病態
帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウィルス(Varicella-Zoster Virus:VZV)によって引き起こされる疾患の一つです。VZVの一次感染はいわゆる水痘であり、主に小児期に問題となります。
VZVが初感染を起こした際、一過性にウィルス血症を生じます。この際、皮膚の神経終末を通じてウィルスが逆行性に脊髄後根神経節内に移動し、感染を起こすとされています。一連の免疫応答を通してVZVに対する特異的な細胞性免疫が構築されるため、ほとんどのウィルスは駆逐されますが、神経節内のウィルスは生き残って潜伏を続けます。経時によるVZVへの特異的な細胞性免疫の低下や、加齢やストレスによる免疫全体の低下をきっかけに、神経節内のVZVが再活性化・増殖を開始します。
再活性化したVZVは神経節から感覚神経を順行性に広がり、最終的に水疱を中心とした皮疹を生じます。関与する神経節は神経細胞の出血壊死を伴う激しい炎症を呈し、最終的には求心性神経線維、特にC型侵害受容器の線維化を伴う神経細胞脱落を引き起こします。この神経細胞に対する強い侵襲が帯状疱疹の強い神経痛の原因となります。
上記のような病態から、理論的には水痘に感染したことのない患者さんが帯状疱疹を発症することはありません。ただし、高齢者では幼少期の記憶は曖昧なことが多いですし、ワクチン接種により症状が抑え込まれ、知らないうちに感染していた、ということもあり得ます。このため、水痘の既往だけで帯状疱疹を否定することは難しいと考えます。
疫学
帯状疱疹は非常にコモンな疾患であり、85歳までに約半数の人が経験するとされています。
帯状疱疹の発生率は世界中で増加していることがわかっています。例えば、米国での1993-2016年までの大規模なデータベース解析では、帯状疱疹の発生率は1993年には2.5人/1000人・年であったのが、2016年には7.5人/1000人・年と増加していることが示されています1)。また、1997-2017年に行われた宮崎県からの報告では、1997年には3.5人/1000人・年であったものが2017年には6.0人/1000人・年まで増加しており、特に60歳以上の高齢者では顕著に増加していました2)3)。
この帯状疱疹の増加については、もちろん高齢化の影響が大きいとされていますが、水痘患者の減少も一因であると考えられています。本邦では2014年に水痘ワクチンが定期接種となり、その後の水痘の患者数の減少も報告されています。これは望ましい結果ではあるのですが、社会全体でVZVが減少することで、VZVに暴露して免疫をブーストする機会が減少してしまうことも意味します。結果として、高齢者でのVZVに対する免疫低下が顕著となり、帯状疱疹の発症数が増えているわけです。なんとも皮肉な結果ですが、高齢者に対するワクチン接種が進むことでこの傾向も変わってくるかもしれません。
帯状疱疹の重症度や帯状疱疹後神経痛(PHN)などの合併症は、年齢と共に増加します。ある研究では、帯状疱疹の患者全体の18%でPHNを合併しましたが、79歳以上に限ると1/3以上の割合で合併していたとされています4)。
移植後であったり、化学療法や免疫抑制療法を受けているような免疫抑制状態にある患者でも帯状疱疹のリスクは高まります。ある研究では、骨髄または幹細胞移植を受けた患者では、帯状疱疹の発症リスクが健常群と比較し約10倍であったと報告されています。同様に、関節リウマチのためグルココルチコイド、メトトレキサート、シクロスポリンなどの免疫抑制療法を行っている患者でも帯状疱疹のリスク増加が報告されています5)。
症状
皮疹
皮疹は紅斑を伴う丘疹として始まり、通常は単一ないしは連続したデルマトームに出現します。数日の経過で紅斑・丘疹→水疱→膿疱→痂疲と変化して瘢痕化します。高齢者や免疫抑制者の場合、出血を伴うこともあります。
どの部位にも出現する可能性がありますが、胸部および腰部に発生することが多いです。10%程度は顔に発生し、後述の眼部帯状疱疹や耳性帯状疱疹に注意する必要があります。
皮疹部位からはVZVが検出されるため、水痘やワクチン接種の既往がない人に感染する可能性がありますが、痂疲化後は感染性は消失するとされています。
急性神経炎
「ピリピリする」、「焼けるような」、「刺すような」といった、いわゆる神経性の疼痛を呈します。
疼痛は2週間ほど持続し徐々に改善していきますが、ある研究では18%の患者で30日時点でも疼痛が残存していたとされており、かなり幅があります。
