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NAFLD/NASH

  • 2023年1月16日
  • 2023年1月26日
  • 消化器
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定義

非アルコール性脂肪性肝疾患(non-alcoholic fatty liver disease:NAFLD)の中でも、壊死・線維化を伴うものを非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)と呼称します。

・NAFLDは主にメタボリックシンドロームに関連する諸因子とともに、組織診断あるいは画像診断にて脂肪肝を認めた病態であり、病態がほとんど進行しない非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic fatty liver:NAFL)と、進行性で肝硬変や肝癌の発症母地にもなるNASHに分類されます。

・NAFLDと定義される飲酒量の上限は、エタノール換算で男性30g/日、女性20g/日未満と定義されます

疫学

・肥満人口の増加を背景にNAFLDの有病率は増加傾向になっていると考えられています。実際の数値については、検診受診者を対象とした2001年の調査では18%であったのに対して、2009-2010年の調査では29.7%と増加していることがわかっています。

・若年では男性に多いとされていますが、60歳以上では女性に多いと報告されています。

・肥満に多い印象がありますが、アジアでは非肥満患者におけるNAFLD有病率が高い傾向にあり、7-20%程度と見積もられています。

・NAFLDからの肝発がん率は低率(0.44/1,000人/年)ですが、肝病態の進展とともにリスクは上昇し、NASHでは5.29/1,000人/年、肝硬変では0.45-22.6/人/年であると考えられています。

・また、NAFLDでは肝癌以外にも大腸癌および乳癌の発生頻度が増加することもわかっています。

病態

・NAFLDの病態は複雑であり、完全には解明されていません。

・肝臓と脂肪組織、腸管など他臓器との相互作用がNAFLD/NASHの進展に寄与しているとされます。具体的には脂質の肝細胞流入増加による酸化ストレス亢進、インスリン抵抗性増加、脂肪組織からのアディポサイトカイン分泌異常、腸管からのエンドトキシン流入などがその要素として挙げられ、これらが同時進行的にNAFLD/NASHの発症および病態伸展に関与しています。

診断

〇診断

・NAFLDの診断は、“画像もしくは組織学的に肝臓に脂肪蓄積(肝細胞の5%以上)を認め、アルコール、薬剤、遺伝子疾患などによる二次性脂肪肝を除外されたもの”とガイドラインでは明記されています。また、NAFLDは組織学的にNAFLとNASHに分類されます。

・プライマリケアの場面では肝機能障害の患者さんの診療を行うことが多々あると思いますが、NAFLDなのか、それとも他に原因のある肝障害なのかを鑑別することが重要となってきます。以下、NAFLDと診断する前に確認しておくべき疾患を列挙します。

・もちろんNAFLDに他の肝障害をきたす疾患が合併することもありますから、頻度の高いB型肝炎やC型肝炎などを除外する必要があります。up to dateに記載されていた“すべての患者で行うべき検査”です。

抗HCV抗体

HAV-IgG

HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体

血清鉄、フェリチン、TIBC

血清γグロブリン値、抗核抗体、抗平滑筋抗体、抗ミトコンドリア抗体

※ただし、抗平滑筋抗体は保険未収載のようなので、まずは抗核抗体のみ提出するという形でよいと思います。

・脂肪肝の有無についてはエコーやCTで判断可能です。エコーでは肝実質が高エコーとなり、肝腎コントラスト増強として描出されます。また、CTでは肝実質が全体的に低吸収に描出されます。

・肝生検の適応については、ガイドラインには“NASH診断のgold standardであるため、可能な限り施行することを考慮する。特に他の慢性肝疾患との鑑別が必要な場合や線維化の進行が疑われる場合に、行うことを推奨する”とされています。もちろん全例に行うのは現実的ではないでしょうから、記載の通り他の慢性肝疾患との鑑別が困難な場合に一度専門医に紹介するのがよいでしょう。

〇診断ゲシュタルト

・“青壮年(20-50歳くらい)の男性が健診を契機に肝障害や糖・脂質代謝障害を指摘され受診し、常用飲酒歴がなく腹部超音波検査で脂肪肝を認める”がNAFLD(特にNAFL)の診断ゲシュタルトです。

・また、NALFの経過のゲシュタルトは“ウルソやビタミンE製剤などではあまり低下しないトランスアミナーゼが7%程度の減量で劇的に低下する疾患”とも言い換えることができます。

・NASHのゲシュタルトは“糖尿病や心血管疾患で通院している中年から高齢患者(50-70歳くらいで精査なし)が、肝障害の精査のため施行した腹部画像検査で肝硬変や比較的大きな肝細胞癌と診断される”ことです。

NASH診断時の画像検査ではすでに脂肪肝の所見を認めない(すなわちburned-out NASH)場合が多いとされます。

・NASHは静かに、隔日に肝病態が進展する難治な疾患であり、アルコール性肝疾患のゲシュタルトが“動的な(Dynamic)経過をたどる脂肪性肝疾患”であれば、NASHは“静的な(Static)経過を辿る脂肪性肝疾患”と言えます。

治療

・基本的には減量、食生活・運動生活の改善など、生活改善が基本となってきますが、一部の薬剤がNAFLD/NASHに有効性が確認されています。

〇ピオグリダゾン

ピオグリダゾンはチアゾリジン誘導体であり、核内受容体であるPPARγのアゴニストとして作用し、大型の脂肪細胞を小型に分化させます。これにより肥大した脂肪細胞から分泌される遊離脂肪酸やTNFα、IL-6などの炎症性アディポカインが減少し、アディポネクチンの分泌量が増加することからインスリン抵抗性、脂質代謝異常を改善させます。比較的短期の使用でNASHの肝組織像を改善することがわかっており、2型糖尿病に合併するNASHにおいて投与が推奨されています。ただし、浮腫や心不全などの副作用が多い薬剤であるため、現実的には使いにくいです。

〇ビタミンE

ビタミンEはNASHの血液生化学検査および肝組織像を改善させるため、投与することがガイドライン上推奨されています。ただし、メタアナリシスでは高用量で全体的な死亡率がわずかに増加することが視されており、他にも出血、前立腺癌、心不全、脳出血のリスクを高める可能性があるとされます。実際にNALFD/NASHの治療目的のみで処方されている人は見たことがないです…。

〇GLP-1アゴニスト

いくつかの小規模から中規模のRCTで脂肪肝および炎症を改善することがわかっています。GLP-1アゴニストは強力な減量効果を持っており、その影響が多分に考えられます。NAFLD/NASHを有する2型糖尿病患者には積極的に使用してもよさそうです。

〇SGLT-2阻害薬

SGLT-2阻害薬もGLP-1アゴニスト同様、NAFLD/NASHの肝機能と肝組織を改善させる効果があることがわかっています。

〇ACE-I/ARB

高血圧症を有するNAFLD/NASH患者において、血液生化学検査と肝組織を改善させることが示唆されているため、ガイドライン上投与が提案されています。

参考

・Lancet. 2021 Jun 5;397(10290):2212-2224.

・up to date

・日本消化器病学会 日本肝臓学会 NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改訂第2版)

・消化器疾患のゲシュタルト 金芳堂