後に引けないよう先に宣言させて頂くと、この度3年目の際に学会発表させて頂いた症例でcase reportを作成することになりました。可能であれば英文誌への掲載を目指すつもりです。果たして自分にできるのでしょうか・・・。
その症例が播種性クリプトコッカス症でしたので、今回はクリプトコッカス感染症全般についてまとめてみたいと思います。
微生物学
〇分類
病原性を持つクリプトコッカスは担子菌、莢膜を持つ酵母である。莢膜凝集反応に基づいてA,B,C,Dの4つの血清型に分類される。血清型A,Dは以前はCryptococcus neoformansとひとくくりにされていたが、最近は血清型Aは遺伝子型の違いに基づいてC.neoformans var grubiiに、血清型DC.neoformans var neoformansに新分類された。血清型B、CはC.gattiiと呼ぶ別種とみなされている。
〇ライフサイクル
C.neoformansのライフサイクルは無性型と有性型に分類される。無性型は酵母として存在しており、出芽により増殖している。これらの半数体は、C.neoformans感染症に罹患したヒトから単細胞の酵母として検出されるものである。有性型は実験室レベルでしか観察できず、自然界では発見されていない。
〇発育と同定
C.neoformansは白色の粘液性のコロニーを形成し、通常48時間程度で肉眼で確認できるようになる。C.neoformansの実験室での同定は、ウレアーゼ陽性で莢膜を有する酵母菌であることを確認することで行われている。C.gattiiはCGB寒天培地での発育の特徴や、分子生物学的観点からC.neoformansとの区別がされる。更に、最近は酵素フェノールオキシダーゼによる市販のキットでC.neoformansとC.gattiiの区別が可能であるが、通常の実験室には常備されておらず、キットが高価であることには留意しなければならない。設備が整っていればマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF)によって迅速に判断することが可能となっている。
〇組織学的同定
酵母型のCryptococcusはメセナミン銀染色により組織学的に同定することが可能である。ムチカルミン染色では酵母型も莢膜型も同定が可能である。
A:IP患者の肺検体のHE染色。抜けているのがCryptococcus。
B:ムチカルミン染色の画像
〇莢膜
C.neoformansの周囲のポリサッカライド成分による莢膜は、墨汁染色などにより顕微鏡下で目視可能である。インクが抜け、周囲より明るい領域として確認できる。厚さはいろいろだが、おおよそ酵母本体の直径の50%程度である。莢膜は抗貪食作用があり、病原性と深くかかわっている。莢膜を持たない変異体のCryptococcusは、動物レベルの実験では明らかに病原性が低く、白血球にも容易に貪食されることがわかっている。
〇メラニン産生について
種の中でも、C.neoformansとC.gattiiは、酵素としてフェノールオキシダーゼを持っているのが特徴的である。この酵素はフェノール化合物のメラニンへの変化を触媒する。広い範囲のフェノール化合物がこの酵素の器質となり、ドパミンやアドレナリンといったカテコラミンも含まれる。
フェノールオキシダーゼはCryptococcus感染症において、病原性の一因として非常に重要である。動物モデルの実験で、この酵素が欠損したCryptococcusでは病原性が低下することが分かっている。また、抗体を媒介した貪食もされやすいようである。
メラニン産生による病原性のメカニズムは以下が考えられている。
・中枢神経系は比較的豊富にドパミンを含んでおり、フェノールオキシダーゼを持つCryptococcusと親和性が高い。また、カテコラミンを分解することで、酵母へのカテコラミンによる障害を防いでいる。
・産生したメラニンが抗酸化作用を発揮し、酵母の細胞膜において免疫細胞やその酸化物質による攻撃を防いでいる。
疫学
C.neoformansはCyptococcus属の中でも最も重要な病原体の一つであり、全世界に広く分布している。Cyptococcus感染症患者のうち、大多数が以下の免疫不全状態である。
・AIDS
・ステロイド内服中
・臓器移植後
・担癌患者
・肝疾患
・サルコイドーシス
