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結核総論

細菌学

結核菌(Mycobacterium tuberculosis)は放線菌やノカルディアなどと類縁の微生物です。学名のgenus Mycobacreiumは真菌(myco-)と細菌(bacterium)の中間に位置するものを意味しますが、これは元々結核菌が真菌のように発芽や分枝によって分裂すると考えられていたためです。実際には結核菌は菌糸や分枝は形成せず、鞭毛、線毛、莢膜を欠き、運動性を持たず芽胞を作らない細菌です。

最大の特徴として細胞壁にきわめて多量の脂質成分を含んでいます。このため分裂・増殖には時間がかかってしまいますが、免疫に対してきわめて強い抵抗力を持つことになります。また、この脂質成分のためにいったん色素で染色されると酸やアルコールで脱色されにくく、これが“抗酸菌”の名前の由来となっています。

結核菌は細胞内寄生菌ですが、これは分厚い細胞壁のために外部からの栄養補給が難しく、栄養が豊富な細胞内の方が生存しやすいためです。

酸素を含み、酸素の豊富な環境において盛んに発育する強い好気性を持っており、これが結核菌が肺で感染巣を作りやすい理由です。

大腸菌やブドウ球菌は20-30分で1回分裂しますが、結核菌の分裂速度は13-20時間と長く発育が遅いため、抗酸菌培養を行っても結果が出るまで3週間かかってしまうことになります(遅発育性)。

疫学

2017年のWHOの報告によると、世界で年間に1000万人が結核に罹患し、約170万人が結核に関連し死亡しているとされます。その背景には高い感染率があり、世界人口の約1/3が結核菌に感染しているものと考えられています。

本邦では、第二次世界大戦後から結核死亡率、罹患率は順調に低下し、2021年には10万人あたりの罹患率が9.2となり、定義上は結核低蔓延国となりました。しかし、高齢化が進む上、訪日外国人が増加していうことを考えると今後も増加に転じる可能性もあり得ます。

病態

感染の成立

結核の感染は、肺結核患者が咳をしたときに飛び散る飛沫中の結核菌を吸い込むことで起こります。いわゆる空気感染の様式をとります。

肺胞マクロファージに貪食された結核菌はその細胞内でリソゾーム酵素の殺菌作用を受けますが、生き延びた菌は肺のリンパ路を経由して流域の肺内リンパ節に運ばれます。この肺とリンパ節で起こる病変を初感染群と呼び、胸部画像では肺内と肺門部近傍の小さな石灰化巣として認められることがあります。この場合、結核菌は生き残っていますが、菌の増殖は起こらず発病には至りません(不顕性感染)。

また、結核菌を貪食したマクロファージはT細胞に抗原提示を行い、増殖したTリンパ球はサイトカインを分泌しマクロファージを活性化します。その結果、マクロファージは貪食した結核菌を殺菌できるようになります。このようにして結核菌に対する細胞性免疫が形成されることで、ツベルクリン反応やインターフェロンγ遊離試験(IGRA)が陽性となります。

感染から発病までの流れ

下記は仮想的な群が結核菌に接した後にたどる経過を模式的に表したものです。

菌を吸入した約半数が感染し、その中で10-15%が生涯の間に発病します。発病の多くは感染後2年以内ですが、その後障害にわたり発病のリスクは付きまといます。

一次結核と二次結核

一次結核は感染に引き続いて直接的に発病するもので、かつては肺内の初感染巣が増大するものと肺門リンパ節結核を指しましたが、現在では初感染に引き続いて起こる早期蔓延型の粟粒結核など、初感染後に連続して起こるすべての発病を指すようになりました。小児や若年者に多いですが、免疫抑制者や高齢者も一次結核を発症する可能性があります。頻度としては肺結核、リンパ節結核、粟粒結核が多いです。

一方、二次結核は結核菌に感染して年余の後に結核を発病するものです。すなわち、感染直後に血行性ないし経気道的に肺などのある部分に運ばれて潜在化していた微量の残存菌(persister)が、個体の抵抗力の低下に伴って活性化し発病するものです。加齢は結核発病の危険因子で、糖尿病などの背景因子の増加も加わって、高齢者の二次結核が著増しています。多くは肺結核として発病しますが、まれに粟粒結核や骨関節結核など肺外結核も生じ得ます。

病理学

病理的には滲出液→繁殖性反応→増殖性反応→硬化性反応と進み、一部が空洞化病変を形成します。

滲出性反応

充血、浮腫、細胞浸潤からなる滲出性反応は、病原体の侵入に対して共通してみられる生体反応で、血管透過性が亢進して血漿成分が漏出し、次いで好中球、マクロファージなどの細胞を含む血管内成分が滲出する現象です。

繁殖性反応

滲出性反応に続いて細胞性免疫の成立に伴って起こる反応で、マクロファージやマクロファージが変化してできる類上皮細胞、ラングハンス巨細胞やリンパ球などの集簇によりできる肉芽腫病変です。結核に特徴的ですが特有の反応ではなく、真菌でも類似の反応が起こります。

増殖性反応

修復機転を反映する反応で、類上皮細胞肉芽腫を囲むように弾性線維網が形成され、これが膠原線維に置き換わっていきます。一方、肉芽腫の細胞成分は萎縮して内部は線維性組織に置き換わります。「結核」の病名は罹患臓器にみられる「塊」状の結節(tubercle)に由来しますが、それこそが増殖性反応により形成される「結核結節」のことを指します。

