原発性アルドステロン症とは、副腎からの自律性アルドステロン過剰分泌により高血圧を呈する疾患であり、代表的な二次性高血圧です。一般的に想像されている以上に有病率が高いとされており、プライマリケアの場面では押さえておくべき疾患の一つといえます。今回は、そんな原発性アルドステロン症について、本邦のガイドラインやreview articleを参考にまとめていきます。
疫学
原発性アルドステロン症の有病率は、高血圧患者のうちプライマリケア施設で3-12%、専門施設では5-29%とされています。幅こそあれど、基本的には高血圧患者の5-10%が原発性アルドステロン症の可能性がある、と考えておくのがよいでしょう。本邦では高血圧症の患者数は約4300万人と見積もられていますから、原発性アルドステロン症の患者はおおよそ200-400万人存在していることになります。
原発性アルドステロン症の疫学で抑えておくべきもう一つのポイントは、心血管疾患の合併率が非常に高いということです。具体的には、同じ水準の血圧である本態性高血圧の患者と比べると、脳血管障害、冠動脈疾患、心房細動などの不整脈、末梢動脈疾患といった心血管疾患が3-5倍も多いことがわかっています。これは原発性アルドステロン症では単純に血圧が上昇するだけでなく、アルドステロンそのものによる心血管への悪影響によるものと考えられています(HFrEFの患者さんではアルドステロンによる心筋リモデリングを予防するためにACE-I、ARB、ARNI、MRAといった薬剤を使用するのでしたね)。
病態
アルドステロンの生理学
アルドステロンは副腎皮質から分泌されるホルモンであり、腎尿細管の集合管内腔のNaチャネルを増加させ、ナトリウムの再吸収を促進します。ナトリウムとの交換で、カリウムが集合管内腔に分泌されます。アルドステロンのこの働きにより、ナトリウムによる水貯留が促進され、結果として血圧が上昇します。
通常はレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系(RAA系)によって制御されています。体液減少(volume depletion)によって腎血流が低下すると、腎臓の傍糸球体細胞からレニンが分泌されます。レニンはアンギオテンシノーゲンをアンギオテンシンⅠに変換し、アンギオテンシンⅠはアンギオテンシン変換酵素(ACE)によりアンギオテンシンⅡに変換されます。アンギオテンシンⅡはそれ自体が血圧上昇作用を持っている上、副腎皮質からアルドステロンを分泌させます。
RAA系には負のフィードバックも存在しており、血圧の上昇やアンギオテンシンⅡの上昇によりレニン分泌が抑制され、過度なアクセルにブレーキがかかるようになっています。
原発性アルドステロン症の病態
原発性アルドステロン症の病態のキモは、「副腎皮質の過形成ないしは腺腫により、アルドステロンが自律的に過剰産生されている」という点です。RAA系によらない自律的な分泌であるため、負のフィードバックによるブレーキが全く効かないわけですね。
アルドステロンが分泌される原因としては、
・両副腎皮質の過形成(全体の60-70%)
・片側性の副腎アルドステロン産生腺腫(全体の30-40%)
の2パターンがほとんどを占めますが、片側性の副腎皮質過形成やアルドステロン産生副腎皮質癌といった珍しい病型もあるようです。
症状
原発性アルドステロン症による特異的な症状はなく、臨床経過のみで通常の高血圧と鑑別することは困難です。
一般的に、原発性アルドステロン症というと高血圧、低カリウム血症、代謝性アルカローシスの3点がポイントに挙げられることが多いですが、実際に低カリウム血症を呈する症例は全体の10-30%程度に過ぎないとされています。これは、アルドステロンによるカリウム排泄に対し、カリウムを再吸収するような代償反応が生じ、結果として血漿カリウム濃度は正常~正常低値に維持されるためだと考えられています。そのため、カリウムが正常値だからといって原発性アルドステロン症を除外することはできない点に留意しておきましょう。
なお、アルドステロンによる循環血液量の増加についても、ナトリウム利尿ペプチドの分泌増加などの代償作用により頭打ちとなります。このため、体重増加や浮腫といった体液貯留による症状も出現しません。
診断
スクリーニング検査
原発性アルドステロン症の診断は、何はともあれ、まずスクリーニング検査で疑い症例を引っかけることから始まります。有病率を考えると高血圧症全例にスクリーニング検査を行うべきと考えられ、本邦の原発性アルドステロン症のガイドラインでもそのように推奨されています。特に、下図の患者群では原発性アルドステロン症の検査前確率が高いため、より積極的に精査を行うべきです。
スクリーニング検査は、血液検査で血漿アルドステロン濃度(PAC)と血漿レニン活性(PRA)を測定し、PAC/PRA比(ARR)を算出することで行います。PAC/PRA比(ARR)≧200かつPAC≧60pg/mLで陽性と判断します。
