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Bartonella感染症

Bartonellaとは

〇微生物学的特徴

Bartonella属は宿主の赤血球に寄生し、長期の菌血症を引き起こす細胞内寄生菌です。Gram陰性菌ですがGram染色で染色されにくく、Warthin-Starry染色など鍍銀染色で黒く染色されます。

成長が遅いため、培養で検出されるまで7日間以上かかるため、起因菌としての同定が難しい菌種と言えます。

Bartonellaはヒト、家畜、げっ歯類など、幅広い哺乳類に感染しますが、特にB.henselaeは猫に感染しやすく、そこからヒトに感染を引き起こします。カリフォルニア州で行われた研究では、1歳未満の猫で56%に、1歳以上の猫の34%でB.henselae菌血症が認められました。さらに、1歳未満の猫の90%、1歳以上の猫の77%がB.henselaeの抗体が陽性だったとされています。B.henselaeは猫に感染してもほとんどは無症候です。

一方、B,quintanaとB.baccilliformisはヒトが主要な宿主であるとされています。

また、節足動物であるノミはB.henselaeの猫-猫間の伝播における主因とされています。ノミからヒトへの感染の可能性もありますが、証明はされていません。シラミはB.quintanaの、サシチョウバエはB.bacilliformisのヒト-ヒト感染の主要なベクターとされています。

〇病原性

Bartonellaは皮膚から体内に侵入した後、血管内皮細胞に付着、侵入します。その後血中に出ますが、奥の場合はこの時点で免疫により除去されます。ここでリンパ節で炎症が起こるといわゆる猫ひっかき病によるリンパ節炎が起こりますが、この疾患自体はself-limitedで局所的な感染で終息することがほとんどです。ただし、時折網膜炎や脳炎を引き起こすことに注意が必要です。

ここで免疫で抑えきれなかった場合、赤血球内へと寄生し、菌血症へと移行します。この状態をB.bacilliformisではオロヤ熱、B.quintanaでは塹壕熱と呼称します。さらにBartonellaが心臓弁に付着することで心内膜炎、肝臓や脾臓に付着することでpeliosis hepatis(肝紫斑病)を引き起こします。特に心内膜炎は培養で検出しにくい病原体として押さえておく必要があります。また、皮膚の血管で増殖すると細菌性血管腫症を引き起こすことがあります。

Bartonella感染症による病態

〇猫ひっかき病

猫によるひっかき傷や咬傷、ノミ、シラミを介してBartonellaが感染し、接種部位の所属リンパ節で炎症を起こす病態を猫ひっかき病と呼称します。B.henselae、B.alatica、B.quintanaが主要な病原体です。典型的には猫に引っかかれた後、3-10日後に接種部位の皮膚炎と所属のリンパ節炎を呈します。一般的には腋窩、滑車上、頸部、鎖骨上、顎下リンパ節が多いとされます。圧痛が強く、排膿があることもしばしばあります。基本的にはself-limitedな病態ですが、場合によっては12か月以上リンパ節腫脹が持続することもあります。

・Bartonella感染による皮膚炎

病理学的には非乾酪性肉芽腫を呈しますが、リンパ節からはBartonella自体はほとんど検出されないため、菌そのものというよりも自己免疫応答が主体の炎症だと考えられています。

・リンパ節の病理

〇非定型猫ひっかき病

猫ひっかき病の5-14%で播種性感染症が起こり、これを非定型猫ひっかき病と呼称します。2週間以上持続する発熱、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感、体重減少、肝脾腫、パリノー眼腺症候群(片側の結膜炎、眼瞼など近傍の皮膚炎、耳介前・顎下リンパ節炎を呈する病態)など多彩な症状をとり、しばしば不明熱のような病態をとります。ある小児に対する不明熱の前向き分析では、B.henselaeが3番目に多い病原体であったという報告もあります。

〇神経網膜炎

猫ひっかき病患者のうち1-2%で神経網膜炎を発症することがあります。黄斑における視神経浮腫がその病態であり、発熱、倦怠感に加えて片側の視力障碍を呈します。長期予後は良好ですが、一部視力生涯が残ることもあります。

〇Bartonella菌血症

B.bacciliformisによる菌血症はコロンビア、エクアドル、ペルーなどアンデス山脈周囲で流行している風土病で、カリオン病(オロヤ熱、ペルー疣)と呼称されます。オロヤ熱では発熱と著明な溶血性貧血を呈し、無治療の場合死亡率は50%を超えるとされます。ペルー疣は細菌性血管腫症に類似する多発皮膚病変を呈し、病変は数か月から数年にわたって持続します。

B.quintanaによる菌血症は塹壕熱と呼称され、シラミにより媒介される感染症です。症状は繰り返す急性の発熱であり、しばしば発疹を伴います。現在はメキシコ、チュニジア、ロシアなどの風土病ですが、アメリカのホームレスの間で再発生を認めたこともあります。

〇Bartonella心内膜炎

主に元々弁膜症のある患者で心内膜炎を起こします。頻度が高いのはB.quintanaとB.henselaeです。通常発熱を認め、90%で疣贅を認めます。病態は感染性心内膜炎で疣贅もあるけど菌が生えない…という場合は鑑別に挙げるべきとされています。弁の破壊が強く、90%以上で手術が必要となります。

〇細菌性血管腫

Bartonellaが血管内皮細胞に持続感染することで生じ、カポジ肉腫に類似する皮膚病変をとります。免疫抑制者が発症し、特にADIS患者が多いとされます。病変が網内系全体に拡大すると肝紫斑病を呈することもあります。

診断

検査としては抗体価を測定する血清学的検査やPCR検査がありますが、いずれも保険適応外の検査となってしまします。また、培養での検出も難しく、診断はしばしば困難となります。

〇血清学的診断

IgGが64、128倍の場合はBartonella感染の可能性があり、256倍の場合は活動中、または最近の感染を示します。IgMの陽性は最近の感染を強く示唆しますが、かなり短期間しか陽性となりません。

〇培養

Bartonellaは発育が遅いため、感染性心内膜炎などBartonellaによる菌血症疑わしい場合は検査室に連絡し培養期間を21日間まで延長してもらう必要があります。

〇組織病理

リンパ節など組織検体にWarthin-Starry染色を行うことでB.henselaeの菌体を観察できることがあります、ただし、前述の通り非乾酪壊死が主体で菌自体は組織中には少ないため、感度は低いです。

〇PCR

末梢血や組織標本に対してPCR検査を行い、検出されれば確定診断とすることができます。ただし、猫ひっかき病患者に対する感度は20%程度と報告されているため注意が必要です。

治療

Bartonellaは細胞内寄生菌であり、抗菌薬を選択する場合は注意が必要です。主にマクロライド系、テトラサイクリン系、リファンピシン、ゲンタマイシンなどが使用されます。

〇猫ひっかき病

文献的にはself-limitedな病態のため抗菌薬を不要とするものもありますが、AZMの投与によりリンパ節腫脹の期間を短縮できるという研究があります。

そのため、治療する場合はAZM 500mg 4日間を選択します。

〇非定型猫ひっかき病、視神経網膜炎

非定型猫ひっかき病に対する治療は定まったものがありません。

視神経網膜炎の場合、(DOXY 100mg+RFP 300mg) 1日2回 4-6週間が推奨されています。

〇Bartonella菌血症

GM 3mg/kg/日+DOXY 200mg/日を4週間行います。

〇Bartonella心内膜炎

GM 3mg/kg/日+DOXY 200mg/日を6週間行います。

参考

・Int J Antimicrob Agents. 2014 Jul;44(1):16-25.

・up to date

・Sanford guide