注目キーワード
  1. 高血圧
  2. 骨粗鬆症
  3. 糖尿病

抗線維化薬

  • 2023年2月7日
  • 2023年2月7日
  • 呼吸器
  • 62view
  • 0件

抗線維化薬とは

抗線維化薬は間質性肺炎の中でも主に特発性肺線維症(IPF)に使用される薬剤です。

IPFの病態は、元々は慢性炎症に伴う結果としての線維化とされていきましたが、現在では繰り返す肺胞上皮細胞の損傷と線維芽細胞の遊走・活性化に伴う過修復・線維化に考え方が変化してきています。それに伴い、ステロイドや免疫抑制薬を用いた抗炎症・免疫抑制療法から抗線維化薬による治療へとパラダイムシフトしてきています。今回はこの抗線維化薬について解説していきます。

ピルフェニドン(ピレスパ®)

ピルフェニドンとは

ピルフェニドンはTGF-βによる膠原線維合成を阻害することで細胞外マトリックスを減少させ、線維芽細胞の増殖をin vitroでブロックする抗線維化薬です。

有効性

ACSEND試験1)では、555人のIPF患者が無作為にピルフェニドン投与群とプラセボ投与群を52週間投与されるように割り振られました。結果として、ピルフェニドン投与群でFVCの1年での減少率が大幅に減少しました。また、FVCが10%以上低下した、または死亡した患者はピルフェニドン群で46人(16.5%) 、プラセボ群で88人(31.8%)でした。

CAPACITY004および006試験2)はIPF患者に対してピルフェニドン投与群とプラセボ投与群を72週間の時点で評価したものですが、004試験ではFVCの低下を有意に減少させましたが、006試験では有意差がつきませんでした。

一方で、CAPACITY004および006試験およびASCEND試験の患者集団を組み合わせたプール分析と、日本での第2相、第3相試験のメタ分析を行った研究では、ピルフェニドン投与により全死亡率とIPF関連死亡率が有意に低下していました。

用法・用量

初期用量200mg 1日3回(1日量600mg)で開始し、2週間ごとを目安に1回量を200mgずつ漸増し、1回600mg(1日1800mg)まで増量します。

副作用

発疹(30%)、光線過敏症(9%)、嘔気(36%)、腹部不快感(24%)、消化不良(19%)、食思不振(13%)、および全身倦怠感(26%)など、皮膚症状消化器症状がメインです。最大量の投与群で18%の患者が消化器症状のため薬剤の減量が必要となり、2%が投与を中止されました。

光線過敏症は患者さんにとっては悩ましい症状で、高齢の患者さんでは畑仕事など屋外での活動が制限されてしまいます。帽子・長袖の着用や日焼け止めの使用など、生活指導が必要です。

また、薬剤性肝障害や無顆粒球症をきたす可能性があり、定期的に肝機能をモニタリングする必要があります。

腎障害があると代謝産物の蓄積が起こるとされ、欧州ではCCr 30ml/min以下の症例では使用が推奨されていません。

ニンテダニブ(オフェブ®)

ニンテダニブとは

ニンテダニブは線維形成増殖因子(例えば血小板由来増殖因子、血管内皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子)の合成を媒介する複数のチロシンキナーゼに対する受容体遮断薬です。

有効性

TOMORROW試験4)では、432人の患者がニンテダニブ投与群またはプラセボ投与群にランダムに割り当てられました。ニンテダニブ150mg 1日2回を服用した群では、プラセボと比較して有意にFVCの減少率が低下し、急性増悪の頻度も減少していました。

INPULSIS-1および2試験5)では、合計1066人のIPF患者がニンテダニブ投与群またはプラセボ投与群にランダムに割り当てられ、52週間の時点で評価されました。FVCの減少率はニンテダニブで有意に少なく、INPULSIS-2試験では急性増悪抑制効果も確認されました。

TOMORROW試験およびINPULSIS-1,2試験のメタ解析6)では、ニンテダニブにFVCの減少率の抑制効果、急性増悪抑制効果、総死亡率を減少させる効果を認めました。

用法・用量

通常1回150mgを1日2回、朝・夕食後に経口投与します。

なお、副作用などにより1回100mg 1日2回投与へ減量可能です。

副作用

下痢(62%)、嘔気(24%)、嘔吐(12%)、肝逸脱酵素の上昇(12%)などがあります。特に下痢は頻度が高く、必要に応じて止痢薬(ロペラミド)の使用や減量を検討します。実臨床では20-30%で減量が必要となり、5-25%で薬剤投与自体を中止してしまっているという報告があります。

抗線維化薬の注意点

ピルフェニドンとニンテダニブの違い

両者ともFVCの低下抑制効果、急性増悪抑制効果および死亡率の低下効果が示されていますが、直接比較した試験はなく、いずれが優位であるか、使い分けをどうするかについてはコンセンサスはありません。副作用や薬価を鑑み、治療者側がいずれを用いるか選択していくことになります。

また、ニンテダニブはIPFだけでなく、進行線維化を伴う間質性肺疾患(PF-ILD)強皮症に伴うIPに対しても適応が通っていることを押さえておきましょう。

薬価の問題

抗線維化薬の最大の欠点はその薬価です。

特にニンテダニブは高価であり、難病医療費助成制度、身体障碍者手帳、高額医療費制度など、可能な制度を最大限に活用する必要があります。

参考

1)N Engl J Med. 2014 May 29;370(22):2083-92.

2)Lancet. 2011 May 21;377(9779):1760-9.

3)Lancet Respir Med. 2017 Jan;5(1):33-41.

4)N Engl J Med. 2011;365(12):1079. 

5)N Engl J Med. 2014;370(22):2071.

6)Respir Med. 2016;113:74. 

・ポケット呼吸器診療2022 倉原優