作用機序
ロモゾズマブ(イベニティ®)はスクレロスチンをターゲットにしたヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体です。スクレロスチンは骨細胞によって産生される糖タンパク質で、骨芽細胞系細胞においてWntシグナル伝達を抑制することにより、骨芽細胞による骨形成を抑制するとともに破骨細胞による骨吸収を促進する作用があります。ロモソズマブはスクレロスチンに結合することでその作用を抑制し、骨形成の促進、骨吸収の抑制をするという、いわゆるデュアル・エフェクトを持っています。
抗スクレロスチン抗体の製剤について
本邦ではイベニティ®として販売されています。イベニティ®は月に一回、医療機関で皮下投与を行います。自己注射ではないことに注意が必要です。また、一回25,061円(2022年10月1日現在)と非常に薬価が高いことにも留意する必要があります。
抗スクレロスチン抗体のエビデンス
抗スクレロスチン抗体には、閉経後女性に骨粗鬆症について、FRAME試験とARCH試験の2つの第三相試験が存在しています。前者のFRAME試験では、1年間ロモソズマブないしはプラセボを投与し、その後両グループに1年間デノズマブが投与されました。その結果、プラセボと比較し椎体骨折、非椎体骨折ともに有意に減少することが示されました。1),2)
また、ARCH試験では、ロモソズマブとアレンドロン酸を12か月無作為に割付け、続いて両群に対しアレンドロン酸を投与しました。その結果、アレンドロン酸群と比較し、椎体骨折、非椎体骨折、大腿骨近位部骨折を有意に減少させました。3)
まとめますと、抗スクレロスチン抗体は椎体骨折、大腿骨近位部骨折ともに減少させる作用があります。さらに、骨粗鬆症治療薬でBP製剤と比較し、明確にポジティブな結果を出したことは大きいといえるでしょう。
副作用
ロモソズマブで多い副作用として、関節炎や注射部位反応があります。その他、少ないながら顎骨壊死や異型骨折も発生するようです。最も懸念されるのは、重篤な心血管系の有害事象(虚血性心疾患、心不全、脳血管障害など)です。ARCH試験において、アレンドロン酸と比較し心血管イベントが2.5% vs 1.9%と多い傾向を認めました。ただし、より大規模なFRAME試験ではこの傾向は見出されておらず、いまだはっきりとした見解は出ていません。ただ、生命に関わる有害事象であり、今のところは心血管リスクを高める可能性があるものとして受け止めておくことが無難と考えます。また、中止により骨密度が急速に低下してしまうことがわかっているため、後療法は必須なのも忘れてはいけません。
実際の使い方
高価とはいえBP製剤よりも優れた骨折予防効果があるため、骨粗鬆症治療薬の中でも今後に期待のできる薬剤です。しかし、やはり心血管系イベントのリスクが払拭できていない点が気になります。添付文書にもある通り、以下のようなリスクの高い骨粗鬆症患者に限って使用を検討するのがよいと考えます。
・骨密度が-2.5SD以下で1個以上の脆弱骨折を有する
・腰椎骨折密度が-3.3SD未満
・既存椎体骨折の数が2個以上
・既存椎体骨折の半定量評価がグレード3
抗スクレロスチン抗体のまとめ
参考
1)N Engl J Med. 2016;375: 1532-1543.
2)J Bone Miner Res 2019; 34: 419-428.
3)N Engl J Med 2017; 377: 1417-1427.
4)Lancet. 2022 ;400:732. 骨粗鬆症治療薬についてのreviewです。