抗凝固療法
〇CHADS2スコアとHAS-BLEDスコア
心房細動では収縮力の低下した左房内に血栓が形成され、脳塞栓等の塞栓症を引き起こすことが問題となってきます。そのため、抗凝固薬の適応を判断していく必要があります。1990年代に行われたプラセボとワーファリンを比較した試験のメタ解析では、ワーファリンは脳梗塞発症を約60-70%を低下させることが示されています。
本邦では、有名なCHADS2スコアとその他のリスク因子を勘案して抗凝固薬の導入を検討していくことになります。以下にフローを提示します。
CHADA2スコアについてそれぞれの項目を詳しく見ていくと、
心不全:最近増悪した心不全(100日以内)
高血圧:140/90mmHg以上、または治療中も含めてその既往がある
年齢:75歳以上
という定義であることは押さえておきましょう。
ちなみに欧米ではCHA2DS2-VAScが用いられていますが、血管疾患(V)や女性(Sc)は本邦の検討では有意なリスク因子とならないことがわかっており、ガイドラインではCHADA2スコアを用いることが推奨されています。
逆に、日本固有のリスク因子を含めたその他のリスクを別個に考える必要があり、これらの項目に該当する場合はCHADA2スコアが0点でも抗凝固療法を考慮してもよいことになっている点に注意する必要があります。
さて、抗凝固療法による出血リスクの指標としてHAS-BLEDスコアがあります。
このスコアは出血リスクと相関しており、3点以上(年間 3.74%)だと高出血リスク(HBR:high breeding risk)とされます。HAS-BLEDスコアは決して抗凝固療法を禁忌とするといった意味合いではなく、この要素に該当する修正可能なものは修正して出血リスクをできる限り抑えていこうというものになります。
〇抗凝固療法の選択
別項でも解説した通り、僧帽弁狭窄症や機械弁置換後のAfに対してはワーファリンが第一選択となります。この場合、PT-INRは2.0-3.0でコントロールしていきます。
その他の場合、基本的にはDOACが選択されることが多いです。DOAC4剤の臨床試験(RE-LY、ROCKET AF、ARISTOTLE、ENGAGE AF-TIMI48試験)によりワーファリンとの非劣性が示され、、これら4試験のメタ解析によりDOACの塞栓症抑制効果はワーファリンの同等以上で、出血合併症である脳出血は半減し、全死亡は低下するという結果でした。ただし、消化管出血は25%増加することに留意する必要があります。ワーファリンは頻回のPT-INRの測定、納豆やクロレラなどのビタミンKを多く含む食品を避ける必要があるなどのデメリットが目立ちますが、長年使用されてきた信頼のある薬剤で何よりも安価ですから、元々内服していてPT-INRが安定している患者さんについてはあえてDOACに変更する必要はないでしょう。
DOACについてはダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンがあります。下記の通りの特徴があり、それぞれ長所と短所があります。私個人としては消化管出血のリスクが少ないアピキサバン(エリキュース®)を用いることが多いです。
レートコントロール
レートコントロールは大体110bpm以下で下げ過ぎないことを目標に行っていきます。
用いる薬剤は、
・β遮断薬
・非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬
・ジゴキシン
の三種類があります。
薬剤選択についてはEFと心不全の有無で判断していきます。EF低下例や心不全合併例では陰性変力作用の強いカルシウム拮抗薬は禁忌であることに注意が必要です。
個人的には基本的にはβ遮断薬の内服から入ることが多く、ビソプロロールまたはカルベジロールを使用します。血圧も下げたい場合はα遮断作用もあるカルベジロールを、喘息がある場合は選択性の高いビソプロロールを使用します。
ジゴキシンは強心作用があり、心機能が低下していても使用しやすい薬剤です。一方で中毒域に入らないようコントロールする必要がある上、長期使用で死亡率が上昇する可能性があることに留意が必要です。
リズムコントロール
〇薬物治療
AFFIRM試験によると、レートコントロール群とリズムコントロール群では予後に有意差はないとされています。そのため、Afによる動悸などでQOLが低下する例に限って薬物によるリズムコントロールを検討します。器質的心疾患がある場合はアミオダロンを使用します。器質的心疾患がない場合は発作性と持続性に分類し、前者に対してはピルジカイニドやジベンゾリンなどのⅠ群の抗不整脈薬を、後者に対してはⅣ群のべプリジルを使用します。薬物導入に当たっては専門医の判断を仰ぐことが望ましいでしょうし、詳細は割愛させて頂きます。
〇カテーテルアブレーション
抗不整脈薬は副作用が多い上、また長期には再発してしまうことが知られていました。最近、カテーテルによって肺静脈を左房と電気的に隔離を行う肺静脈隔離術が報告され、日本では年間約8万件のカテーテルアブレーションが行われており、そのうち約70%がAfを対象としています。発作性であれば約70-80%、持続性でも症例を選べば60-70%で1年後の非再発を得られるとされ、薬物治療によるリズムコントロール以上の効果が期待できます。
また、2020年に報告されたEAST-AFNET 4試験は、発症1年以内の早期のAf患者に限定して、積極的なリズムコントロール群と従来のレートコントロール群を比較したRCTです。リズムコントロール群のうち20%がアブレーション施行例でしたが、発症早期のリズムコントロール群では約5年の観察期間で約20%の複合エンドポイント(心血管死、脳卒中、心不全、ACS)のリスク軽減効果があることが報告されました。今後リズムコントロールの価値が見直され、ガイドラインが大きく可能性があり得ます。プライマリケア医としては、もし発症早期のAfを診断した場合、抗凝固療法やレートコントロールを行いつつ、一度専門医への紹介を勧めるのがよいでしょう。
参考
・不整脈薬物治療ガイドライン – 日本循環器学会
・循環器のトビラ 杉崎洋一郎 メディカル・サイエンス・インターナショナル
・循環器薬ドリル 池田隆徳 羊土社