注目キーワード
  1. 高血圧
  2. 骨粗鬆症
  3. 糖尿病

サルモネラ感染症

  • 2022年10月25日
  • 2023年1月26日
  • 感染症
  • 40view
  • 0件

Salmonellaの分類学

・Salmonellaの分類は煩雑であり、専門外の人間には正直使いにくい。

・臨床的には宿主特異性とでもいうべき性質により3つの型に分類するほうが理解しやすい。

①臨床的にはヒトのみに感染する型(S.Typhi、S.Paratyphi)

➁ほとんど動物に感染するが、例外的にヒトにも感染する型(S.choleraesuis)

③特に宿主に特徴のない、自然界のどこにでも存在する型(S.Typhimurium, S.Enteritidis, S.Heidelberg, S.Newport)

・より簡便には、①全身状態の強い腸チフスの原因となるS.Typhi, S.Paratyphiと、それ以外のいわゆる食中毒の原因となる➁と③(non-typhoidal Salmonella)に分ける方法がある。

疫学

・①の型であるS.Typhiはヒトのみが宿主であるため、保菌者の便や尿によって汚染された食物や水を飲食することで感染する。①はどちらかといえば開発途上国で問題となり、わが国でも80%は輸入例であり、アジア諸国、インド、インドネシアが多い。ただし、2013,2014年には渡航歴のない腸チフスが流行したこともあった。

・③の型はいろいろな動物や環境などどこにでも存在するため、多くの食物を汚染しうる。この型は先進国で問題となりうる。

S.Typhi,  S.Paratyphi

・腸チフス、腸熱の起因菌であり、単なる消化器感染症というよりも、腹痛を伴う発熱という全身症状が前面に出る感染症といえる

■起因菌

・腸チフスは記述のようにS.Typhi、パラチフスはS.Paratyphiによる感染症であるが、腸チフスとパラチフスで症状に差はない。S.Choleraesuisも同様の臨床像を作ることがある。

・これらの菌は小腸、大腸の上皮に付着後、特殊な蛋白を宿主細胞に注入し、細胞内に取り込まれ、そこで増殖、その細胞を融解させ細胞外に出て血流などに乗る。特にS.Typhiはヒト細胞に順応しており、上皮細胞をほとんど破壊することなく、下痢も生じない。そして腸管細胞内で増殖後、腸間膜リンパ節、血流に入る。

■病因

・Salmonellaは酸に弱いため、胃酸が正常に存在すると感染を成立させることが難しい。逆に制酸薬の使用、胃切除、抗菌薬の使用や蠕動運動低下による正常細菌叢の変化などはSalmonellaに感染しやすくなる。

・HIV感染症や悪性リンパ腫のような細胞性免疫障害、また胆道系や尿路の解剖学的異常もSalmonella感染症に罹患しやすくなり、重症化もしやすくなる。

・感染症法の3類感染症に分類されており、診断した場合はただちに最寄りの保健所に届け出る必要がある。

■臨床像

・潜伏期間は1-2週間程度である。

・非特異的前駆症状として、悪寒、発汗、鈍い前頭部痛、咳、虚脱感、咽頭痛、筋肉痛などがみられることがある。

・典型症状

①第1病週:発熱、比較的徐脈。硬軟にバラ疹、脾腫。

➁第2病週:肝・脾で菌増殖、肝脾腫出現。熱は高熱が稽留し、混迷状態(typhoid state)になることも。

③第3病週:回腸末端のリンパ組織の過形成による腸出血、腸穿孔が起こりやすく、虫垂炎と誤診しやすい。

④第4病週:解熱、回復に向かう。しかし完全回復には何か月もかかる場合がある。

・発熱は75%、腹痛は20-40%、肝脾腫、下痢は半数、バラ疹は3割程度と、以外にも典型症状は少ないかもしれない。咳嗽が30%に見られることは余り知られていない。

・①➁の時期は血液培養陽性、③④の時期は便培養が陽性となる。

・血培の陽性率は50-60%だが、骨髄培養は90%と高い。さらに十二指腸液の培養も検査の感度を高めるとされる。

・白血球減少、貧血が多く、時にDICを認める。

・混迷状態の髄液は正常であり、もし異常なら他疾患を考慮すべき。

■合併症

・転移性病変:細菌性動脈瘤、骨髄炎、髄膜炎、肺炎、心内膜炎

・粥状硬化巣や動脈瘤に付着し血管内感染を起こしやすい・

・如何なる部位の骨にも骨髄炎をおこしうるが、人工関節は特にリスクが高い。

■鑑別診断

・回盲部に病変を作り、穿孔型腸管感染症を生じるため、Yersinia enterocolitica、Y.pseudotuberculosis、C.jejuniなどの感染症や腸結核が鑑別に上がる。

・重症感を伴う不明熱的な病態という観点からはチフス様野兎病、腹腔内膿瘍、リケッチア症、レプトスピラ症、ブルセラ症、ペスト、伝染性単核症、デング熱、マラリア、リーシュマニア症、回帰熱も鑑別になる。

■診断

・便、血液、骨髄、皮疹(バラ疹)の培養でS.Typhiを検出する。

■治療

全例で治療適応がある

・下記のいずれかを用いる

CTRX 2g q24hまたはCTX 2g q8h 10-14日間

AZM 初日1000mg、以後500mg6日間経口

CPFX 800-1000mg/日を分210-12日間

*東南アジア、南アジアではフルオロキノロン耐性が多いので注意する

昏睡、意識障害、ショックなどの重症例ではステロイドが有効との報告があり、デキサメタゾン 初回3mg/kg、その後6時間毎1mg/kgを8回投与する。

・投与期間は7-14日だが、骨髄炎などがあれば4-6週間まで延長する

■保菌者

・定義は「便か尿培養が1年以上陽性であること」である。

・実際にはS.Typhi感染で1-4%が保菌者になるといわれる。

・保菌は胆管系や尿路系で起こることが多い。

・胆嚢機能が正常で胆石症でなければ、1-1.5か月の治療で除去が可能である。

・胆石症があれば胆嚢摘出術+2週間以上の抗菌薬治療が必要となる。胆石があると抗菌薬のみでは保菌状態は解除できない

Salmonella胃腸炎

■起因菌

・第3の型のnon-typhoidal Salmonellaによる食中毒である。

・代表はS.Thphimurium, S.Enteritidis, S.Heidelberg, S.Newport, S.Agonaなど。

・大量生産される食物汚染により一度に大量の感染例がでることがある。

・爬虫類なども感染源として有名である

■臨床像

・潜伏期は汚染した食品を摂取し8時間-2日である。

・大腸型の急性胃腸炎の臨床像が典型的であるが、軽症であれば水様便を呈することもある。

・下痢は3-7日で消失し合併症を残すことはまずない。

・時に急性虫垂炎様の症状を呈することがある。

■診断

・便からSalmonellaを検出する。

■治療

・抗菌薬は保菌状態を長引かせるため、例外を除き、基本的に抗菌薬は使用しない。

・下記の場合は抗菌薬投与を考慮する。

①幼児(新生児から生後3歳まで)と50歳以上の者(動脈硬化、動脈瘤への感染を防ぐため)

➁細胞性免疫障害:HIV感染症、臓器移植患者、悪性疾患(特にリンパ腫)

③人工骨頭、人工関節、人工弁、人工血管を持つもの

上記に限り、キノロン系を2-3日使用する。

☆腸管合併症

☆サルモネラによる感染性動脈瘤

参考

・up to date

・Sanford guide

・感染症診療レジデントマニュア