・好酸球性肺炎とは、気腔、間質に好酸球が浸潤して生じるびまん性肺疾患の一種です。急性と慢性に分類されますが、経過、患者背景などが全く異なるため以下にそれぞれをまとめます。
急性好酸球性肺炎 acute eosinophilic pneumonia
〇病態
・急性好酸球性肺炎の原因ははっきりとわかっていないませんが、吸入抗原に対する急性過敏反応ではないかと考えられています。
・ほとんどの症例が喫煙と関連しており、最近の喫煙の開始、再開、本数の増加など、喫煙習慣の変化が病歴上確認できることが多いです。その他、砂漠での活動する将校、消防士など、たばこの煙以外の吸入でもAEPを発症することが知られています。
・抗原吸入により肺胞または肺胞上皮が損傷すると、炎症性シグナルの活性化を誘導し、IL-33、IL-25、およびTSLPの分泌を促します。これらのサイトカインがILC2を刺激し、Th2を活性化することで好酸球の活性化と遊走を引き起こすと考えられています。
・病理学的にはびまん性肺胞損傷(DAD)patternが最も多く、好酸球の浸潤を認めます。その他、Ⅱ型肺胞上皮細胞過形成、間質へのリンパ球浸潤、肺胞内線維性滲出液、壊死を伴わない血管周囲および壁内の炎症が認められることがあります。
・肉芽腫や肺胞出血は認めません。
・DAD patternを示す病理像
・高倍率。混合炎症性滲出物が肺胞中隔を拡張し、隣接する肺胞腔に滲出しています。多数の好酸球と単核細胞がみられます。
〇疫学
・非常に稀な疾患であり、正確な疫学はわかっていませんが、とある研究では9.1/100,000人程度と報告されています。
・ほとんどが20歳前後の喫煙者であり、男性が圧倒的に多いです。AEP発症の2か月以内の喫煙のエピソードが50ー80%でみられます。
・CEPと異なり、喘息などのアレルギー疾患の既往は10%以下です。
・喫煙の関連のない、真の“特発性急性好酸球性肺炎”もわずかながら存在します。
〇症状、検査所見
・乾性咳嗽と発熱、悪寒を伴う急性発症の呼吸困難が主訴であることが多いです。これらは約80%以上に認めるとされます。
・湿性咳嗽はあまり多くないです。胸痛や筋肉痛を30-50%で伴うことがあるとされます。
・急性呼吸不全を呈し、30-80%の患者で挿管・人工呼吸器管理が必要になるといわれています。
・ゲシュタルトとしては、「喫煙習慣のある若年男性の発熱を伴う急性の重度呼吸不全で、両肺にスリガラス影を主体とする陰影が散在している」になるであろうかと思います。
■血液検査
・CRPの上昇を認めることが多いです。
・末梢血好酸球増加(>500/mm3)は症例の30%にしか見られませんでした。ただ、その後の経過で上昇していくことが多いとされます。
■BALF
・AEPの診断で最も重要です。BALFでの好酸球は40%以上であることが多いですが、リンパ球も10-30%と増加しているとされています。好中球割合もわずかに上昇していることが多いです。
■TBLB
・肺胞腔や間質における好酸球浸潤、間質性浮腫、フィブリン沈着、および剥離したⅡ型上皮細胞がみられますが、気道上皮は温存されていることが多いです。重要である場合、DAD patternをとります。
■画像所見
・両側性の浸潤影を伴うGGAが最もコモンな画像所見です。
・HRCTでは小葉間隔壁の肥厚を伴うことが多いです。
・両側性の胸水も頻度が高いです。
・小葉中心性陰影も30-50%とそこそこの頻度であり、初期のAEPでは唯一の所見であることもある。
・陰影の分布は一般的にはランダムですが、非区域性(葉間胸膜をまたがる)で末梢優位、下葉優位であることが比較的多いです。
・crazy-paving patternも3割程度に認めるとされます。
・びまん性のGGAと小葉間隔壁の肥厚を認める。小葉中心性の変化にも見えます。
・斑状の浸潤影を示すAEP
〇診断
