カルシウムチャネルの生理
カルシウムチャネルにはL型、T型、N型の3種類があり、それぞれ局在や作用が異なります。
L型カルシウムチャネルは心筋、血管平滑筋に分布しており、臨床で使用されるカルシウム拮抗薬の主な標的です。血管平滑筋の弛緩により末梢血管抵抗を減じ、降圧作用を発揮する他、心臓の収縮力を低下させたり、脈拍を増加させる作用があります。
T型カルシウムチャネルは血管平滑筋に存在し、その作用は持続的血管収縮です。他にも心臓、腎臓、副腎、膵臓などに存在し、心拍数増加、糸球体輸出細動脈収縮、副腎からのアルドステロン分泌に関与しています。そのため、このT型カルシウムチャネルを抑制することで心拍数の低下やアルドステロン分泌低下作用を認めます。また、糸球体内圧低下作用もきたし、尿蛋白減少効果も認めるとされます。
N型カルシウムチャネルは交感神経終末に存在し、ノルアドレナリン遊離を促進することで交感神経を活性化します。このチャネルを抑制することで交感神経抑制に伴う心拍数低下と血圧低下を生じます。また、糸球体内圧低下作用もあり、尿蛋白減少効果も認められています。
以下、各チャネルの局在と拮抗による効果を表にまとめます。
カルシウム拮抗薬にはジヒドロピリジン(DHP)系、フェニルアルキルアミン(PAA)系、ベンゾチアゼピン(BTZ)系の3種類がありますが、それぞれL型カルシウムチャネルへの結合部位、臓器選択性が異なっており、これが臨床的効果の違いに繋がります。また、ジヒドロピリジン系は主にL型に作用をするわけですが、薬剤によってはT型やN型にも作用し、尿蛋白減少などの付加効果が期待されるといいます。
また、ジヒドロピリジン系は多数の薬剤がありますが、PAA系=ベラパミル、BTZ系=ジルチアゼムと記憶して問題ありません。
ここからは、各種系統の薬剤について、作用と使い方をまとめていきます。
ジヒドロピリジン(DHP)系
総論
ジヒドロピリジン系は臨床的に最も使用されることの多いカルシウム拮抗薬であり、主に高血圧症に他対する降圧薬として使用されます。また、冠攣縮性狭心症に対しても使用されます。
たくさんの種類がありますが、アムロジピン(アムロジン®、ノルバスク®)、ニフェジピン(アダラート®)、ベニジピン(コニール®)、アゼルニジピン(カルブロック®)、シルニジピン(アテレック®)などが比較的使用頻度が高いと思われます。また、脳出血の緊急降圧に使用される静注製剤のニカルジピンも有名です。
特に血管のL型カルシウムチャネルへの選択性が高く、血管弛緩による強い降圧作用を示します。電解質異常や糖・脂質異常に対する悪影響はなく、適応禁忌も少ないため、本邦では降圧薬の中でも最も使用頻度が高い薬剤となっています。
浮腫、顔面紅潮、頭痛、めまい、歯肉増殖といった、血管拡張、降圧に伴う副作用が見られます。ジヒドロピリジン系による浮腫は実臨床ではよく遭遇するため注意が必要です。浮腫を主訴に受診した患者さんで心不全やDVTが否定的な場合、ジヒドロピリジン系を内服していないか確認するとよいでしょう。
ジヒドロピリジン系の使い分け
さて、ジヒドロピリジン系ですが、下記のように種類によってT型、N型のカルシウムチャネルへの作用があるとされています。
このことにより、ベニジピンやアゼルニジピンでは降圧作用に加えて脈拍数の低下や尿蛋白減少といった付加効果があり、心血管イベント抑制やCKD進行抑制が期待されています。ただし、そのエビデンスは限定的です。
例えば、シルニジピンについては、CARTER試験1)においてRA系阻害薬に追加投与した際に尿蛋白の減少作用がアムロジピンと比較して優れている可能性が示されていますが、SAKURA試験2)では糖尿病患者における尿蛋白減少作用は有意ではなく、長期的な腎予後については不明です。その他のカルシウム拮抗薬についても、大規模臨床試験による付加効果に関するエビデンスはほとんどありません。
また、薬剤間での降圧作用の強弱についても明確なエビデンスはありません。
このことを踏まえてか、ジヒドロピリジン系の中での使い分けについて、本邦の高血圧診療ガイドラインやUpToDateでは特段の言及はありません。
尿蛋白を伴うCKDの患者さんではあえてシルニジピンを使ってみてもよいかもしれませんが、基本的には使用経験が多くエビデンスも豊富なアムロジピン、ニフェジピンのいずれかを使用する、ということでよいと思います。
アムロジピンとニフェジピン
アムロジピンは最も頻用されるカルシウム拮抗薬であり、36時間という長い半減期が特徴です。2.5mg-10mgの用量で使用されます。
ニフェジピンは作用時間によりニフェジピン、ニフェジピンL、ニフェジピンCRの3種類がありますが、24時間持続型のニフェジピンCRのみ覚えておけばよいと思います。ニフェジピンCRは20mgから開始し、最大で80mg/日(40mgを1日2回)まで増量することができます。