注意点として、最近血漿アルドステロン濃度の測定方法がCLEIA法という手法に変更されたばかりであり、CLEIA法による測定値が普及、一般化し、その至適カットオフ値が確立するまではARR 100~200をARR境界域として扱うことになっています。ARR境界域の症例では患者ニーズと臨床所見、特に低カリウム血症や副腎腫瘍の有無、年齢などを考慮し、必要に応じて機能確認検査の要否を判断します。
検査法やカットオフ値の違いから単純に比較することは困難ですが、ある海外の研究1)ではアルドステロン産生腺腫による原発性アルドステロン症において、ARRによるスクリーニング検査は感度、特異度共に90%とされています。
さて、このARRによるスクリーニング検査ですが、検査時にいくつかの留意点があります。まず、PRA、PAC共に採血時間、体位の影響を受けやすいため、午前中、安静臥床30分後の採血が推奨されています。ただ、実臨床では採血のためだけに安静臥床のスペースを確保することは難しく、随時座位による採血もやむを得ないとされています。
最大の注意点は、ARRは内服降圧薬の影響を非常に受けやすいということです。特にβ遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、ACE阻害薬、ARB、利尿薬を内服している場合は、Ca拮抗薬やα遮断薬など影響の少ない薬剤に変更した上で検査を行うことが推奨されています。
高血圧に対して一旦降圧薬を開始してしまうと、ARRを測定する際に薬剤変更や休薬といった無駄な手間がかかってしまいます。このため、私は高血圧と診断した場合、スクリーニング検査を提出した上で降圧薬を開始するようにしています。ただ、例外として80-90歳の超高齢な患者さんに対してはスクリーニング検査をスキップすることもあります。
機能確認検査による確定診断
スクリーニング検査で陽性、ないしは境界域かつ追加精査の必要があるとされた場合、機能確認検査を行います。スクリーニング検査では偽陽性例が存在するため、機能確認検査によりアルドステロンの自律的過剰産生を証明した上で確定診断とします。
機能確認検査には下記のように複数の種類があります。
機能確認検査にはそれぞれメリット、デメリットがありますが、実施の容易さ、安全面からまずカプトプリル負荷試験の実施が推奨されます。カプトプリル負荷試験では、負荷後90分で採血を行い、ARR≧200で陽性と判断します。
こちらもスクリーニング検査同様、ARR 100~200はARR境界域として暫定的に陽性として扱いますが、確定診断の検査でこのような宙ぶらりんの枠組みを設けられてしまうと臨床家としては困惑してしまいます。一応、ガイドラインにはこの場合は局在診断や治療の必要性について“総合的に”判断するとありますが、それが出来れば苦労はないんですよねぇ…。この機能確認検査における境界域については、実臨床ではどのように対応されているのか専門の先生方のご意見を伺ってみたいです。
なお、スクリーニング検査陽性例で、
・低カリウム血症
・PAC(CLEIA法)>100pg/mL
・レニンが検出限界以下
のすべてを満たす場合には、機能確認検査を省略して原発性アルドステロン症の確定診断とすることが可能です。
病型・局在診断
確定診断がなされた場合、病型・局在診断を行っていきますが、これは外科的治療の適応があるかを判断することを目的としています。片側性病変の場合、副腎摘出術を行うことが望ましいとされており、病型が両側副腎過形成なのか、片側性の腺腫なのかの決定は治療方針を決める上で重要です。
まず行うべき検査としては、腹部造影ダイナミックCTが行われることが多いです。MRIによる検査も可能ですが、検査時間や費用の面からCTが優先されます。両副腎皮質の過形成の場合、両側の副腎の肥厚、腫大を認めることがありますが、まったくの正常に見える場合もあります。また、腺腫の場合、直径数mmと小さいことが多いため、thin sliceの撮影でも腺腫の同定ができない場合があります。
実際に画像検査単独で正確に部位診断できる症例は半数程度とされ、画像検査単独で原発性アルドステロン症の局在診断を行ってはならないとされています。つまり、画像検査は粗大な副腎腫瘍の検索や、後述の副腎静脈サンプリングを行う上での事前の解剖学的評価という位置づけに留まるということです。
さて、上述の通り、原発性アルドステロン症では画像検査で病変を描出できないことも少なくありません。また、画像検査で副腎腫瘍があったとしても、その腫瘍が本当にアルドステロンを分泌しているかは画像だけでは判断ができません。そういった点を補完する役割があるのが副腎静脈サンプリングという検査です。副腎静脈サンプリングでは、その名の通りカテーテルを左右の副腎静脈に挿入して採血を行い、そのアルドステロン濃度を測定することで局在を判断していきます。片側のみ高ければそちらが病側の副腎腺腫ということになり、両者とも同程度であれば両副腎皮質過形成ということになります。副腎静脈サンプリングは感度・特異度ともに95%以上で精度の高い検査とされますが、副腎静脈へのカテーテル挿入が非常に難しく高度な技術を要するため、行うことができる医療機関が限られるのが最大の難点です。副腎静脈サンプリングを全例に行うことは現実的ではないため、比較的若年で手術も検討されるような症例に限定して高次医療機関に紹介する、というのが現実的な対応になるかと思われます。
