今回紹介するのは『レジデントのための神経診療 医学書院』です。
本書の著者である杉田陽一郎先生は、医学教育と勉強のためのブログ「医學事始」を運営されており、現在東京ベイ・浦安市川医療センター神経内科に勤務しておられます。ブログの内容を基にした前著『研修医のための内科診療ことはじめ 羊土社』を知っておられる方も多いのではないでしょうか?
また、監修には国保旭中央病院の臨床教育センター長である塩尻俊明先生が担当しておられます。
管理人も初期研修医の頃に杉田先生の元でご指導頂いた経験があります。神経内科のみならず内科一般に精通しておられ、若手にも関わらず総合内科の一戦力として活躍しておられました。後輩への指導も定評があり、特にとっつきにくいイメージのある神経診察を大変わかりやすく教えて頂いたのを覚えています。 本ブログでも度々ブログ『医學事始』の記事は参考・引用させて頂いており、日々勉強させて頂いております。
本日は杉田先生の新著を読了しましたので、僭越ながらレビューをしていきます。
どのような本か?
本書はタイトル通り、脳神経内科・神経診療についての内容になります。
①神経診療の基本、➁運動・感覚障害と病巣同定、③代表的な症候・疾患の3つの章で構成されており、最初に病歴の取り方を中心とした診察の基本を述べ、その後に病巣を同定するための方法論について触れ、最後に一般内科医が知っておくべき症候・神経疾患について網羅的にまとめられています。
私は通読するのに大体5時間程かかりました。読みやすい書き口で記述されており、そんなに苦痛には感じませんでした。
読んでみた感想
まず、結論としては本書は大変勉強になりました。個人的にはここ最近で一押しの医学書です。
神経領域は難しくとっつきにくいイメージがあり、苦手意識を持っている研修医や他科の医師が多いと思われます(私もその一人です…)。世の中には神経診療についての本が多数ありますが、専門医レベルを対象としたものがほとんどで、なかなか初学者に手厳しい領域だなぁと常々感じておりました。そんな中、本書は初心者向けに神経診療を領域横断的にまとめ、非専門医はどこまでカバーしておくべきなのか?という点を明確に線引きしている点が特徴的と言えます。一部レアな疾患も出てきますが、あくまで一般内科医として知っておくべき範疇に留められています。また、治療法も専門医レベルのものは割愛されており、非専門医としてどのように神経内科医にバトンを繋げばよいのか?という点が常に軸に据えられており、全くムダがありません。
一般的に神経診察を上達させるには兎にも角にも経験を積むしかないと言われますが、そうはいっても非専門医ではそこまでの症例数を積むことは現実的には難しく、結局神経内科の先生に丸投げ…としてしまう傾向があります。本書は神経診療のイロハを、あたかもベッドサイドで著者から直接レクチャーを受けているように、大変わかりやすく言語化しています。神経内科専門医と非専門医の経験によるギャップを埋めてくれる、そんな一冊といえるでしょう。
また、第1章では病歴の重要性について多くの紙面が割かれています。意外とここまで病歴聴取について言及している書籍は少ないのではないでしょうか?私も病歴は重要視している方であると自負していましたが、「あー、普段の外来でここまで聴いていなかったな…」と感じる部分が多々あり、自分の診療を見つめ直すよいきっかけとなりました。病歴は神経診療に限らず、患者さんを診察する上で非常に重要なスキルであり、応用できれば診療の幅が大変広がります。そのため、この病歴聴取の項目は是非熟読して頂きたいです。
加えて、本書には杉田先生自作の温かみのあるシェーマが所々に散りばめられています。このシェーマは理解の一助となるだけでなく、定期的にほっこりした気分にさせてくれて大変癒されます。このような点も本書の魅力の一つです。
どんな人にオススメするか?
本書のコンセプト通り、神経診療に苦手意識のある初期研修医や若手の非専門医にオススメです。まずは頑張って通読して内容を把握した上で、実臨床で神経診療をすることがあればその度に本書を見返して復習する、という使い方がよいと考えます。
実践的な内容であるため、医学生には少し難しい内容です。実習で神経診療を行う機会が多い人や、臨床推論に興味のある人は手に取ってみてもいいかもしれません。
神経内科専門医から見ての評価は私にはできませんが、どのようなものか個人的には気になる所です。繰り返しになりますが杉田先生は言語化して伝える技術が非常に上手いため、専門医の先生にとっても本書が学生や研修医教育の面で参考になるのではないでしょうか。
以上、『レジデントのための神経診療 医学書院』についてつらつらと書いてきました。
5段階評価で
オススメ度:★★★★★
ということで、一押しの一冊です!是非読んでみてください!