褥瘡は日々の診療で頻繁に遭遇する病態です。病棟や在宅のセッティングではもちろんのこと、外来でも患者さん・家族から相談を受けることが少なくありません。褥瘡の適切な評価と管理を行うことで、患者の生活の質を改善し、治癒を早めることが可能です。本記事では、褥瘡の基本事項について、以下の項目に分けて解説します。
褥瘡の基本
褥瘡とは
日本褥瘡学会は、褥瘡を「身体に加わった外力は、骨と皮膚表層の間の軟部組織の血流を低下、あるいは停止させる。この状態が一定時間持続されると組織は不可逆的な阻血性障害に陥り、褥瘡となる」と定義しています。つまり、褥瘡とは、圧が加わることで、皮膚軟部組織が虚血となって生じる皮膚障害とも言い換えることができます。
発生リスクが高い部位としては、仙骨部、大転子、踵骨などが挙げられます。
褥瘡発生の要因は、局所要因、全身要因、社会要因に分類され、これらが重複するほど褥瘡のリスクが高くなります。
①局所要因
外力に対する組織の耐久性が褥瘡の発症に影響します。例えば、浸軟している皮膚は表皮の角質細胞が膨張し、結合が弱くなるため、組織損傷が起こりやすくなっています。同様に、乾燥や非薄、浮腫、黄疸などで皮膚は脆弱化し、褥瘡のリスクとなり得ます。
➁全身要因
皮膚の脆弱化や骨突出、活動性の低下などを引き起こす基礎疾患や全身状態、治療などが要素として挙げられます。重症である患者さんでは、この全身要因が褥瘡形成の前景に立ちやすいです。
③社会要因
介護力が不足することで、体位変換や食事による栄養摂取が困難となり、褥瘡リスクが増大します。在宅のセッティングでは、この社会要因が大きくなりやすい傾向があります。また、経済的な負担など、患者さんや家族を取り巻く環境にも注意を払う必要があります。
褥瘡の経過
褥瘡は①圧力による発赤→➁びらん(浅い皮膚までの創)→③皮下に達する創→④壊死組織の増加→⑤腱や骨の露出という順に増悪していきます。できるだけ早期に発見し、進展を防ぐことが重要です。また、それぞれのフェーズで対処法が異なることも押さえておく必要があります。なお、治癒過程については逆行して考えていけばよいです。
①圧力による発赤
皮膚に発赤を認めますが、創形成はしていない状況です。この場合、除圧や被覆材貼付により、➁への進展を予防することが可能です。ただし、皮膚表面には創形成がないものの、深部組織損傷(deep tissue injury:DTI)がある状態と間違えないように注意する必要があります。この場合、皮膚がより暗く、皮下出血をしているように見えることが多いです。
➁びらん(浅い皮膚までの創)
皮膚にびらんを形成した状態です。創面は真皮浅層まででは赤色に、深層にまで至ると白色に見えます。こちらも除圧や被覆材貼付により進展を抑制できます。
③皮下に達する創
真皮を超えて皮下組織にまで達してしまった状態です。黄色の脂肪組織が露出しますが、肉芽や感染など、創の状態によって肉眼所見は様々です。外用薬や創部に充填する被覆材の選択が必要となり、局所陰圧閉鎖療法も検討します。不良肉芽などがあれば、適宜デブリドマンを行います。
④壊死組織の増加
創面が黄色や黒色の壊死組織に覆われた状態です。外科的なデブリドマンを行うため、壊死組織を柔らかくするための外用薬を使用したり、感染予防のためのヨード製剤の併用を検討します。
⑤腱や骨の露出
創面が皮下組織を超え、腱や骨に達してしまった状態です。皮下組織の薄い外踝・踵部などで生じやすいです。デブリドマン、局所陰圧閉鎖療法に加え、皮弁移植術が必要となることがあります。
褥瘡の評価
褥瘡評価の目的は、病態を正確に把握し、適切な治療方針を立てることにあります。評価スケールには色々なものがありますが、まずはNPUAP分類とDESIGN-R®2020を覚えるようにしましょう。
NPUAP分類はNPUAP(米国褥瘡諮問委員会:National Pressure Ulcer Advisory Panel)が提唱する褥瘡の深達度(深さ)による分類です。ステージⅠ(消退しない発赤)、ステージⅡ(部分欠損)、ステージⅢ(全層皮膚欠損)、ステージⅣ(全層組織欠損)の4段階に分類されていましたが、NPUAPは2009年にEPUAP(欧州褥瘡諮問委員会:European Pressure Ulcer Advisory Panel)と共同で改訂版を出し、米国向け追加のカテゴリとして「皮膚または組織の全層欠損—深さ不明」と「深部組織損傷疑い (suspected DTI)—深さ不明」の2つが追加されました。
また、DESIGN-R®2020は日本褥瘡学会から提唱されたものであり、深達度だけでなく、浸出液、大きさ、炎症/感染、肉芽組織、壊死組織、ポケットなど複数の項目を確認し、重症度と経過を評価するスケールです。褥瘡の治癒過程を評価するだけでなく、異なる褥瘡に対しての重症度を比較することが可能だとされています。本邦では、NPUAP分類よりもDESIGN-R®2020を使用することが多いようです。
