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【研修医必見!】初めての高血圧症診療

 本ブログの黎明期、一度高血圧の記事を作成したことがあります。今回は大幅に内容をアップデートして再作成してみました。

 

 

 診察室血圧で140/90mmHg以上、家庭血圧で135/85mmHg以上である状態を高血圧と定義します。これは本邦で行われた種々の研究において、収縮期血圧140mmHg以上あるいは拡張期血圧90mmHgだと冠動脈疾患、脳卒中(いわゆる心血管疾患)のリスクが有意に高くなる点を踏まえて設定されています。なお、米国では130/80mmHg以上を高血圧として定義しており、各国ごとに定義が異なる点に注意しましょう。

 

 また、明らかな原因のない高血圧を本態性高血圧症と、原発性アルドステロン症など原因が明らかである高血圧を二次性高血圧症と呼称します。日常診療における「高血圧」というと、本態性高血圧症を指していることがほとんどであると言えます。

 

 本態性高血圧症では血圧が上昇する正確な原因はわかっていません。食塩の過剰摂取、肥満、飲酒、運動不足、ストレスといった生活習慣や、遺伝的要素が組み合わさって生じているものと考えられます。本邦では味噌汁や漬物といった塩分の多い食文化であることを反映し、塩分の過剰摂取が大きな要因であると考えられています。

 

 二次性高血圧症は、高血圧患者の約1割が該当するとされており、
・原発性アルドステロン症
・睡眠時無呼吸症候群
・腎血管性高血圧
・腎実質性高血圧
・クッシング症候群
・褐色細胞腫
・甲状腺機能異常
・薬剤性
といった疾患が含まれます。頻度としては原発性アルドステロン症が5-10%、睡眠時無呼吸症候群が20%、腎実質性が2-5%、腎血管性が1%とされており、クッシング症候群や褐色細胞腫は極めて稀です。

 高血圧は種々の疾患のリスクになるといわれますが、実際にそのインパクトはどれほどのものなのでしょうか?日本人において、13のコホート研究で得られたデータを分析した研究では、高血圧の人口寄与危険度割合は全心血管死亡で50%、冠動脈疾患で59%、脳卒中死亡で52%という結果が得られています1)。また、脳心血管病(脳出血+脳梗塞+虚血性心疾患+心不全)のリスク因子として、高血圧は最も寄与が大きい要素であることも示されています2)。また、他に高血圧に起因する疾患を列挙すると、慢性腎臓病、脳血管性認知症、高血圧性網膜症、心不全、心房細動、腎硬化症、胸腹部大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症など多岐にわたります。

 

 このように、高血圧は冠動脈疾患、脳卒中を始めとする複数の疾患のリスクとなることがわかりますが、その分介入によって得られる効果も大きいです。例えば、Lancet誌に掲載されたシステマティックレビューでは、収縮期血圧を10mmHg低下させることで心不全が28%、脳梗塞が27%、冠動脈疾患が17%、総死亡が13%低下することが示されています3)

 

 以上を踏まえますと、高血圧への介入により冠動脈疾患/脳卒中といった致死的となりうる疾患が予防でき、患者さんが元気に長生きできる可能性が高まります。患者さんの大多数にはこの基本原則が伝わっておらず、中には通院を中断してしまう方も少なくありません。高血圧で通院中の患者さんには、全例この原則を説明して頂けると治療へのアドヒアランスを高めることが期待できるでしょう。

 高血圧を疑うタイミングは、
① 病院受診時の診察室血圧が高い
② 健康診断で血圧高値を指摘された
③ ふと家庭で測定した血圧が高かった
の3パターンが多いです。

 高血圧の診断は診察室血圧よりも家庭血圧を優先し、単発ではなく一定期間測定した平均値を基に行う必要があります。このため、上記のような経過で高血圧を疑う患者さんには、まず血圧手帳をお渡しし、2週間ほど血圧測定と記録をお願いして再診の予定を立てます。家庭血圧の平均値が135/85mmHg以上である場合、高血圧と診断をします。