75%の症例では皮疹に先立って疼痛が現れるとされ、疼痛出現から2-3日後に皮疹が出てくることが多いようです。抗ウィルス薬は発症72時間以内に開始した方が有効性が高いとされているため、「体幹の片側に、デルマトームに沿った急性の神経性疼痛」を認めた場合には、皮疹がなくても帯状疱疹を疑って治療を開始する必要があります。
疼痛の部位、程度によっては狭心症、胆嚢炎、虫垂炎、大動脈解離など重大な疾患との鑑別が難しい場合もあり、注意が必要です。「疼痛を訴える患者では全例で帯状疱疹を鑑別に入れる」くらいのスタンスがよいのかもしれません。
実臨床では皮疹がなく、神経痛のみを呈する帯状疱疹(無疱疹性帯状疱疹 )も存在するとまことしやかに噂されています。実際に疼痛とVZV活性化の関連性を証明することは難しく、その頻度などは不明です。
帯状疱疹後神経痛(PHN)
PHNは「皮疹の出現後、90日を経過しても持続する疼痛」と定義されます。
帯状疱疹患者のうち、10-15%がPHNを合併するとされ、高齢になればなるほどその頻度は上昇します。
眼部帯状疱疹
三叉神経の分枝である眼神経(V1)領域に発生する帯状疱疹を眼部帯状疱疹と呼称します。
眼部帯状疱疹では角膜炎や急性網膜壊死など、視力に関わる合併症を起こしうるため、特に注意する必要があります。全例眼科にコンサルトしつつ、抗ウィルス治療を行うべきです。
鼻の側面または先端の水疱はHutchinson徴候と呼ばれます。鼻の先端は鼻毛様体神経という眼神経の分枝が支配しているため、Hutchinson徴候が陽性の場合は眼神経炎が示唆されます。この場合、眼の周囲に皮疹がなくても眼部帯状疱疹を考える必要があります。
耳性帯状疱疹
耳性帯状疱疹はその名前の通り耳に皮疹ができる帯状疱疹であり、Ramsay Hunt症候群という名称の方が通りがいいかもしれません。
耳性帯状疱疹では膝状神経節でのVZVの活性化が起こり、顔面神経、内耳神経を障害するため、同側の末梢性顔面神経麻痺、聴力異常(難聴、耳鳴り、聴覚過敏)、めまい、流涙、味覚障害といった症状を呈します。同様に末梢性顔面神経麻痺を呈するBell麻痺と比較すると重度かつ後遺症が残る場合が多いとされています。
汎発性帯状疱疹(播種性帯状疱疹)
超高齢者や免疫不全者ではVZVが所属神経に留まらず、血管内皮細胞内で増殖してウィルス血症を起こすことがあります。この場合、単一ないしは連続したデルマトームを越えて皮疹が認められます。
汎発性帯状疱疹の患者では約10%で肺や肝臓、脳などの臓器障害をきたし、しばしば致死的になることがあります。
汎発性帯状疱疹の場合は原則入院でアシクロビル静注による治療が必要となります。またウィルス血症を起こしていることから水痘と同様に空気感染を引き起こすため、感染対策上問題となります。
脳血管障害
VZVが脳血管に感染することで脳梗塞、脳出血、くも膜下出血を引き起こすことがあります。
小児では水痘患者15,000人のうち1人の割合で脳卒中を起こすとされ、小児期の脳卒中の重要な病因とされています。
成人では、帯状疱疹後に脳卒中のリスクが増加することが報告されており、一部剖検で脳血管からVZVが検出されていることから、本病態の存在が想定されています。眼部帯状疱疹や免疫不全者における帯状疱疹で特にリスクが高いとされています。抗ウィルス薬が本病態を予防できるかはわかっていません。
実臨床では帯状疱疹と脳血管障害の関連性を証明することは容易ではありませんが、UpToDateではアシクロビル静注による治療が推奨されています。帯状疱疹直後に脳卒中を起こした症例では本病態を鑑別にあげ、抗ウィルス薬による治療を行ってもいいのかもしれません。
その他の神経合併症
分節性の運動麻痺は帯状疱疹の3%に合併し、比較的頻度の高い合併症です。
VZVが後根神経節から脊髄前角、前根まで広がることで発症します。皮疹と同じ領域の筋力低下を認めます。腹壁の筋力低下による腹壁偽性ヘルニアはよく知られているかと思います。仙骨神経部位の帯状疱疹では膀胱直腸障害を合併することがあります。
VZVは正常免疫者において無菌性髄膜炎を引き起こすことがあります。無菌性髄膜炎患者144人を対象としたフィンランドの研究では、全体の約8%からVZVが検出されたと報告されています。
多くは診断時に皮疹を認めますが、髄膜炎の発症後に皮疹が出現することもあり注意が必要です。
帯状疱疹関連脳炎は、通常皮疹がでてから数日以内に意識障害、意識変容を呈します。
