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喫煙+呼吸機能正常者に対する気管支拡張薬の効果は?

  • 2022年10月4日
  • 2023年1月26日
  • 呼吸器
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9/29、我らがNEJMに興味深い論文が掲載されていました。タイトルは”Bronchodilators in Tobacco-Exposed Persons with Symptoms and Preserved Lung Function(呼吸機能が保たれた有症状の喫煙者に対する気管支拡張薬)“です。

背景

慢性閉塞性肺疾患(COPD)は喫煙や粉じんなどに暴露することで発症する呼吸器疾患であり、気管支拡張薬使用後のFEV1%が70%未満が診断基準となっています。治療薬としては気管支拡張症が中心であり、LAMAやLABA、ないしはLABA/LAMAの合剤が使用されます。最近はICSを加えたトリプル製剤がトピックですね。

さて、前述の通りCOPDの診断にはFEV1%の低下が必須であるわけですが、喫煙者の中で呼吸機能が正常であっても、呼吸困難、湿性咳嗽といった症状がある方が一定数存在することがわかっています。実臨床でも、喫煙歴+湿性咳嗽があってCTを撮影してみると気腫性変化が顕著ですが、呼吸機能検査を行ってみると正常範囲内、といった症例はよく経験します。こういった方に禁煙以外の治療をどうしたらよいのか、悩むことが多いです。LAMAやLABAといった気管支拡張薬は単に気管支を広げるだけでなく、気道分泌物を減少させるなど、複数の観点からCOPD患者の症状改善に寄与します。このため、呼吸機能が正常であったとしても、有症状の喫煙者にはお試しで気管支拡張薬を処方することもしておりました。今回の論文はそういったpracticeに対し一石を投じるものになります。

対象患者群

本研究に登録された患者の条件は以下の通りです。

・現在または以前に10pack year以上の喫煙歴あり

・CATスコア10以上の呼吸器症状

・FEV1%>70%以上

・40-80歳

すでに喘息の診断がついている人や、元々LAMA、LABA、ICS、SABA、SAMAなどを吸入している人は除外されました。

メソッド

本試験は多施設の二重盲検ランダム化試験です。535人を介入群とコントロール群をランダムに1:1に割付ました。

介入群:インダカテロール(27.5μg)+グリコピロニウム(15.6μg)1日2回吸入を12週間

コントロール群:プラセボ1日2回吸入を12週間

ちなみに、このインダカテロールとグリコピロニウムは本邦ではウルティブロ®として使用されているドライパウダー製剤です。ただし、用量はインダカテロールが110μg、グリコピロニウムが50μgですから、本邦での使用量よりもかなり少なめです。米国ではこの少ない量で使用されているようですね。

12週間後に治療失敗(長期間作用型の気管支拡張薬、グルココルチコイド、抗菌薬投与が必要な下気道症状の増加)がなく、the St.Gerorge‘s Respiratory Questionnaire(SGRQ)がベースラインよりも4点以上の低下したかがprimary outcomeとして設定されました。

結果

ITT(intention-to-treat)を行った結果、計471人となり、介入群では227人中128人(56.4%)が、コントロール群では244人中144人(59.0%)がSGRQスコアが4点以上低下しましたが、両群間で差はありませんでした(P=0.65)。重篤な有害事象は介入群が4件、プラセボ群が11件であり、介入またはプラセボが原因とみなされたものはありませんでした。

介入群の気管支拡張薬の用量が少ないことが気にかかりますが、この結果は結構インパクトが大きいと思います。呼吸機能検査が正常であっても、喫煙歴+呼吸困難の症状があれば気管支拡張薬を処方する先生は結構多いのではないでしょうか。このpracticeは今後改める必要があるといえますね。

また、primary careの場面では必ずしも呼吸機能検査ができる環境ではないですから、病歴と身体所見、あるとしてもレントゲンまででCOPDを疑って気管支拡張薬を開始することもあるでしょう。この場合、FEV1%が正常である患者にも治療介入してしまっている可能性があるわけですから、やはり可能な限り呼吸機能検査を行った上での介入を検討するのがベストということになります。

個人的に、今回の試験では画像上の変化が考慮されていない点が気にかかりました。CT上はとんでもない気腫性変化があっても不思議と呼吸機能は正常な人はいますし、見かけ上FEV1%と%VCが正常となるCPFEの患者さんもいます。私は症状があれば、そのような患者さん達にも気管支拡張薬を処方してしまっています。この辺の集団に限って試験を行うとどのような結果になるのでしょうか。もし関連する論文がありましたら是非ご教示いただきたいです。

さて、最後に本研究をPICOでまとめて終わりにしたいと思います。

P:呼吸機能が正常で10pack-year以上の喫煙歴があり、呼吸器症状がある患者群

I:インダカテロール(27.5μg)+グリコピロニウム(15.6μg)1日2回吸入を12週間

C:プラセボ1日2回吸入を12週間

O:呼吸器症状の改善について有意な差はなかった

初めて論文を読んで記事を書いてみました。正直なところ論文を読み込むことには自信がなく、まだまだ改善の余地があると思っております。もし気になる点がございましたらコメントいただけますと幸いです。

参考

N Engl J Med 2022; 387:1173-1184