貧血の基本
〇貧血の定義
女性:Hb<11.9g/dLまたはHt<35%
男性:Hb<13.6g/dLまたはHt<40%
を貧血として定義します。
〇用語の確認
・平均赤血球容積(MCV)
RBCの平均容積を指します。小球性、正球性、大球性の鑑別に使用します。
・平均赤血球ヘモグロビン(MCH)
RBCの平均ヘモグロビン含有量を指します。低値(低色素)である場合、鉄欠乏性貧血やサラセミアの可能性があります。
・平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)
RBCあたりの平均ヘモグロビン濃度です。低値の場合は鉄欠乏性貧血が、高値の場合は球状赤血球症またはRBC凝集の可能性があります。
・RBC distribution width(RDW)
RDWとはMCVの分布域のことです。MCV100fLの貧血ではMCV 100の赤血球のみがあるのではなく、その値を平均値としてある程度の幅を持って分布しており、それを数値にしたのがRDWです。基準値はRDW-SD 38-50fL、RDW-CV 12-14%程度とされています。RDWが開大している貧血は小球性の要素から大球性の要素まで含まれていると考えられ、比較的急性期の病態に多くなります(例外は急性出血)。慢性経過の骨髄抑制や遺伝性の貧血疾患、再生不良性貧血、MDSではRDWの開大はあまりみられません。
・網状赤血球、RPI(reticulocyte production index)
網状赤血球は成熟直前のRBCです。定常状態では循環赤血球の0.5-2%が網状赤血球であるとされます。網状赤血球が高値であれば骨髄でのRBC産生が亢進している病態、低値であれば骨髄でRBC産生ができない病態があることを示唆します。
網状赤血球数は貧血の程度により影響を受けるため、補正をかけた指数がRPIになります。
RPI=(Hct/45)×網状赤血球(%)÷Maturation time
で算出されます。Maturation timeはHct>40で1, 30~40で1.5, 20~30で2, <20で2.5と対応しています。RPI>2で骨髄造血反応正常、RPI<2で骨髄造血不良と判断します。
・鉄動態(Fe、TIBC、フェリチン)
鉄動態は小球性貧血の鑑別で用いられます。
下記の表の通りに解釈します。
・ハプトグロビン
ハプトグロビンは主に肝臓で産生されるヘモグロビン結合蛋白で、ヘモグロビンが血中に遊離されると迅速に極めて強固に結合します。溶血性貧血の場合、ハプトグロビンが低下します。25<mg/dLで感度83%、特異度96%と高い精度を持ちますが、基本的に外注検査なので迅速な評価には向いていません。
鑑別の進め方
〇Step1:1系統か多系統か
汎血球減少の場合に対応が変わってくるため、貧血に加えて白血球減少、好中球減少がないかをチェックしましょう。
〇Step2:急性経過の貧血か
かかりつけで以前の採血がある方は貧血に至るまでの経過を確認しましょう。
急速に進行している場合、RPIやMCVに関わらず出血が原因である可能性が高いです。
〇Step3:RPIを計算する
RPI>2:骨髄造血反応正常→出血、溶血の鑑別
RPI<2:骨髄造血不良
RPI>2以上の場合、出血と溶血が鑑別となります。まずはLDH、Bilを確認し、溶血らしければ直接Cooms試験、ハプトグロビンを行います。
〇Step4:MCV、RDW、鉄動態の解釈
MCVが小さい場合には前述の鉄動態での鑑別が有用です。
RDWが開大している場合、貧血をきたす病態が比較的急性に起こっていることを示唆します(繰り返しですが急性出血の場合はこの限りではありません)。
MCVが大きい場合、VitB12、葉酸を提出しましょう。
〇Step5:骨髄検査などの検討
ここまで検査を行っても原因がはっきりしない場合、骨髄検査や血液内科へのコンサルトを検討します。行っていないのであれば上下部内視鏡検査も試行します。
以下、貧血の鑑別フローを掲載します。
参考
・up to date
・ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第2版
・内科診療ことはじめ 救急・病棟リファレンス
・内科病棟マニュアル 疾患ごとの管理(青本)