家族性地中海熱とは
家族性地中海熱(Familial Mediterranean Fever:FMF)とは、周期性発熱と漿膜炎を主徴とする遺伝性自己炎症性疾患です。その名の通り地中海沿岸地域に多い疾患であり、責任遺伝子としてMEFVが同定されています。“地中海”といいつつ、近年は本邦を含めた地中海以外の地域でも一定数患者さんが存在することが知られるようになってきています。また、地中海地域の典型的なFMFと比較すると、本邦を含めたその他の地域のFMFでは、臨床像に差異があることも指摘されています。治療介入が遅れると、慢性炎症に続発するアミロイドAアミロイドーシスによる臓器障害を引き起こすことがあるため、早期診断が重要な疾患です。
疫学
地中海沿岸地域に住むトルコ人、アルメニア人、ユダヤ人、アラブ人に最も多くみられます。例えば、トルコでは地域にもよりますが、有病率は150人~1万人に1人とされています。また、アルメニアでは有病率は500人に1人、MEFV変異体のキャリア率は7人に1人と報告されています。
一方、その他の地域では頻度は著しく低下するとされており、本邦では1000人程度の患者数が想定されています(難病情報センターによれば300人)。
症状が出現する時期は、典型的には10歳未満で発症する例が全体の65%、20歳未満で発症する例が90%とされており、中高年での発症は稀とされています。一方、本邦では発症年齢が18.2±14.3歳と海外症例に比べて高く、成人発症例も多いことがわかっています。
FMFは常染色体潜性の遺伝形式をとるとされており、近親婚でリスクが高まります。
病態
FMFの病態には、“インフラマソームの恒常的な活性化”が根底にあります。
インフラマソームとは細胞内で炎症を引き起こすタンパク質複合体のことであり、自然免疫に関与しています。少々難しい用語が続きますが、パターン認識受容体(PRRs)が病原体関連分子パターン(PAMPs)や障害関連分子パターン(DAMPs)といった分子構造を認識すると、様々なタンパク質が集合してインフラマソーム複合体を形成します。その後も様々な反応が続き、最終的にIL-1βやIL-18といった炎症性サイトカインが生成され、最終的に炎症反応が引き起こされるわけです。
さて、健常者ではインフラマソームは病原体などの原因があって初めて形成されるわけですが、FMFの患者さんではPRRsであるパイリンというタンパク質をコードしているMEFV遺伝子に変異があるため、インフラマソームが不適切に活性化して炎症性サイトカインが産生され、結果として周期性の発熱を呈するわけです。
以下、インフラマソームに関する記事のリンクを貼っておきますのでご参照ください。
症状
FMFに特徴的な臨床症状は、38℃以上の発熱発作と、発熱に随伴する漿膜炎症状(胸膜炎、腹膜炎、心膜炎)および関節炎です。丹毒様紅斑と呼ばれる、蜂窩織炎に似た皮疹を伴うこともあります。典型例と非典型例で病像が異なるため、それぞれについてまとめます。
典型的なFMF
12時間から72時間持続する38℃以上の発熱を3回以上繰り返し、腹膜炎、胸膜炎、関節炎などの漿膜炎を伴う症例をFMF典型例と定義します。典型例では、各症状は以下のような特徴があります。
〇周期性発熱
FMFに最も特徴的な症状であり、ほぼすべての症例で認められます。大多数は38~40℃の高熱を呈しますが、37~38℃台に留まる例もあります。通常、発熱の期間は短く、12時間~3日ほど持続します(同じく周期性発熱症候群であるPFAPAでは4-5日)。
〇腹痛
腹膜炎により出現する症状です。発熱に次いで頻度の高い症状であり、90%以上の症例で認めるといいます。腹膜炎であることを反映し、腹膜刺激徴候を呈するため、外科的急性腹症として開腹手術が行われることもあります。
〇胸痛
胸膜炎により出現する症状です。頻度は33~84%と幅があります。典型的には片側の胸痛として現れ、吸気や咳嗽で増悪します。少量の胸水を認めることもあり、胸水は滲出性で好中球が優位に含まれます。胸膜炎を繰り返すことで、胸膜肥厚や癒着を呈することもあります。通常3日以内に収まりますが、1週間以上持続することもあるようです。
〇関節炎
75%程度の患者さんに生じるとされ、通常単関節性であり、膝や足関節、股関節、肘関節など、大きな関節に出現します。関節液は無菌であり、白血球は200~100,000個/mm3程度まで上昇します。通常関節破壊に至ることはありませんが、繰り返す場合には人工関節置換術が必要になることもあるようです。
〇丹毒様皮疹
FMF患者の12~40%に生じます。下腿、足首、足背に出現することが多く、発赤・腫脹・熱感・圧痛を伴い、一見蜂窩織炎との鑑別が困難です。抗菌薬なしでも自然軽快します。
〇その他の症状
・運動誘発性筋肉痛:下腿、大腿に多い、コルヒチンが効きにくい
・急性心膜炎:1%程度にみられる
・急性陰嚢症:腹膜炎の一種
・無菌性髄膜炎:頻度少ない
・口腔内潰瘍:頻度少ない
・皮膚発疹:頻度少ない
非典型的なFMF
・発熱が数時間以内である
・発熱が4日以上持続する
・発熱が微熱に留まるか、そもそも認めない
・漿膜炎が軽度かほとんど認めない
・髄膜炎、口内炎、関節痛、筋肉痛など、典型的でない症状がある
といった要素があるFMFである場合、非典型例として扱います。
本邦のFMFでみられた症状は、発熱(97.5%)、腹痛(65.8%)、胸痛(37.8%)、関節炎(30.2%)、皮疹(7.6%)、頭痛(18.4%)と報告されており、海外症例と比較し腹膜炎症状、アミロイドーシスの合併が少ないことが分かっています。また、本邦では非典型例に該当するFMFは、全体の4割を占めると報告されています。
このような病像の違いは、MEFV遺伝子変異型との関連が示唆されています。典型例ではMEFV遺伝子エクソン10に変異を認めますが、非典型例ではエクソン1、エクソン2、エクソン5に変異を認めることが多いようです。
診断
FMFの臨床診断はTel-Hashomer criteriaでなされることが多いです。この診断基準は国際的に広く用いられていますが、発熱・漿膜炎発作を典型(Typical)と不完全(Imcomplete)に分類するなど、難解な点も多いです。

