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IGRA陰性をもって活動性結核を除外してはいけない!!

 

 皆様はインターフェロンγ遊離試験(IGRA)という検査をご存じでしょうか?T-SPOTだとか、クオンティフェロンだとか呼ばれている、あの検査です。誰もが結核を疑った際に、一度は提出した経験がある方も多いのではないでしょうか。

 IGRAは、接触者検診や潜在性結核感染症(LTBI)の診断に大変有用な検査です。しかし、単独で活動性結核の診断に用いるには不十分であり、解釈を誤ると見逃しの原因になることもあり、慎重に取り扱う必要があります。

 先日、実際にこのIGRAの解釈をめぐって色々と思うことがありましたので、今回はこのようなアグレッシブなタイトルにしてみました。本記事では、IGRAの概要を確認した上で、なぜ“IGRA陰性をもって活動性結核を除外してはいけない”のかを力説していきたいと思います。

 

 IGRAとは、インターフェロンγ遊離試験(Interferon Gamma Release Assay)の略であり、結核菌に特異的な抗原の刺激によって、T細胞から遊離されるインターフェロンγを測定する検査です。IGRAの原理を模式図にしますと以下のようになります。

 結核特異的抗原としてはESTAT-6やCFP-10が用いられますが、これは抗酸菌の中でも結核だけが持つタンパク質です(厳密にはM.marinum、M.kansasiiなどはこれらをコードする遺伝子配列を持っていることがあります)。このため、IGRAは非結核性抗酸菌症やBCG接種の影響を受けにくいという大きな強みがあります。

 

 IGRAにはクオンティフェロン(QFT)T-SPOTという、大きく二つの検査様式があります。QFTはT細胞が分泌したIFN-γをELISA法で直接検出する手法です。一方、T-SPOTはIFN-γを産生したT細胞の数をELISPOT法で測定する手法となります。両者を比較したメタアナリシス2)では、活動性結核に対する感度/特異度が、QFTでは81%/99%、T-SPOTでは88%/86%という結果でした。感度はT-SPOTに、特異度はQFTに軍配が上がったということですね。ただし、実臨床ではこの違いは微々たるものであり、一般内科医としては、両者はほぼ同じ検査と考え、ひとまとめに“IGRA”と認識しても差し支えないと思われます。

 

 なお、QFTは結果が陰性または陽性で示されますが、T-SPOTの場合は判定保留という結果が出ることがあります。これは陰性と陽性の中間で判断がつかないという解釈になり、間隔を空けての再検査が推奨されています。

 

 IGRAは血液検査として提出しますが、外注検査であるため、提出から結果が分かるまで3~5日程度かかります。

 

 では、次にIGRAが実臨床で推奨されるシチュエーションを確認してきましょう。次は最近発刊された結核診療ガイドライン2024に記載されているIGRAの適用例です。

 

①潜在性結核 

 結核の感染源に暴露されたものに対する接触者検診の一部として行われます。

 

➁医療関係者の結核管理

 結核曝露リスクの高い医療従事者などには、雇い入れ時にベースラインを測定しておき、結核菌に暴露された後に感染の有無を判断するために施行します。(ちなみに、管理人は先日受けた検査で陰性でした。よかった!)

 

③結核発病ハイリスク者の潜在性結核感染症(LTBI)治療の適応を決定

 結核に対する何らかの医学的リスク要因を持った人に対して、LTBI治療の適応を決定するために行います。副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬を導入する前に行うことが多く、膠原病内科の先生には馴染みの深い検査だと思います。

 

④活動性結核の補助診断

 胸部X線所見などから臨床的に結核の可能性が示唆されるものの、菌陰性などのため確定診断ができない患者において、補助診断のひとつとして実施します。 

 

さて、ここで④の活動性結核の補助診断について言及がありますが、この点については次項で検討していきたいと思います。

  

 本記事の最大のテーマに入っていきます。

 早速ですが、ガイドライン3)におけるIGRAの活動性結核に対する検査精度を以下に示します。

・QFT:AUC 0.95、感度 0.89、特異度 0.79

・T-SPOT:AUC 0.88、感度 0.77、特異度 0.81

 こちらは2012年に発表されたメタアナリシス4)から引用したものですが、先ほど紹介した論文2)とは全体的に数値が下がっており、QFTは感度が高く、T-SPOTは特異度が高いという結果となっています。いずれにせよ、IGRA陰性だけで活動性結核を除外できる程の感度とは言い難い結果です。

 

 また、細胞性免疫の低下、すなわちIGRAの根幹であるT細胞の機能が落ちている例では、さらに精度が悪くなることがわかっています。例えば、HIV患者の活動性結核におけるQFTの感度は0.65、T-SPOTの感度は0.59とされており、ガイドラインでは健常人と同じように解釈しないことを弱く推奨しています3)。また、高齢者では、QFTの感度は0.66、T-SPOTの感度は0.55であり、こちらは健常人と同じように解釈することを弱く推奨する、ということになっています3)

 

 さらに、IGRAには結核菌に暴露してから陽転化するまで2~3か月かかることにも注意が必要です。(このため、接触者検診では暴露から2~3か月後にIGRAを測定することになっています)

