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喘息の総論(定義、病態生理、検査など)

  • 2022年12月5日
  • 2023年1月26日
  • 呼吸器
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定義と病態生理

成人喘息の定義は、「気道の慢性炎症を本態とし、変動性を持った気道狭窄(喘鳴、呼吸困難)や咳などの臨床症状で特徴づけられる疾患」とされています。

簡単に言い換えると、「アレルゲンなどの暴露により、気道過敏性が亢進した気管支に様々な炎症(主に好酸球性)が起こり、咳嗽・喘鳴・呼吸困難が出てしんどい」状態というのが喘息といえます。

以下、定義に入っている文言を各種説明していきます。

〇気道の慢性炎症とは

喘息の場合、気道の慢性炎症は好酸球が主体であり、アレルギー反応が起こっていると言い換えることができます。好酸球性炎症が起こる具体的なカスケードは非常に難解ですが、下図に概要を示します。1) ざっくり説明しますと、抗原に反応したTh2細胞2型自然リンパ球IL-4、IL-5、IL13などのサイトカインを分泌することで、好酸球が誘導・活性化し好酸球性炎症が生じる、という流れになります。この一連の反応により生じる炎症を2型炎症と呼称します。

一方で高齢や肥満の患者では好中球炎症も関与していると考えられており、すべてが好酸球性炎症で説明がつくわけでない点が喘息診療の難しいところです。

現在、喘息のフェノタイプにはいろいろな分類があります。例えばOpinaらの分類では、

①若年発症・アトピー型

➁高齢発症・喀痰好酸球優位型・非アトピー型

③高齢発症・喀痰好中球優位型・非アトピー型

の3つが提唱されています。2)

気道炎症の主体が何かで病態やその治療法が異なってくるため、考え方としては重要なので押さえておきましょう。

〇変動性(可逆性)

喘息発作中の患者にSABAを吸入させたり、ICSの使用により閉塞した気管支が拡張し、ピークフローや呼吸機能検査が改善していくなど、喘息では短期的にも長期的にも気管支に可逆性があることが特徴です。COPDでは増悪時に短期的に気管支が拡張することはありますが、長期的には可逆性がありません。ただし、喘息も慢性炎症が持続し気道のリモデリングが進行すると可逆性が消失してしまうことに注意が必要です。

〇気道狭窄(喘鳴、呼吸困難)や咳などの臨床症状

喘息の代表的な症状が上記ですが、これは好酸球性炎症により気管支壁の炎症性肥厚、気管支平滑筋の肥厚が起こることで気道が狭窄することで生じます。発作時は気管支平滑筋が収縮し、さらに気道が狭窄してしまって症状が強まります。

ちなみに、喘鳴がない、つまり気道狭窄がなく咳嗽が主体の喘息を咳喘息と呼びます。

上記の通り、定義に含まれる慢性の気道炎症、変動性、気道狭窄の3つのキーワードについて見てきました。ここからは定義に含まれていないものの、喘息を理解する上で重要な2点について説明していきます。

〇気道過敏性

定義には含まれていませんが、喘息では必ず気道過敏性が亢進しています。気道過敏性とは気管支が狭窄しやすい状態です。喘息の患者さんでは好酸球から放出されるメディエーターで気道上皮が剥離し、神経が露出している状態にあるため、気管支がアレルゲンの暴露などで簡単に攣縮してしまいます。

〇気道リモデリング

気道リモデリングは気道周囲にある上皮組織、結合組織、菌組織、血管の異常な再構築のことをいいます。喘息では好酸球性の炎症が起こって発作が起こると、気道粘膜は一時的に破壊されます。その後、しばらく経って修復しされるわけですが、完全に元通りとはならず、気道が硬くなったりつぶれてしまったりします。これをリモデリング(再構築)と呼びます。気道リモデリングとは病理学的には基底膜下の線維性の肥厚を指します。これにより気管支が太く、狭くなってしまい、気道の弾性(コンプライアンス)が低下し気道抵抗が相乗的に大きくなってしまうため、喘息症状がより強まってしまいます。さらに、喘息治療薬であるICSやLABAの効果が落ちてしまいます。

