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【研修医必見!】初めての骨粗鬆症診療

 

定義と病態生理

 骨粗鬆症とは、“骨強度”の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大する疾患と定義されます。“骨強度”は“骨密度”“骨質”の2つの要素からなり、その比率は7:3とされてます。“骨質”は微細構造、骨代謝回転、微小骨折、骨組織の石灰化度など、複数の因子で規定されていますが、検査による数値化が難しく、他覚的な評価が困難です。一方、骨密度は数値化が可能です。このため、骨粗鬆症の評価は主に“骨密度”の数値を使って行われることになります。

 

 骨代謝には骨芽細胞による骨形成と、破骨細胞による骨吸収があり、双方がバランスをとることで成立しています。下図のように、PTH、カルシトニン、スクレロスチン、エストロゲンといったホルモンや、RANK-RANKLのような受容体-リガンドなど、複数の分子が複雑に関係していることがわかっています。この平衡関係が崩れ、骨吸収>骨形成となった状態が骨粗鬆症です。

 

 女性は閉経後にエストロゲンが低下するため、男性に比較し骨粗鬆症になりやすいです。本邦での有病率は腰椎で男性3.4%、女性19.2%、大腿骨で男性12.4%、女性19.2%とされています1)

治療目標 骨粗鬆症を診断、治療する意義とは?

 骨粗鬆症が進行することで骨折リスクが増大するわけですが、臨床上特に問題となるのが椎体骨折大腿骨近位部骨折です。

 椎体骨折は腰痛や亀背をきたしてQOLに影響を与えるだけでなく、死亡リスクとなることが示唆されています2)。その10年間の累積発生率は70歳で男性が10.8%、女性が22.2%と、かなりの頻度になっています3)。また、大腿骨近位部骨折は死亡率がさらに大きく上昇し、ADLの低下も顕著であることが明らかになっています4,5)。そして、低骨密度そのものが全死亡、心血管障害死亡のリスクを有意に増加させることがメタアナリシスで示されています6)

 以上を踏まえ、骨粗鬆症治療の目標は、骨密度の低下を防ぎ、骨折を予防することで、長期的な患者のQOLや予後を改善させることにあるといえます。

診断

 本邦の骨粗鬆症の診断基準を以下に示します。重要なのは“骨密度”“椎体骨折と大腿骨近位部骨折を中心とする脆弱性骨折の有無”の2点です。

 

 

 YAMというのは、骨密度の若年成人平均値(young adult mean)の英語略であり、腰椎では20-44歳、大腿骨近位部では20-29歳の若年者の骨密度の平均値と比較し、その人の骨密度が何%なのかを表しています。70%未満である場合、脆弱性骨折の既往がなくとも骨粗鬆症の診断となります。骨密度はDXA( dual-energy Xray absorptiometry)法によって測定します。これは2種類の異なるX線を骨にあてて、骨と他の組織におけるX線の吸収率の差から骨密度を測定する方法です。結果は以下のような形式で出てくることが多く、椎体と大腿骨でYAMが算出されます(三重大学医学部付属病院放射線部のwebサイトから引用しています:https://www.hosp.mie-u.ac.jp/x-ray/dexa.html)。

 

 

 DXA法では、以下の点に注意します。

①椎体は評価に値するか

 椎体に既知の圧迫骨折がある、または骨棘による変形があると、YAMが過大に算出されることがあります。例えば、80歳の女性でYAMが120%と出たりしますが、決して「〇〇さん、若い人よりも骨密度が高いね~!」なんて喜んではいけません。数値を鵜呑みにせず、まず椎体の形状を評価し、数値が過大評価になっていないか検討するべきです。また、他の椎体と比較してYAMが±1標準偏差以上異なる椎体も評価に含めてはいけません。

 評価に値する椎体が選定できたら、それらの平均YAMを算出し、椎体全体のYAMとします。なお、評価に値する椎体が2つ以上ない場合は、大腿骨の骨密度のみで骨粗鬆症の評価を行います。

  