・診断は公式な基準はないですが、以下の修正Philit critreriaが参考となります。
①1か月以内に発症した急性の熱性疾患である
➁低酸素を伴っている
③画像上両側びまん性に陰影を認める
④BALFで好酸球が25%以上であるか、生検で気腔に好酸球の浸潤が確認できる
⑤薬剤性や感染性など、その他の好酸球性肺疾患が否定できる
〇鑑別診断
①EGPA:末梢血好酸球が10%を超えており、神経など多臓器の障害があることが鑑別点です。
➁真菌感染症:Coccidioides immitisおよびTrichosporon種による感染症は急性好酸球性肺炎を引き起こすことがあります。Trichosporon種はいわゆる夏型過敏性肺炎と重複している部分もあると想定されます。
③寄生虫感染症:Ascaris, Paragonimus, StorongyloidesおよびToxocaraによる感染症はびまん性肺陰影および末梢血とBALFの好酸球増多を示すことがあります。流行地では注意する必要ありです。
④薬物、毒素、放射線による好酸球性肺炎:特に薬物で、コカイン、ダプトマイシン、ゲムシタビン、インフリキシマブ、ラニチジン、スルファサラジン/メサラミン、ベンラファキシン
・その他、好酸球増多を伴わない疾患としてARDS、急性間質性肺炎、劇症型器質化肺炎、びまん性肺胞出血、GPAなどが鑑別に挙がることがあります。
〇治療
・コルチコステロイドによる治療が著効します。重症の場合はステロイドパルス療法を行うこともあります。経口ステロイドではPSL 40-60mg程度が使用されることが多いです。
・2週間のステロイド治療で症状、陰影ともに完全に消失するとされ、そこから7日ごとに5mgずつ減量していきます。
・軽度の場合、自然治癒すら期待できるとされます。
・CEPと異なり、再発は稀で呼吸機能を損なうことも少ないです。
慢性好酸球性肺炎 chronic eosinophilic pneumonia
〇病態
・特発性疾患であり、AEP同様詳しい病態はわかっていません。
・病理学的には間質および肺胞の好酸球と、多核巨細胞を含む組織球が特徴的に認められます。間質の線維化は最小限とされます。
〇疫学
・稀な疾患であり、1年間の罹患率は0.23/100,000人程度とされています。
・どの年齢にも発症しうるが、30-50歳が多く、女性が男性の2倍頻度が高いです。
・AEPと異なり、アレルギー性疾患と密接な関係があり、半分以上の患者に喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎を伴うとされます。
・喫煙との関連は少なく、喫煙率は10%未満とされています。
〇症状、検査所見
・CEPに特異的な症状はないですが、数か月にわたる咳(60-90%)、息切れ(20-50%)などの呼吸器症状が最も頻度が高い症状です。
・呼吸不全を呈することは少なく、低酸素血症はないかあっても軽度です。
・発熱、喀痰、喘鳴もたまにみられます。
・食思不振、体重減少、胸痛などの非呼吸器症状もみられることがあります。
・ゲシュタルトは「喘息などのアトピー性疾患を背景にもつ、中高年女性の慢性的な咳、息切れといった呼吸器症状」になるかと思います。
■血液検査
・AEPと異なり、末梢血中の好酸球増多(>30%)を認めます。IgE(>500IU)も増多していることが多いです。CRP、WBCの上昇は軽度に留まることが多いです。
・ある研究では10%以上の好酸球増多は80%以上の患者に見られたといいます。
■気管支鏡検査
・BALでの回収したBALF、TBLBで生検した検体ともに好酸球浸潤を背景とする所見がみられます。
・BALFでは好酸球が40-60%まで上昇していることが多いです。
・TBLBでは得られる組織検体が小さいため、BALFで好酸球増多がみられても組織診では所見が得られないということもあり得るため注意が必要です。