このため、喘息治療ではしっかりとコントローラーを使用して気道の好酸球性炎症を防ぎ、気道リモデリングが進むのを可能な限り防ぐことが一つの目標になってきます。

疫学

以下に喘息の疫学について特徴をまとめます

〇喘息の死者数

・1990年代は年間5000人以上の死者を出していたが、現在は1500人前後にまで減少している。

・死者のほとんどが成人であり、特に高齢者が多い。

〇喘息の有病率

・上記の通り死者数は減っているが、喘息の患者数そのものは減っておらず、その有病率は6-10%といわれている。

〇入院を有する喘息患者

・吸入ステロイドの発達により、入院患者も減ってきている。

危険因子

〇アレルギー、アトピー素因

アトピー素因というのはアレルゲン特異的IgEが作られやすい体質のことを指します。アトピー素因は同じ家系内で発生しやすいことがわかっており、両親ともにアトピー性皮膚炎+喘息という過程では子供も同様にアレルギー症状を呈するリスクが高くなります。また、食物アレルギーがある子供は、ない子供と比較して喘息になることが多いとされます。

〇遺伝的素因

喘息における遺伝子素因は単一遺伝子の変異で説明できるものではなく、複数の遺伝子が関与しており、なおかつアレルゲン暴露など後天的な環境因子がトリガーとなることで発症します。複数の国からなる23コホート2万人以上の解析によって,IL1RL1/IL18R1,HLA-DQ,IL33,SMAD3,ORMDL3,IL2RBの領域で有意な関連が示されています。

〇喫煙

たばこの煙にはニコチン、ピレン、エンドトキシン、アセトアルデヒドなど多数の化合物が含まれており、喫煙の刺激によって気道上皮からTSLP産生が誘導され、気道炎症につながります。喫煙により、非喫煙者の喘息患者と比較し気管支が狭くなり、炎症が持続するため気道のリモデリングがどんどん進行してしまうとされ、生存率が低下することも示されています。そのため、喘息なのに喫煙をしている方には絶対に禁煙してもらう必要があります。

また、妊娠中の母体の喫煙や、小児期の受動喫煙が喘息のリスクを高めるといわれています。

〇大気汚染

ダンプカーや大型トラックなど、多量の排気ガスを排出する車が行きかう大きな道路の近くに居住する小児には、喘息のリスクが高くなることがわかっています。逆に、田舎に行くほど大気汚染の関与する喘息リスクは低くなるといわれています。

喘息のリスク因子となる大気汚染物質は、浮遊粒子状物質(PM2.5,PM10など),オゾン,窒素酸化物,硫黄酸化物などがあります。

診断

〇喘息の診断基準

実は喘息に公式の診断基準はありません。病態像が様々で類似疾患が多いため、厳密にラインを引くことが難しいからであるとされます。このため、日本のガイドラインでも下記のような「診断の目安」が掲載されています。

〇問診

喘息らしさを捉えるため、下記のポイントに沿って問診をしていきましょう。

①どのような呼吸器症状があるか

・喘息では咳嗽、呼吸困難、喀痰、胸部絞扼感など、どのような症状も出うるとされますが、「ヒューヒュー」や「ゼーゼー」という喘鳴があれば確からしいといえます。

・慢性咳嗽のみで受診する咳喘息の患者では判断が難しいかもしれません。

➁いつ呼吸器症状がでるか

・健康な人であっても喘息患者であっても、午後3時が最も気道内腔が広く、午前3時が最も気道内腔が狭いと考えられています。そのため、夜中-明け方に発作が出やすいです。

・そのため、夜間-明け方に呼吸器症状が悪くなる患者が多いですが、アレルギーのある患者ではアレルゲンに暴露されたとき(家の掃除、仕事中、外出による粉じん暴露)に起こるため、時間帯はあくまで目安です。

・労作時にのみ呼吸困難が強くなる場合は喘息の可能性が低く、COPDや間質性肺炎を疑いますが、運動誘発性喘息の場合は運動の時に症状が強くなるため留意する必要があります。

③リスク因子の問診

・風邪、ハウスダスト、花粉、ペット、ストレス、たばこ、アルコール、月経・妊娠などについて問診を行います。

・アレルゲンに関しては血液検査をしないとわからないこともあるので、積極的にアレルゲン同定検査を行います。

・肥満もリスク因子です。

④既往歴

・幼少期にアレルギー性鼻炎や小児喘息と診断されていれば喘息の可能性は上がります。

・NSAIDs過敏症を考慮し解熱鎮痛薬の内服がないか問診しますが、頻度は高くないです。同様にNSAIDs過敏症を考慮し、鼻炎や副鼻腔炎の問診を行いましょう。

⑤家族歴

・アトピー性皮膚炎やアレルギー性疾患の家族がいると喘息のリスクは高くなります。

・余裕があれば家族の喫煙歴や職業歴も聞くとよいです。

⑥生活歴・職業歴

・思わぬ生活習慣がアレルゲンだったということがあるため、職業に加え、可能であれば趣味や普段の生活について細かい問診をします(例:趣味の粘土細工やキノコ栽培などなど)。