 高血圧の中には、診察室血圧は低いものの家庭血圧が高いという仮面高血圧の方が10-15%存在しているとされます。仮面高血圧は発見が難しいため、高血圧の既往のない定期通院している患者さんであっても、一度は家庭血圧の測定をしてもらうようにすると見逃しが少なくなります。

 血圧測定については血圧手帳の記載に準じて行ってもらいますが、医師からも、
・前腕式ではなく、上腕式の血圧計を用い、
・温かい静かな部屋に薄着で、
・朝(起床後1時間以内)と夜(就寝前)の安静時に、
・足を組まずに椅子に座り1-2分安静にして測定する
といった点を最低限指導しておくとよいでしょう。
 

 また、測定した血圧や時間を血圧手帳に記録してもらうことは、記録値の確認に役立つだけでなく、アドヒアランスの改善にも有効です。最近はスマホアプリに血圧を記録する方法もあり、患者さんとも相談して最適な記録手段を決めましょう。

 

 高血圧の診断と並行し、各種検査を勧めていきます。まず、合併症の把握のために各種一般検査を施行します。健康診断を行っている場合は一部をその結果で代用しても構いません。血液検査(血算、肝腎機能、電解質、脂質、糖、HbA1c)、尿検査、胸部X線写真、心電図を最低限の検査として行っておくとよいでしょう。
 
 一般検査で異常を認めた場合、追加で臓器障害の精査を行います。例えば尿定性で尿蛋白が陽性であれば尿蛋白定性を提出し、心電図異常があれば心エコーを追加します。また、二次性高血圧として睡眠時無呼吸症候群の合併頻度が高いため、いびき、肥満といったリスク因子があれば適宜睡眠ポリグラフ検査を行います。以下に欧州心臓病学会および欧州高血圧学会の推奨4)も参考に、臓器障害の評価について表にまとめましたのでご参照ください。

初手で二次性高血圧の精査をどこまで行うべきか?

 一般論として、

・若年発症

・急激な血圧上昇

・降圧薬3剤でもコントロール不良

・低カリウム血症

といった要素がある場合には二次性高血圧を鑑別に挙げ精査を行うことが推奨されています。

 

 高血圧の診断時、網羅的に二次性高血圧のスクリーニングを行うことは推奨されていませんが、原発性アルドステロン症については頻度が高い上、本態性高血圧と比較し予後が悪いため、閾値を低めに血漿アルドステロン濃度、血漿レニン活性の測定を行ってもよいと考えます。特にこれらの検査はRA系阻害薬やβ遮断薬などの降圧薬により修飾されやすいため、降圧薬導入前に行うことが望ましいです。

 

 高血圧の診断がついた後、その患者さんにおける降圧目標を設定します。現在ガイドラインでは、家庭血圧125/75mmHg未満にコントロールすることを推奨しています1)。ただし、75歳以上の高齢者、両側頸動脈狭窄などの脳血管障害患者、蛋白尿陰性のCKD患者では135/85mmHgとやや緩めに管理を行います。ガイドラインの推奨をそのまま適応するのではなく、患者さんの認知機能やADL、価値観といった要素も勘案し、その方にとってベストの降圧目標を設定することを心がけるとよいでしょう。

続いて、すぐに薬物治療が必要かどうかを判断するため、リスク評価を行います。

 

① 重症度の決定
まず、下記のように、家庭血圧に基づいて高血圧症の重症度を判断します。
・高値血圧 :収縮期血圧 125-134mmHgまたは拡張期血圧 75-84mmHg
・Ⅰ度高血圧:収縮期血圧 135-144mmHgまたは拡張期血圧 85-89mmHg
・Ⅱ度高血圧:収縮期血圧 145-159mmHgまたは拡張期血圧 90-99mmHg
・Ⅲ度高血圧:収縮期血圧 160mmHg以上または拡張期血圧 100mmHg以上

 