C.neoformansの血清型または遺伝子型は、地域やHIV感染症の有無などで変わってくる。AIDSの流行前に行われた臨床分離株のレビューでは、C. neoformans var grubiiとC.neoformans var neoformansが分離株の 80% を占めていた。一方、AIDS患者から分離されるCryptococcusは大部分がC.neoformans var grubiiである。
C.neoformans var grubii、var neoformansは世界各地で鳥類、特に鳩や鶏から検出されている。鳩とC.neoformansの基本的な関係性はよくわかっていない。鳩自身はC.neoformans感染症には罹患しないが、これはC.neoformansが鳩の体温(40℃)では増殖できないためであると考える。一方で、鳩の腸管内で酵母として持続的に生存し保菌されることは可能である。鳩が人間のC.neoformans感染症においてどのような役目を果たすのかもよくわかっていない。クリプトコッカス症の患者でも、鳩への暴露歴はほとんど聴取できないことが多い。おそらく、鳩はC.neoformansの付着した野菜を食べて保菌状態となっているものと考えられる。人間も、多くの場合は同様に野菜から感染成立していると推定される。ヒト-ヒト感染は移植臓器を介した場合にのみ報告があるだけである。また、子供での発症はほとんど報告がされていない。
肺Cryptococcus症について
〇臨床的特徴
ヒトは担子胞子型の菌体や、小さな莢膜酵母を吸入することで発病する。担子胞子は罹患患者から検出されるような酵母型よりも小さく、より小さなポリサッカライドの莢膜を持ち、細気管支や肺胞まで到達しやすい。吸入後、C.neoformansは症状があっても軽度の肺臓炎を引き起こす。個々人の免疫システムの状態により、治癒するか更に肺炎として進行するかが決まってくる。多くのヒトは、C.neoformansに暴露したことがあるとされる。軽度の感染は普遍的であり、多くは症状がないことが多い。かつての研究では、症状の訴えがほとんどない免疫正常者では、C.neoformansの肺実質+肺門部リンパ節の肉芽腫性炎症程度にとどまっていることが示されている。一般的に、病巣は結核よりも小さく、石灰化もヒストプラズマ感染症と比べて少ないとされる。感染はその後も潜在性に持続し、ホストの免疫の低下と共にC.neoformansが活性化し有症状の感染症を引き起こす。
肺cryptococcus症は免疫正常者にも発症し、とあるレビューでは90%が免疫正常であり、32%の患者では症状がなく検診などで偶発的に発見されていた。無症状の患者では胸部レントゲンで発見され、悪性腫瘍の疑いで生検が行われて肺cryptococcus症であったと判明することが多いようである。暴露した患者が有症状の感染症に移行する要素は明らかではないが、接種した菌の量や菌種による毒性などが関与しているのではないかとされている。
よくある症状としては咳嗽、喀痰増加、血痰、呼吸困難、胸痛、発熱、全身倦怠感、夜間盗汗、体重減少などである。稀にしか見られない症状としては皮疹や消化器症状などがある。更に稀な状態として、肉芽腫性炎症によるSVC症候群やパンコースト症候群や、好酸球性肺炎なども報告されている。
免疫抑制者の肺cryptococcus症は、多くの場合は潜伏していた病原体が再活性化することで生じることが多い。勿論初感染であることもありえなくはない。一般的に、免疫抑制者は正常者と比べてより症状が強く、播種性になる頻度も高い。HIV感染症、悪性腫瘍、移植患者、肝硬変、腎不全、慢性肺疾患、糖尿病、クッシング症候群、サルコイドーシス、ステロイドユーザーは肺cryptococcus症に罹患するリスクが高い。特に、HIV患者ではCD4陽性T細胞が100/µl以下の際に発症しやすいと言われている。
〇診断
■培養と組織学的診断
喀痰やBALF、組織において、莢膜を有する酵母の肉眼的同定できると診断に非常に有用である。検体からCryptococcusの培養が出来れば診断は確定とできる。組織から酵母が検出されても、培養で陰性になることはしばしばある。Cryptococcus症に関連した胸水は普通滲出性であり、酵母が検出されれば大抵培養も陽性となることが多い。浸潤影が大きく、全身症状がある場合は血液培養をとることが推奨される
■抗原検査