ドレッシング材の選択
ドレッシング材とは、褥瘡を含めた創を保護し、治癒を促進するために使用される医療製品です。様々は種類があり、湿潤環境を保つもの、吸水性があるもの、抗菌作用があるものなど、それぞれに特徴があります。創面の状態を見て適切なドレッシング材を選択することが重要です。なお、日本褥瘡学会はDESIGN-R®に基づいてドレッシング材を選択することを推奨しています。
また、明らかな感染創は、閉鎖環境にすることで感染を助長するリスクがあります。感染創には閉鎖性のドレッシング材は使用せず、毎日洗浄を行うとともに、抗菌作用のある外用薬を併用する必要があります。
以下に代表的なドレッシング材を表にまとめます。
外用薬の選択
ドレッシング材と同様、外用薬も褥瘡の状態に応じて適切に選択する必要があります。
浅い褥瘡の場合
浅い褥瘡(発赤、びらん、水疱、浅い潰瘍)では、創面を保護し、適度な湿潤環境を維持することで皮膚の再生を目指します。基本的にはドレッシング材を使用しますが、ワセリンや酸化亜鉛(亜鉛華軟膏®)、ジメチルイソプロピルアズレン(アズノール軟膏®)を使用してもよいです。また、びらん・浅い潰瘍では、上皮化を促すため、アルプロスタジルアルファデクス(プロスタンディン軟膏®)やブクラデシンナトリウム(アクトシン軟膏®)なども選択肢となります。
深い褥瘡の場合
深い褥瘡では、壊死組織を除去し、肉芽形成を促進させ、創部の縮小・閉鎖を目指していきます。特に、感染を伴う場合はそのコントロールを最優先にします。創面の状況に応じて、いくつかの外用薬の中から最適なものを選択します。ここでは、
①スルファジアジン銀(ゲーベン®)
➁ポビドンヨード・シュガー(イソジンシュガーパスタ軟膏®)
③カデソキマー・ヨウ素(カデックス軟膏®)
の3つを覚えておくようにしましょう。
①スルファジアジン銀(ゲーベン®)
スルファジアジンという抗菌薬と、抗菌作用を持つ金属イオンである銀イオンを組み合わせた薬剤です。吸水性には乏しいため、滲出液の少ない感染巣に良い適応があります。また、組織を軟化・自己融解を促進させる作用があるため、硬い壊死組織にも有効です。
➁ポビドンヨード・シュガー(イソジンシュガーパスタ軟膏®)
抗菌作用のあるポビドンヨードと糖分を組み合わせた外用薬です。糖分は浸透圧が高く、細菌の増殖を抑える効果があります。糖分が水分を吸収するため、浸出液の多い感染巣が良い適応です。適切な湿潤環境を維持し、肉芽形成を促進するため、肉芽形成期にも使用が勧められます。総じて汎用性の高い外用薬と言えるでしょう。
③カデソキマー・ヨウ素(カデックス軟膏®)
カデソキマーはデンプン由来のポリマーであり、内部にヨウ素を含んでいます。創面でヨウ素を徐々に放出するため、持続的な抗菌効果を示します。ポリマー構造が浸出液を吸収するため、ポビドンヨード・シュガーよりも吸水性に優れているとされています。また、軟らかい壊死組織を吸着・清浄化をするため、化学的デブリドマンの機能も持ち合わせています。
ポビドンヨード・シュガーとの使い分けが悩ましい所ですが、壊死組織・滲出液が多い創面には本剤を優先して用いるとよいでしょう。ただし、薬価が高い点には注意が必要です。
加えて、粒子を残すと異物・感染源となるため、十分に洗浄を行うことを忘れないようにしましょう。
また、順調に肉芽が形成されている場合、
④アルプロスタジルアルファデクス(プロスタンディン軟膏®)
⑤ブクラデシンナトリウム(アクトシン軟膏®)
⑥トラフェルミン(フィブラストスプレー®)
など、肉芽形成作用がある薬剤が選択肢となります。
④アルプロスタジルアルファデクス(プロスタンディン軟膏®)
局所血流を改善し、肉芽形成を促進する薬剤です。滲出液が多い創には適していません。
出血傾向に注意が必要です。
⑤ブクラデシンナトリウム(アクトシン軟膏®)
局所血流を改善し、表皮形成、肉芽形成を促進します。吸水性が強く、滲出液の多い創でも使用可能です。反対に、創部の乾燥には気を付けるべきです。
⑥トラフェルミン(フィブラストスプレー®)
線維芽細胞増殖因子を含有しており、最も強い肉芽形成・表皮形成促進作用を持っています。ただし、スプレー剤であるため、軟膏やドレッシング材を併用しないと湿潤環境を保てない上、薬価が高く、保存期間が2週間しかないという欠点があります。
まとめ
・褥瘡の原因を把握する
・褥瘡の評価方法として、NPUAP分類とDESIGN-R®2020を覚えておく
・基本的なドレッシング材と、その使い分けを押さえておく
・外用薬の使い分けを覚える
参考
・創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン2023 褥瘡診療ガイドライン 第3版 日本皮膚科学会
・先輩になったらこの1冊だけでいい!褥瘡・創傷ケア メディカ出版