病態
・アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(Allergic bronchopulmonary aspergillosis:ABPA)は、Aspergillus fumigatusに対する過敏症によって引き起こされる免疫性外障害であり、喘息の増悪、肺浸潤影、気管支拡張症などを呈する疾患です。
・ABPAの病態として重要なのは、
①気道におけるA.fumigatusの長期生存
➁獲得免疫応答の偏った活性化
の2点です。
・本来、真菌の分生子は免疫認識を妨げるヒドロフォビンの存在のため抗原として認識されないようになっています。そこ加えて、喘息や嚢胞性線維症など、真菌分生子のクリアランスに欠陥があると、発芽して菌糸となります。
・A.fumigatusの菌糸は様々な蛋白質を放出し、炎症性サイトカインの放出を促したり、肺上皮を直接障害します。
・さらに、A.fumigatusに対し免疫応答が起こりますが、本来はTh1 CD4+細胞による応答が起こるべきところ、ABPAの患者ではIL-4、IL-5、およびIL-13の分泌を伴うTh2 CD4+細胞が惹起され、IgEの増加、好酸球の遊走をもたらし、喘息、気道炎症を悪化させてしまいます。
・喀痰の中でA.fumigatusは生存し、真菌蛋白質の放出→炎症性サイトカインの増加、直接的肺障害・・・というような負のスパイラルを繰り返すことになるわけです。
・また、制御性T細胞の機能不全が関与している可能性もあるとされます。
・以下、病態生理図になります。
病理
・気管支のムコイド沈着、好酸球性肺炎、気管支中心性肉芽腫、および気管支拡張症が特徴的な組織学的所見です。
・シャルコット-ライデン結晶を認めることもあります。
・真菌はまばらにみられ、肺組織には侵入していないことが特徴です。
疫学と臨床症状
〇疫学
・持続性喘息患者におけるABPAの有病率は1-2%と推定されていますが、最大28%という報告もあるようです。
・嚢胞性線維症の患者では有病率は2-9%とされています。
・喘息自体は19%がコントロール良好であったとされます。
〇臨床症状
・患者はコントロール不良の喘息、喘鳴、喀血、および咳嗽を呈することが多いです。その他、微熱、体重減少、倦怠感などがあります。
・茶色がかった黒い粘液栓の喀痰は有名でありますが、31-69%の患者でしか見られません。
・無症状の患者もおり、臨床検査で診断されるケースもあります。
・急性増悪の際、発熱、喘鳴、喀血、咳嗽が増強します。
検査所見
■アスペルギルス皮膚テスト
・プリックテストまたは皮内注射を行います。この検査が陽性の場合、A.fumigatus抗原に対する特異的IgE抗体の存在が示唆されます。
・感度は90%と高いですが、ABPAのない喘息患者の最大40%が陽性を示すため、特異度は高くありません。
■総血清IgEレベル
・ABPAの診断と病勢のフォローアップに有用な検査です。
・1000IU/mlがカットオフ値として推奨されています。
■A.fumigatus特異的IgE抗体
・アスペルギルス皮膚テストと同意義の検査です。
・0.35kUA/Lをカットオフ値として使用します。感度99-100%です。
■A.fumigatus血清沈降抗体、または特異的IgG
・血清沈降抗体はABPAの69-90%で陽性となりますが、喘息患者の10%でも陽性となってしまいます。
・特異的IgGは他のアスペルギルス症、特にCPAで陽性となるため、特異度は低いです。
■末梢血好酸球数
・ABPA患者の40%が診断時に好酸球数>1000/μLを示したとされ、診断の参考となります。
■A.fumigatusの喀痰培養
・アスペルギルス自体が普遍的に存在するため、診断に有用とは言えません。
・ABPAでは39-60%の範囲で陽性となるとされています。
・アゾール系への耐性を調べることができれば治療の上で一助となる可能性があります。
■組み換えアスペルギルス抗原
・rAspf3 f1,f2がABPAに非常に特異的であるとされます。
■血清ガラクトマンナン
・A.fumigatusの増殖中に細胞壁から放出される多糖類です。
・ABPAの診断においては感度、特異度が低く訳に立ちません。
■CEA
・ABPAの好酸球性炎症のマーカーである可能性があり、治療後に低下するため、モニタリングのために測定することが提案されています。
■呼吸機能検査
・喘息の重症度を確認する上で重要です。
・ABPAが進行し、肺の破壊が進むと拘束性障害を呈することがあります。
画像所見
■胸部X線
