結核性胸膜炎とは
疫学
結核性胸膜炎は肺外結核の中で最も頻度が高く、本邦では半数以上を占めています(次点は結核性リンパ節炎)。成人ではほとんどが二次結核として結核性胸膜炎を発症するため、免疫の低下した高齢者で発症することが多いです。
病態
結核性胸膜炎には肺結核が先行していることがほとんどと考えられており、病変が胸腔内に穿破することで結核菌が胸膜に播種します。結核菌が胸膜組織に侵入すると、まず最初に一般的な細菌に対するものと同様の炎症反応が起こり、好中球主体の胸膜炎が生じます。その後獲得免疫が形成されるとリンパ球が優位となり、強力な細胞性免疫により結核菌の増殖が抑制されます。この時点での胸膜での炎症は結核菌というよりも遅延型反応が主体であり、このため結核性胸膜炎の胸水検体からはあまり菌が検出されません。一部の患者では結核菌が再増殖することで好中球性の炎症が惹起され、中には膿胸に移行する場合もあります。
症状
結核性胸膜炎は急性-亜急性の経過を示し、片側性の胸膜痛(75%)、乾性咳嗽(70%)、発熱(85%)、盗汗(50%)、呼吸困難(50%)、体重減少(25-85%)といった症状を呈します。胸水は左よりも右にわずかに多く(45% vs 55%)、82%の患者で胸郭の2/3以上の胸水貯留を認めるとされます。
いつ疑うべきか?
結核性胸膜炎を疑うのは、ズバリ“高齢者の片側性胸水”です。
高齢者では免疫の低下とともに二次結核が起こりやすく、また症状が非特異的となりやすいため、発熱や喀痰がないからといって結核性胸膜炎は否定できません。
画像上肺実質に病変を認めるのは20-50%とされますが、胸水に圧排されて無気肺になっている肺内に病変があることもあるため注意が必要です。
私自身、高齢者の片側性胸水に対し、胸腔穿刺をして肺を広げてCTを撮ったら肺野一面にtree in bud apperanceが!!!という症例を経験したことがあります。感染対策など、様々な面からキモを冷やした症例でした…。
診断
胸腔穿刺による胸水検査
結核性胸膜炎の胸水では以下のような特徴があります。
・色:麦わら色
・蛋白:>3.0g/dL
・LDH:症例の75%で500U/dL以上を示す
・pH:7.40未満であることが多い
・グルコース:60-100mg/dLと保たれることが多い
・細胞数:1000-6000/mm3の範囲で、60-90%の症例でリンパ球優位
アデノシンデアミナーゼ(ADA)は結核性胸膜炎で一般的によく評価される項目です。ADAはプリン体分解と再利用に関わる酵素の一つで、特にリンパ球に多く含まれており、リンパ球が反応性に増加する結核性胸膜炎では胸水中の濃度が上昇します。ただし、関節リウマチによる胸膜炎や悪性胸水でも上昇することがあるため、特異的な所見ではない点に注意が必要です。ADA 40-60U/Lをカットオフ値とした場合、感度・特異度ともに90%以上とされます1)。一方で、200U/Lを超えることは少なく、その場合膿胸や悪性腫瘍の可能性が高まります。
結核菌自体の数は少ないため、胸水の塗抹検査で陽性となるのは10%未満とされ、培養でも陽性率は25%程度とされます。PCRも感度が低く、46%と報告されています。
喀痰検査
結核ということで、排菌があるかどうかのチェックが必要不可欠です。結核性胸膜炎の患者において、肺野が正常であっても55%で誘発喀痰が陽性となったという報告があり、画像だけでは排菌を否定できません2)(ただし、この研究では肺野の評価が胸部X線のみであり、肺結核を過小評価している可能性があります。)
基本的には高齢者の片側性胸水で結核が否定できない場合、隔離の上で3連痰を確認しておくのが無難だと思います。
Interferon-Gamma Release Assays(IGRA)
結核を疑った際、必ず提出されるIGRAですが、結核性胸膜炎に対する診断特性はどれほどなのでしょうか?メタアナリシスでは、血清のIGRAが感度 71%、特異度71%、胸水が感度 72%、特異度78%と報告されており、診断にも除外にも向いていない検査ということになります3)。
画像検査
一般的な膿胸と同様、肥厚した臓側胸膜と壁側胸膜が胸水によって分離されたsplit pleural signを認めることがあります。CTでは肺結核を高確率で認めるとされ、結核性胸膜炎の86%においてCTで肺実質の所見があったという報告もあります。その他、肺門部・縦郭リンパ節腫大や石灰化を伴うこともあります。
胸膜生検
結核性胸膜炎において最も診断精度が高いのは胸膜生検とされています。白色病変が特徴的とされ、生検組織の培養で40-80%が陽性になり、50-97%で肉芽腫を確認できるとされ、最終的に60-95%の診断率であるようです。昨今は局所麻酔下胸腔鏡による胸膜生検も可能となっていますが、それでも侵襲度が高いことに変わりはなく、結核性胸膜炎を発症しやすい高齢者にはおいそれと施行できないのが難点です。
まとめ
結核性胸膜炎の診断について各種検査を見てきました。結核性胸膜炎の難しい所はとにかく結核菌そのものを検出することが難しい点です。
喀痰、胸水検体からの結核菌が検出されない場合、胸膜生検が考慮されますが、前述の通り全例に施行することは難しいです。そのため、実臨床では結核性胸膜炎疑いとして診断的に治療を行わざるを得ないこともあります。
あるreviewでは、胸水ADA>40U/Lで、胸水のリンパ球/好中球比が0.75以上の場合、結核菌が証明されなくても結核性胸膜炎として推定診断としてよいとされており、胸膜生検ができない症例では参考になるかもしれません6)。
治療
治療自体は肺結核と同様、2HREZ→4HRのレジメンで行います。
通常は2週間程度で症状は改善し、6-12週間で完全に治癒するとされています。
結核性髄膜炎と異なり、ステロイドの併用は不要です。
胸水貯留が著しい場合、胸腔ドレナージを併用して行います。
参考
1)Journal of thoracic disease, 2015, 7.6: 981.
2)Am J Respir Crit Care Med. 2003 Mar 1;167(5):723-5.
3)Journal of clinical microbiology, 2015, 53.8: 2451-2459.
4)Respirology. 2019 Oct;24(10):962-971.
5)Respir Med. 2015 Sep;109(9):1188-92.
6)Respirology. 2010 Apr;15(3):451-8.
7)結核の知識 第5版 医学書院
8)結核診療ガイド 南江堂
9)Up to date
10)J Hospitalist Network 結核性胸膜炎
http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-tokyobay-180614.pdf