血清cryptococcus抗原検査は施行するべきである。ただし、C.neoformans肺炎においては、免疫抑制者では陽性になることが多いのに対し、免疫正常者では陰性となることが多いことに留意すべきである。一方で、C.gattiiが起因菌の場合、免疫正常者の間でも効率に陽性となり、流行地では診断の上で非常で有用である。また、免疫抑制者においては、HIV患者ではほぼ100%、それ以外でも効率で陽性となるといわれており、呼吸不全の際に肺cryptococcus症のスクリーニング検査として有用である。
免疫正常・抑制に関わらず、血清抗原検査は治療効果判定に用いることは望ましくない。Tricosporon属やGemera Stomatococcus、Capnocytophagaの感染の際に偽陽性となることがあり、留意する必要がある。
■画像検査
免疫正常者における画像所見は様々である。もっとも多い所見は、孤立し境界不明瞭な、石灰化のない結節影である。報告では大葉性の浸潤影、肺門部または縦隔のリンパ節腫大、胸水があるパターンもある。免疫抑制者の場合、免疫正常者と比較し、より重篤な所見を示すことが多い。結節影だけでなく、肺全体に散在する病変や、大葉性の浸潤影、空洞影、胸水貯留をより認めやすい。これは、免疫抑制者では肉芽腫形成による病勢の抑制ができないためであると考えられる。
■腰椎穿刺
免疫正常者では、肺クリプトコッカス症が播種性に中枢神経まで至ることはめったになく、ルーチンの腰椎穿刺は不要と言われている。免疫正常かつ血清抗原価が低値で中枢神経症状がなければ腰椎穿刺はしなくてもよい。ただし、中枢神経症状や血清抗原価の高値など、播種を示唆する所見があればその限りではない。免疫抑制患者の肺cryptococcus症では脳髄膜炎検索のため必須の検査となる。頭痛などの症状の有無にかかわらず実施することが望ましい。
〇治療
HIV感染症のある患者のマネジメントをまとめた文献を元に考えると、びまん性の肺浸潤や播種性の所見がない、軽症から中等症の肺Cryptpcoccus症の患者では、FLCZ 400mg(6mg/kg)を1日1回、経口投与で6-12か月継続することが推奨される。重症である場合は脳髄膜炎/播種性cryptococcus症の治療に準ずる。
もしFLCZが使用不可であれば、
・ITCZを初日にloadindで200mg 1日3回を3日間行い、以降200mg1日2回で維持
・PSZ(ポサコナゾール)をloadingで300mgを1日2回、その後200mgを1日1回で維持
・イサブコナゾールをloadingとして200mgを1日3回を2日間、その後200mgを1日1回で維持
といった代替法もある。ただし、エビデンスは限られる。
免疫正常者で、無症状であり、培養、血清、組織学的に陽性であった場合で、自然経過で画像所見が改善する際には抗真菌薬はかならずしも必要ではない。
HIV患者では、上記治療を終えた後でもFLCZ 200mgの内服を継続した方がよい。治療によりCD4陽性T細胞が100/µl以上、血清抗原価が正常範囲内であれば中断することも検討してよい。
脳髄膜炎・肺Cryptococcus症以外の病態について
脳髄膜炎、肺以外の病変は播種性の病態を反映していることが多い。
皮膚病変は播種性の15%に生じるとされ、丘疹を呈する。紅斑、紫斑、潰瘍、蜂窩織炎、膿瘍なども報告されている。皮膚病変は播種性以外にも原発性として発症することもある。
播種性Cryptococcus症/髄膜脳炎の疫学など
〇病態
C.neoformans感染症は吸入により気道を通して感染が成立する。血行性に播種し、中枢神経に限局する傾向がある。その理由は明らかではないが、以下のような理論が考えられている。
・CSFには補体が少なく、cryptococcusの発育を妨げる因子が少ない
・ドパミン濃度が高く、メラニン産生の器質となりcryptococcusの病原性を増強させる
・cryptococcusが産生するマニトールにより脳浮腫が起こり、食細胞の活性が低下する
・cryptococcusは免疫システムを回避しBBBを透過しやすい。具体的にはマクロファージ内に侵入し、マクロファージがBBBを通過した後にCNS内に出ていき感染が成立する、というものである。
中枢神経における炎症は細菌性脳髄膜炎と比較しマイルドである。炎症細胞は単核球が多く、一部多核球もみられる。一般的に脳組織はびまん性に障害されるが、cryptococcomaのような限局性の病変も作りうる。
〇疫学
多くの患者は免疫抑制状態である。
