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高TG血症は本当に治療しなくてもよいのか?

以前脂質異常症に関する記事を書きました。

高TG血症は、治療を行ってTGを低下させたとしても、アテローム性心血管疾患(ASCVD)を低下させるというエビデンスに乏しいとされています。このため、高LDL-C血症と異なり、基本的には高TG血症は治療を行わないことが多いです。上記の記事でもそのように推奨をさせて頂きました。

私も基本的には高TG血症の治療を行わないスタンスなのですが、今回は“高TG血症を治療する意義は本当にないのか?”という点をより深めてみたいと思います。

アテローム性心血管疾患(ASCVD)との関連

高TG血症はASCVDのリスクとなるのか

我々内科医が高血圧、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病を治療する際、究極のアウトカムとするのが脳梗塞、心筋梗塞といったアテローム性心血管疾患(ASCVD)の予防です。そのため、高TG血症とASCVDの関連性をよく理解する必要があります。

高TG血症が心筋梗塞などの冠動脈疾患を増やすという点は以前から複数の観察研究で指摘されていました1)2)。一方、2009年のメタアナリシス3)では、TGののリスクは調整済みHR 0.99(95%CI 0.94~1.05)と有意な関連は示されませんでした。また、脳血管疾患についても、TGのリスクは調整済みHR 1.02(95%CI 0.94-1.11)と有意な関連はありませんでした。

UpToDateでは、

・そもそも高TG血症がアテローム性動脈硬化を進行させるという機序が説明できない

・TGを低下させる薬剤(フィブラート、スタチンなど)は、少なからずLDL-Cを低下させるなどの他の作用があるため、TG低下による臨床効果を証明することが難しい

としており、その関連性については懐疑的です。

高TG血症とASCVDの関連性は何とも言えないというのが現時点での結論になります

高TG血症の治療によりASCVDは予防できるのか

まず初めに、日本動脈硬化学会による動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年度版における推奨を確認しておきましょう。

一見高TG血症の治療を推奨しているように見えますが、色々と付随する条件が提示されています。

下記の高LDL血症に対する薬物療法の推奨文と比較すると、複雑でわかりにくいと言わざるを得ません。

それぞれ推奨のベースとなった研究を確認しておきましょう。

補足ですが、イコサペント酸エチル(EPA)はω-3系多価不飽和脂肪酸(ω3系脂肪酸)に属しており、ニシン、サバなどの魚油に含まれています。肝臓でのVLDL合成を抑制し、TGを減少させ、わずかながらHDL-Cを増加させる効果を持ちます。

まず、①の推奨については、2019年のREDUCE-IT試験4)、2007年の日本人を対象としたJELIS試験5)が根拠となっています。いずれもスタチンの投与によりLDL-Cが適切に管理された上でEPAを上乗せすることでASCVDの予防効果が認められています。一方、2012年のシステマティックレビュー6)では、20件のRCTのメタアナリシスでEPAは総死亡、心筋梗塞、脳卒中のいずれも減らすことができませんでした。

高TG血症とEPAの関連性の解釈はなかなか難しそうですが、UpToDateによれば、

・REDUCE-IT試験、JELIS試験の結果から、高リスク患者においてスタチンにEPAを上乗せすることで、心血管イベントの抑制効果があることは確からしい。

・ただし、TG低下の程度は心血管イベントのリスクとは関連がなく、心血管イベントの抑制効果はTGの低下というよりもEPAの固有の作用(血小板凝集抑制、内皮機能改善など)による可能性が高い

ということが記載されています。つまり、①の推奨はEPA固有の作用に依存しているというわけですね。これだけでは積極的に高TG血症の治療を行う根拠とはしては弱いです。

では、推奨➁はどうでしょうか?推奨①と比較しますと、“低HDL血症がある”という条件はあるものの、よりTGを低下させる治療にフォーカスしている印象です。

根拠となった研究にはFIELD試験7)やACCORD試験8)があります。これらの研究は2型糖尿病を対象にフィブラート系薬剤であるフェノフィブラートによる主要な脳心血管イベント抑制効果を検討した研究ですが、残念ながらその効果は立証されませんでした。ただ、FIELD試験の事後解析やACCORD試験のスタチン内服症例を対象としたサブ解析では、高TG血症かつ低HDL-C血症を示す脂質異常症患者においては、フェノフィブラートによる脳心血管イベントの抑制を認めたとされています。

また、2019年のTG低下作用を示す薬剤を用いた24臨床試験と、スタチンを用いた25臨床試験を複合させた大規模なメタアナリシス9)では、TG 1mmol/L低下で16%の有意な主要血管イベント抑制効果を認め、これはLDL-Cのイベント抑制効果20%とほぼ同等であり、かつ独立していました。ただし、この研究は前述のREDUCE-ITを除外すると減弱してしまうため、やはりEPAの効果に引っ張られる部分が大きいようです。

推奨➁の根拠論文を見てみても、事後解析やサブ解析の結果が中心であり、高TG血症に対して積極的に治療を行う根拠としてはエビデンスが脆弱と言わざるを得ません。

以上を踏まえ、現時点では高TG血症の治療によるASCVDの予防効果は明確ではないと判断します

実臨床での対応

ここまでまとめてきた通り、やはりASCVDの予防を目的とした高TG血症の治療は積極的に行う根拠に乏しいというのが正直な感想です。本邦のガイドラインの記載も歯切れの悪い書き口となっています。

