ARNIとは?
ARNIとは、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬の略称であり、市場に出ている薬剤としてはサクビトリルがあります。本邦ではサクビトリルバルサルタン(エンレスト®)として使用可能ですが、これはその名の通りサクビトリルとARBであるバルサルタンの単一化合物です。
詳しくは以下の記事もご参照ください。
高血圧管理・治療ガイドラインの改訂が近い!
さて、このARNIですが、基本的にはHFrEFに対する心保護作用を期待して用いられる薬剤です。その一方で、本邦では高血圧症に対する降圧薬としての使用に関しても適応が通っています。実臨床でも、心不全のない高血圧症に対してARNIを処方されている患者さんが徐々に増えてきた印象です。
先日、日経メディカルでこのような記事が出ていました1)。2025年7月、6年ぶりに高血圧管理・治療ガイドラインの改訂が予定されており、今回の記事はこのガイドラインの草案に関して書かれています。これによりますと、新しいガイドラインにおける降圧薬の推奨は以下のようになっており、ARNIはMRAと同等のグループという立ち位置です。ARNIは今回初登場の薬剤ですが、いきなり高いポジションに食い込んでくることになりそうです。
降圧薬としてのARNIのエビデンスは?
このように、今後降圧薬としての地位も高まっていきそうなARNIですが、現時点で高血圧症に対し、どのくらいのエビデンスがあるものなのでしょうか?
まず、本剤が心不全に対する心保護薬として適応が通るきっかけとなった、PARADIGM-HF 試験を見てみましょう2)。本研究では、駆出率が40%以下である患者8,442例を、推奨される治療に加えて、ARNIを投与する群と、ACE-Iであるエナラプリルを投与する群に無作為に割り付けました。主要評価項目は、心血管死亡または心不全による入院の複合アウトカムです。追跡調査期間中央値27か月の時点で、主要評価項目はARNIで914例(21.8%)、エナラプリルで1,117例(26.5%)であり、ARNI群で有意に少ないという結果でした(ハザード比 0.80,95%信頼区間 [CI] 0.73~0.87,P<0.001)。血圧に関しては、ARNI群の方が、エナラプリル群よりも収縮期血圧が3.2±0.4mmHg低かったようです(P<0.001)。
続いて、本剤が本邦で降圧薬としての適応が通る根拠となった、第三相試験を確認します3)。この試験では、高血圧症の患者をサクビトリルバルサルタン(ARNI)200mg、400mg、オルメサルタン(ARB)20mgの3群に分け、血圧のベースラインからの変化を調べました。投与開始後8週間の時点で、平均座位収縮期血圧はそれぞれ-18.21mmHg、-20.18mmHg、-13.20mmHgであり、サクビトリルバルサルタンはオルメサルタンよりも高い降圧作用を示していました。
ARNIを降圧薬として用いてよいのか?
これらの結果だけを見ますと、ARNIはACE-IであるエナラプリルやARBであるオルメサルタンと比較し、強い降圧作用を持っていることがわかります。ただし、まだ長期的な安全性は不明ですから、これだけをもってARNIを降圧薬として処方するのは時期尚早だと思います。実際、欧米では降圧薬としての適応は通っていないようであり、UpToDateの高血圧症の項目にも記載がありません。このような状況にも関わらず、新しいガイドラインでARNIをそれなりの推奨レベルにおいてしまうのは、いささか攻め過ぎのような気がしますが…。あとは、薬価が高めであることも大きな難点ですね。
プライマリケア医としては、これまで通り基本となるCa拮抗薬、ACE-I/ARB、サイアザイド系利尿薬の3剤を使用し、それでもコントロールが付かなければMRAの追加を検討する、という原則を遵守すればよいと思います。
ただ、降圧薬はどうしても薬剤の種類がどんどん増えていってしまう傾向があるため、既に投与しているACE-I/ARBをARNIに切り替えるだけで、よりよい降圧作用が得られる、というのは正直魅力に感じます。服薬アドヒアランスのことを考慮すると、ARNIの使用が選択肢に挙がってくる場面も出てきそうです。どうしたものか悩ましいですね…。
参考
1)日経メディカル 高血圧GL2025案、基準値140/90mmHg、降圧目標は据え置きに
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/hotnews/int/202411/586366.html
2)N Engl J Med. 2014 Sep 11;371(11):993-1004.
3)Otsuka Pharmaceutical Co Ltd . Otsuka announces that Novartis Pharma’s ENTRESTO(R) received a new indication for treatment of hypertension in Japan [media release]. Accessed Dec 2, 2021.
https://www.otsuka.co.jp/en/company/newsreleases/2021/20210927_2.html