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自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis:AIH)

  • 2024年3月4日
  • 2024年3月4日
  • 消化器
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自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis:AIH)とは、発症・進展に自己免疫機序が関与していると考えられる、中高年以降の女性に好発する肝炎です。抗核抗体などの自己抗体陽性、IgG高値をその特徴とします。慢性経過を辿ることが多いですが、時に急性肝炎を呈する例も報告されています。診断にあたっては、肝炎ウィルス、アルコール、薬剤性肝障害および他の自己免疫疾患に基づく肝障害を除外することが重要です。放置すると肝硬変に至ることもあるため、早期に診断を行う必要があります。治療の中心は免疫抑制療法であり、コルチコステロイドが著効します。

 

AIHでは抗核抗体が陽性となるほかに、特異的な自己抗体がいくつも知られていますが、重要なのは抗平滑筋抗体、肝腎ミクロゾーム1抗体(LKM-1抗体)の2つです。現在は抗平滑筋抗体が陽性のAIHを1型、肝腎ミクロゾーム1抗体が陽性のAIHを2型として病型を分類しています。本邦では1型のAIHが圧倒的に多いとされています。このように、AIHは何らかの自己抗体が陽性となる疾患ですが、実際にこれらの自己抗体が病態とどのように関連しているかはわかっていません。

 

AIHの発症には遺伝要因、環境要因の両方が関与すると考えられています。遺伝要因として重要なのは、疾患感受性遺伝子であるHLA-DR4で、本邦のAHIの70%で陽性とされています。また、欧米ではHLA-DR3が疾患感受性遺伝子とされていますが、本邦での陽性率は0であり、人種間の違いが想定されています。環境要因としては、ウィルス感染、薬物などの関与が考えられており、EBウィルス、単純ヘルペスウィルス、A型肝炎ウィルスなどの感染を契機に発症する症例や、薬剤性肝障害に引き続いて発症する症例が報告されています。

AIHの発生率は人口10万人あたり1-2人程度であり、大変稀な疾患です。本邦での患者総数は20,000人と推定されています。他の自己免疫疾患同様、女性に発症しやすく、1型AIHでは男女比が1:4、2型AIHでは1:10と報告されています。どの年齢でも発症する可能性がありますが、二峰性のピークがあり、20代と50-60代での発症が多いです。

 

また、他の自己免疫疾患を合併することもあり、その頻度は約30%と高率です。慢性甲状腺炎、関節リウマチ、シェーグレン症候群、1型糖尿病、潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデスなどが含まれます。海外ではセリアック病の合併頻度が高いようですが、本邦ではセリアック病自体が稀であるため、両者の合併は少ないといえます。

 

発症様式は慢性肝障害で発症するのが約90%、急性発症が約10%と報告されています。米国からの報告では、原因不明の急性肝障害のうち、11%がAIHであったとされています。

AIHは様々な臨床経過を示しますが、多くは無症候のまま慢性肝炎の経過を辿ります。このため、健康診断や定期外来で、偶然に肝機能障害を指摘されたことが診断の契機になることが多く、見逃さないことが重要です。発見が遅れ、肝不全症状(黄疸、腹水、脾腫など)が出て初めて気が付かれる症例も少なくありません。急性肝炎を呈した場合、全身倦怠感、食思不振、嘔気、腹痛といった、非特異的な症状が出現します。合併する自己免疫疾患の影響もあるのか、しばしば関節痛を伴うこともあります。

  

また、AIHには皮膚症状を伴うことが多く、8-17%に認めるとされます。皮疹は非特異的であり、紅色丘疹が顔、胴体、上肢に出現することが多いです。この分布ですと、一見薬疹のようにもみえるかもしれません。その他、乾癬、白斑、ざ瘡、結節性紅斑、壊疽性膿皮症など、多彩な皮膚所見が報告されています。

 

肝逸脱酵素

AIHでは、AST、ALTが優位に上昇し、γ-GTP、ALPなどの胆道系酵素の上昇は目立ちません。慢性経過、または初診時に既に肝硬変に至っている場合は、AST、ALTは正常の1.5~5倍程度に留まります。一方、急性肝炎を呈する場合、正常の10~20倍まで上昇する可能性があります。

ガンマグロブリン、自己抗体

自己抗体の存在を反映し、γグロブリン、特にIgGが上昇していることが多いです。IgMやIgAは正常です。

 

AIHにおいて、抗核抗体は最も感度の高い自己抗体検査であり、80倍以上を有意と捉えます。抗平滑筋抗体(ASMA)は1型のAIHに特異的な抗体ですが、感度はそこまで高くありません。以外にも、原発性胆汁性胆管炎の特異的抗体とされる抗ミトコンドリア抗体が、1型AIHの8-12%で陽性になるようです。また、先述した抗肝腎ミクロゾーム1抗体(抗LKM-1抗体)は2型AIHの特異的抗体です。

他にも抗アクチン抗体(AAA)、他にも抗可溶性肝臓抗原/肝臓膵臓抗体(抗SLA/LP抗体)や抗好中球細胞質抗体(p-ANCA)が陽性となることがあるようですが、一般診療で測定されることはほとんどありません。

