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どのストロングスタチンが最適解なのか?

 スタチンは高LDL-C血症治療のキードラックであり、力価の強さからスタンダードスタチンとストロングスタチンに分類されます。LDL-Cには「lower is better」の原則があるため、一般的にはストロングスタチンが使用される機会が多いです。

 ストロングスタチンにはアトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチンの3種がありますが、これらのいずれを用いればよいのかについては定説がありません。今回は、この点を深掘りしていきたいと思います。

 

 結論から申しますと、この中で最もLDL-C降下作用が強いのは、ロスバスタチンです1-4)

 また、本邦からの報告では、アトルバスタチン10mg/日、ロスバスタチン2.5mg/日、ピタバスタチン2mg/日でほぼ同等のLDL-C低下作用が見られたとされています5)

 著作権的に直接はupできませんが、UpToDateの「Statins: Actions, side effects, and administration」という記事に各種スタチンの力価に関するグラフが掲載されていました6)

https://www.uptodate.com/contents/statins-actions-side-effects-and-administration?search=%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%81%E3%83%B3&source=search_result&selectedTitle=2%7E150&usage_type=default&display_rank=1#H5

 

 また、下記のブログ記事に掲載されている換算表が視認性が高く秀逸でしたので、参考にしてみてください7)

https://pharmacyebmrozero.com/2018/08/13/%E3%80%90%E3%83%A1%E3%83%A2%E3%80%91%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%81%E3%83%B3%E3%81%AE%E5%8A%9B%E4%BE%A1%E6%8F%9B%E7%AE%97%E8%A1%A8%EF%BC%88-the-acc-aha-guideline-on-treatment-of-blood-cholesterol-2013-2/

 なお、LDL-Cの数値が至適範囲内になっていれば、スタチン間で脳・心血管疾患リスクに与える影響は差がないと考えられています

 

スタチン関連筋症状

 スタチンの副作用で最も有名なのがスタチン関連筋症状です。

 まず、先述した本邦からの報告によると、3剤の間で筋症状に関して差はなかったとされています5)。  

 一方、FDAによる、市販後の有害事象報告システムデータベースからの分析では、筋症状の報告数はロスバスタチンが最も多く、次点はアトルバスタチンだったとされています。この分析にはピタバスタチンは含まれていませんが、ロスバスタチン、アトルバスタチンは他のスタンダートスタチンと比較すると、明らかに筋症状の頻度が高いようです8)

 また、ピタバスタチンはCYP3A4で異化されないため、比較的筋症状のリスクは低いと考えられています9,10)

 薬剤同士を直接比較する試験が少なく、エビデンス不足は否めませんが、スタチン関連筋症状が最も少ない可能性があるのはピタバスタチンと考えられ、アトルバスタチン、ロスバスタチンはややリスクが高まるものと思われます。

腎障害

 スタチンは腎機能には影響を与えにくいとされていますが、例外的にロスバスタチンは腎障害のリスクが懸念されています

 アトルバスタチンとロスバスタチンの使用者を8年にわたって追跡した所、ロスバスタチンでは血尿、蛋白尿、透析などを必要とする腎障害の頻度が有意に高かったと報告されています11)。また、用量依存性にリスクが増加していました。

 他の研究では腎障害の関連性は示されていないため、どこまでこの結果が信頼できるかは判断が難しいところですが、ロスバスタチンを使用する上で頭の片隅には入れておいた方がよさそうです。

糖尿病

 スタチンはグルコース代謝に影響を及ぼし、新規の糖尿病発症や、糖尿病患者の血糖コントロールに悪影響を与える可能性が示唆されています12)

 台湾からのコホート研究では、4年間の追跡において、3剤の中ではピタバスタチンが最も新規糖尿病発症率が低かったと報告されています13)

 また、韓国からのロスバスタチンとアトルバスタチンに関するRCTでは、ロスバスタチンで新規糖尿病発症率が有意に高いことが示されています14)

 この結果を鑑みると、糖尿病発症リスクについては、ピタバスタチン<アトルバスタチン<ロスバスタチンという順に高くなるものと考えられます。

白内障

 大規模なコホート研究でスタチンに白内障のリスクがあることが示唆されています6)

 スタチンごとのリスクは良質なエビデンスはありませんが、先述の韓国からの報告では、アトルバスタチンと比較しロスバスタチンで白内障手術の頻度が有意に高かったとされています14)

 

 以上、色々と検討して参りました。久しぶりに調べ物をすると疲れますね。頭が痛くてしょうがないです…。

 

 さて、LDL-C低下作用についてはロスバスタチンが最強という結論でよさそうですが、副作用や他疾患発症のリスクに関しては、良質なエビデンスがないというのが現状のようです。

 LDL-Cを低下させることだけを考えるとロスバスタチンになるのでしょうが、副作用・糖尿病リスクといったそれ以外の要素においては、ピタバスタチン≧アトルバスタチン>ロスバスタチンといった順の安全性ということになりそうです。LDL-Cを至適範囲内にできるのであれば、ピタバスタチンかアトルバスタチンを優先して使用し、これらで目標が達成できない場合にロスバスタチンに切り替える、というのが妥当な案でしょうか。

 これまで私はロスバスタチン推しだったのですが、今後どのスタチンを使用するかはもう一度よく考えてみたいと思います。皆さんはどのストロングスタチンを使っていますでしょうか?ご意見を頂けますと幸いです。

 

1) Expert Rev Cardiovasc Ther. 2003;1(4):495. 

2)Am J Cardiol. 2003;92(2):152. 

3)J Am Coll Cardiol. 1998;32(3):665.

4)Clinical Lipidology, 4(3), 291–302.

5)Circ J. 2011;75(6):1493-505.

6)UpToDate

https://www.uptodate.com/contents/statins-actions-side-effects-and-administration?search=%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%81%E3%83%B3&source=search_result&selectedTitle=2%7E150&usage_type=default&display_rank=1#H5

7)猫薬プロジェクト3rd〜ある薬剤師の備忘録〜

https://pharmacyebmrozero.com/2018/08/13/%E3%80%90%E3%83%A1%E3%83%A2%E3%80%91%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%81%E3%83%B3%E3%81%AE%E5%8A%9B%E4%BE%A1%E6%8F%9B%E7%AE%97%E8%A1%A8%EF%BC%88-the-acc-aha-guideline-on-treatment-of-blood-cholesterol-2013-2

8)PLoS One. 2012;7(8):e42866.

9)Curr Vasc Pharmacol. 2012 Mar;10(2):257-67.

10)UpToDate

https://www.uptodate.com/contents/statin-muscle-related-adverse-events?search=%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%81%E3%83%B3&topicRef=4564&source=see_link#H107312612

11)J Am Soc Nephrol. 2022;33(9):1767.

12)Lancet. 2015;385(9965):351. Epub 2014 Sep 24. 

13)Biomedicines. 2020 Nov 13;8(11):499.

14)BMJ. 2023 Oct 18:383:e075837.