肛門周囲膿瘍とは
〇解剖生理
・肛門周囲膿瘍には解剖学的な位置から、
①皮下膿瘍
➁筋間膿瘍
③骨盤直腸窩膿瘍
④坐骨直腸窩膿瘍
⑤粘膜下膿瘍
などに分類されますが、初期管理はほとんどの場合同じであり、結果として「肛門周囲膿瘍」という用語が使用されています。
・特発性肛門周囲膿瘍の約90%は陰窩球腺の感染が原因で発生し、ほとんどが肛門腺が位置する後部および括約筋間腔で発生します。
・感染が外括約筋を介して破裂した場合、それは坐骨直腸窩膿瘍を形成します。
・肛門挙筋または恥骨直腸筋を越えて進展することは稀であり、医原性損傷が原因であることが多いです。
〇疫学
・肛門周囲膿瘍は男性が女性の2倍多いとされます。
・平均年齢は男女ともに40歳です。
・痔瘻、炎症性腸疾患、喫煙、HIV感染などが危険因子です。
・稀な原因として憩室炎、魚骨などの直接貫通、悪性腫瘍、結核、放線菌症などがあります。
肛門周囲膿瘍の症状、診断
〇症状
・肛門周囲膿瘍の患者は、肛門または直腸領域に激しい痛みを伴うことが多いとされます。痛みは一定であり、必ずしも排便と関係しない場合もあります。
・発熱、倦怠感などの全身症状を伴うこともあります。
・表在性の膿瘍は圧痛のある限局性の紅斑、腫脹として急性に現れ、一部は分泌物を伴います。
・骨盤直腸窩や坐骨直腸窩など、深部性では診断が難しいことがあり、視診で異常がない患者で敗血症を呈することもあります。この場合、診断確定には画像診断が必要となります。
・患者の1/3に瘻孔を認めるとされます。
〇診断
・表在性は視診で診断することもできます。深在性は視診での診断は困難であり、直聴診で圧痛や腫瘤の存在を確認します。
・造影CT検査、MRI、直腸内超音波などの画像検査は診断に有用です。
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〇鑑別診断
・肛門周囲膿瘍は仙骨前部、肛門周囲、会陰部に痛みや腫瘤を作る疾患との鑑別が必要となります。
●裂肛
裂肛は歯状線の遠位に生じる裂傷です。ほとんどの裂孔は後部正中線の位置で発生します。急性の裂肛では排便の通過に伴う疼痛を訴えますが、肛門周囲膿瘍は持続性であり、排便とは無関係のことが多いです。
●痔瘻
痔瘻は膿瘍から皮膚や隣接臓器を連絡する瘻孔です。肛門周囲膿瘍は痔瘻を伴うことがあります。
●血栓性外痔核
肛門周囲の疼痛と、血栓による蝕知可能な腫瘤を呈します。肛門周囲膿瘍とは視診で鑑別が可能です。
●内痔核
内痔核は正常な血管構造であり、脱出や絞扼する可能性があります。内痔核は直聴診で腫瘤として触診されますが、圧痛はないことが多いです。
●毛巣洞疾患
急性膿瘍を呈する可能性がありますが、会陰部ではなく肛門より頭側に発生します。
●臀部皮膚膿瘍
肛門周囲のせつ、ようが肛門周囲膿瘍と紛らわしいことがあります。
●バルトリン腺膿瘍
バルトリン腺管が閉塞して膿瘍を形成する可能性がありますが、外陰部に発生するため鑑別可能です。
●化膿性汗腺炎
化膿性汗腺炎は腋窩、鼠径部、肛門周囲、会陰、乳房下の領域の慢性濾胞性閉塞性疾患です。肛門周囲の病変は膿瘍との鑑別が難しいこともあります。
肛門周囲膿瘍の治療
・基本は外科的ドレナージです。放置すれば隣接臓器に拡大するだけでなく、全身感染症に進行する可能性があり、速やかに治療を検討する必要があります。
●切開
膿瘍の適切なドレナージを行いつつ、瘻孔の長さを最小限に抑えるために、皮膚切開を肛門縁に近づけて行う必要があります。
・ドレナージ後の開放創
●創傷パッキング
しばしば石灰排膿後に行われますが、RCTで効果は証明されていません。
●瘻孔切開術
肛門周囲膿瘍の患者の3-7割が痔瘻を併発しているとされます。すでに瘻孔がある場合、一次的に瘻孔切開術を行うかどうかは議論の余地があるところです。一般的には炎症と浮腫が収まってから瘻孔切開術を行う方が望ましいとされています。
●抗菌薬
肛門周囲膿瘍の切開排膿後、すべての患者に抗菌薬治療を行うことが推奨されています。
通常AMPC/CVAかCPFX+MNZの組み合わせを4-5日間行います。
参考
・uo to date
・BMJ. 2017 Feb 21;356:j475.