②大腿骨はYAMが低い部位を採用する

 大腿骨は左右の頸部と近位部全体の計4か所でYAMが算出されます。この際、最もYAMが低い部位を診断に採用するようにしましょう。なお、椎体と異なり変形による影響は少ないです。

 

 本邦のガイドライン1)では、腰背部痛などの有症状者、検診での要精検者などを対象に骨粗鬆症の評価を行うことを推奨しています。一方、米国予防サービスタスクフォース(USPSTF)は、65歳以上の女性に対する骨粗鬆症のスクリーニングの利益は中程度の確実性があるという声明を出しています7)。このため、管理人は本邦のガイドラインが推奨する対象に加え、65歳以上の女性にはDXA法によるスクリーニング検査を勧めるようにしています

 椎体骨折は無症候性であることも多く、病歴では判断できない場合もあります。DXA法と併せて椎体(腰椎+亀背や上背部痛などがあれば胸椎)のX線写真を撮影し、陳旧性骨折がないか確認しておくと間違いがありません。

 また、WHOが開発した骨折リスク評価として、FRAX®があります8)。これは臨床リスク要因と大腿骨頸部の骨密度から、大腿骨近位部骨折と主要骨粗鬆症性骨折の10年間での発生率を算出するツールです。骨密度が測定できていない場合でも計算ができ、骨粗鬆症のリスク評価として利用することが可能です。また、後述するが薬物治療の適応についても用いられるため、全例で計算を行っておくようにしましょう。

https://frax.shef.ac.uk/FRAX/tool.aspx?lang=jp

続発性骨粗鬆症/骨粗鬆症との鑑別が必要な疾患

 内分泌疾患や関節リウマチなど、原因が明らかなものを続発性骨粗鬆症と呼びます。以下の表にまとめます。

 

 

 また、骨粗鬆症と鑑別が必要な疾患として以下のようなものがあります。

 

 続発性骨粗鬆症、または骨粗鬆症との鑑別が必要な疾患の多くは、病歴、身体所見、一般検査から疑うことが可能です。特に高Ca血症、腎結石の既往がある場合は副甲状腺機能亢進症を、体重減少の病歴、高Ca血症、蛋白尿、貧血を認める場合には悪性腫瘍や多発性骨髄腫を想起するようにしましょう。

身体所見・検査における留意点

 若い頃と比較しての身長低下や、亀背などの脊椎変形がある場合、椎体骨折の存在を強く疑います。また、転倒を繰り返している、ないしは転倒リスクの高い患者の場合、脆弱性骨折のリスクが高いため、積極的に骨粗鬆症の評価を行うとよいでしょう。
 骨粗鬆症の治療薬には顎骨壊死の副作用があるものが多いため、診断を行う段階で口腔内の衛生環境を視診で確認しておきましょう。齲歯や歯肉炎が明らかである場合、歯科受診を推奨します。。

 
 また、血液検査で骨代謝マーカーを測定することが可能ですが、個々の患者の治療における役割は定まっていません。マネジメントに寄与しないため、管理人は測定をしていません。

生活習慣の改善

 骨粗鬆症、またはそのリスクがある患者には全例で生活習慣の改善を指導します。食事ではカルシウム、ビタミンD、ビタミンKを多く食品の摂取を心がけ、リンを多く含む食品は可能な限り避けるようにします。特にカルシウムは薬剤やサプリメントでの摂取では心血管疾患のリスクになることが知られており9)、食事による摂取が望ましいとされます。管理人は最低限、乳製品や小魚など、Caの含有量の多い食品摂取を励行しています。

 

 運動習慣も重要です。例えば、有酸素荷重運動による腰椎骨密度は1.79%、ウォーキングにより腰椎および大腿骨近位部骨密度はそれぞれ1,31%、0.92%上昇することが示されています10)。本邦のガイドライン1)では、1日30分のウォーキング、週2~3日以上の筋力訓練、バランス訓練が勧められています。管理人は簡便に行うことのできる“かかと落とし体操”を推奨するようにしています。下記のwebサイトも参考にしてみてください。https://gooday.nikkei.co.jp/atcl/report/23/040500016/041000003/#:~:text=%E6%9C%80%E5%88%9D%E3%81%AB%E7%B4%B9%E4%BB%8B%E3%81%99%E3%82%8B%E3%80%8C%E3%81%8B%E3%81%8B%E3%81%A8,%E3%82%92%E7%B9%B0%E3%82%8A%E8%BF%94%E3%81%99%E3%80%81%E3%81%9D%E3%82%8C%E3%81%A0%E3%81%91%E3%81%A7%E3%81%84%E3%81%84%E3%80%82