■呼吸機能検査
・呼吸機能検査では50-70%に異常を認めます。閉塞性パターン、拘束性パターンの両者を認めうることが多いですが、拘束性パターンの頻度がわずかに多いです。
・CEPの患者116人の解析では、10%が閉塞性パターン、29%が拘束性パターン、29%が混合性パターンを示していました。
・DLcoも約半数の症例で減少しているとされます。
・喘息合併例が多いため、呼吸機能検査の解釈には注意を要します。
■画像検査
・胸部X線写真では末梢領域で両側、または片側の浸潤影を認め、photographic negative pattern(逆Butterfly shadowとも)を認めることが特徴的とされますが、CEP患者の1/4にしか認めず感度は低いです。
・HRCTでは上葉優位で両側性の浸潤影とGGAが典型的な所見です。特に、浸潤影は末梢優位の分布をとることが多いです。
・胸水の頻度は少ないです。
・COPと画像所見が類似していますが、COPでは認められる小葉間隔壁の肥厚ではないことが多いです。また、線状または網状陰影を伴う腫瘤影、牽引性気管支拡張も少ないです。一方で小葉間隔壁の肥厚がより高頻度で認めることが特徴であるとされています。
・時にcrazy-paving apperaranceやreversed halo signを認める場合もあります。
・経過が長い場合、吸収過程を反映して胸膜に平行な線状影、板状影を認める場合もあるとされます。
〇診断
・診断は臨床症状、検査所見、および他の好酸球性肺疾患の除外に基づいて診断されます。具体的には以下の4項目を確認します。
①臨床症状(2週間以上持続する)
➁胸部X線写真の異常所見
③BALで検出された好酸球増多(>25%)、血中の好酸球増多、肺組織への明らかな好酸球浸潤
④薬剤性肺炎、寄生虫感染症、ABPA、EGPAなどの除外
〇治療
■初期治療
・CEPもステロイド治療への反応性が極めて良い疾患です。通常、PSL 0.5mg/kgないしはPSL 30mgで開始されますが、2週間で症状、画像所見が改善するとされます。重症の場合はステロイドパルス療法からの導入も検討します。
・6-12か月かけて漸減していきますが、AEPと異なり再発が多いことが問題です。
■再発
・一般に半数以上の症例で再発するとされています。133人のCEP患者の解析では、75人(56%)が再発し、38人(28.6%)が2回以上再発していたといいます。
・再発した場合、PSL 20mg程度から再度治療を開始する場合が多いです。
■代替治療
・理論的には抗IgE抗体(オマリズマブ)、抗IL-5抗体(メポリズマブ)、および抗IL-5受容体抗体(ベンラリズマブ)などの生物的製剤がCEP治療の代替候補となる可能性があります。
・実際、オマリズマブおよびメポリズマブが再発したCEP症例においてステロイド投与を減少または中止する効果を示したとの報告があります。ただし、CEPへの使用については治療期間や適応など、いくつかの懸念が残されています。
肺好酸球増多症の鑑別
〇鑑別
■蠕虫幼虫の肺通過症(レフラー症候群)
・回虫(Ascaris lumbricoides)、鉤虫(Ancylostoma duodenale、Necator americanus)、糞線虫(Strongyloides stercoralis)は肺胞に感染するライフサイクルを持っており、その一過性の通過により両肺の移動性陰影、末梢血好酸球増多を示すことがあります。
・呼吸器症状の時点で便検査は陰性であり、呼吸器分泌物中の幼虫の検出が必要となります。
■肺吸虫症
・ウェステルマン肺吸虫は胚に侵入し、胸水または好酸球性炎症を引き起こす可能性があります。淡水産のカニやイノシシの生食で感染します。
・再発性喀血やチョコレート色の痰といった症状があります。
■エキノコックス症