コルチゾール同時産生腫瘍の評価について
原発性アルドステロン症の10-20%において、サブクリニカルを含めたコルチゾール産生腫瘍が合併するとされています。特に腫瘍径が1cm以上の場合に合併の可能性が高まるため、1mgデキサメタゾン抑制試験を実施してコルチゾールの自律産生を確認するべきです。
なお、コルチゾールとアルドステロンの同時産生例では必ずしも同側の副腎からの産生とは限らないため、副腎静脈サンプリングの解釈や手術適応については慎重に判断する必要があるとのことです。
治療
外科的治療
片側性の原発性アルドステロン症では、病変側副腎摘出術により病態の治癒、過剰アルドステロン分泌の正常化、臓器障害の改善と進展防止が期待できるため、手術治療が第一選択として推奨されます。
ただし、高血圧については外科的治療で改善するは3-5割であり、特に高齢者ではさらに少数に留まるとされています。これは高血圧には生活習慣や動脈硬化など、複数の因子が関与しているためと考えられています。
術前はミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を含む降圧薬で高血圧や低カリウム血症に対し介入を行っておきます。また、手術は腹腔鏡が第一選択です。
薬物治療
両側性の原発性アルドステロン症や、片側性でも手術を希望しない、あるいは併存症のため手術できない場合は、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)を第一選択とする薬物治療を行います。この治療により、通常の高血圧と同程度まで心腎血管リスクを低下させる可能性が示唆されています。
本邦ではスピロノラクトン、エプレレノン、エサキセレノンが原発性アルドステロン症に使用することができるMRAとなります(※エプレレノンとエサキセレノンは添付文書上の適応は高血圧症のみ)。本症に対する臨床効果はスピロノラクトンとエプレレノンについては同程度とされています。スピロノラクトンでは女性化乳房を生じる可能性がありますが、安価で使用経験が豊富であるため、まずはスピロノラクトンで治療を開始し、忍容性がなければ他剤に変更するのがよいでしょう。
なお、最近発売された非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬であるフィネレノン(ケレンディア®)は2型糖尿病に伴うCKDが適応症であるため、原発性アルドステロン症には使用できません。
MRAによりアルドステロン過剰が改善されると、治療効果と共に高カリウム血症やeGFRの低下を認めるため、定期的なモニタリングが必須です。特に元々CKDがあり腎機能が悪い方では注意する必要があります。
まとめ
原発性アルドステロン症について概要をまとめてきました。頻度の高い疾患ではあるものの、診断までのプロセス・手術適応の判断が複雑であり、一般内科医泣かせの疾患といえます。施設や地域の医療リソースにより対応が異なると思いますので、各々確認して頂ければと思います。
ちなみに、私のいる病院では機能確認検査が難しいため、スクリーニング検査で陽性の時点で高次医療機関の内分泌内科に紹介とさせて頂くことにしています。余談ですが、実は私は原発性アルドステロン症に未だに遭遇したことがありません。積極的にスクリーニング検査を行っているのですが…。
最後に、ポイントをまとめて終わりにしたいと思います。
・原発性アルドステロン症は高血圧患者のうち5-10%を占めるコモンな疾患である
・高血圧患者では、治療開始前に可能な限り原発性アルドステロン症のスクリーニング検査を行う
・スクリーニング検査が陽性の場合、カプトプリル負荷試験を行い、確定診断を行う
・手術適応があるのであれば、副腎静脈サンプリングが可能な高次医療機関に紹介する
・片側の原発性アルドステロン症であれば手術治療を第一選択とする
・薬物治療はミネラルコルチコイド受容体拮抗薬を第一選択とする。スピロノラクトンから開始する。
参考
1)Arch Intern Med. 1993;153(18):2125.
2)J Am Coll Cardiol. 2019 Dec 3;74(22):2799-2811.
3)日内科誌 107:667~673,2018
4)原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021 日本内分泌学会
5)高血圧治療ガイドライン2019 日本高血圧学会
・UpToDate
・今日の臨床サポート
・Radiopaedia