薬物治療

 まず、薬物治療の適応を判断する必要があります。ここで注意すべき点は、骨粗鬆症の診断基準と薬物治療開始基準が必ずしも一致していない点です。具体的には、“骨粗鬆症までは至らないが、骨量が減少している患者(70%≦YAM<80%)”もFRAX®や家族歴によっては治療対象となります

 

 骨粗鬆症の治療薬の一部には顎骨壊死の副作用があるものがあり、事前の歯科受診が勧められています11)。治療が検討される症例では早期から歯科受診を勧めておくと薬剤の導入がスムーズです。

 

 ここからは骨粗鬆症の治療薬について、それぞれのエビデンスを確認していきます。治療薬の特徴として最低限覚えておくべきなのは、“大腿骨近位部骨折を予防するエビデンスがあるのか?”という点です。いずれの薬剤も椎体骨折を予防する効果はありますが、大腿骨近位部骨折に関しては予防効果がない薬剤もあり、注意すべきです。極端な話をすれば、大腿骨近位部を予防する効果のある薬剤を選んでおけば間違いがありません。

■ビタミンD製剤

 ビタミンDはカルシウムと並んで骨代謝において重要な栄養素です。ただし、ビタミンD製剤単独投与には骨折予防効果はなく、他の薬剤と併用する必要があります。

 令和元年の国民栄養調査によると、日本人のカルシウムとビタミンDの摂取量は不足しているとされています12)。また、骨粗鬆症の治療薬に関する臨床試験は十分量のカルシウムとビタミンDが摂取されている前提で試験デザインが組まれており、臨床試験と同様の効果を期待するのであれば、両者を補充するのが望ましいです。

 ただ、先述の通り、カルシウムは薬剤やサプリによる摂取では心血管疾患のリスクになる可能性があります9)。このため、骨粗鬆症の治療薬を使用する際、最低限ビタミンD製剤を併用し、カルシウムは食事による摂取を推奨する、というのが落としどころにとなります。

 日本で使用できるビタミンD製剤にはエルデカルシドール(エディロール®)アルファカルシドール(アルファロール®)があります。エルデカルシドールは作用が強いため、高齢者や腎機能低下例など高Ca血症が懸念される場合はアルファカルシドールを使用するのが無難です。

■ビスホスホネート製剤

 ビスホスホネート製剤(BP製剤)は体内に取り込まれると骨に沈着し、破骨細胞に取り込まれます。BP製剤を取り込んだ破骨細胞はアポトーシスに至り、骨吸収作用が抑制されることで効果を発揮します。

 椎体骨折に加え、大腿骨近位部骨折を予防するエビデンスがあります13-18)。骨粗鬆症治療薬の中でも最もエビデンスが豊富で信頼性が高く、第一選択薬と言えます。複数の薬剤がありますが、椎体骨折、大腿骨近位部骨折の両者を予防するエビデンスがあるのはアレンドロン酸(ボナロン®)、リセドロン酸(アクトネル®)、ゾレンドロン酸(リクラスト®)の3剤です。週1回の内服製剤のあるアレンドロン酸またはリセドロン酸を用いるとよいです。ゾレンドロン酸は年1回の注射製剤であり、内服が難しい症例で検討します。