ここでUpToDateのHypertriglyceridemia in adults: Managementという項目での推奨を見てみましょう。

・高TG血症の治療によるASCVDの予防効果はエビデンスが限られている

・生活習慣の改善を行いつつ、高LDL-C血症があるのであればそちらの治療を検討する

・その上で、高TG血症が持続している場合にEPAを追加することを推奨する

と、その対応が簡潔にまとめられています。

従来、高TG血症の治療というとフィブラート系が有名ですが、UpToDateはその使用を積極的には推奨しておらず、使うにしてもEPAを推奨しています。

また、補足ですが、本邦でのみ採用されている高TG血症の薬剤で、ぺマフィブラート(パルモディア®)というものがあります。これは厳密にはフィブラート系ではなく、PPARαモジュレーターです。スタチンと併用しても横紋筋融解のリスクが上昇せず、使用しやすい薬剤とされています。作用機序から心血管イベント抑制の効果が期待されていましたが、2022年のNEJMに掲載された研究10)では残念ながらその効果は証明されませんでした。

こういった点も踏まえ、

・ASCVDの治療を目的とした高TG血症の治療は根拠に乏しい

・フィブラート系、PPARαモジュレーターは使用する根拠に乏しい

・生活習慣の改善、高LDL-C血症への介入を行い、それでもTGが高く血管リスクもある場合にEPAの上乗せを検討する

と推奨したいと思います。

〇各薬剤とTG低下作用

フィブラート系以外の薬剤にもTGを低下させる作用があります。薬剤ごとのTG減少作用をまとめておきます。

・フィブラート系:50-70%

・EPA:20-50%

・スタチン:5-15%(ストロングスタチンではさらに減少)

・エゼチミブ:7-8%

・PCSK9阻害薬:2-23%

膵炎との関連

高TG血症は膵炎のリスクとなるのか

高TG血症が膵炎のリスクとなることは広く知られ、急性膵炎の1-35%が高TG血症に起因するとされています。また、TG値に比例してそのリスクも上昇し、TG>1,000mg/dLの患者群の約5%、TG>2,00mg/dLの患者群の10-20%が膵炎のリスクがあるといわれています11)裏を返せば、TG>500mg/dLを超えないような高TG血症では過度に膵炎の合併をおそれる必要はないです

病態としては、膵リパーゼによるTGの脂肪酸での分解が脂肪毒性を惹起し膵炎を引き起こすことが考えられています。

高TG血症の治療により膵炎は予防できるのか

病態を考えれば非薬理学的および薬理学的な介入でTGを低下させることで膵炎リスクを低減できると考えられますが、そのエビデンスは限られています。

フィブラート系はTGを最も低下させる薬剤ですが、膵炎のリスクが高まるTG>1,000mg/dL以上の患者に対するデータはありません。正常-中等度の高TG血症を対象に行われたメタアナリシス11)では、むしろフィブラート系で膵炎のリスクが上昇する傾向が確認されています。ただし、膵炎の総数が少なく有意とはいえません。

スタチンでも重度の高TG血症に対するエビデンスはありません。上記のメタアナリシスでは、スタチンが膵炎のリスクを減少させることが示されています(RR 0.77: 95%CI 0.62-9.97)。

EPAを含めたその他の薬剤の膵炎リスクとの関連は不明です。

実臨床での対応

高TG血症に介入することで膵炎を予防できるエビデンスは乏しいものの、病態を考えれば有効である可能性があります。

生活習慣の改善、高LDL-C血症への介入を行ってもTG>1,000mg/dLである場合、薬物治療を検討します。使用する薬剤は数値を下げるという観点からはフィブラート系が有効ですが、すでにスタチンを内服している場合には横紋筋融解のリスクから併用しにくいです。前述のASCVDへの予防効果も期待し、EPAを検討するのが良いかもしれません。

すでに高TG血症による膵炎の既往がある患者さんではより積極的に治療を検討します。

まとめ

最後に簡単に要約します。

・ASCVDの予防としての高TG血症への介入はコスパが悪い

・極端にTGが高い場合は膵炎のリスクとなり、介入により膵炎を予防できる可能性がある

・生活習慣の改善、高LDL-C血症への介入を行っても高TG血症が持続する場合、

 ①ASCVDの予防としては血管リスクの高い人にEPAを検討する

 ➁膵炎の予防としてはTG>1,000mg/dLの場合にEPAないしはフィブラート系を検討する

基本的に高TG血症への介入はしなくてもよいというスタンスは維持していくことになりそうです。それにしてもEPA製剤の可能性は期待できるかもしれませんね。ただ、やはり積極的に使うかというと微妙な所です。EPAには出血傾向や心房細動といった副作用がありますし、基本はスタチンに上乗せして使うとなるとポリファーマシーの原因となってしまいます。もう一押し強いエビデンスがほしい所ですね。

参考

1)Circulation. 1999 Aug 3;100(5):475-82.

2)JAMA. 2007 Jul 18;298(3):299-308.

3)JAMA. 2009 Nov 11;302(18):1993-2000.

4)N Engl J Med. 2019 Jan 3;380(1):11-22.

5)Lancet 2007;369:1090-1098.

6)JAMA. 2012 Sep 12;308(10):1024-33.

7)Lancet. 2005 Nov 26;366(9500):1849-61.

8)N Engl J Med. 2010 Apr 29;362(17):1563-74.

9)Circulation. 2019 Oct 15;140(16):1308-1317.

10)N Engl J Med. 2022 Nov 24;387(21):1923-1934.

11)J Clin Gastroenterol. 2014 Mar;48(3):195-203.

12)JAMA. 2012 Aug;308(8):804-11.

・動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年度版 https://www.j-athero.org/jp/jas_gl2022/

・UpToDate

・Gノート 動脈硬化御三家 南郷栄秀 羊土社