健常者に発症することは稀であり、免疫抑制者に合併します。
体幹部の帯状疱疹に合併し、横断性脊髄炎を発症することがあります。
こちらも免疫抑制者に起こることがほとんどのようです。
診断
帯状疱疹の診断は臨床症状(片側性、デルマトームに沿った皮疹、神経痛)に基づいて行われます。
汎発性帯状疱疹で全身に皮疹がある場合や、強い出血を呈する皮疹の場合には、所見のみでの診断が難しいこともあります。この場合、皮疹からの浸出液を用いたVZVのPCR検査を検討します。
また、本邦では抗原検査(デルマクイック®)が使用可能です。PCRと比較し感度93.2%、特異度98.8%とされており、簡便さを考えると十分PCRの代替手段になりうると思います。
治療
基本的な考え方
帯状疱疹に対する抗ウィルス療法は、
・皮疹の治癒を早め、急性神経炎の期間と程度を軽減し、新たな病変の出現を予防する
・中等度から重度の急性神経炎患者に対する鎮痛効果
・VZVの排出を抑制し、感染リスクを軽減する
といった効果が証明されています。
PHNに対する予防効果については議論のある所ですが、急性期に適切な治療が行われた場合、40-50%減少すると考えられています。
抗ウィルス療法は発症早期の方が効果が高く、症状が出てから72時間以内に開始することが望ましいとされています。72時間以上経過している場合でも、免疫抑制者であったり、眼部帯状疱疹・耳性帯状疱疹など重篤な後遺症を生じる病型の場合には抗ウィルス療法を検討します。
レジメンの選択
内服で加療する場合、バラシクロビル(バルトレックス®)、ファムシクロビル(®)、アメナメビル(アメナリーフ®)が選択肢となります。アシクロビルの内服薬も存在しますが、バイオアベイラビリティの面に難があり、他の薬剤を選んだ方が無難です。一般的にはバラシクロビルが選択されることが多いと思います。
アメナメビルは腎機能に依存しないため使用頻度が上がってきていますが、有効性の評価がⅢ相試験として行われた1件のRCT(非劣性試験)に基づくものです7)。2023年に市販後調査の結果をまとめた論文が発表され、有害事象が生じたのは0.77%と安全性は高いと考えられていますが8)、有効性について既存の薬剤やプラセボとの比較はされていません。救急外来をスポットで受診され、腎機能が分からない場合は選択肢としてもよいかもしれませんが、基本的にはバラシクロビルを優先すべきだと思います。
通常の帯状疱疹であっても強い免疫抑制状態にある場合や、眼部帯状疱疹や中枢神経合併症、汎発性帯状疱疹の場合は入院の上でアシクロビル静注による治療を行います。
治療例:
・バラシクロビル(バルトレックス®) 500mg 1回2錠を1日3回、7日間
・アメナメビル(アメナリーフ®)200mg 1回2錠を1日1回、7日間
・アシクロビル10mg/kg 8時間ごと点滴静注 10-14日間
また、コルチコステロイドの併用が症状期間が短縮したという報告がありますが、ルーチンでの使用は推奨されていません。
感染対策
通常の帯状疱疹ではウィルス血症を起こさないため、水痘のような空気感染による強い感染性はないと考えられています。ただし、皮疹部位からの接触感染を起こすことはあるため、痂疲化するまでは水痘ワクチンを接種していない乳児や免疫抑制者との接触は避けるべきです。
汎発性帯状疱疹の場合は強い感染性があるため、空気感染として陰圧個室での対応が必要となります。
参考
1)Clin Infect Dis. 2019;69(2):341.
2)J Med Virol. 2009 Dec;81(12):2053-8. doi: 10.1002/jmv.21599.
3)https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2433-iasr/related-articles/related-articles-462/8235-462r07.html
4)Mayo Clin Proc. 2007;82(11):1341.
5)Clin Gastroenterol Hepatol. 2006;4(12):1483.
6)Clin Infect Dis. 2009;48(10):1364.
7)J Dermatol. 2017 Nov;44(11):1219-1227.
8)J Dermatol. 2023 Oct;50(10):1287-1300.
・N Engl J Med. 2000;342(9):635
・UpToDate
・今日の臨床サポート