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骨粗鬆症の基本

  • 2022年9月24日
  • 2023年9月15日
  • 骨粗鬆症
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骨粗鬆症の定義

まず、骨粗鬆症の定義ですが、WHOは以下のように定義しています。

「骨粗鬆症は、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増大する疾患である」

・・・何のことやらさっぱりですね。

また、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の定義は以下のようになっています。

「“骨強度”の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患である。骨強度は“骨密度”と“骨質”の2つの要因からなる。また、骨質を規定するものは微細構造、骨代謝回転、微小骨折、骨組織の石灰化度などである」

・・・これも読むのが嫌になってくる文章です。

NIHの定義を図にまとめると、以下のようになるかと思います。

とにかく、骨の密度ないしは質の低下により、骨の強度が低下し骨折しやすい状態が骨粗鬆症ということになります。

骨粗鬆症の病態

骨粗鬆症の病態は非常に複雑であり、解明されていない部分も多いといわれています。下図は治療薬を考える上で重要な部分のみ抜粋し作成したものです。作図に当たっては医学事始様http://igakukotohajime.com/のものを参考にさせて頂きました。

骨代謝は骨芽細胞による骨形成と、破骨細胞による骨吸収の平衡関係で成立しています。その平衡関係には、上記の図を見て頂けるとわかるように、PTHカルシトニンスクレロスチンエストロゲンといったホルモンや、RANK-RANKLのような受容体-リガンドなど、複数の分子が複雑に関係しあっています。この平衡関係が崩れ、骨吸収>骨形成となった状態が骨粗鬆症であるといえます。

骨粗鬆症の疫学

本邦における骨粗鬆症の有病率は以下の通りとされています。

・腰椎:男性 3.4%、女性 19.2%

・大腿骨:男性 12.4%、女性 26.5%

閉経に伴うエストロゲン低下の影響から、圧倒的に女性が多いことがわかります。ただし、腰椎と比較すると大腿骨では男女差は少なくなっており、1:5だったものが1:2の比率となっています。実臨床でも、男性の腰椎圧迫骨折は見かけることがそう多くありませんが、男性の大腿骨頸部骨折については一度は診療に携わったことのある先生方が多いのではないかと思います。

なお、骨折自体の発生率ですが、大腿骨近位部骨折は2017年に全国で19万人、年齢調整発生率は男性 26.1人/10万人、女性 46人/10万人となっています。有病率同様に、大体男女の比率が1:2となっていますね。なお、椎体圧迫骨折については無症状である場合が多いため、正確な発症率は算出できないようです。

骨粗鬆症の診断・評価の方法

さて、ここからは本日のメインテーマといっても過言ではない、骨粗鬆症の診断・評価の方法について書いていこうと思います。まず、そもそもですが骨粗鬆症の診断はどのようなものか見ていきましょう。本邦での診断基準は以下の通りとなっています。

ここで急にYAMという数値が出てきますが、これは若年成人平均値(young adult mean)の英語略になります。これは腰椎では20-44歳、大腿骨近位部では20-29歳の若年者の骨密度の平均値と比較し、その人の骨密度が何%なのかを表します。腰椎のYAM 70%の場合、若年者と比較して骨密度が70%である、ということですね。つまるところ、診断は脆弱骨折の有無とYAMという骨密度を表す数値を元に行っていくというわけです。

また、ややこしい話になりますが、治療適応の対象についても、ガイドラインのフローを以下に示します。

この図をみるとやっかいなのが、診断基準と治療開始基準が微妙に異なっているということです。もう一度以下の図をご覧ください。

右の群が骨粗鬆症の診断基準と合致する群であり、治療対象となることは合点がいきます。一方で、左の群は骨粗鬆症の診断基準とは合致せず、ガイドライン上は骨粗鬆症ではないが骨量減少という群になりますが、治療対象にはなる、ということになるのです。他の生活習慣病で例えるならば、糖尿病境界域の方にすぐに経口血糖降下薬を始めてしまうようなものでしょうか。骨強度は食事や運動習慣のみですぐに改善させることが難しいためこのような扱いになっているものと思われますが、どうにもこうにもややこしいですね。

さて、ここで上記の図をよく見てみますと、急にFRAX®という聞きなれない単語が出てきました。また、骨密度の実際の測定方法をまだ説明できていません。ここからはDXA法FRAX®という重要ポイントについて書いていきます

◇DXA法

DXA(dual-energy Xray absorptiometry)法とは、2種類の異なるX線を骨にあてて、骨と他の組織におけるX線の吸収率の差から骨密度を測定する方法です。他にも方法はありますが、骨密度の測定といえばDXA法を指すといっても過言ではありません。