・浸潤影、無気肺、tram line shadow、finger in glove sign(少なくとも2本の気管支にわたるmucus impaction)を認めます。
・ただし、正常であるからといってABPAは否定できないことに注意が必要です。
■胸部CT画像
・気管支拡張症は特徴的な所見である、一般的に上葉に発生し、患者の1/3で末梢まで広がります。必ずしも中枢性気管支拡張を呈するわけではありません。
・mucus impactionもABPAに特徴的な所見です。アスペルギルスが発育にMgや鉄といった成分を利用するため、一部が高吸収になり、High-attenuation mucus(HAM)と呼ばれABPAに特徴的な所見であるとされます。具体的には、傍脊柱筋より高吸収である場合にHAMと判断します。
・肺野の小葉中心性陰影、結節影を認めることもあります。
・ABPA患者の3-21%で上葉の空洞、線維化を認めることがあり、CPAを合併することがあります。
診断基準
・1977年に最初の診断基準がPattersonらによって発表されました。
・2013年にISHAMによって発表された診断基準が使用されることが多いです。
・2021年にISHAMより修正された新基準が発表され、最も信頼できる診断基準とみなされています。
・浅野らによって提案された基準は気管支鏡検査が必須の点が欠点ですが、同じく有用と考えられています。
・以下にそれぞれの診断基準をまとめました。
・診断ゲシュタルトとしては、「喘息がある患者で喀痰増加、血痰、咳嗽、喘息のコントロール不良、胸部画像異常がみられる場合に疑い、まず最初にA.fumigatus特異的IgE抗体を測定する」ことで、診断の最初のステップが踏み出されることになります。
・病期分類は以下の通りです。必ずしも順番に進行しないことに注意が必要です。
治療とフォローアップ
〇治療
・ABPAの治療の基本原則は、真菌によって引き起こされる免疫応答の制御が中心となります。目標には、①肺の炎症の制御、➁急性期ABPAの治療、③増悪の予防、④治療による副作用の最小化、⑤気管支拡張症の発症・進行の予防が含まれます。
■経口糖質コルチコイド
・本疾患のkey drugです。
・PSL 0.5mg/kg/日を4週間、0.25mg/kg/日を4週間、0.125mg/kg/日を4週間、その後2週間ごとに5mgずつ漸減し、中止します。
・主に治療開始から6週間で画像的、血清学的な治療効果が得られるとされます。
・当然ながら長期使用での種々の副作用が問題となってきます。
・再発増悪する患者では低用量PSLの内服と下記の経口アゾールの併用を行います。
■経口アゾール
・PSLとイトラコナゾール(400mg/日)の併用により増悪頻度の減少、PSLの減量が期待されます。
・ボリコナゾール、ポサコナゾールなどの新しいアゾール系の使用され始めています。
■オマリズマブ
・有効性が期待されますが、総IgE量で容量を調節する本剤では、総IgEが高値となるABPAにおいて基本的に最大容量の使用が必要となります。コストの問題でなかなか適応は難しいと考えられます。
■メポリズマブ、ベンラリズマブ、デュピルマブ
・症例ベースで上記薬剤の有効性が示されています。
・現在、メポリズマブ、ベンラリズマブのABPAに対する有効性を調べるRCTが進行中です。
■吸入コルチコステロイド
・基礎となる喘息のコントローラーとしてのみ使用されるべきであり、単独でABPAの治療として使用してはいけません。
〇フォローアップについて
・血清総IgE、胸部X線、および呼吸機能検査を治療開始から8週間後にフォローします。血清IgEが25%程度減少するとされるが、正常化まで至ることは稀とされます。
・その後、治療が完遂するまで2か月ごとに血性総IgEを測定します。
・A.fumigatus関連の検査はフォローアップには使用しません。
〇合併症
・気管支拡張症、大喀血、肺線維症、慢性Ⅱ型呼吸不全、肺性心などがあります。
・患者の4-10%にCPAを発症する可能性があり、注意が必要です。
・続発性アミロイドーシス、ネフローゼ症候群合併の報告もあります。
参考
・R Agarwal et al, Clin Exp Allergy. 2013 Aug;43(8):850-73.
・R Agarwal et al, Clin Chest Med. 2022 Mar;43(1):99-125.
・Up to date:
①Clinical manifestations and diagnosis of allergic bronchopulmonary aspergillosis
➁Treatment of allergic bronchopulmonary aspergillosis