CRPとは
CRPとはC-reactive proteinの略称であり、急性期反応物質(APR:acute phase reactants)の一種です。肺炎球菌性肺炎の急性期に患者の血清中で増加していることで発見されました。肺炎球菌菌体のC多糖体と反応するためこの名称がついていますが、肺炎球菌に限らず様々な場面で上昇してきます。
CRPはそれぞれ分子量が約23kDで、非共有結合で結合した5つの同一のサブユニットから構成されたタンパク質です。
CRPはマクロファージとT細胞からのIL-6の分泌により、肝臓と脂肪細胞から分泌されます。その役割は諸説ありますが、病原体や損傷細胞のホスホコリンに結合し、抗原提示細胞の認識とその後の食細胞などによる除去を促進することで抗炎症作用を持つとされています。
難しい話になるので割愛しますが、CRPの転写発現は二相性であるため、炎症などの刺激が入ってから12-24時間後に上昇してきます。48時間でピークに達し、半減期は19時間です。このため、炎症刺激が入ってから上昇するまでと炎症が落ち着いてから低下するまでの双方にタイムラグがある点に留意しておく必要があります。
ちょっと難しい話をしてきましたが、皆さんご存じのように炎症があるときに上がってくるマーカーということですね。炎症といっても感染や膠原病、腫瘍など、実に多様な病態で上昇するため、CRPは長年その使い方が議論されています。中には「測定すること自体がムダ!」と教えられた先生もいるかもしれません(私はそうでした・・・)。
Antaaの「カメでもわかるCRPの話」というスライドで、CRPが上昇する原因についてMINTIAという面白い語呂合わせが載っていましたので以下に示します。
M:Malignancy 悪性腫瘍
I:Inflammation 炎症
N:Necrosis 組織障害・壊死
T:Trauma 外傷
I:Infection 感染症
A:Allergic reaction アレルギー反応
CRPのエビデンス
では、実臨床でどのくらい使えるのかエビデンスをみていきましょう。
〇細菌感染か否かの判別に使えるのか?
まずアメリカで行われた小児(3か月から7歳)の中耳炎での検討です。中耳炎症例を細菌性(n=82)、細菌+ウィルス(n=69)、ウィルス性(n=12)、不明(N=22)にグループ分けして検討した所、4グループ間ではCRPの値に統計学的有意差を認めませんでした。ただし、細菌性と非細菌性だけで比較すると細菌性でCRPは高値(1.58±3.16 vs 0.64±1.24mg/dl)であったようです。4)
また、成人の非定型細菌(レジオネラ、マイコプラズマ、コクシエラ) vsウィルス(デングウィルス、パルボウィルス、CMV、HSV-1,2,EBV、インフルエンザ)vs 健常人での血清CRPを比較した研究では、健常人に比して感染症群では有意にCRP高値でしたが、病原体の判別には有用でありませんでした。5)
加えて、敗血症におけるバイオマーカーの感度、特異度を比較した研究では、CRPの感度は75%、特異度は67%でした。6)
最後に、市中敗血症の診断におけるカットオフ値を検討した前向き研究では、
3.8mg/dlで感度79.7%、特異度57.9%
5.0mg/dlで感度71.6%、特異度63.2%
10.0mg/dlで感度63.5%、特異度94.7%
という結果でした。7)
これらの結果をまとめますと、
・CRPは感染症において上昇する
・ウィルスよりも細菌で上昇する傾向があるかも
・細菌感染の重篤な状態である敗血症であっても感度、特異度は優れていない
・高値であるほうが細菌感染らしいかも
といったことが言えるのではないかと思います。
〇CRP高値は重症なのか
デンマークで行われたコホート研究を示します。市中発症の菌血症患者2017名のうち、193名(9.6%)がCRP<2.0mg/dlでした。また、30日死亡率はCRP<2.0mg/dlの群で13.5%、CRP>10mg/dlの群で20.6%と後者の群で高値でした。一方で、市中発症の菌血症症例ではしばしばCRPは正常範囲にとどまるため、重症感染症を否定したり抗菌薬投与を保留する理由にはならないと結論付けられています。8)
また、前述の論文の通り、敗血症においてCRP 10.0mg/dlをカットオフ値とすると感度63.5%、特異度94.7%であることが示されています。
これらの結果より、CRPが高値であれば重症である場合が多いが、低値であるからといって重症でないわけではないことが言えると考えられます。
〇CRPの値を元にすることで抗菌薬を適正に使用できるのか?