・エキノコックスなどの嚢虫症による肺嚢胞の漏出、破裂も肺好酸球症を引き起こすことがあります。
■血行性播種
・ステロイド使用中など、免疫不全の患者で生じうるとされます。
・回虫、旋毛虫、住血吸虫、糞線虫が原因となります。
■熱帯性肺好酸球増加症
・フィラリア症で生じる可能性があります。
■真菌感染症
・原発性コクシジオイデス感染症は好酸球性肺炎と関連している可能性があります。菌を含んだ砂を吸入することで感染し、暴露後7-21日で市中肺炎として発症することが多いです。
・播種性クリプトコッカス感染症では肺および末梢血の好酸球増加症が報告されています。
・肺ムコール症でも好酸球増多が起こることがあります。
■ウィルス感染症
・COVID-19で急性好酸球性肺炎を発症することがあります。
■薬剤
・薬剤誘発性好酸球性肺炎の様々な臨床症状には、急性好酸球性肺炎および好酸球性肺炎と全身症状(DRESS)を伴う薬物反応が含まれます。
・原因となる薬剤:NSAIDs、ダプトマイシン、ミノマイシン、ニトロフラントイン、メサラミン、スルファサラジン、抗けいれん薬、抗うつ薬、アンジオテンシン変換酵素、メトトレキサート、アロプリノール、アミオダロンなどが含まれます。
■毒素
・ケイ酸アルミニウム、亜硫酸塩、サソリ刺し、ヘロイン・クラックコカイン・マリファナ吸入、ゴム製造中の有機化学物質吸入、花火・消防・タバコの煙などの吸入、1,1,1-トリクロロエタンの乱用などが原因となることがあります。
■EGPA
・多発血管炎により副鼻腔炎、喘息、皮膚、心臓血管系、消化器系、腎臓系、神経系など多臓器に障害をきたす疾患です。
・MPO-ANCAが陽性となります。
・肺病変は斑状の浸潤影が多いです。
■アレルギー性肺アスペルギルス症
・気道に保菌しているアスペルギルスに対する過敏反応で生じる疾患です。
・粘液栓による気管支閉塞、炎症を繰り返し、気管支拡張、線維化、呼吸不全をきたします。
■癌
・リンパ腫、急性好酸球性白血病、セザリー症候群など、血液疾患により好酸球性肺炎をきたすことがあります。
〇診断的アプローチ
■病歴
・アスピリン、抗けいれん薬、抗菌薬など薬物への暴露、ならびに埃、けむり、喫煙など化学物質への暴露を聴取します。
・コクシジオイデスなど様々な寄生虫に特有の地域での居住または旅行を含むエピソードがないか聴取します。
・筋肉痛、圧痛、腫脹、脱力感を訴える、調理が不十分なイノシシ肉、その他の野生動物、カニの生食などがないか聴取します。
・先行する喘息、アトピー性皮膚炎など、アレルギー疾患の既往の確認します。
・末梢神経障害など、肺外病変の有無を確認します。
■血液検査など
*以下はすべてをルーチンで採取するという意味ではないので注意!
・糞線虫に対する血清学的検査
・旋毛虫に対する血清学的検査
・コクシジオイデスに対する特異的抗体検査
・ABPA:総血清IgE、アスペルギルス特異的IgEおよびIgG
・EGPA:MPO-ANCA
・喀痰検査、便検査は寄生虫疾患の同定に役立つ可能性がある
■画像検査
・HRCTによる画像的特徴である程度疾患を絞りこめる可能性があります(例:CEP、AEP、ABPAなど)
■気管支鏡検査
・BAL:特定の疾患を絞り込めるわけではないですが、好酸球割合の確認は必須です。
・培養:コクシジオイデス、寄生虫などは鏡検、培養により診断がつく可能性があります。
・TBLB:EGPAは病理学的所見で診断できる可能性があります。
参考
・Up to date:
①Idiopathic acute eosinophilic pneumonia
➁Chronic eosinophilic pneumonia
③Overview of pulmonary eosinophilia
・Suzuki et al. Allergol Int. 2019 Oct;68(4):413-419.