腰椎のL1-4、またはL2-4と、大腿骨近位部で測定することが通常です。ここで測定した骨密度がYAMと比較し何%かで数値化していきます。

病院にもよると思いますが、概ね以下のような表で結果がでてきます。

本来はすべての部分に眼を通して解釈する必要がありますが、敢えてポイントを絞るのであれば以下の赤枠の部分になると考えます。

・DXA法のポイント①

まず、椎体の画像を確認することが第一です。椎体の骨密度で注意が必要なのは、圧迫骨折や骨棘などの変性があると、骨密度を過大に評価してしまう、ということです。90歳の骨密度が100%を超えている場合、間違いなく過大評価しているので注意が必要です。そもそも評価可能な椎体であるのかは下記の2点で評価を行います。

①各椎体の骨密度のTスコア(標準偏差)が隣接椎体より1以上異なる場合は、その椎体を除外して平均値を計算する

➁評価に適した椎体の数が2椎体未満の場合、大腿骨近位部など他の部位の骨密度を用いる

・DXA法のポイント➁

大腿骨は角度で大きく数値が変動するため注意が必要です。全大腿骨近位部と頸部の骨密度のうち、低い方を採用します。左右はいずれでもよく、必ずしも両側測定する必要はありません。

ここで自験例をお示しします。

椎体の画像をよく見てみますと、椎体のX線吸収率に濃淡があり、かつ側弯しています。これは既存に圧迫骨折があったり、変性があることが示唆される画像です。強いて言うのであればL1はなんとか評価に使えそうですが、他の椎体は難しそうであり、評価に用いることのできる椎体が2椎体未満ということで椎体での骨密度評価は行いません。次に、実際のYAM値を見ていきましょう。

やはり椎体の数値はかなりばらつきがありますね。ここで出てくる平均値を鵜呑みにしないよう気を付けなければいけません。また、大腿骨ですが、大腿骨頸部と近位部全体の数値で大きな開きがあります。ここで採用すべきはより低値である右大腿骨頸部で、この方の骨密度は63%ということになり、これは骨粗鬆症の診断となり治療対象に該当します。漠然と数値だけ見てしまうと、「L1-4が84%、大腿骨近位部が85%か。YAM値が70%だから問題ないな!」という思考に陥ってしまい、治療機会を逃してしまうことに繋がります。

とにかく、

・まずは椎体の画像をみること!

・大腿骨は低い方の数値を採用すること!

この2つを絶対忘れないことが肝要です。

◇FRAX®

さて、続いてはFRAXについてです。これはWHOが開発した骨折リスク評価です。臨床リスク要因大腿骨頸部の骨密度から、大腿骨近位部骨折の主要骨粗鬆症性骨折の向こう10年間での発生率を算出します。実際の画面は以下の通りです。

https://www.sheffield.ac.uk/FRAX/tool.aspx?lang=jp

上記はリンクです。日本語対応もしています。ガイドラインのフロー上は既存骨折がなく、YAMが70-80%の境界域の症例に使用し、骨折リスクが15%以上の際に薬物治療を考慮することになります。骨密度が測定できていない場合でも計算ができ、DXA法が行えない状況でも骨粗鬆症のスクリーニングとして利用することが可能です。

さて、このFRAXですが大きな問題点があります。それは精度が存外に悪いということです。コホート研究におけるシミュレートで、治療が必要な患者に対する感度は53.8%、特異度は78.4%となっており、実に46.2%が見逃されていることになります。骨密度評価単独での感度は35.2%であるため、FRAX®の併用により精度が高まることは間違いないようですが、それにしても微妙すぎる数字です。また、日本人で多い無症候性の椎体骨折を評価することができないという弱点もあります。このためより精度の高い評価方法の登場が待たれますが、現状は骨密度とFRAX®を併用しつつ、臨床的な判断を交えて治療適応を判断していくしかないと思います。

以上、骨粗鬆症の基本についてまとめてみました。生活習慣病の中でも骨粗鬆症はかなり奥深い分野であり、ここまで理解するだけでもかなりの時間を費やしてしまいました。今後は骨粗鬆症の治療薬についてもまとめていくつもりです。

参考

・骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成員会(日本骨粗鬆症学会 日本骨代謝学会 骨粗鬆症財団)編:骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015 年版: 2015

→刊行されてから時間が経過していますが、無料でネットで閲覧することができます。

・竹内靖博 編:もう悩まない!骨粗鬆症診療 新装版: 2022

・南郷栄秀, 岡田悟 編: なんとなくDoしていませんか?骨粗鬆症診療マネジメント. Gノート, 4(1): 2017