血行動態、呼吸状態の把握
血行動態の把握
急性心不全を見た時にまず行うべきは血行動態の把握です。心原性ショックの場合、カテコラミンの使用や機械的補助循環の導入を考慮し、速やかに専門家にコンサルトする必要があるからです。血行動態の把握には下記のNohria-Steavenson分類が有用です。
これは症状やvital sign、身体所見から、ベッドサイドで簡便に血行動態を評価するもので、組織低灌流所見とうっ血所見の有無で4つのProfileに分類を行います。まず、横軸のうっ血所見は心原性肺水腫、つまり左心不全の所見や、体うっ血、つまり右心不全の所見から、WetかDryかを判断していきます。縦軸の組織低灌流所見では、所見がなければWarm、あればColdに分類してきます。
この分類によりある程度治療方針を立てることが可能であり、うっ血所見があれば利尿をかけていくことになりますし、低灌流があればカテコラミンや機械的補助循環の導入を検討していくことになります。
呼吸状態の把握
血行動態の次は呼吸状態の把握です。心原性肺水腫があり、呼吸が促迫している場合には、まずはNPPVによるCPAPを行います。
高二酸化炭素血症を伴う低酸素血症の場合はS/Tモードで開始します。低酸素血症のみではCPAPで開始し、CPAP 5 cmH2Oから1-2ずつ上げ、10 cmH2Oを目標とします。FIO2は1.0で開始します。意識障害があったり、喀痰が多く気道確保の必要がある場合は気管挿管、人工呼吸器管理を行います。
基礎にある心疾患の確認
血行動態、呼吸状態の把握、安定が終わったら、なぜ心不全に至ったのか、基礎にある心疾患を探っていきます。最も見逃してはいけない疾患は急性冠症候群(ACS)です。以下のCHAMPITのゴロで原因検索と治療介入を考えていきます。
病歴をとりつつ、採血、十二誘導心電図、心エコーを同時並行で進めてACSの合併を検索していきます。
また、心不全のトリガーを検索するときのゴロとしてFAILUREも有名です。
クリニカルシナリオ(CS)を元にした初期対応
クリニカルシナリオ(CS)とは
続いて具体的な初期対応について解説していきます。もちろん、前述の通り血行動態や呼吸状態が悪い場合はそちらへの介入を優先します。NS分類も参考にするのですが、以下のクリニカルシナリオ(CS)が初期対応にはわかりやすいため紹介しておきます。
CSは収縮期血圧によりシンプルにCS1-3に分類されており、CS4はACSに、CS5は右心不全に分類されます。つまり、CS1≒肺うっ血、CS2≒体うっ血、CS3≒組織低灌流、低心拍出のように対応するわけです。もちろん、毎回ここまでクリアカットに分類できるわけではなく、CS1とCS2の併存もしばしばあります。また、あくまで初期対応の分類ですので、その後に前述の基礎にある心疾患や増悪因子をしっかりと同定し介入を行っていく必要があります。
CS1に対する介入
患者の主訴は起坐呼吸、労作時呼吸困難です。心臓に対する後負荷が大きいために、肺うっ血を起こしていることが主病態です。酸素投与や硝酸薬スプレーを使用し、肺うっ血の解除を行います。反応性に乏しい場合はNPPVの使用も考慮します。
次に静脈路を確保し血管拡張薬の持続投与を行います。EF低下例やAS合併例では急激に血圧が低下することもあるため注意しましょう。
体うっ血の要素もある場合、利尿薬の併用も検討します。
CS2に対する介入
主病態が水分の貯留であり、利尿による除水が優先されます。速やかかつ十分量の利尿薬投与が必要であり、ガイドラインでは救急搬送から60分以内のループ利尿薬の投与が推奨されています。
基本的にはフロセミド20-40mgを静注しますが、30分-1時間ほどみても利尿がつかなければ倍量の追加投与を検討します。それでも反応が悪ければフロセミド持続静注やカルペリチド持続静注を行います。また、内服でサイアザイド系利尿薬やトルバプタンを追加することもあります。利尿に伴う電解質異常、脱水には十分注意しましょう。
薬剤でのコントロールが困難であれば体外限外濾過法(ECUM)による除水も選択肢となり得ます。
CS3に対する介入
血圧にある程度余裕があれば血管拡張薬を、血圧が保てない場合はカテコラミンの使用を考慮します。カテコラミンは心収縮能も鑑みて選択され、ドブタミンやノルアドレナリンが使用されます。ドパミンは不整脈の合併症が多く、最近は使用されることは少ないです。血行動態が不安定である場合、やはり機械的補助循環の導入も検討されます。
以下、急性心不全に対するおおまかなフローを提示します。
参考
・急性・慢性心不全診療ガイドライン 日本循環器学会/日本心不全学会
・循環器のトビラ 杉崎洋一郎 メディカル・サイエンス・インターナショナル
・循環器薬ドリル 池田隆徳 羊土社