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肝性脳症

病態

通常、アンモニアは腸管から吸収された後、門脈循環に入り、肝臓で尿素サイクルを通じてほぼ完全に分解されます。肝不全やシャントがある場合には処理しきれず、アンモニアが体循環に直接入ってしまいます

アンモニアは血液脳関門を通過し、

・興奮性神経伝達を阻害し、直接神経毒性を発揮する

・浸透有効性物質として機能し、脳浮腫を引き起こす

上記の2つのメカニズムで中枢神経障害が起こる病態を肝性脳症と呼称します。

分類

基礎疾患による分類

下記のように、基礎疾患に基づく分類が提唱されています。

A:急性肝不全で発症する肝性脳症

B:肝疾患を伴わず、シャントにより発症する肝性脳症

C:肝硬変(慢性肝疾患)で発症する肝性脳症

症状による重症度分類

軽症:臨床症状はないが、神経心理検査では異常を示す

GradeⅠ:行動の変化、軽度の錯乱、構音障害、睡眠障害

GradeⅡ:無気力、中等度の錯乱(見当識障害)

GradeⅢ:混迷、支離滅裂な会話

GradeⅣ:昏睡、疼痛刺激に反応なし

症状

日中の睡眠パターンの障害(不眠症および過眠症)は肝性脳症の初期症状であり、通常他の精神症状、神経筋症状に先行します。肝性脳症が進行するにつれて、気分変調(多幸感または抑うつ)、見当識障害、錯乱、傾眠といった症状を呈します。

神経筋症状としては、運動緩慢、asterixis(いわゆる羽ばたき振戦)、構音障害、運動失調、眼振などが挙げられます。片麻痺など神経巣症状を呈することもあり、しばしば脳梗塞との鑑別が難しい場合があります

また、基礎的な肝疾患に伴い、サルコペニア、黄疸、腹水、手掌紅斑、クモ状血管腫といった身体所見を認めることがあります。

診断

肝性脳症は下記の通り、臨床的に診断を行います。

・肝性脳症の特徴である認知障害及び神経筋症状を検出するための病歴および身体診察

・代謝性脳症や頭蓋内病変など、他の疾患の除外

・肝硬変など、基礎疾患の検索

とはいえ、初診の患者さんの意識障害や神経巣症状から診断することはしばしば困難となり得ます。

アンモニアは肝性脳症を引き起こす物質ではありますが、血清アンモニアの上昇は診断に必須ではありません。理由として、止血帯の使用やサンプルの管理で容易に測定値が変わってしまうこと、また静脈血のアンモニアは数値が安定しないことなどが挙げられます。

また、肝性脳症には以下の誘因が存在することが多いです。

・消化管出血

・感染症

・低K血症、代謝性アルカローシス

・腎不全

・貧血

・低酸素

・鎮静薬または抗不安薬

・低血糖

・便秘

・肝細胞癌

肝性脳症の治療の上でも重要となるため、誘因の検索は必ず行うようにしましょう

治療

前述の通り、まずは誘因の除去を行うことが重要です。その上で、下記の薬物治療を検討します。

下剤

本邦ではラクツロース(モニラック®)が使用されることが多いです。

ラクツロースは肝性脳症の治療で最もエビデンスのある薬剤です。肝性脳症の患者のうち、70-80%がラクツロースにより改善するとされています。ラクツロースは合成二糖類であり、

・便秘の改善

・腸内細菌叢への作用

・腸内酸性化によるアンモニアの吸収阻害

といった作用で血中アンモニアを低下させます。

抗菌薬

リファキシミン(リフキシマ®)は難吸収性の抗菌薬です。ラクツロースで改善しない肝性脳症に追加して使用されます。リファキシミンは肝性脳症の改善に寄与するだけでなく、死亡率を低下させることも示されています。

BCAA製剤

本邦では頻用される薬剤で、経口薬としてリーバクト®、点滴薬としてモリヘパミン®やアミノレバン®があります。

肝不全の結果として芳香族アミノ酸(AAA)/分枝鎖アミノ酸(BCAA)が増加すると、神経興奮作用を呈するとされています。また、BCAAは筋肉でアンモニアからグルタミンを産生する経路でBCAAを消費し、アンモニアの分解を促進する効果があります。

ただし、メタアナリシスでも死亡率の低下を示すことができておらず、海外ではほとんど使用されていないようです。

参考

・up to date

・N Engl J Med 2016;375:1660