HIV患者以外では、ステロイドユーザーや臓器移植後、担癌患者、サルコイドーシスや肝障害が背景にある場合が多い。その他、TKIのイブルチニブの使用、抗GM-CSF抗体を有することもリスクである。ただ、とある研究では30%の患者には特記すべき免疫抑制素因が認めなかった、という報告もある。
HIV患者においては、CD4陽性T細胞が100/µL以下のAIDSの状態である患者が90%以上を占めている。ARTを受けていないか、ARTを行っていてもアドヒアランス不良であったり、薬剤耐性株に罹患していることが多い。最近はARTの普及により世界的に罹患率は低下傾向であり、2014年は世界で23万人が罹患し18万人が命を落としている。AIDS患者の死因のうち、15%はCryptococcus感染症であると推定されている。
早期発見、早期治療が死亡率は低下させる。早期発見のため、血清cryptococcus抗原を測定することは理にかなっている。一般的に、神経症状が出る2週間前には陽性となるからである。
〇臨床的特徴
Cryptococcus髄膜脳炎の臨床像は様々である。数か月の経過を呈するものもいれば、数日の経過で診断がつくものもいる。多くの患者は亜急性髄膜脳炎としても臨床経過をたどる。半数の患者で発熱を認め、2-4週間の経過で頭痛、無気力、人格変化、記憶障害を呈する。
〇診断
脳髄膜炎の診断は、経過が亜急性で特異的な症状に乏しいため比較的難しいといえる。免疫抑制患者で発熱、頭痛といった中枢神経症状があった場合はすぐに疑うべきである。もちろん、免疫正常者であっても亜急性、慢性髄膜炎の場合は鑑別に挙げることは必要である。脳圧亢進所見があれば施行を遅らせることも考えなければならないが、診断確定の上で腰椎穿刺は最も重要であるといえる。
■CSF
腰椎穿刺を行い、初圧の測定、墨汁染色、PCR検査、クリプトコッカス抗原検査を提出することは診断の上で有用である。同様に培養も提出すべきである。
・初圧
初圧は明らかに上昇している。70%以上のHIV患者のcryptococcus髄膜脳炎で200mmH2O以上であったという報告もある。非HIV患者ではHIV患者と比べると比較的初圧は低いと言われる。
・CSFの細胞数
HIV患者では低値であり、0-50/µL程度であることが多い。非HIV患者では20-200/µLであり、HIV患者と比較すると高い。単核球有意であることがほとんど。
・グルコース/タンパク質
グルコースは低値、タンパク質は高値であることが多いが、中には正常であることもある。
・墨汁染色
HIV患者では70%に、非HIV患者では50%程度にCSFの墨汁染色で莢膜を有する酵母が確認できる。
Cryptococcus髄膜脳炎の診断はCSFから菌が培養されることで下される。非AIDS患者であれば90%で培養は陽性となる。大体3-5日間で生えてくることが多い。少なくとも3-5mlのCSFが必要であり、可能であれば15ml以上採取できるとなおよい。
■抗原検査
CSFの抗原検査は培養に次ぐ診断に有用な検査であるラテックス凝集法、ELISA、LFAなどの種類がある。特に後者はディップスティックに検体をつけるだけの簡便な検査であり、世界的にリソースが少ない場所であったも用いることができる。多くの実験室では腰椎穿刺後にすぐ結果を確認することができる。抗原検査陽性はすなわちCryptococcus感染症があることを示唆し、培養よりも迅速に診断を行うことができる。髄膜炎における髄液抗原検査は感度・特異度も高いと言われ、両者とも90%以上とされる。
血清の抗原検査は感度が低く、cryptococcus髄膜脳炎を完全には否定できない。また、検体の抗原含有量が余りに多いと偽陰性を示すことにも注意が必要である。AIDS患者でリスクが高い場合、症状がなくてもスクリーニング検査として血清抗原を測定することは許容される。
■PCR検査
HIV患者では感度、特異度が90%を超えるが、非HIV患者では感度が下がると言われている。特に、病原体の量が少ない場合、感度は50%にまで低下することを覚えておく必要がある。
■頭部画像検査
頭蓋内圧亢進の有無を調べるため、CTまたはMRIの検査は腰椎穿刺に先んじて行うべきである。ときおり水頭症の所見を示すことがある。
もし腫瘤性病変を認めた場合、特にHIV患者ではトキソプラズマ、悪性リンパ腫、結核などを鑑別に挙げるべきである。基本的にcryptococcus症で腫瘤性病変を形成することは稀であるが、免疫再構築症候群の際やC.gattii感染症の際は認めることもある。
■CNS以外の病変からの同定