前述の通り、降圧作用の強弱については明確なエビデンスはありません。そのため、完全に個人的な見解ですが、実臨床では
・アムロジピンは作用時間は長いが降圧作用はマイルド
・ニフェジピンは作用時間が短いぶん降圧作用は強い
という印象があります。
よって、私は高齢で過降圧を避けたい人にはアムロジピンを、若年かつ血圧をしっかり下げたい方にはニフェジピンを選択するようにしています。
冠攣縮性狭心症について
冠攣縮性狭心症の治療薬としてもジヒドロピリジン系は使用されます。ジヒドロピリジン系の中でも、添付文書の上で異型狭心症(冠攣縮性狭心症)が適応となっているのはニフェジピンのみです(その他の薬剤は“狭心症”が適応となっています)。
本邦のガイドラインではジヒドロピリジン系の中でもどの薬剤がよいのか、という点については言及がありません。UpToDateでは、アムロジピンまたはベンゾチアゼピン系のカルシウム拮抗薬であるジルチアゼムが推奨されていました。理由としては長時間作用型のニフェジピンは重度の低血圧や反射性頻脈をきたす可能性があるとのことであり、高血圧の治療とは逆に、冠攣縮性狭心症の場合はニフェジピンの降圧作用の強さがネックとなってしまうようです。
私は冠攣縮性狭心症の使用経験が少ないため強い推奨はできませんが、上記を踏まえ、通常はアムロジピンを使用し、血圧も高い人ではニフェジピンCRを使用する、というのがよいのかもしれません。また、これも経験的な話になってしまいますが、冠攣縮性狭心症では降圧作用が低めとされるベニジピン(コニール®)が使用されていることも散見されます。
ベラパミル(ワソラン®)
フェニルアルキルアミン系のカルシウム拮抗薬にはベラパミル(ワソラン®)が該当します。
ベラパミルは心筋選択性が高く、心収縮抑制作用、自動能抑制作用、房室伝導抑制作用を持ち、主に心房細動のrate controlやPSVTの治療として使用されます。
心収縮能抑制作用、すなわち陰性変力作用があるため、心収縮力が低下している症例では禁忌です。特に頻脈性心房細動に対し、急性期のrate controlとして静注ないしは点滴静注が行われることがありますが、この際は必ずエコーで心収縮能が保たれていることを確認するべきです。血圧も下がりやすいため、注意深くバイタルをモニタリングしながら投与を行います。
処方例
内服:ベラパミル 40-80mgを、1日3回、最大投与量は240mg/日まで
点滴静注:ベラパミル5mg/2ml+生食50mlを30分かけて投与
ジルチアゼム(ヘルベッサー®)
ベンゾチアゼピン系のカルシウム拮抗薬にはジルチアゼム(ヘルベッサー®)が該当します。
ジルチアゼムは、血管に働いて降圧作用の強いジヒドロピリジン系と、心筋に働いて脈拍数を低下させるベラパミルのちょうど中間の作用を有しています。内服では冠攣縮性狭心症に、静注では心房細動のrate controlとして使用されます。
冠攣縮性狭心症においては、ジヒドロピリジン系と比較すると降圧作用が弱いことから、平時の血圧が低い人でも使いやすいといえます。
心房細動の場合、ベラパミルと比較し陰性変力作用が弱く、持続静注による緩徐な投与が可能である点から、ベースの心機能が悪いにも使用が検討できます。ただし、陰性変力作用は0ではありませんから、心収縮能が低下しているのであれば基本的には禁忌です。現在は陰性変力作用がより少ないランジオロール(オノアクト®)があるため、使用できるのであればこちらを選択しますが、非循環器内科にはハードルが高い薬剤です(血行動態モニタリング、薬価、採用状況など)。困った場合は無理に自分で何とかしようとせず、循環器内科の先生にコンサルトするのがよいですが、それも難しい場合、急場はジゴキシンでしのぐ、というのも選択肢になります。
処方例
内服:ジルチアゼム塩酸塩R100mg 1CP 夕食後
持続静注:ジルチアゼム150mg/3V+NS 50mlを1ml/hから開始(体重50kg換算で1γ)、1-5ml/h(1-5γ)で調整
まとめ
最後に本記事の要点をまとめます。
・降圧薬としてはジヒドロピリジン系のアムロジピンとニフェジピンを覚えておく
・冠攣縮性狭心症の治療としてはアムロジン、ニフェジピン、ベニジピン、ジルチアゼムなどが使用される
・心房細動のrate controlとしてベラパミル、ジルチアゼムを使用することがあるが、心収縮能が低下している場合は禁忌である
参考
1)Kidney Int. 2007 Dec;72(12):1543-9. CARTER試験
2)Int J Med Sci. 2013 Jul 30;10(9):1209-16. SAKURA試験
・日大医誌 「循環器系薬剤のトレンド2」 カルシウム拮抗薬 J. Nihon Univ. Med. Ass., 2014; 73 (1): 12–13
・UpToDate
・高血圧診療ガイドライン2019 日本高血圧学会
・今日の臨床サポート