 

 このようなエビデンスを踏まえ、本邦のガイドラン3)やUpToDate5)では、IGRA単独では活動性結核の否定は困難であると明記されています。

 

 ちなみに補足ですが、ここで紹介した論文では、QFTは旧式のものを採用しており、最新のQFT-4Gによるデータではないことに注意が必要です。QFT-4Gの方が検査精度が高まることが期待されていますが、現時点ではそれを裏付けるデータは乏しく、この違いが結果にどこまで影響を与えるかは不明です。

 

 以上のような点を踏まえまして、私としては“IGRA陰性をもって活動性結核を除外してはいけない!!”ということを結論付けたいと思います。

活動性結核を疑ったときにIGRAは提出する?

 

 さて、このような結果を踏まえると、“活動性結核を疑っているのであれば、そもそもIGRAを提出しなくてもいいんじゃない?”という疑問が出てくる方もいらっしゃるかと思います。

 私個人の話ですが、そうは言いつつも活動性結核を疑った際は、IGRAはほぼ全例で提出しています。単独では力不足ですが、他の検査と併せれば診断の補助として十分有用だと考えているためです。

 

 ざっくり言えば、活動性結核を疑って提出したIGRAの結果解釈は次のようになります

IGRAが陽性の場合:結核らしさがより高まった!気を引き締めよう!

IGRAが陰性の場合:少し結核の可能性が下がったかな、でも培養結果が出そろうまでは油断はできない…。

 

 例えば、肺結核を疑う画像所見(tree in bud appearanceや空洞影)があるものの、三連痰の塗抹が陰性である、というシチュエーションを考えてみましょう。この際、IGRAが陽性である場合は活動性結核の可能性が依然高いという判断となり、次のアクション(胃液、気管支鏡、専門医へのコンサルトなど)に踏み切るきっかけとなり得ます。一方、IGRAが陰性である場合は、活動性結核の完全な否定はできないものの、相対的にその可能性は下がったと考えてよいです。臨床経過や画像所見を吟味し、早期に次のアクションに移るか、焦らずに三連痰の培養結果を注視するかを選択することになります。

 

 ちょっと話が複雑になってしまいましたが、要するに、“活動性結核におけるIGRAの解釈はとっっっても難しい!”っちゅうことなんです。なかなか歯切れのよい解説ができずに恐縮ですが、このため、初学者が下手にIGRAを検査を提出してしまうと、むしろ混乱してしまうことになりかねません。そういった場合、敢えて“自分では”IGRAを提出しないというのも選択肢になり得るでしょう。

 

 最善策なのは、「これって肺結核かな?」「IGRAを提出した方がいいかな?」と思った時点で、信頼できる上級医や専門医にコンサルトすることでしょう。“わからないことはわからないと認める”、“迷ったときには人に聞く”、というのも重要なスキルです。

 

 以上、IGRAと活動性結核に関してみてきました。元々活動性結核におけるIGRAの役割は限定的であるということは知っていましたが、先日、日常診療でモヤモヤする件があったため、これを機にもう一度調べ直してみました。とりあえず元の知識が間違っていなかったようなので安心しました。

   

 とにかく、活動性結核の診断は、結核菌を如何に直接捕まえるかということに尽き、抗酸菌の細菌学的検査の提出が必須です。三連痰や胃液検査、気管支鏡など、可能な抗酸菌検査を面倒くさがらずやることが何よりも重要です(患者さんや周りの医療従事者側からも嫌がられることも多いのですが…)。そういったことを踏まえて考えてみると、IGRAは“T細胞が結核抗原に反応するか”という点を見ているという、非常にまどろっこしい検査と言えます。結核菌の直接的な確認を最重要視する活動性結核の診断において、IGRAが確定診断として使用できないというのも腑に落ちますね。

  

 ちなみに、私は外来でよく“肺結核だ!!”と騒いでいますが、本当に肺結核だったことは1度きりです。もはやオオカミ少年と化していますが、結核はとにかく疑うことが重要であり、この打率も許容されると信じています(されない…?)。特に、最近は高齢者の二次性結核が散見されますし、結核流行地出身である外国人の活動性結核も報告されるようになってきています。現在、本邦は国際基準では結核低蔓延国となっていますが、今後は高齢者や訪日外国人の増加が確実であり、再度活動性結核の患者が増えてしまうことが懸念されます。皆さんも油断せずに日常診療に当たるようにしましょう。

 

 余談ですが、今回は最近刊行された結核診療ガイドラインを読んでみたのですが、コンパクトにまとまっていて非専門医にとってもとっつきやすい仕上がりとなっていました。是非プライマリケア医には読んでいただきたい一冊です。

 

1) インターフェロンγ遊離試験使用指針2021 日本結核・非結核性抗酸菌症学会予防委員会

2)Chest. 2010 Apr;137(4):952-68.

3)結核診療ガイドライン2024 日本結核・非結核性抗酸菌症学会 南江堂

4)Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2012 Nov;31(11):3127-37.

5)UpToDate