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慢性咳嗽

  • 2023年2月3日
  • 2023年2月3日
  • 呼吸器
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慢性咳嗽とは

咳嗽はその期間によって急性咳嗽慢性咳嗽に分類されています。

急性咳嗽は症状が出現してから3週間以内の咳嗽を指し、呼吸器感染症のことが多いです。

慢性咳嗽は症状が出現してから8週間以降の咳嗽を指し、呼吸器感染症以外の病態であることが多くなってきます。3-8週間の咳嗽を遷延性咳嗽と呼称することもありますが、診療は慢性咳嗽に準じて行われる傾向があります。

慢性咳嗽の原因とその病態

原因

慢性咳嗽の原因には感染後咳嗽、咳喘息/喘息、アトピー咳嗽、GERD、後鼻漏、副鼻腔気管支症候群(SBS)、COPD/慢性気管支炎などがあります。

以下、本邦から報告された慢性咳嗽の原因で、症例数が多い研究を2報、グラフにして示します。

Nihon Kokyuki Gakkai Zasshi. 2010 Mar;48(3):179-85.
J Asthma. 2013 Nov;50(9):932-7

これらを参考にしますと、感染後咳嗽や咳喘息/喘息の頻度が高いことがわかります。

感染後咳嗽

感染後咳嗽はその名前の通り、何らかの気道感染が先行しその後に咳嗽が持続するものをいいます。基本的には病原体は駆逐されているか、存在しても少数であり、他者への感染性はありません。感染後咳嗽の機序が複数ありますが、感染による気道上皮障害と、その後の気道過敏性の亢進がその病態として考えられています。病歴で先行する発熱、鼻汁、咽頭痛があり、画像上肺炎、結核、腫瘍など咳嗽の原因となる疾患が否定されれば本症を第一に疑います。

なお、マイコプラズマ感染症や百日咳感染症では、感染性を有しつつ咳嗽が遷延することがありますので注意が必要です。

咳喘息

喘息の中でも気道過敏性が亢進しているのみで気管支平滑筋収縮が認めないものを咳喘息と呼称します。このため、末梢気道閉塞は伴っておらず、聴診や呼吸機能検査は正常です。先行する感染の病歴がなく、感染後咳嗽が否定的である場合、最も頻度の高い慢性咳嗽になります。末梢血好酸球の上昇やFeNO上昇を認めればそれらしいですが、喘息と比べるとその頻度は低いとされます。後述するアトピー咳嗽との鑑別が難しいことがあります。SABAなどの気管支拡張薬に反応する点がアトピー咳嗽との鑑別点です。なお、咳喘息の一部は喘息に移行するため注意しましょう。

アトピー咳嗽

アトピー素因による咳感受性の亢進が本態です。難しい話ですが、喘息や咳喘息のように気道過敏性が亢進している病態とは異なります。病理学的には気管支粘膜に好酸球の浸潤を認めますが、FeNOの上昇は認めません。気管支拡張薬に反応がないことが特徴ですが、治療してみるまで咳喘息との鑑別がつかないことがあります。また、咳感受性の亢進を反映し、喉のイガイガ感があることが特徴的とされます。以下、診断基準を示します。

GERDに伴う咳嗽

GERDによる胃酸の逆流で、

・食道下部の迷走神経受容体が刺激され、中枢を介して反射性に下気道の迷走神経遠心路に刺激が伝わる

・逆流内容が上部食道から咽喉頭、下気道に到達し直接刺激する

という2つの病態が考えられています。報告によっては、慢性咳嗽の45.8%がPPIで改善するGERDによるものといわれており、忘れてはいけない鑑別疾患です。問診では呑酸、胸やけの有無、食事と症状の関連を聴取するようにします。

GERDについては以下の記事もご参照ください。

副鼻腔気管支症候群(SBS)・上気道咳症候群(UACS)

副鼻腔気管支症候群は慢性・反復性の好中球性気道炎症を上気道と下気道に合併した病態です。海外では上気道咳症候群(後鼻漏を含む)という別の疾患概念が定着しています。UACSは上気道の炎症性病変に続発する慢性咳嗽ですが、特異的な治療法はなく、SBS、後鼻漏と重複した概念です。問診では鼻閉、鼻汁、嗅覚低下の有無、副鼻腔炎の既往を確認しましょう。

アトピー咳嗽も含め、この辺は病態が重複しており理解が難しいです。治療法も含め、以下のように考えるとわかりやすいと思います。

ポケット呼吸器診療2022 倉原優より引用、作成
ACE-iによる薬剤性咳嗽

ACE-iによるブラジキニンの増加による咳嗽が誘発されることがあります。内服薬にACE-iのある慢性咳嗽では、ARBや他の降圧薬への変更を検討しましょう。ACE-iが原因の場合、薬剤変更後、比較的速やかに咳嗽が消失します。