② 脳・心血管疾患リスクの層別化
続いて、脳・心血管疾患のリスクを踏まえ、以下のように層別化します
・リスク第一層:予後影響因子なし
・リスク第二層:年齢65歳以上、男性、脂質異常症、喫煙のいずれかがある
・リスク第三層:脳・心血管疾患既往、非弁膜症性心房細動、糖尿病、CKD(尿蛋白陽性)のいずれか
        またはリスク第二層の因子が3つ以上ある

 

③ 最終的な脳・心血管疾患リスクを決定する
①高血圧症の重症度と②リスク層別化を組み合わせ、脳・心血管疾患のリスクを以下のように低・中・高に細分化します

④ 介入方法の決定
③を踏まえ、具体的な介入方法を決定します。管理人は、リスクごとに以下のように対応することが多いです。
・低リスク:生活習慣指導+1~3か月後に再評価
・中リスク:生活習慣指導+降圧薬開始
・高リスク:生活習慣指導+降圧薬開始(早期に2剤目の追加を検討初から併用を検討)

 

 多忙な外来で高血圧の患者さん全例にこのような評価を行うことは現実には難しいのですが、慣れるまでの最初の間は参考にするとよいでしょう。

 さて、高血圧の患者さんには、降圧薬による治療の有無に関わらず全例で生活習慣の改善を指導する必要があります。この点についても多忙な外来でどこまで行うべきか悩ましいのですが、最低限のポイントを絞って紹介したいと思います。

 

①減塩

 食塩摂取量過多は本邦における高血圧の最大のリスク因子です。食塩摂取量を4.6g/日削減することで収縮期血圧が4mmHg程度低下するとされています5)。減塩の調味料を使ってもらう、味噌汁や漬物を極力食べないようにしてもらうなど、具体的にアドバイスをすると効果が高い印象です。

 なお、食事の際には減塩だけでなく、カリウムや食物繊維といった、他の栄養素にも気を遣う必要があります。時間の限られた外来での指導には限界があるため、可能であれば栄養士による栄養指導を利用するとよいでしょう。

 

➁運動

 毎日有酸素運動を30-60分行うことで収縮期血圧が4.6mmHg程度低下します6)。ウォーキングなどの軽い運動から勧めるのがよいでしょう。

 

③減量

 体重を4kg減らすことで収縮期血圧が5mmHg低下します7)。食事、運動習慣の改善と併せて進めていくのが最善です。

 

④禁煙

 喫煙は脳心血管病のリスクであるため、高血圧診療を行うのであれば禁煙することが望ましいです。ただし、禁煙により血圧そのものが低下するのかという点については定まった見解がありません。禁煙による体重増加によりむしろ血圧が上昇するという報告もあるため8)、併せて体重管理も進めることが重要です。

 

⑤節酒

 飲酒制限により1-2週間のうちに降圧効果が見られ、おおよそ2-3mmHg程度の降圧が期待できます9)。高血圧の管理においては、男性はエタノールで20-30ml(日本酒1合、ビール中瓶1本、焼酎半合、ウィスキーダブル1杯、ワイン2杯)以下を、女性はその半分に制限することが勧められています。また、飲酒に伴い食塩含有量の多いツマミを食べてしまうことも血圧を高める要因となっていることも多々あるため、併せて指導を行うと効果的です。

 降圧薬としては、カルシウム拮抗薬(CCB)、ACE阻害薬/ARB、サイアザイド系利尿薬の3剤をベースに使用します。かつてはβ遮断薬も広く使用されていましたが、他剤と比較し脳心血管病抑制効果に劣り、副作用も多いことから、現在は第一選択薬からは外れています。特に併存症がない場合は3剤のうちいずれを使用してもよいとされますが、併存症によっては薬剤の優先順位が変わってきます。具体的には、蛋白尿のあるCKDや糖尿病ではACE阻害薬/ARBを優先的に使用します。また、EFの低下した心不全では、ACE阻害薬/ARB・MRA・β遮断薬を優先します。

 