〇身体所見

Polyphonic wheezesが特徴的な身体所見ですが、発作が起きていないときは聴取できないことがほとんどです。

強制呼気といって、深吸気をした上で開口したまま(気道への陽圧が極力かからないようにする)、一気に息を吐かせるとwheezesが拾えることがあります。

・その他、喘息に特異的な所見はあまりありません。喘息は身体所見よりも問診が重要ということです

〇呼吸機能検査

①通常の呼吸機能検査

・FEV1%が70%以下で閉塞性障害として扱うが、喘息発作が出ていない患者ではその範疇に当てはまらないことが多々ある。

・V50/V25が2-3以上は末梢気道病変を示唆し、喘息患者の非発作時に該当する場合がある。

➁気道可逆性検査

・一度呼吸機能検査を行ったあと、SABAを吸入させて15-30分後に再検します。

1秒量が12%以上かつ絶対値200mL以上改善すれば気道可逆性ありと判断し、喘息らしいといえます。

・すでに治療中の場合、正確に検査をするならばICSやLABAといった薬剤は中止する必要があります。

FeNO

・好酸球性炎症ではNOが産生されるため、喘息患者では呼気一酸化窒素濃度(FeNO)が上昇します。

・「20~25ppbを下回っていたら,まぁ喘息はないだろう」,「40〜50ppbを超えていたら好酸球性炎症がある(喘息がある)だろう」と考えるとよいでしょう。

〇喀痰好酸球

・喘息患者では喀痰中の好酸球比率が上昇するが、なかなか検査できる施設が少ないのが難点です。

〇気道過敏性検査

・こちらも一般施設では施行が厳しいです。重症喘息や症状が不安定の場合は禁忌です。

〇血液検査

末梢血好酸球数が上昇していると喘息らしいです。絶対値で評価をし、250-300/μl以上では好酸球性気道炎症が示唆されます。

血中総IgEもアトピー素因を示します。200IU/ml以上で高値と判断します。

抗原特異的IgE抗体を提出し、アレルゲンを同定することも重要です。ヤケヒョウダニ、コナヒョウダニ、植物(スギ、ヒノキ、カモガヤ、ブタクサ、ヨモギ)、ネコ、イヌなどが項目です。

〇胸部画像検査

・すべての喘息患者に必要なわけではありませんが、一般的に喘息には画像所見がないため、他疾患との鑑別のために検討しでもよいです。

・CTでは気管支壁の肥厚やair trappingを認めることがありますが、非特異的所見です。

https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/18547

より引用

〇まとめ

とにかく喘息の診断には最も問診が重要であることを忘れないようにしましょう!

・下記のGINAの喘息らしい11項目がわかりやすいです。3つ以上満たせば喘息らしいといえます。

鑑別疾患

特に急性心不全による心臓喘息COPDアナフィラキシーとの鑑別に注意!

〇閉塞性換気障害をきたす疾患

・COPD:気道可逆性検査、FeNO、肺拡散能、HRCT

・びまん性汎細気管支炎HRCT

・気管支拡張症:HRCT

・閉塞性細気管支炎(移植後や膠原病関連):吸気、呼気のHRCT、肺気量分画、肺拡散能、クロージングボリューム

〇呼吸困難をきたす疾患

・心不全、不整脈:心電図、心エコー、BNP

・肺高血圧症:上記に加え、右心カテ

・肺血栓塞栓症:Dダイマー、造影CT検査

・間質性肺炎:呼吸機能検査

・全身性疾患(神経筋疾患、貧血、甲状腺機能異常など)

参考

1)Ann am Thorac Soc. 2014; 11(Suppl5):S322

2)Curr Allergy Asthma Rep. 2017 Feb;17(2):10. 

3)喘息バイブル 倉原優 日本医事新報社

4)喘息予防・管理ガイドライン2021