Unexplained chronic cough(UCC)

慢性咳嗽のうち、原因疾患が不明でかつ既知の疾患のempiricな治療にも抵抗性のものをUCCと呼びます。日本語では難治性慢性咳嗽と呼称されることが多いです。

病態の根底に咳嗽過敏性症候群(低レベルの温度性、機械性、化学性曝露によってしばしば咳嗽が引き起こされる臨床的症候群)が存在することが多く、疼痛過敏性の「アロディニア」と類似の用語として「アロタッシア(咳過敏)」という状態にあるとされます。

疼痛と咳嗽の神経伝達経路には類似点が多く、UCCに対しては神経因性疼痛に有効とされるガバペンチンやプレガバリンが有効なこともあります。ミロガバリンは現時点ではエビデンスはありません。

各種疾患の治療を行っても改善しない慢性咳嗽に対しては一度がガバペンチン、プレガバリンを試してみてもいいかもしれません。

Somatic cough syndrome

従来心因性咳嗽とされてきた疾患群です。普段は咳嗽に困っていますが、夜間就寝時などは一切咳嗽が出ない点が特徴です。治療として確立されたものはなく、心理社会的因子の影響が強いため、その評価と治療が重要となります。前述の疾患群が全て否定的であり、就寝時に咳嗽がない場合に、除外的に診断とします。

診断

ポケット呼吸器診療2022 倉原優より引用、改変

診断は上記のフローに則って行うとわかりやすいでしょう。

身体所見が画像所見があり、診断が明らかな場合は疾患特異的治療を行いますが、慢性咳嗽の初期対応で最も重要なことは結核を見逃さないことです。もちろん肺癌も見逃してはいけませんから、最低限胸部X線は撮影しておくようにしましょう。

その他、必要に応じて呼吸機能検査やFeNO、副鼻腔CT、上部消化管内視鏡を行いましょう。

フローに則っても原因がはっきりせず、empricに治療を行って反応性を見ざるを得ない症例も多く存在します。慢性咳嗽の診療は思った以上に難しく、勉強だけでなく経験を積んでいく必要が大いにあります。

治療

疾患特異的治療

以下に疾患ごとの治療をまとめます。

前述の通り、原因をひとつ絞れないことは多々あり、患者さんが早期の症状改善を望む場合は同時並行で治療薬を試すこともあります(例:咳喘息に対するICS+アトピー咳嗽に対するヒスタミンH1受容体拮抗薬)。ひとつ注意すべき点として、耐性菌の問題から安易なマクロライド系抗菌薬の処方は避けるようにしましょう。よく感染後咳嗽に処方されたり、不十分な診断の元でSBSとして漫然と投与されていることが散見されます。

鎮咳薬

慢性咳嗽で原因がはっきりしない場合や、症状が強い場合には、対症療法として鎮咳薬を処方せざるを得ないことも多々あります。ここでそれぞれの薬剤についてまとめておきます。

鎮咳薬のうち、中枢性鎮咳薬には麻薬性と非麻薬性があります。いずれもエビデンスは乏しいですが、最近のメタ解析ではコデインリン酸とメジコン®については有意な鎮咳効果があったというものもあります。実際、私も処方するのであればコデインリン酸メジコン®が多いです。喘息の場合、コデインリン酸は禁忌となるため注意しましょう。

漢方薬には色々ありますが、麦門冬湯はメジコン®に対して有意に早く鎮咳効果を示したという研究があるため、使うのであれば麦門冬湯がよいでしょう。ただし、カンゾウが含まれている点に注意が必要です。喀痰が多い場合は清肺湯も使用することがあります。

最近、「難治性の慢性咳嗽」を適応症として、P2X3受容体拮抗薬であるゲーファピキサントが発売されました。気道の迷走神経のC線維と呼ばれる部位に「P2X3受容体」が発現していることが知られています。様々な刺激で気道粘膜細胞から放出されるATPがP2X3受容体に結合すると、そのシグナルが中枢に到達し、咳嗽が惹起されると考えられており、本薬剤はこのP2X3受容体にATPが結合するのを拮抗することで鎮咳作用を示します。新薬ということで薬価は400円/日と非常に高価であり、よほど難治性で、かつ他の疾患が否定的な慢性咳嗽でない限り、安易に使用すべきではないでしょう。私は現状プライマリケア医が処方するものではないと考えています。ちなみに、副作用としては味覚不全、悪心、口内乾燥があるとされています。

参考

・ポケット呼吸器診療2022 倉原優

・咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019 日本呼吸器学会

・Nihon Kokyuki Gakkai Zasshi. 2010 Mar;48(3):179-85.

・J Asthma. 2013 Nov;50(9):932-7