 また、1剤目で降圧が不十分の場合、1剤目の薬剤を増量するよりも別の薬剤を追加した方がより良い降圧効果が得られます10)。このため、高血圧診療においては多剤併用となることが多くなります。ただし、複数の薬剤を内服することに抵抗のある患者さんもいらっしゃるため、この場合は配合剤を使用する、1剤目を増量するといった臨機応変な対応をするようにしましょう。

 なお、降圧薬を就寝前に内服すると、脳・心血管疾患の予防効果が高まるという報告がありますが、研究者により結果が異なり、結論が出ていません11,12)。現時点では、眠前の内服に拘る必要はなく、患者が最も内服しやすいタイミングを選択すればよいと考えます。

 

以下、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬/ARB、サイアザイド系利尿薬について詳説していきます。

 

■カルシウム拮抗薬

 カルシウム拮抗薬は強い血管拡張作用を持ち、迅速に降圧作用を発揮します。重大な副作用が少なく、臓器血流保持硬化にも優れるため、最も使用頻度の高い降圧薬です。

 

 カルシウム拮抗薬のうち、まずはアムロジピンを使いこなせるようになりましょう。アムロジピンは血中半減期が長く効果発現が緩徐であるため、反射性交感神経活性化やRA系の活性化を生じにくく、最も使用しやすく頻用されている薬剤です。まずは5mg/日から開始し、最大で10mg/日まで増量します。高齢者など過降圧が懸念される患者さんでは、より少ない2.5mg/日から開始するとよいでしょう。他によく使用されるカルシウム拮抗薬としてニフェジピンがあります。前述の通り、ニフェジピンは元々は高血圧緊急症に対し舌下投与を行って急激に降圧させるという使い方をされており、切れ味の鋭い薬剤です。現在は24時間の徐放製剤であるCR錠が主流です。これは薬剤が12時間徐放2層になっており、血中濃度のピークが2回あるのが特徴です。一般に、アムロジピンよりもニフェジピンの方が降圧作用が強いと信じられていますが、これまでの研究では両者の降圧作用に大きな違いはないとされています13,14)。ただ、アムロジピンは10mg/日が最大量であるのに対し、ニフェジピンは80/日まで増量できるため、使用量によっては効果に差が出てくるのかもしれません。他にも複数のカルシウム拮抗薬がありますが、基本的にはアムロジピン、次いでニフェジピンを覚えておけば事足りると思われます。

 

 比較的安全性の高いカルシウム拮抗薬ですが、それでもいくつか注意すべき副作用が存在しています。特に浮腫は実臨床でよく遭遇するため、本剤を処方する際には気を付ける必要があります。最大10%で浮腫が出現し、内服期間が長くなるほど出現しやすくなる傾向があるとされています15)。逆に言えば、原因のわからない浮腫を見た際、カルシウム拮抗薬が原因であることが少なくないため、しっかり薬歴を確認するとよいです。その他、強力な血管拡張作用による低血圧、動悸、頭痛、顔面紅潮といった症状を呈したり、歯肉増殖や便秘を起こすことがあります。

■ACE阻害薬/ARB

 ACE阻害薬/ARBはRA系を抑制することで降圧作用を発揮します。心保護や腎保護といった臓器保護効果を持っていることが特徴であり、EFの低下した心不全や蛋白尿のあるCKDでは優先して使用します。ACE阻害薬としてはエナラプリル、イミダプリルを覚えておきましょう。ARBは種類が豊富であり、薬剤によって降圧効果に差があるとされていますが、Cochraneのreviewでは薬剤間の差はないと結論付けられています16)。このため、各医療機関で採用があるものを使用すればよいでしょう。

 

 ACE阻害薬とARBの臨床効果はほぼ同等とされますが17)ACE阻害薬に独立して冠動脈疾患を抑制する効果があるという報告18)高齢者の肺炎を抑制するという報告があります19,20)。下図の通り、ACE阻害薬はキニン類の分解も抑制することがその要因と考えられています。ただし、この作用が空咳、血管浮腫といった、ACE阻害薬特有の有害事象の原因にもなってしまいます。また、かつてはACE阻害薬よりもARBの方が高価でしたが、現在は両者の薬価の差は小さくなってきています。どちらを優先すべきか悩ましい所ですが、私は冠動脈疾患の抑制効果を期待してまずはACE阻害薬を使用し、忍容性がなければARBに変更する、といった使い方をしています。

