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感染性腸炎 総論

  • 2022年10月25日
  • 2023年1月26日
  • 感染症
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今回は感染性腸炎の総論です。腸炎というとどうしてもゴミ箱診断になってしまいがちで、雑に扱われてしまうことが多々ある疾患群です。一度ここでしっかり勉強しておこうと思い、まとめてみました。

概論

〇大腸型と小腸型

・感染性腸炎はその病態として「大腸型=腸管粘膜障害」、「小腸型=毒素による腸管分泌促進型」に分類すことができる。

・大腸型は微生物やその毒素による腸管粘膜の破壊が基本的な病態である。

・小腸型は微生物やその毒素による小腸からの分泌物の増加であり、基本的には組織破壊を伴わないため、粘血便、発熱などはないか軽度である。

・YersiniaやCampylobacterは大腸型、小腸型のいずれも呈しうるため、固執しすぎないことも意識する必要がある。この2つは臨床像が非特異的であるため、便培養を提出するときはこの2種の同定を依頼するとよい。

・専門家によっては「穿孔型」を加える。これは腸管感染症であるが、消化器症状よりも発熱、敗血症といった全身症状が前面に出るものである。古典的な例としては、Salmonella typhiによる腸チフス、腸熱、さらにYersinia enterocoliticaなどが当てはまる。

〇潜伏期間

・毒素産生型であるS.aureusやB.cereusによるものは潜伏期間が短く、4-6時間程度である。

・その他、微生物と大体の潜伏期間を以下に示す。

〇微生物とその原因

・下記に病原体と原因食品をまとめる。

〇細菌性食中毒とメカニズム

・下記、それぞれの分類を示す。

診断

〇病歴

・基本的には前述の大腸型か小腸型に分類しながら診療を進める。さらには院内感染症、持続性(10日以上)、免疫不全などを考慮する。

・血便:著明な場合には腸管出血性大腸菌の可能性がある。これは通常の大腸型感染症と異なり、毒素による出血であるため、腸管粘膜の破壊はないか軽度なので発熱は軽度であることが多い。エンテロトキシンを産生するCampylobacter、赤痢菌、Aeromonas、Vibrio vulnificusなどの場合は水様便で始まり血液の混入した便に変わる。

・水様便は腸ウィルス、寄生虫のような腸管粘膜の破壊のない少量型を示唆する。悪心、嘔吐が下痢に対して強い場合、ウィルス性腸炎、毒素型の食中毒の可能性が高い。

・最近の旅行:同じ大腸菌でも先進国では腸管出血性大腸菌(EHEC)が問題になるのに対し、開発途上国では旅行者下痢症で知られる腸管毒素原性大腸菌(ETEC)が問題になる。

・野外活動、キャンプなどは食中毒などの問題が多い。特に摂取する水の衛生や量が重要。

・保育園、老健などの長期療養型施設などは集団発生の母地になる。

・サルモネラを保菌する亀などの爬虫類、両生類の飼育を聴取する。

・食事(外食、水産物、未調理食物)、アルコール、コーヒー、ソフトドリンク

〇身体所見

・下痢の原因究明には役立たないことが多いが、下痢の診療の第一歩である全身状態、脱水の程度の判定に必須である。

・強い発熱は大腸型の侵襲性の病変を示唆する。

・直腸診で出血、粘血便を確認する。

〇検査一般

・可能な限りカップに採取する。おむつやスワブの検体は不十分である。

・便中白血球:何らかの機序による大腸粘膜の障害、破壊を示唆するが、感度・特異度は不十分である。

・便中ラクトフェリンは感度の良い検査であるが、本邦では使用できない。

・グラム染色:Campylobacterの診断には有用

〇便培養について

・市中感染の下痢症は、臨床像が小腸型であっても危険地域への旅行歴があったり、重症感が強い例では便培養を勧める。

・大腸型の下痢症は原則培養を提出すべきである。

・ただし、便培養は欽明の同定に要する培地の数が多く、細菌検査室の負担になるため、入院症例の下痢などは免疫不全例などの限られた場合にのみ便培養を提出する。

・Yersinia、Campylobacterなどは特別な培養が必要であり、あらかじめ細菌検査室に菌名を告げておく。

〇便中寄生虫卵

・一般に原虫の虫体や卵は間欠的に便中に排出されるため、複数回行う必要がある。

・適応:

①長引く強い下痢(ランブル鞭毛虫、Cryptosporidium、赤痢アメーバ)

➁流行地への旅行後(ランブル鞭毛虫、Cryptosporidium、Cyclospora)

③保育所などに通う小児(ランブル鞭毛虫、Cryptosporidium)

④男性同性愛(ランブル鞭毛虫、赤痢アメーバ)

⑤AIDS

⑥市中感染で水資源由来の集団発生(ランブル鞭毛虫、Cryptosporidium)

⑦血便だが白血球が非常に少ないか存在しない(赤痢アメーバ)

CF

・男性同性愛患者においてgay bowel syndromeには肛門から15cmまでの直腸炎(単純ヘルペスウィルス、淋菌、クラミジア、梅毒)、大腸炎(Campylobacter、赤痢菌、C.difficile)、非炎症性(ランブル鞭毛虫)などがある。

・AIDSやその他免疫不全症例では、直腸病変、S状結腸病変を疑う場合に施行する。

・炎症性腸疾患を疑う場合も適応となる。

治療

〇治療の基本は電解質、体液の補充・調節

・嘔吐がひどい、腸管閉塞があるなどの場合以外は経口でも水分補給が可能である。

・単純な水分では吸収されにくいので、必ず塩分、糖分を含む液を経口摂取させる。

・点滴を行うならば血管内ボリューム確保のために生理食塩水を用いる。尿量の確保ができており、電解質の検査で高カリウム血症がないことがわかればKを加える。

〇基本的には下痢止め、抗菌薬は不要

・下痢、嘔吐は一般に消化管感染症に対する生理的反応であるため、基本的には止痢薬、制吐薬の使用は避ける。

・例外的に抗菌薬が使用されるのは大腸型の一部のみであり、この大腸型下痢を生じる例外的な菌名を記憶しておくほうが実際的である。抗菌薬の使用が例外的に望ましい宿主(新生児、高齢者など)、臨床状況(重症、脱水が強い)も記憶しておく。その他、人工血管、人工関節、人工弁がある場合も抗菌薬投与が望ましい。

・エンピリカルに抗菌薬を使用する場合、例は以下の通り

①経口摂取できるならAZM 500mgを24時間ごと、LVFX 500mgを24時間ごとに3-5日間

➁経口摂取困難であればCTRX 2g q24h、またはAZM 500mgをq24hで静注

参考

・感染症診療レジデントマニュアル