコイドを1か月以上服用しているもの

・アレムツズマブを投与されている患者

・テモゾロミドと放射線療法を併用している患者で、リンパ球減少症が回復するまでの間

・急性リンパ性白血病の患者

・同種造血幹細胞移植患者で、免疫抑制療法がおこなわれている者

・自家造血幹細胞移植で、プリン類似体や高用量グルココルチコイドが使用されている者

・固形臓器移植患者で、免疫抑制療法を行っている者

・重症複合免疫不全症、高IgM血症など、徳的の原発性免疫不全症の患者

・シクロホスファミドと組み合わせてフルダラビンなどを投与されている患者

・イデタリシブを投与されている患者

参考

・up to date

・Helmut J F Salzer et.al, Respiration. 2018;96(1):52-65.

・レジデントのための感染症マニュアル 青木眞