硬化性反応

順調に経過すると線維成分は水分を失い、収縮して硬い瘢痕組織になり、内部にしばしば石灰が沈着します。石灰沈着は滲出性反応が高度であった部位に起こりやすいです。瘢痕組織は周囲をけん引し、その結果として気管支拡張や瘢痕性気腫が生じます。

空洞病変

病変部位が凝固壊死に陥りやすいのは結核の特徴ですが、これは菌と生体の反応によるものです。このような結核病巣は脂質に富み、チーズのように見えるので乾酪壊死と呼ばれます。

病巣内の壊死性物質が交通する気管支を通じて排除されると、壊死性物質が存在した部位が空洞になります。結核菌は好気性菌であるため、空気のある空洞内で盛んに分裂します。このため、空洞内には多量の結核菌が存在します。また、外部に排出された壊死性物質内にも結核菌が多量に含まれているため、経気道的に周囲に散布され新規病変を形成していきます。

このように、空洞化病変の内部には多量の結核菌が含まれているため、画像上空洞を有する症例は結核菌を排菌している可能性が極めて高いことを押さえておきましょう。

症状

肺結核

画像的に明らかな所見を有する排菌者の多くでは咳、痰などの気道症状を認めますが、全くの無症状者もいます。喀痰塗抹検査陽性者では80%に症状があるとされ、最も多いのは咳嗽です。

発熱は20-30%程度、喀血・血痰や共通はそれぞれ10%程度の患者に認められます。進行すると体重減少や盗汗を認めます。血痰、喀血は空洞壁にできた動脈瘤の破綻で起こるため、鮮紅色であることが多いです。

リンパ節結核

肺外結核で最も多いのがリンパ節結核です。初期には数個の無痛性の頚部リンパ節腫脹を認めますが、やがてリンパ節周囲炎を起こして痛みを伴うようになり、時には膿瘍化してそれば皮膚に及び潰瘍・瘻孔を形成します。

結核性胸膜炎

肺結核の合併症として起こることが多いですが、肺内病変がなく胸膜炎単独のものも時折遭遇します。症状としては発熱、咳、胸背部痛などがあります。胸水は滲出性で、蛋白濃度は3.0g/dL以上、細胞成分のうちリンパ球が80%以上を占め、糖は60mg/dL以下、アデノシンデアミナーゼ(ADA)値は50IU/L以上のことが多いです。胸膜炎は結核菌そのものというよりもⅣ型アレルギー的機序の関与が考えられており、そのため結核菌の検出率は25%程度と低く、しばしば診断が困難となります。胸膜生検は最も有力な検査法であり、採取した検体をすりつぶして行う抗酸菌培養検査の陽性率が高いとされます。

粟粒結核

結核菌が血行性に散布されて血管腔側から波及する全身結核です。発熱、盗汗、倦怠感が多いですが、非特異的であり、しばしば不明熱の原因となります。なお、粟粒結核は画像所見に基づく旧病名で、最近は「播種性結核」が用いられることが多いです。

骨関節結核

骨関節結核は、肺病変から菌が血行性に脊椎などに転移して起こると考えられています。骨組織が破壊され、膿瘍を形成します。脊椎、骨盤、仙腸関節、大腿骨、股関節、膝関節が侵されますが、中でも脊椎病変が最も多く、70-80%を占めます。局所の疼痛、変形、運動制限、脊髄圧迫症状がみられます。

結核性髄膜炎

結核が血行性に髄膜に及んで発症します。脳底部が好発部位です。かつでは初感染に引き続いて起こる乳幼児症例が多かったのですが、これらはBCG接種の効果で激減しました。一方で、免疫能の低下に伴って高齢者に起こる症例が増えています。発熱、倦怠感、注意力散漫などの前駆症状に始まり、頭痛、意識障害、悪心嘔吐などの髄膜刺激徴候を呈するようになります。胸膜炎同様、髄液からの結核菌の検出率が悪く、しばしば診断が困難となります。

腎結核

粟粒結核に伴って起こる肺外結核です。血行性に散布した菌により両側腎に小さな病変ができますが、一般的に自然治癒します。症状が腎臓のみに限局している場合は症状に乏しいですが、乾酪性病変が腎盂に広がり崩壊すると血尿などの症状をきたします。

腸結核

肺結核患者が結核菌を飲み込んで発症することが多いです。病変は腸粘膜のリンパ濾胞から始まり、特徴的な潰瘍を形成します。空腸ないし回盲部に病変を作ることが多いです。自覚症状としては食思不振、腹痛、下痢などの便通異常の他に、発熱、体重減少が特徴的です。進展すると腸管の狭窄による通過障害やイレウスを生じます。

最後に

ここまで結核の細菌学、疫学、病態、病理学、症状についてまとめてきました。各種検査所見や治療については、それぞれの病態についての別項に譲りたいと思います。

とにかく結核は忘れたころにやってくる恐ろしい病気です。私も何度も煮え湯を飲まされました。「患者をみたら、結核を疑え」といっても過言ではないと思います。診療の中で常に結核の鑑別を頭の片隅にいれておくと誤診が少なくなると思うので、是非心がけるようにしてください。

参考

・医療者のための結核の知識 四元秀気 医学書院