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急性胆嚢炎

定義

Tokyo Guidelines 2018によれば、

胆嚢に生じた急性の炎症性疾患。多くは胆石に起因するが、胆嚢の血行障害、化学的な障害、細菌、原虫、寄生虫などの感染、また膠原病、アレルギー反応など発症に関与する要因は多彩である

と定義されています。

疫学

胆嚢炎の原因としては胆石によるものが最も多く(85-95%)、その他良性狭窄や悪性腫瘍などが続きます。主要な原因である胆石は一般人口の約10%が保有しているとされ、そのうち急性胆嚢炎を発症するのは年間3.8-12%程度とされています。

リスクとしていわゆる“5F”がいわれており、forty(40歳代)、female(女性)、fatty(肥満)、fair(白人)、fertile(多産)を指しています。

臓器障害を伴った急性胆嚢炎を重症例と定義すると、その頻度は1-17%程度と見積もられています。死亡率は胆管炎の2.7-10%と比較すると低く、1%未満であるとされています。

保存的加療、ないしは手術待機中の再発率は高く、19-36%とされています。

病態

まず結石の嵌頓による胆嚢管閉塞と、胆嚢内胆汁うっ滞に引き続いて胆嚢粘膜障害が起こり、炎症性メディエーターの活性化が引き起こされます。

胆管炎ではうっ滞した胆汁への細菌感染が主要な病態ですが、胆嚢炎の場合はすべての患者に胆汁感染が合併しているわけではありません。ある研究では、胆嚢炎での培養陽性率は22-46%程度であったそうです。

Mirizzi症候群

胆嚢頸部の結石による圧排、炎症により総胆管狭窄をきたした状態です。胆汁うっ滞により胆道系酵素の上昇を認めたり、胆管炎を合併することがあるので注意が必要です。

胆嚢捻転

先天的に遊走胆嚢(胆嚢底部が肝臓から遊離している)があることで、胆嚢頸部が捻転し血行障害を起こす病態です。早期に胆嚢壁の壊死に至るため、早急に外科的手術を行う必要があります。

症状

急性胆嚢炎は急性腹症の代表的な疾患の1つであり、腹痛患者の中で3-10%を占めるとされています。

最も典型的な症状は右季肋部痛(38-93%)であり、次いで悪心嘔吐が多いです。発熱は高頻度ではなく、特に38℃を超える高熱の頻度は約3割程度です。

腹痛は持続的であり、4-6時間以上持続します。胆石症の場合は30分-1時間程度で治まるとされており、鑑別点の一つになります。初期は心窩部痛から始まることが多く(内臓痛)、炎症が腹壁に波及すると右季肋部痛となります(体性痛)。また、右背部や右肩に関連痛を認めることもあります。

また、疼痛発症の1時間前に脂っこい食事を食べていることが多いです。

診断

診断基準

以下にTG18の胆嚢炎の診断基準を示します。

感度91.2%、特異度96.9%と高い精度を誇りますが、炎症所見を認めない急性胆嚢炎が診断できないことが問題点とされています。

身体所見

有名なMurphy’s signは特異度96%と高いですが、感度は50-60%程度しかありません。

肝叩打痛も有効な身体所見の一つです。

血液検査

診断基準にもある通り、白血球上昇、CRP上昇など、全身の炎症所見を伴う点が特徴的です。診断基準の問題点として前述した通り、急性胆嚢炎の13%で血液検査が全くの正常であるため注意が必要です。

肝胆道系酵素の上昇は認めないことが多く、極端に上昇している場合は胆管炎の合併などを考えます。

腹部超音波検査

急性胆嚢炎の超音波所見として、胆嚢腫大、胆嚢壁肥厚、胆嚢結石、デブリエコー、胆嚢周囲の液体貯留などがあります。胆嚢腫大、胆嚢壁肥厚の基準としては、長径>8cm、短径>4cm、胆嚢壁>4mmが目安となります。

Sonographic Murphy’s signは感度63%、特異度93.6%と診断の上で有用です。

腹部CT検査

ガイドラインでは「急性胆嚢炎が疑われるが、臨床所見、血液検査、超音波検査によって急性胆嚢炎の確定診断が困難な場合、あるいは局所合併症が疑われる場合にはCTを施行すべきである。CTはできるだけダイナミックCTを施行することを推奨する」とあります。ただ、実臨床上ではルーチンで造影CTまで撮影していることが多い印象です。基本的には超音波検査と同様、腫大や壁肥厚に注目していくことになります。

胆嚢壁に炎症が生じると胆嚢壁の血流が増加し、肝実質に還流する胆嚢静脈血が増加します。したがって、急性胆嚢炎では胆嚢周囲の肝実質がダイナミックCTの動脈相にて一過性に濃染を示すことも特徴的です。

腹部MRI検査

腹部超音波検査での診断が確定的でない場合、MRIの検査が有用なことがあります。感度は81%、特異度は85%と報告されています。

MRIは濃度分解能が高く、胆嚢腫大や壁肥厚、胆嚢周囲の炎症性変化の描出が可能です。具体的には、T2強調画像で胆嚢周囲液体貯留、浮腫を反映し、胆嚢周囲が高信号となります。

治療

手術・ドレナージ

ガイドライン上は、「急性胆嚢炎の治療において耐術と判断したら、発症からの経過時間にこだわらず、早期に手術を行うことを提案する」とされています。実際には全例ですぐに手術、というのは難しく、最初は胆嚢穿刺を行ってドレナージを行い、炎症が落ち着いた所で手術を行う場合が多いです。各施設での対応をご確認ください。

抗菌薬治療

急性胆嚢炎の起因菌としては大腸菌などの腸内細菌群が多く、嫌気性菌が4-20%程度で関与していると見積もられています。基本的には腸内細菌科のGNR+嫌気性菌をカバーしていくことになります。

色々と意見がある所と思いますが、

・大腸菌の耐性が低ければABPC/SBTやCMZ

・大腸菌の耐性が高ければPIPC/TAZ

・重症例ではPIPC/TAZ

というように、アンチバイオグラム重症度に基づいて抗菌薬を選択していくのがよいと考えます。

胆道感染症において嫌気性菌カバーが不要なのではないか?という研究もチラホラありますが、実臨床では基本的にはカバーしにいくことが多いです。

また、胆道感染症でよく使用されるCPZ/SBTは個人的には使用しません。既存の抗菌薬(APBC/SBTやPIPC/TAZ)で対応可能ですし、投与用量が少なすぎる印象があり、敢えて使う必要はないと考えるからです。よく言われる「胆道移行性が良好である」ことも、そもそも胆汁うっ滞が病態である胆嚢炎や胆管炎でどこまで意味があるのか判然としないことも理由の一つです。

投与期間はドレナージ等で感染源のコントロールを行った後、4-7日間が推奨されています。

参考

・TG18新基準掲載 急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン2018 医学図書出版

・Up to date