 

ガイドラインによれば、自己免疫性肝炎を疑った場合、IgG、抗核抗体、抗平滑筋抗体を測定し、両者とも陰性の場合に抗LKM-1抗体の測定を検討します。ただし、抗平滑筋抗体は保険収載されておらず、費用が医療機関からの持ち出しになってしまうため注意が必要です。少なくとも一般内科外来では提出しても抗核抗体まで、ということになると思います。ちなみに、抗LKM-1抗体は抗核抗体陰性のAIH疑いであれば保険が通ります。

肝生検

診断のため、可能であれば肝生検を行うことが望ましいです。

AIHの病理学的な特徴として、

・門脈域の形質細胞が目立つ炎症性細胞浸潤

・Interface hepatits

・肝実質の壊死炎症性変化

・肝細胞ロゼット形成

があります

その他の検査

肝逸脱酵素以外に血小板数やアルブミン、PTなどを測定し、肝予備能の評価を行います。

また、腹部エコーで肝硬変の有無や肝細胞癌を疑う腫瘤影がないか、解剖学的な評価を行っておくことも必要です。

 

AIHの診断は、まず最初に肝炎ウィルスや薬剤性肝障害、NAFLDを除外した上で、抗核抗体などの血液検査を考慮に入れた上で総合的になされます。AIHは頻度の高い疾患ではないため、コモンな疾患を丁寧に否定する必要があるのです

 

問診で飲酒歴、手術歴、輸血歴、薬物・サプリメント・漢方の使用、貝類などの生食、性交渉を確認しましょう。血液検査ではHBs抗原、HCV抗体でウィルス性肝炎のスクリーニングを行い、腹部エコーで脂肪肝の有無も確認します。

 

他疾患の除外が完了し、いよいよAIHが疑わしい場合、専門医への紹介を検討します。一般内科外来でもIgG、抗核抗体、抗ミトコンドリア抗体の提出くらいまでは行ってもいいかもしれませんが、AIHは稀な疾患かつ特異性の高い血液診断マーカーがなく、診断が容易ではないため、早期の紹介が無難です。診断ツールにはいくるか種類があり、本邦の診断指針と国際診断基準を掲載しておきます。

 

 

 

治療はコルチコステロイドの投与が基本となります。PSL 20-40mg/日あるいは0.6mg/kg/日程度で開始します。徐々に減量し、最終的には5-10mg/日を維持量とします。コルチコステロイドの中止も検討はしますが、中止による再燃率が非常に高いため、基本的には終生治療を継続することになってしまいます。コルチコステロイドでの管理が困難である場合、AIHではアザチオプリンが使用されますが、保険適応外です。

また、昨今のsteroid sparing therapyを基本とする風潮もあってか、UpToDateでは維持治療はコルチコステロイドではなくアザチオプリンで行うことが推奨されています。一方、本邦ガイドラインでは、アザチオプリンはあくまでコルチコステロイドでの管理が困難である場合の代替療法と位置づけられており、海外との温度差を感じます。

肝逸脱酵素の上昇が極めてわずかであったり、肝生検で肝炎所見に乏しい場合は、コルチコステロイドを開始せず経過をみることもあります。

 

以上、AIHについてまとめてきました。

国家試験でAIH=抗平滑筋抗体と暗記していましたが、他にも色々自己抗体が陽性となってくるというのが意外でした。それにしても有名な抗平滑筋抗体が保険収載されていないというのは…。国家試験の知識を基に提出してしまい、上級医や事務方から注意されてしまった経験のある若手医師が一定数いることが予想されます。こりゃ孔明の罠だ…。

横山光輝三国志より

 

また、慢性肝障害を見た際、ウィルス性肝炎や脂肪肝、アルコール性肝障害の精査と並行し、AIHのスクリーニング検査として抗核抗体を提出すべきなのか?という点は悩ましい所です。病院によっては肝炎のスクリーニングセットにIgGや抗核抗体、抗ミトコンドリア抗体が入っている所もあるかもしれませんが、AIHはかなり稀な疾患であるため、最初から検査を提出しなくてもよい気もします。皆さんの施設ではどのように対応しているでしょうか?

さて、最後に重要事項をまとめて筆を置きたいと思います。

・AIHは中高年以降の女性に好発する、自己免疫機序による肝炎である

・頻度は低く、かなり稀な疾患である

・慢性経過が90%だが、急性肝炎の経過を辿るものもある

・日本では抗核抗体、抗平滑筋抗体が陽性となる1型AIHがほとんどである

・基本的には他疾患を否定した上での除外診断となる

・治療はコルチコステロイドが基本となり、必要に応じてアザチオプリンを使用する

・自己免疫性肝炎(AIH)診療ガイドライン 2021年 厚生省難治性の肝疾患調査研究班http://www.hepatobiliary.jp/uploads/files/AIH%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B32021%E7%89%88%20%E6%9C%80%E7%B5%82%E7%89%882022.3.23.pdf

・UpToDate

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