まず大前提として、CRPは炎症の原因が改善してから遅れて低下してくるバイオマーカーですから、CRPのみを当てにしていると不用に抗菌薬投与を長引かせてしまうことになることには注意が必要です。基本的には感染症ごとに決められた抗菌薬投与期間を目安に投与期間を決定していきます。また、例えば肺炎であれば患者さんの呼吸状態など、その他のパラメーターも併せて判断していくことも重要です。一方、化膿性椎体炎など、成書に治療期間が〇週以上と記載があり、治療期間が長くなりがちな疾患ではCRPの推移が抗菌薬終了の目安の一つになることも事実です。
その上でいくつか論文を見ていきましょう。
まずはGNR菌血症に対しての非劣勢試験で、CRPガイド下の抗菌薬治療を終了 vs従来型(7日間、14日間)の治療が「治療開始30日目の治療失敗率を増やすかどうか」を検証した多施設前向き非劣勢ランダム化試験では、30日後の治療失敗率はCRPガイド群と7日間は、14日間投与群に非劣勢でした。また、CRPガイド群の治療期間の中央値は7日間でした。サンプルサイズが小さくlimitationの多い研究ですが、CRPガイド下の抗菌薬治療を行うことにより不要な抗菌薬治療を減少させる可能性を示唆する研究といえます。9)
また、COPD増悪においてCRPガイド下に抗菌薬投与を行うかどうかを決定した研究においては、CRPガイド下群では通常治療群よりも抗菌薬の使用が少なく、臨床成績の上でも害を認めませんでした。10)
以上より、CRPのみで抗菌薬投与の有無、治療期間を決めることは行ってはいけませんが、状況に応じて一つの指標として参考にすることで抗菌薬を適正に使用できる可能性があると考えられます。
CRPの使い方
ざっくりと調べてみましたが、CRPを対象にした研究は結構あるようです。読み切れていない研究の方が大多数ですし、他の方がまとめていたものを参考にさせて頂いたものが多いので、あくまでエビデンスのごく一部分ととらえておいてください。
その上で、CRPの扱いをどうするかですが、私は
・CRPが低値=何も言えない
・CRPが高値=何かある
というように扱うようにしています。雑に扱っているようですが、患者さんに症状や発熱はないがCRPが高値であった症例に対して、work upを行うと何かが見つかることは多々経験しており、「CRPが高い」という事象に対しては注意して対応をしています。一方で前述のエビデンスの通り、CRPが低値であっても細菌感染症であることはよくありますし、それどころか重症敗血症であることすらあるわけですから、「CRPが低い」からといって何も言うことはできません。
結局のところ、色々考え調べた結果がこれなので拍子抜けした方もいるとは思いますが、実際のところ大体数の先生がこんな感じでCRPを使っているのではないでしょうか。
とにかく、「CRPで細菌感染か否か」、「抗菌薬を投与するか否か」、みたいな極端なことをやっていなければOKだと思います。
参考
1)wikipwdia C反応性蛋白
2)臨床検査 64巻9号 (2020年9月)
3)Antaa slide カメでもわかるCRPの話
4)Pediatrics. 1995 May;95(5):664-9.
5)J Med Virol. 2016 Feb;88(2):351-5.
6)Springerplus. 2016 Dec 12;5(1):2091.
7)Crit Care(2006); 10: R53
8)Infect. 2014 Feb;68(2):149-55.
9)JAMA. 2020 Jun 2;323(21):2160-2169.
10)N Engl J Med. 2019 Jul 11;381(2):111-120.