検査の原理
血液に抗凝固剤を加えて凝固しないように放置すると、やがて赤血球が試験管底に沈み、血漿の一部が上方に分離されてきます。この現象を赤血球沈降現象または赤沈(erythrocyte sedimentation)と呼び、一定の条件下で赤沈の起こり方を見たのが赤血球沈降速度または赤沈値(erythrocyte sedimentation rate:ESR)です。
現在本邦で行われているのはWestergren法というもので、これは3.28%クエン酸ナトリウム液と血液を1:4の割合に混合し、内径2.55±0.15mm、全長300±1.5mmのWestergren管に吸い上げ、これを正確に垂直に立てて18-25℃に静置し、1時間後に赤沈値を記録するという手法です。
正常の血液では赤血球同士が陰イオンとして互いに反発しあい、凝集塊を作ることがほとんどありません。ここに正の電荷を持つフィブリノゲンや免疫グロブリンが増加すると赤血球同士の電気的反発力が相殺され、赤血球の連銭形成・沈降が亢進します。このため、一般には炎症が起こってフィブリノゲンなどの急性反応蛋白や免疫グロブリンが増加した際に赤沈値の亢進が見られます。
正常値
赤沈値は生理的に男女間で差があり、また年齢でも違いがでます。
1時間での赤沈値が、それぞれ以下の数値以上を示すときに赤沈値の亢進と判断します。
成人男性:>15mm
成人女性:>20mm
高齢男性:>20mm
高齢女性:>30mm
また、新生児期は赤血球数が多いため、1時間値が0-2mmときわめて小さいことも覚えておきましょう。
亢進する要因
赤沈値の亢進を示す病態は表のとおりです。
炎症の存在下で赤沈値は亢進するイメージがありますが、赤血球数の低下、単クローン性の免疫グロブリン増加、アルブミンの減少など、炎症を伴わない場面でも亢進しうることを押さえておきましょう。
遅延する要因
赤沈値が遅延する原因は表の通りです。
成人において1時間値が2mm以下を示した場合に遅延ありととらえます。ただし、前述の通り赤沈値は亢進する要因の方が多いため、赤沈値遅延に遭遇する場面は極めて限られています。
赤沈の使い方
赤沈値は多種多様な要因で亢進するため、病歴や身体診察、その他の検査所見を鑑みて総合的に判断する必要があり、解釈が非常に難しいです。また、採取する血液量が多い上、検査の手間がかかるため、必要性をしっかり考えて検査を行う必要があります。
よく言われるのが、「赤沈値>100mm/hをきたす疾患は限られる」ということです。
総合診療で有名な山中克郎先生は、赤沈値>100mm/hとなる疾患として、
・結核
・悪性腫瘍
・感染性心内膜炎
・骨髄炎
・亜急性甲状腺炎
・PMR/巨細胞性動脈炎
・多発性骨髄腫
を鑑別に挙げておられました。
ただ、実臨床では他の疾患でも赤沈値>100mm/hとなる場合はあるため、これだけで鑑別を絞るのは難しいと思います。
急性期反応蛋白であるCRPと合わせて評価することは一つの手段です。赤沈値が亢進しているのにCRPが陰性となる場合、①貧血、②ネフローゼ症候群、③妊娠、④多発性骨髄腫による高γグロブリン血症など、炎症以外の病態が考えられ、診断のヒントとなるかもしれません。
また、骨髄炎では赤沈値をモニターすることで抗菌薬治療の反応性、再燃を評価することができ、定期的な測定が有用とされています。
以上をまとめますと、赤沈値の使いどころとしては、
①不明熱/不明炎症において、赤沈値の極端な上昇(>100mm/h)を認めた場合に診断の一助となる可能性がある
②CRPと合わせて評価することで病態を絞ることができる
②骨髄炎の治療反応性、再燃の判断に使用できる
の3点になってくるかと考えます。
参考
・異常値の出るメカニズム 第6版 医学書院
・In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2022 Jan.
2022 May 8.
・JAMA. 2019;321(14):1404-1405.