播種性の場合はCNS以外の部位、具体的には血液、尿、喀痰などその他の検体からcryptococcusが検出されることもある。特に、AIDS患者のcryptococcus症では1/3で血液培養が陽性になると言われており、積極的な採取が推奨される。前立腺もcryptococcus症の好発部位とされる。
〇鑑別疾患
特にHIV患者が頭痛、発熱で来院した場合、
・Toxoplasma
・Tb
・悪性リンパ腫
・梅毒
・進行性多巣性白質脳症
を鑑別に挙げるべきである。
〇予後規定因子
抗真菌薬とARTの進歩により、cryptococcus症の予後は劇的に改善したと言える。
しかし、抗真菌薬開始から2週間の間にARTを開始することはIRISによる死亡率を高めるため避けるべきである。
先進国において、HIV患者の播種性cryptococcus症の急性期死亡率は6-16%程度である。
・意識障害あり
・CSFの抗原価がラテックス凝集法で1024以上、LFAで4000以上
・CSFのWBCが20/µL以下
上記の3因子のいずれかがあると予後不良といわれる。
播種性Cryptococcus症/髄膜脳炎の治療について
Cryptococcus髄膜脳炎は導入・地固め・維持療法と長期の抗真菌薬治療が必要になる。その他の治療として、頭蓋内圧のコントロール、免疫抑制状態の改善、免疫再構築症候群のコントロールなどがある。広範囲に浸潤影が広がっている肺炎や、複数臓器に病変が跨っていたり、cryptococcus抗原価が高値である場合はcryptococcus髄膜脳炎に準じて治療を行うことが必要となる。cryptococcus髄膜脳炎で用いる抗真菌薬にはAMPH-B、5-FU、FCZがある。特にFCZは薬剤相互作用が多く、使用前に注意が必要である
〇導入療法
妊婦以外であれば、推奨される薬剤はliposomal AMPH-B+5FUである。5FU(フルシトシン)が使用されるのはこの場面くらいであるが、複数の研究においてAMPH-Bとの併用で優れた治療効果が示されている。
・liposomal AMPH-B(3-4mg/kg/日)またはAMPH-B lipid complex(5mg/kg/日)を静注
・5-FU(100mg/kg/日)を4回に分けて内服
上記を少なくとも2週間以上かつ培養陰性化が確認できるまで継続するが、改善に乏しければ4-6週間まで延長する可能性もある。
フルシトシンには血球減少の副作用があるため、定期的に採血を行い血球数をモニタリングすることが必要である。
■導入療法が終了したら
・免疫抑制者
神経症状は脳実質病変がない場合、2週間の治療が終了した時点で腰椎穿刺を再検し、培養で真菌の有無を検索することで治療反応性をみる。治療効果とは相関しないと言われているため、CrAgの再検は不要である。ただ、この髄液培養での治療効果判定は検査から培養結果を確認するまで数週間かかるため、今後の方針決定が遅れることになる。そのため、up to dateの筆者らは治療への反応性が良く、初期評価でCSFの酵母が少ないかつCrAgが160以下であり、培養の陰性が予想される場合は培養結果を確認せず地固め療法へと移行している。それ以外の患者は培養結果を確認するまで初期治療を継続する。CSFの培養が陽性と帰ってきた場合、導入療法を継続し2週間ごとに腰椎穿刺を行ってCSFの培養が陰性化するめで継続するべきである。
・免疫正常者
早期発見できており、重症でなく、治療反応性がよく、新しい神経症状がない場合、必ずしも腰椎穿刺によるCSF再評価を行わずに地固め療法へ移行してもよい。
・神経症状が持続している場合
導入療法を継続しつつ、頭蓋内病変を検索するべきである。
〇地固め療法と維持療法
導入療法のあと、地固め療法としてFCZ(400-800mg[6-12mg/kg]を内服)を8週間継続する。多くの患者は400mgで行うことが多いが、up to dateの著者達は800mgでの治療を推奨している。その後、維持療法としてFCZ(200-400mg 内服)を診断から一年間は継続する。免疫抑制状態に継続してある場合、この期間は更に延長されることもある。
参考
・Up to date
・Clinical Practice Guidelines for the Management of Cryptococcal Disease: 2010 Update by the Infectious Diseases Society of America