先述した通り、本邦では非典型例が多く、典型例が多い地域で作成された本診断基準を使用することは適当でない可能性が高いです。そのため、日本免疫不全・自己炎症学会は、本邦の疫学を踏まえ、以下のような診断基準とフローチャートを提唱しています1,2)。

本診断基準では、必須項目であるFMFに特徴的な周期性発熱に加え、漿膜炎・滑膜炎などの随伴症状、発作時の急性期蛋白の上昇並びにコルヒチンによる症状の改善等の補助項目のどれか1項目を満たしている場合、典型型FMFと診断します。典型例の診断基準を満たさない場合は、フローチャートに沿って遺伝子検査やコルヒチンの反応性を確認していくことになっています。直感で理解しやすく、使いやすい診断基準+フローチャートになっており、本邦ではこちらの基準を用いるのがよいと考えます。
さて、実臨床では発熱を繰り返している患者さんを診た際に、本疾患を想起することになると思います。ここで忘れてはいけないのが、本疾患はいわゆる“シマウマ”、つまり希少疾患である点です。最初に発熱を繰り返す(ように見える)、コモンな疾患を除外することが先決です。まずはしっかり病歴を確認することが重要となりますが、ポイントはやはり“熱型”です。本疾患を含めた周期性発熱症候群は、下記のように間欠期には全くの無熱になることが最大の特徴となります。

一方、患者さんは以下のように体温が乱高下するものや、全くの平熱にならないようなものであっても、“周期性発熱症候群”らしい訴えで受診することがあります。

病歴だけでなく、可能なら連日検温をしてもらうなどし、上記の図のように熱型を図示できるくらいまで明確にすることを心がけましょう。
また、無熱時と有熱時に血液検査を行い、CRP、血清アミロイドA、赤沈など、いわゆる炎症反応がどのように変化するか確認することも有用です。無熱期は全くの正常で、有熱期にのみ炎症反応が上昇する、というのは周期性発熱症候群らしさが高まります。一方、常に炎症反応が高いようであれば、慢性炎症を来すような疾患を考えるべきです。
他疾患との鑑別のために、下記のような検査を行っておくとよいでしょう。
・血液検査(一般項目、CRP、赤沈、アミロイドA、フェリチン、rIL-2、RF、抗核抗体)
→特に有熱時と無熱時の炎症反応は要確認!
・尿検査
・発熱時の各種培養(血液、尿など)
・頚部-骨盤部造影CT(膿瘍やリンパ節腫大などの検索のため)
最後に、UpToDateを参考に、鑑別となる疾患をまとめておきます。

なお、FMFといえば遺伝子検査というイメージがあるかもしれませんが、診断基準をみてわかる通り、診断に必須のものではありません。臨床経過だけでは白黒つかない場合に検討する、といったような位置づけです。もし遺伝子検査を行う場合は、遺伝カウンセリングなどを含め、遺伝外来にコンサルトすることが望ましいです。
治療
FMFの治療において重要なポイントは、発熱発作を減少させADLを改善することに加え、長期的にAAアミロイドーシスを予防することにあります。
治療の第一選択はコルヒチンであり、本邦の全国調査でも、90%以上の症例で有効性が示されており、アミロイドーシスの予防効果も示唆されています。
成人では、1mg/日が至適投与量とされていますが、本邦の症例では0.5mg/日と比較的少ない投与量でも改善がみられることがあります。一方、効果がみられない場合は2mg/日まで増量が可能です。
海外の推奨では、コルヒチン治療開始後は3か月間隔で治療効果を判定し、発熱発作が3か月に1回以上、あるいは発熱発作に関わらず、炎症反応が持続する場合はコルヒチンの増量を行うべきとされています。
コルヒチンの副作用として、下痢を始めとする消化器症状や、血球減少、腎障害、肝障害に注意する必要があります。定期的に血液検査を確認しておくのがよいでしょう。
コルヒチンが無効、ないしは不耐の場合、IL-1βに対するモノクローナル抗体であるカナキブマブの使用を検討します。
参考
1)自己炎症性疾患診療ガイドライン
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2016/162051/201610031B_upload/201610031B0009.pdf
2)家族性地中海熱の診断と治療 内科学会誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/108/9/108_1918/_pdf
3)UpToDate
4)難病情報センター
5)「これって自己炎症性疾患?」と思ったら 國松 淳和 金芳堂
やや古い書籍ですが、FMFを含めた自己炎症性疾患の全体像を掴むのによい書籍です。