疫学
真性多血症はすべての集団、年齢層で発生し、子供や若年者では発症する可能性があります。診断時の中央値は約60歳であり、症例の1/4が50歳未満、1/10が40歳未満です。
ミネソタ州での疫学調査によれば、発生率は1.9/100,000であると推定され、女性の方が男性よりもわずかに高く、70-79歳の男性で最も高いとされます。本邦での発生率は欧米よりも低いといわれます。
病態
真性多血症は造血幹細胞レベルの異常によって生じる骨髄増殖性腫瘍の1つです。有効造血の亢進によりすべての血球の増加を認めますが、中でも赤血球の増加が顕著です。
90%以上の症例にJAK2遺伝子変異(V617F変異)を認め、診断のためにはJAK2変異解析が不可欠です。本来、エリスロポエチンによる刺激に応じてJAK/STATシグナル伝達が活性化され、赤血球の増殖が促進されます。JAK2遺伝子変異が起こるとエリスロポエチンに依存せずJAK/STATシグナルが活性化し、赤血球の増殖が無制限に促進されてしまいます。
血栓症を合併するためその予防が重要なことと、数%の症例で急性白血病や骨髄線維症に移行することに注意が必要です。
臨床症状
ほとんどの真性多血症の患者には症状がなく、健診などで偶然に発見されることが多いです。顔面や手掌の赤みが強いことを家人に指摘され来院することもあります。
血栓症を契機に診断に至る例もあります。特に腹腔内静脈(肝静脈や下大静脈等)に血栓を認めた場合は真性多血症がないかを検討する必要があります。
症状には特異的なものは乏しいですが、循環赤血球増加に伴い頭痛やめまい、高血圧を認めることがあります。好塩基球増加による抗ヒスタミン血症により全身性の掻痒感を伴うことがあります。特に温かいシャワーで惹起されることは有名です。時に四肢の先端部に発赤と共に灼熱感が生じることがあり、肢端紅痛症として知られています。
診断
真性多血症の診断基準は2016年に改訂されたWHO分類に基づきます。
大基準として、
1)赤血球増加の存在
2)骨髄所見
3)JAK2V617F変異もしくはJAK2 exon12変異の存在
小基準として、
1)血清エリスロポエチン濃度が正常下限以下
と定められています。
大基準1)+2)+3)を満たす場合および、
大基準1)+2)、および小基準をみたす場合
に真性多血症と診断します。
赤血球増加の定義は、WHO 2008年分類までは男性でHb>18.5g/dl、女性でHb>16.5g/dlでしたが、2016年分類では男性でHb>16.5g/dl、女性でHb>16.0g/dlに引き下げられています。また、男性でヘマトクリット>49%、女性でヘマトクリット>48%、または循環赤血球量の増加を示す場合も大基準の1)を満たすことになります。
真性多血症の鑑別で重要なのは、一次性(真性多血症)か二次性なのかを判断することです。下記の二次性多血症の原因がないかチェックしつつ、エリスロポエチンの測定ができれば測定を行います。エリスロポエチン高値の真性多血症は稀であり、二次性多血症への特異度は98%とされます。
二次性多血症が否定的であれば、骨髄穿刺や末梢血JAK2 V617Fを評価します。
ついで、他の骨髄増殖性腫瘍の可能性についても除外する必要があります。染色体分析やFISHにてBCR-ABL変異の有無を確認し、CMLの可能性を否定します。
大きな病院では初期評価から同時に骨髄穿刺、末梢血JAK2 V617Fを評価する場合もあるのかもしれませんが、プライマリケアの場面では二次性多血症の病歴、身体所見の確認と、できてもエリスロポエチンのチェックまでになると思います。以下、診断のフローチャートです。
治療
真性多血症では、血栓のリスク評価に基づいて、治療方針を決定します。
60歳未満でかつ、血栓や出血の既往がなければ、低リスク群として、瀉血によるヘマトクリットのコントロールとアスピリンによる治療を行います。これに該当しない場合は、高リスク群として、ハイドロキシウレアの併用が推奨されます。
参考
・ホスピタリストのための内科診療フローチャート 第2版
・血液内科ただいま診断中
・up to date