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ダプトマイシンと好酸球性肺炎

先日の好酸球性肺炎の記事について、かつての上級医の先生からダプトマイシン誘発性好酸球性肺炎についての論文を紹介して頂きました。今回はその内容をまとめてみたいと思います。

ダプトマイシンと好酸球性肺炎

〇ダプトマイシンとは

ダプトマイシン(DAP)とは主にMRSA感染症に対して用いられるリポペプチド系抗菌薬です。

皮膚軟部組織感染症や菌血症に対して用いられます。MRSA菌血症に対してはバンコマイシン(VCM)と並んで第一選択となりますが、基本的にはVCMの次点の薬剤として使用されることが多いです。

肺表面活性物質で失活してしまうため、肺炎には使用することができません。

熱病によれば、

・皮膚軟部組織感染症:4-6mg/kg

・菌血症:8-12mg/kg

での使用が推奨されています。

基本的には腎排泄であり、腎機能障害患者へは用量調整が必要となります。

副作用としてはCK上昇、横紋筋融解症に注意する必要があり、CKをモニタリングし正常の5倍以上の上昇があれば中止とします。

髄液移行性、骨移行性は不良であり、髄膜炎や骨髄炎への実績は不十分です。

〇好酸球性肺炎とは

好酸球性肺炎とは、気腔、間質に好酸球が浸潤して生じるびまん性肺疾患の一種です。急性と慢性に分類されますが、経過や患者背景などが全く異なるため注意が必要です。好酸球性肺炎については下記にまとめてありますのでご参照ください。

〇DAPと好酸球性肺炎との関係

DAPの販売開始後よりDAP誘発性好酸球性肺炎の報告が認められるようになりました。好酸球性肺炎には急性と慢性がありますが、DAP誘発性好酸球性肺炎は主に急性の経過を辿るとされており、急激かつ重篤な呼吸不全を呈します。DAPの肺毒性のメカニズムはわかっていませんが、DAPの長期投与により、

・肺胞上皮表面にDAPが沈着し、上皮損傷および肺炎を引き起こす

・DAP-肺表面活性物質の相互作用が脂質に影響を与え、炎症反応を引き起こす

ことが仮説として挙げられています。

FDAによれば、好酸球性肺炎は次の基準が満たされた場合にDAP誘発性であると判断します。

①DAPを投与している

➁発熱がある

③酸素需要または機械的換気を必要とする呼吸困難がある

④胸部Xp、CTで新規の浸潤影がある

⑤気管支肺胞洗浄液(BALF)で好酸球が25%以上を占める

⑥DAP中止後に臨床的な改善が見られる

〇DAP誘発性好酸球性肺炎のエビデンス

Priyashaらのシステマティックレビュー1)によれば、35例のDAP誘発性好酸球性肺炎が最終的に解析されました。男性が83%を占めており、大多数が高齢者でした(平均年齢65.4±15歳)。DAPの投与量は4-10mg/kg/日の範囲(6.4±1.6mg/kg/日)であり、腎機能障害のある患者が多数含まれていました。DAPの平均投与期間は2.8±1.6週間でした。患者の大部分は呼吸困難(94%)、発熱(57%)、末梢好酸球増多(86%)を呈していました。患者の34%はDAPの中止のみで改善しましたが、66%にはステロイドによる治療が行われていました。

また、Ishikawaらの後方視的観察研究2)では、DAP誘発性好酸球性肺炎の可能性のある患者25名とDAPを投与されたが好酸球性肺炎を起こさなかった群425名を比較検討しました。年齢の中央値は前者が72歳、後者が64歳であり、DAP誘発性好酸球性肺炎群で有意に年齢が高いという結果でした。DAPの投与量は前者が9.00mg/kg/日、後者が7.50mg/kg/日であり、DAP誘発性好酸球性肺炎群で有意に高用量でした。また、血液透析中の患者は前者が40%、後者が13.4%であり、DAP誘発性好酸球性肺炎群で有意に高値を示していました。多変量ロジスティック回帰分析では年齢、DAP投与量、血液透析がDAP誘発性好酸球性肺炎群と有意に関係していました。この論文では高齢患者、血液透析を受けている患者、9.00mg/kgを超えるDAPを投与されている患者では好酸球性肺炎のリスクを考慮するべきと結論づけられています。

いずれの研究も症例数が少なく断言することは難しいですが、高齢者腎機能障害(特に血液透析中の患者)高用量でのDAP投与を行う場合にはDAP誘発性好酸球性肺炎を念頭におく必要がありそうです。この3つの要素はDAPに限らず、どの薬剤でも普遍的に副作用が増加する群といえるでしょうから難しいですね・・・。

参考

1)Antimicrob Resist Infect Control. 2016 Dec 12;5:55.

2)Antibiotics (Basel). 2022 Feb 16;11(2):254.

3)SANFORD GUIDE

4)感染症プラチナマニュアル