 BP製剤は骨に蓄積されるため、投与を中止しても効果が持続します。一方で、蓄積し過ぎるとむしろ骨が脆くなってしまい、大腿骨骨幹部骨折などの非定型骨折が増加することが示唆されています19)。このため、本邦のガイドラインでは、BP製剤は3~5年間の使用に留め、その後は治療中止ないしは他剤への変更を検討することが提案されています1)。また、米国臨床内分泌学会/米国内分泌学会のガイドラインでは、アレンドロン酸などの経口薬は5年経過時点でリスク評価を行うことを推奨しています20)。一方で、骨密度が低いなど、依然として骨折リスクが高い場合は、BPの骨折予防効果>非定型骨折リスクととらえ、最長10年まで投与を継続してもよいともしています20)。また、静注薬であるゾレンドロン酸については、開始から3年経過時点でリスク評価を行い、最長6年まで継続して使用してもよいとされています20)以上を踏まえると、BP製剤は基本的には3~5年までの使用に留め、それ以降の治療については、個々の骨折リスクを踏まえて判断することが望ましいです。

 粘膜刺激性が強く、逆流性食道炎や食道潰瘍を引き起こすことがあります。内服時はコップ一杯の水と共に服用し、内服してから30分程度は横にならないよう指導します。元々逆流性食道炎や食道裂孔ヘルニアのある患者には使用しにくいですが、ゾレンドロン酸などの経口投与以外の製剤であれば、問題なく使用できます。

 顎骨壊死は有名な副作用ですが、頻度は10,000~100,000人に1人と稀です21)。また、後述の抗RANKL抗体や抗スクレロスチン抗体でも生じる恐れがあり、実はBP製剤特有の副作用というわけではありません。事前に歯科受診を行い、抜歯などの治療が必要な場合は治療終了後にBP製剤を開始するようにしましょう。

 また、腎排泄であり、CCr 30ml/分未満では禁忌です。事前の血液検査による腎機能評価は必須となります。

■抗RANKL抗体:デノスマブ

 RANKLはreceptor activator for nuclear factor κ-B ligandの略であり、骨芽細胞に発現しています。前破骨細胞のRANKと結合することで破骨細胞への分化を誘導し、骨吸収を促進します。抗RANKL抗体であるデノスマブはRANK-RANKLの結合を阻害することで破骨細胞への分化を抑制し、骨吸収を低下させることで効果を発揮します。

 椎体骨折に加え、大腿骨近位部骨折予防のエビデンスがあります22)。BP製剤に次いで骨粗鬆症診療で重要な薬剤です。

 抗RANKL抗体は一般名をデノスマブと呼び、プラリア®とランマーク®という商品があります。骨粗鬆症ではプラリア®が使用され、半年に一度、皮下注射で投与を行います。投与間隔が長いため、投与を失念しないようカルテ記載を行うようにしましょう。なお、ランマーク®は悪性腫瘍の骨転移に対して用いられ、プラリア®と混同しないよう注意が必要です。

 作用はBP製剤と似ていますが、骨に蓄積しない点が大きく異なる。このため、蓄積による異型骨折のリスクは少なく、使用期間を気にする必要がありませんが、投与を中止するとすぐに効果がなくなってしまい、骨代謝が亢進して急激に骨密度が低下する恐れがあります。このため、寝たきりなど特別な事情がない限り、中止する際は別の骨粗鬆症治療薬を開始することが望ましいです。別の言い方をすると、中止タイミングが非常に難しい薬剤であるともいうことができます

 低Ca血症を生じやすく、定期的な血液検査によるモニタリングが必須です。また、低Ca血症予防のため、抗RANKL抗体を使用する際には必ずビタミンD製剤の併用を行いましょう。抗RANKL抗体と併用可能なデノタスチュアブル®というCa製剤とビタミンD製剤の合剤が存在しており、こちらを使用するのも選択肢です。

 プラセボと比較し湿疹、蜂窩織炎などの皮膚症状の頻度が上昇する点に注意が必要です。また、BP製剤と同様、顎骨壊死の副作用があり、事前の歯科受診が必須です。BP製剤と異なり、腎機能が低下していても使用可能です。

 抗RANK抗体は、BP製剤に忍容性がない場合の代替薬として使用されることが多いです。

■選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)

