注目キーワード
  1. 高血圧
  2. 骨粗鬆症
  3. 糖尿病

胃食道逆流症(GERD)

  • 2023年1月1日
  • 2023年1月26日
  • 消化器
  • 59view
  • 1件

病態とメカニズム

・胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)は「胃内容物の逆流によって引き起こされる症状や合併症を引き起こした状態」と定義されます。

・日本人の有病率は10%程度です。

・症状は胸やけや呑酸といった食道症候群、慢性咳嗽、嗄声、咽頭痛、喘息といった食道外症候群の二つに分類されます。

・内視鏡的に食道粘膜障害を有する「びらん性GERD」と、症状のみを認める「非びらん性GERD(NERD)」に分類され、胸やけを有する患者に対して内視鏡検査を行っても、食道粘膜障害を有する頻度は3-4割程度とされています。

・GERDは良性疾患ですが、QOLを著しく低下させることが大きな問題となります。

・過剰な食道内胃酸暴露に関連する因子として、①酸逆流、➁酸逆流後の酸クリアランス、③食道裂孔ヘルニアが重要です。

〇酸逆流

・LESは食道下端に存在する約3cmの括約筋であり、その重要な役割は収縮と弛緩で嚥下後に食道内の固形物、液体を胃への排出のために弛緩(5-8秒)することをいいます。

・酸逆流のメカニズムとして、1)一過性LES(lower esophageal sphincer)弛緩、2)腹圧上昇、3)低LES圧の3つの機序を覚えておきましょう。

①一過性LES弛緩(transient LES relaxationTLESR)

・TLESRとは、嚥下とは関係なくLESが弛緩(15-20秒)する現象であり、日中および夜間共に主なGER、胃内の空気の逆流のメカニズムです。

・TLESRの頻度は健常者とGERD罹患者の間で優位差はないといわれていますが、酸逆流の割合がGERD罹患者では増えていることがわかっています。

➁腹圧上昇

・激しい肉体運動や肥満など、腹圧が上昇するとLESの弛緩に合わせてGERが誘発されます。

③低LES

・激しい運動や、脂肪摂取によるコレシストキニン分泌増加によりLES弛緩が起こりLES圧が低下します。

〇酸クリアランス

・GERにより食道内に逆流した胃酸を食道内から胃内に排出することをクリアランスと呼びますが、これも食道の酸暴露時間に影響を与えます。

・GERD患者では食道の蠕動波の収縮圧が低下しており、酸クリアランスが低下しているようです。

〇食道裂孔ヘルニア

・食道裂孔ヘルニア患者では有意に総逆流回数、総逆流時間が多い上、酸クリアランス低下も認め、GERDのリスク因子がそろっていると言えます。

REとNERD

〇びらん性GERD(RE)

・その名の通り、食道にびらんを伴うGERDです。下記のようにロサンゼルス分類で分類されます。

・ただし、わが国ではロサンゼルス分類GradeCおよびDの40%のみが症状を有し、胸やけ患者の24%のみが食道粘膜障害を有していたことから、内視鏡による重症度分類は必ずしも症状の強さと一致していないとされます。

・逆に、症状から内視鏡の重症度を予測することも困難です。

〇非びらん性GERD(NERD)

・日本のGERD患者のうち6-7割を占めています。

・NERDはGEと病態が異なっているとされます(食道知覚過敏、非酸の胃内容物暴露、機能性胸やけなど)。「NERDはREの軽症ではない」ということを理解しておく必要があります。

・PPIが奏功しない症例も多いとされます。

治療

〇びらん性GERDRE

・P-CABの方がPPIよりも効果が高いといわれていますが、長期使用での安全性が不透明であるため、基本的にはPPIを使用します。

・症状が生じたときのみに内服するオンデマンド療法の場合は、即効性のあるP-CABの方が優れている可能性があるとされます。

・重症REではPPIよりもP-CABの方がよい可能性があります。

〇非びらん性GERDNERD

・REと同様に標準量のPPIを第一選択として使用します。

・REと比較するとPPIの奏効率は半分以下とされており、高用量PPIやP-CABに変更しても症状は消失しない可能性が高いとされています。これは、前述の通りNERDでは胃酸逆流以外の病態が関与していることが多いからです。後述のGERDを誘発する疾患がないか検索したり、食道運動機能改善薬のモサプリド六君子湯の併用を検討します。

GERDを誘発する可能性のある疾患、薬剤

〇骨粗鬆症

・椎体圧迫骨折により亀背が誘発され、腹圧上昇を伴う食道裂孔ヘルニアを惹起しGERDの原因となります。

〇糖尿病

・自律神経障害により食道機能が低下、または知覚神経障害により逆流症状を自覚しにくくなり、GERDを発症しやすくなるとされます。

・胃酸を中和する唾液の分泌が低下し、胃酸クリアランス低下の原因の一つとなります。

〇膠原病

・強皮症やRA、SLEで一次性の食道運動障害を認める場合があります。

〇シェーグレン症候群

・唾液分泌が低下することで胃酸クリアランスと胃酸中和能が低下しGERDの原因となります。

〇薬剤

LES圧の低下を促すもの:CCB、テオフィリン、抗コリン薬、β刺激薬、α遮断薬、硝酸薬

直接粘膜を障害するもの:NSAIDs、抗菌薬、BP製剤、カリウム製剤、ダビガトラン

参考

・消化器疾患のゲシュタルト 中野弘康 金芳堂

・GERDガイドライン

・JAMA. 2020 Dec 22;324(24):2536-2547.