 

 ACE阻害薬、ARB共通の副作用として、急速に腎機能が悪化したり、高カリウム血症を呈することがあり、導入後には定期的に血液検査をフォローする必要があります。また、妊婦や授乳婦への投与は禁忌です。

■サイアザイド系利尿薬

 サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管でNa再吸収を抑制することで降圧作用を示します。このため、食塩摂取量の多い高血圧患者さんにおいて強い効果を発揮します。利尿薬ということで、低Na血症や低K血症といった電解質異常に加え、高尿酸血症や耐糖能異常といった代謝系への悪影響がありますが、少量であれば問題となることは少ないです。複数の薬剤がありますが、まずはトリクロルメチアジドヒドロクロロチアヂドを覚えておきましょう。トリクロルメチアジドを1mg/日から開始し、降圧が不十分であれば2mg/日まで増量します。副作用の懸念からこれ以上の増量は行いません。電解質異常を早期に発見するため、ACE阻害薬/ARBと同様に定期的な血液検査が望ましいです。

■3剤内服しても降圧目標を達成できない場合

 前述の3つの薬剤を内服したとしても降圧目標を達成できない患者さんは実臨床では少なからずいらっしゃいます。まず、血圧測定の方法、内服のアドヒアランス、塩分摂取量などの生活習慣の見直し、NSAIDsや甘草など高血圧をきたす薬剤の使用といった点を見直します。その上で、二次性高血圧の要素がないかを確認し、必要に応じてスクリーニング検査を行います。二次性高血圧については以下の記事もご参考ください。

https://fushiki-an.com/?s=%E4%BA%8C%E6%AC%A1%E6%80%A7%E9%AB%98%E8%A1%80%E5%9C%A7

 

 上記の確認を行っても介入できるポイントがない場合、4剤目としてミネラルコルチコイド受容体拮抗薬であるスピロノラクトンやエプレレノンの追加を検討します。スピロノラクトンの上乗せは、プラセボ、β遮断薬、α遮断薬などと比較し、良好な降圧効果を示すことが報告されています21,22)。ただ、このレベルになってくると薬物調整に関して患者さんの抵抗感も強くなってきていることがほとんどですので、どこまで治療を強化するかはよく相談する必要があります。

 外来では、毎回血圧手帳を持参頂き、家庭血圧が降圧目標を達成しているか確認します。塩分摂取量、運動習慣などの生活習慣についても可能な範囲で確認するようにしましょう。

 

 血圧が140/90mmHg前後と目標値よりやや高い場合、生活習慣の改善が期待できるようなら次回外来まで経過を見ます。生活習慣を改善しても降圧が見られない、または150/95mmHg以上である場合には降圧薬の調整を行います。降圧薬を調整した後には副作用の出現がないかという点についても注意するようにしましょう。

・治療抵抗性高血圧およびコントロール不良高血圧
・対応困難な二次性高血圧
・心不全など合併症のコントロールが難しい場合
といった場合に内分泌内科や循環器内科への紹介を検討します。ただし、明らかな原因がないのにも関わらず、コントロールに難渋してしまう患者さんは少なからず存在します(特に高齢者に顕著です)。そういった方を全例高次医療機関に紹介するというのは現実的ではないため、年齢や臓器障害の有無、ADLといった要素も勘案して判断するようにしましょう。

 