 女性ではエストロゲンが破骨細胞への分化を抑制していますが、閉経によりエストロゲン量が減少することで破骨細胞が増加し、骨吸収が亢進してしまいます。エストロゲン製剤による骨粗鬆症の治療は試みられていましたが、冠動脈疾患や浸潤性乳がんの増加といった副作用がネックとなっていました。選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)は、骨組織のエストロゲン受容体にアゴニストとして作用し、乳腺組織や子宮ではアンタゴニストとして作用することで、少ない副作用で骨密度を上昇させる効果を実現した薬剤です

 ラロキシフェン(エビスタ®)、バセドキシフェン(ビビアント®)の2種があります。SERMは椎体骨折を予防しますが、大腿骨近位部骨折の予防効果を示すことができていません23,24)。このため、大腿骨の骨密度が低下している症例ではBP製剤や抗RANKL抗体を用いるのが無難です。

 副作用としてはほてり、下肢筋痙攣、末梢浮腫が起こることがあります。また、重大な副作用として深部静脈血栓症があり、患者に十分に説明しておく必要があります。

 BP製剤と比較し顎骨壊死の副作用がなく、内服方法もシンプルであるため導入がしやすい薬剤です。一方で、大腿骨の骨密度が低下してきている症例でも漫然と継続されていることが少なく、他剤への切り替えのタイミングには注意する必要があります。

■副甲状腺ホルモン製剤:テリパラチド

 副甲状腺ホルモンは副甲状腺から分泌され、CaとPの恒常性を調節する作用があります。破骨細胞による骨吸収を促進する作用がありますが、間歇的な投与の場合は骨芽細胞を刺激し、骨形成を促進する作用が強くなります。副甲状腺ホルモン製剤はこの作用に着目して開発された薬剤です。

 テリパラチドアバロパラチドの2種がありますが、後者は新薬でありエビデンスが乏しいため、現時点ではテリパラチドを優先して用いるのがよいでしょう。テリパラチドには週1回通院での皮下注射、または週2回自宅で皮下注射を行うテリボン®と、毎日自宅で皮下注射を行うフォルテオ®があります。

 椎体、大腿骨共に骨密度を上昇させる効果がありますが、骨折予防効果があるのは椎体のみです24,25)

 副作用としては高Ca血症があり、定期的な血液検査が必要です。その他にも嘔気、嘔吐、めまい、立ち眩み、有痛性筋痙攣といった症状が出現することがあります。また、長期投与で骨肉腫のリスクが高まるとされ、テリボン®、フォルテオ®共に24か月までの投与と定められています。薬価が高いのもネックです。抗RANKL抗体同様、中止により骨密度が急激に低下するため、他剤への切り替えが必須です。

 テリパラチドはコストが高く、大腿骨近位部骨折予防のエビデンスがない点を考慮し、第一選択としては用いません。BP製剤や抗RANKL抗体での治療中でも骨折を生じた例や、多発椎体骨折を生じた例など、症例を限って使用するのが望ましいです。

■抗スクレロスチン抗体:ロモソズマブ

 スクレロスチンは骨細胞によって産生される糖タンパク質であり、骨芽細胞による骨形成を抑制するとともに破骨細胞による骨吸収を促進する作用があります。ロモソズマブ(イベニティ®)は抗スクレロスチン抗体であり、スクレロスチンに結合することでその作用を抑え、骨形成の促進と骨吸収の抑制という2つの作用を持ち合わせた新規薬剤です。

 椎体骨折と大腿骨近位部骨折予防のエビデンスがあり、BP製剤であるアレンドロン酸との直接比較でも優位性を示しているのも強みです26-28)

 月に1回、病院で皮下注射を行います。使用期間は12か月と制限されています。新薬ということもあり、非常に薬価が高いことが最大の難点です。

 副作用として関節炎や注射部位反応、顎骨壊死があります。また、アレンドロン酸と比較し脳・心血管疾患が多い傾向があり27)、本剤を使用する上で最大の障害となってしまっています。脳・心血管疾患のリスクのある患者では使用を避けるべきであり、使用する際も脳・心血管疾患の出現に十分に注意する必要があります。また、中止により骨密度の急激な低下が起こるため、BP製剤など他剤への切り替えが必須です。

 コストと脳・心血管疾患のリスクを鑑み、副甲状腺ホルモン製剤以上に慎重に適応を選ばなければなりません。管理人は今のところは自分で導入したことはありません。

薬剤ごとの効力の違いについて

 2019年のメタアナリシスでは、椎体骨折ではテリパラチド、抗RANKL抗体、ロモソズマブが、大腿骨近位部骨折ではロモソズマブが特に高い骨折予防効果を持っていたとされています24)

 これらを踏まえ、まずは第一選択薬であるBP製剤を使用し、それでも骨密度が低下する場合や、新規の骨折が起こってしまった場合には、上記の薬剤への変更を検討するのがよいと考えます。

 最後に各薬剤の特徴を表にまとめておきます。

 

管理人のプラクティス

 ここまで骨粗鬆症の治療薬に関して各論的に説明してきました。それぞれ覚えるべき内容が多く、整理できずに混乱している方も多いと思います。ここでは、私の実際の治療の進め方を紹介していきます。
 
 まず、65歳以上の女性にはDXA法+FRAX®を行い、骨折リスクを評価します。骨密度が80%以下の方には、全例でカルシウム摂取の推奨と、習慣的な運動について指導を行います。私は運動についてはウォーキングに加え、“かかと落とし体操”を行ってもらうよう説明しています。その名の通り、かかとを上げてストンと落とす運動であり、骨への刺激が入る上、屋内で簡便に取り組むことができるという特徴があります。


 治療が必要と判断された場合は、薬物治療の導入を検討します。特に、骨折後の再発予防やステロイド使用に伴う骨粗鬆症の患者さんなど、ハイリスクの症例では積極的な治療が推奨されます。一方で、症状がなく、一次予防に該当する比較的リスクの低い患者さんに対しては、どの程度能動的に治療を行うべきかについて意見が分かれています。一般に、ハイリスク症例と比べると低リスク症例での治療効果は限定的であり、さらに、骨粗鬆症の治療は長期間にわたって複数の薬剤を使用するため、患者さんの負担が大きくなることが懸念されます。このため、患者さんと十分に話し合いながら方針を決めることが望ましいでしょう。また、Mayo Clinicの「Bone Health Choice」というツールは、治療によるリスクとベネフィットをわかりやすく算出することができ、患者さんへの説明に活用するのも良い方法です29)


 治療を行う場合、基本的には全例でビタミンD製剤を併用します。私はエルデカルシドールをよく使用しますが、高齢者や腎機能低下例では、効果がマイルドであるアルファカルシドールを選択します。

 骨粗鬆症の治療薬としては、第一選択薬であるBP製剤を優先して使用します。BP製剤には多数の製剤が存在しますが、私はアレンドロン酸またはリセドロン酸の週1回製剤を使用しています。BP製剤を導入した際は、3~5年間で中止を検討することが勧められているため、失念しないようにその時期をカルテに記載しておくとよいでしょう。この際の評価で、骨折リスクが依然高かった際にどう対応するかは、議論のある所です。海外では3~5年以降もBP製剤を継続してもよいとされていますが、アジア人では非定型骨折のリスクが比較的高いことを考慮すると、同様に対応してよいかは疑問です。 非定型骨折を懸念するのであれば、基本的には中止とするのが安全だと思われますが、この点も患者さんと相談の上で決めることが望ましいです。


 逆流性食道炎の既往があり粘膜障害のリスクが高い、または腎機能が低下しておりBP製剤が使用しにくい症例では、抗RANKL抗体を選択します。


 個人的には、SERMを使用することはほとんどありません。60歳代の比較的若い女性で椎体の骨密度のみが低下している症例や、BP製剤や抗RANKL抗体が何らかの理由で使用できない症例で、時折使用するくらいです。


 BP製剤、抗RANKL抗体を使用していても骨密度が低下していく、または骨折が起こってしまった場合には、副甲状腺ホルモン製剤や抗スクレロスチン抗体が検討されることになります。ただし、私個人としては、自分の判断でこれらの治療を開始したことはありません。特に、抗スクレロスチン抗体は脳・心血管疾患リスクもあるため、手を出しにくい印象が強いです。