 最後に、ここまでの内容を踏まえて重要事項をチェックリストとしてまとめました。ご参考ください。

治療目標:
□家庭血圧を125-135/75-85mmHg以下に維持する
□脳卒中・冠動脈疾患などの脳・心血管疾患を予防する


 
診断時のポイント
・診断
  □家庭血圧が2週間の平均値で135/85mmHg以上

・合併症
  □心血管疾患:心電図異常、心不全・冠動脈疾患の既往、心不全徴候
  □脳血管疾患:TIA・脳梗塞・脳出血の既往、頸部血管雑音
  □末梢動脈疾患:間欠性跛行、足背動脈の触知不良
  □慢性腎臓病:腎機能低下(Cr、eGFR)、蛋白尿・尿潜血陽性
  □網膜症:Ⅱ/Ⅲ度の高血圧・糖尿病合併・視力障害がある→眼底カメラないしは眼科受診

・併存症
  □高LDL-C血症
  □糖尿病

・二次性高血圧症の評価

 

・降圧目標値の設定
 ○家庭血圧 125/75mmHg未満:若年、脳・心血管疾患既往、糖尿病・蛋白尿陽性CKD併存、抗血栓薬内服
 ○家庭血圧 135/85mmHg未満:75歳以上、両側頸動脈狭窄、脳主幹部動脈閉塞

 

・高血圧の重症度 (家庭血圧)
 ○高値血圧 :収縮期血圧 125-134mmHgまたは拡張期血圧 75-84mmHg
 ○Ⅰ度高血圧:収縮期血圧 135-144mmHgまたは拡張期血圧 85-89mmHg
 ○Ⅱ度高血圧:収縮期血圧 145-159mmHgまたは拡張期血圧 90-99mmHg
 ○Ⅲ度高血圧:収縮期血圧 160mmHg以上または拡張期血圧 100mmHg以上

・脳・心血管疾患のリスク層別化
 ○リスク第一層:予後影響因子なし
 ○リスク第二層:年齢65歳以上、男性、脂質異常症、喫煙のいずれかがある
 ○リスク第三層:脳・心血管疾患既往、非弁膜症性心房細動、糖尿病、CKD(尿蛋白陽性)のいずれか
         またはリスク第二層の因子が3つ以上ある

 

・脳・心血管疾患のリスクと治療方針の決定
 ○低リスク:生活習慣指導+1~3か月後に再評価
 ○中リスク:生活習慣指導+降圧薬開始
 ○高リスク:生活習慣指導+降圧薬開始(早期に2剤目の追加を検討)

・併存症と優先すべき降圧薬
 ○蛋白尿のあるCKD :ACE阻害薬/ARB
 ○EF の低下した心不全:ACE阻害薬/ARB、サイアザイド系利尿薬、MRA、β遮断薬
 
最低限覚えておくべき薬剤:
□カルシウム拮抗薬:アムロジピン
□ACE阻害薬:エナラプリル、イミダプリル
□ARB:テルミサルタン、ロサルタン
□サイアザイド系利尿薬:トリクロルメチアジド、ヒドロクロロチアヂド
□ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬:スピロノラクトン、エプレレノン


 
フォローアップにおける確認事項:
□家庭血圧の平均値 □塩分摂取量 □運動習慣 □喫煙 □飲酒
□服薬アドヒアランス・残薬
□降圧薬追加の必要性
 ○生活習慣を改善しても平均血圧が目標値に達していない
 ○150/95mmHg以上の高血圧
 *3剤併用してもコントロール不良
→治療抵抗性高血圧を考慮し、生活習慣・内服アドヒアランス・二次性高血圧症を再検討
□合併症(心不全、CKD、末梢動脈疾患)や併存症(糖尿病、高LDL-C血症)の有無や経過
□降圧薬の副作用:
 ◯共通項目:ふらつき、めまい、起立性低血圧
 ○カルシウム拮抗薬:浮腫、動悸、顔面紅潮、ほてり 
 ○ACE阻害薬/ARB:空咳、Crの上昇、高カリウム血症、血管性浮腫
 ○サイアザイド系利尿薬:電解質異常、高尿酸血症、血糖コントロール悪化
 ○ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬:高カリウム血症、女性化乳房


 
専門医へ紹介するタイミング:

□治療抵抗性高血圧およびコントロール不良高血圧
□対応困難な二次性高血圧
□心不全など合併症のコントロールが難しい場合

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