 骨粗鬆症診療は複雑ではありますが、一般外来においては、ビタミンD製剤、BP製剤、抗RANKL抗体の3種を使いこなせれば問題ないと考えます。それ以上の治療が必要である場合、無理せず専門家へ紹介とするのがよいでしょう。

 

 

外来での確認事項を以下に箇条書きでまとめます

・食事、運動習慣や、内服のアドヒアランス、残薬は毎回の外来で確認するようにする。

・使用している薬剤にもよるが、血清Ca値は定期的に血液検査で確認する。 

・DXA法による骨密度測定、X線写真による新規椎体骨折の有無は年に1度は確認しておく。治療を行っても骨密度が低下する、ないしは新規の骨折が見られる場合には治療内容を再考する。

・骨粗鬆症治療薬は使用期間が決まっているものが多く、治療薬の中止・変更のタイミングを逃さないよう注意する。

・顎骨壊死の早期発見のため、定期的な歯科通院を推奨する。

 

 続発性骨粗鬆症が疑われる場合や、手術が必要な骨折を合併している場合には専門医への紹介を検討します。また、副甲状腺ホルモン製剤や抗スクレロスチン抗体の導入が検討される場合、個人的には整形外科へのコンサルトを行うことが望ましいと思います。

最後に、ここまでの内容を踏まえて重用事項をチェックリストとしてまとめました。ご参考ください。

治療目標:

□短期的目標:骨密度の低下を防ぐ

□骨密度の低下を防ぎ、椎体・大腿骨骨折を中心とした脆弱性骨折を予防する

診断時のポイント

・診断基準
〇椎体骨折または大腿骨近医部骨折がある(脆弱性骨折であること)
◯その他の脆弱性骨折があり、骨密度がYAMの80%未満
◯脆弱性骨折がなくても骨密度がYAMの70%以下または-2.5SD以下

・評価すべき項目
□若いころと比較しての身長低下   □亀背
□口腔内環境:齲歯、歯周病、残存歯の状況
□骨密度検査:DXA法
 □評価に値する椎体である
□腰椎X線検査二方向:圧迫骨折、魚椎様変化
□血液検査:Ca、P、腎機能
□続発性骨粗鬆症の可能性は?
 □発熱、夜間盗汗、体重減少、貧血:悪性腫瘍
 □高Ca血症、尿路結石の既往:副甲状腺機能亢進症
 □腎機能障害、蛋白尿:多発性骨髄腫

 

・治療開始前の確認事項
□下記の薬物開始基準に該当する

最低限覚えておくべき薬剤:

□ビタミンD製剤:エルデカルシドール(エディロール®)、アルファカルシドール(アルファロール®)

□BP製剤:アレンドロン酸(ボナロン®)、リセドロン酸(アクトネル®)、ゾレンドロン酸(リクラスト®)

□抗RANKL抗体:デノズマブ(プラリア®)

□SERM:ラロキシフェン(エビスタ®)、バセドキシフェン(ビビアント®)

□副甲状腺ホルモン製剤:テリパラチド(フォルテオ®、テリボン®)

□抗スクレロスチン抗体:ロモソズマブ(イベニティ®)

フォローアップにおける確認事項:

□食習慣、運動習慣などの生活習慣 □服薬アドヒアランス・残薬 
□血清Ca値 □骨密度 □新規椎体骨折の有無
□歯科通院の状況 □(BP製剤の場合)使用開始から3~5年で中止を検討
□治療薬の副作用
 □BP製剤:消化器症状(胸やけ、心窩部痛、胃不快感など)、顎骨壊死
 □抗RANKL抗体:皮膚症状、低Ca血症、顎骨壊死
 □SERM:深部静脈血栓症
 □副甲状腺ホルモン製剤:悪心、嘔吐、頭痛、倦怠感、高Ca血症
 □抗スクレロスチン抗体:皮膚症状、鼻咽頭炎、低Ca血症、顎骨壊死

専門医へ紹介するタイミング:

□続発性骨粗鬆症

□手術が必要な骨折を合併している

□副甲状腺ホルモン製剤や抗スクレロスチン抗体の導入が検討される

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