リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica:PMR)とは、頸部、肩、腰部、大腿など四肢近位部の痛みやこわばりを生じる原因不明の炎症性疾患です。UpToDateをメインにその概要についてまとめます。
疫学
PMRは専ら50歳以上の成人に発症する疾患であり、若年での発症は極めて稀です。年齢が上がるにつれて有病率は徐々に増加し、70-80歳でピークを迎えます。比較的頻度の高い疾患であり、生涯のうちにPMRを発症するのは女性で2.43%、男性で1.66%とされており、成人のリウマチ性疾患としては関節リウマチに次いで二番目に多いです。男女比は女性で2-3倍多いとされています。
巨細胞性動脈炎(GCA)との関連が指摘されており、PMRはGCAに先行することも、同時に発症することも、GCAに続発することもあり得ます。PMRの患者でGCAを合併する割合は10%程度、逆にGCAにPMRを合併するのは半数程度と見積もられています。
病態
残念ながらPMRの病態は判然としていません。
PMRとGCAは合併することが多いことは既に述べましたが、病原性の類似性もあります。PMRとGCAはHLA-DR4という遺伝子のある特定の型が関係していることが指摘されています。また、両者とも循環中のTh17細胞が増加し、制御性T細胞が減少していることが分かっています。加えて末梢血中でIL-6が上昇しており、病態に深く関わっているものと考えられています。
また、発症や症状に季節変動が示唆されており、感染症などの環境要因がトリガーとなっていることが推測されています。
「リウマチ性多発筋痛」という用語は筋障害を表しているように見えますが、PMRでは筋肉は病理学的には正常であることに注意が必要です。主に障害されるのは近位関節の、特に関節周囲構造である滑液包と腱です。画像所見の研究から、上肢では上腕二頭筋腱滑膜炎、三角筋下/肩峰下滑液包炎、頸部棘間滑液包炎、肩甲上腕滑膜炎が生じているとされます。また、骨盤帯では股関節周囲の複数の滑液包炎、ハムストリングス腱炎、腰棘間炎が起こっています。
症状
PMRは50歳以上の患者で、肩、股関節、首、胴体の左右対称の疼痛とこわばりを特徴とし、しばしば発症日が同定できるほど急性発症します。
両側性の肩の疼痛はほぼすべての患者に現れ、首と股関節の疼痛はそれぞれ70%、50%の患者に生じます。最初は片側性のこともありますが、経時で両側性となります。肩の疼痛は外転制限を伴うことが特徴的です。骨盤帯の症状は鼠径部および股関節側面の疼痛として現れ、大腿部の後面にも広がると表現されます。遠位関節の症状は約半数に出現しますが、一般的には軽度であることが多いです。
朝のこわばりと運動に伴うこわばりの改善(ゲル現象)はPMRに特徴的であり、存在しない場合はPMRは除外されるとさえ言われています。
近位部の症状によりシャツやコートの着脱、靴下や靴を履く、ブラジャーの着脱、就寝中の体位変換などの日常生活動作が困難になる場合があり、患者さんに実際に日常生活がどのように障害されているか聴取することも診断の上で有用です。
また、微熱、全身倦怠感、食思不振、体重減少に加え、うつ病の合併を認めることもあります。ただし、PMR単独で高熱をきたすことは稀であり、GCAの合併や感染症の存在を考える必要があります。
検査
CRPと血沈はほぼすべての患者で上昇しています。特にCRPは有用であり、陰性の場合はPMRはほぼ否定されます。血沈の数値は幅広く、20%の症例では100mm/時を超えるとされますが、逆に5-20%の症例では40mm/時未満であるとも報告されています。
RFや抗CCP抗体は通常陰性であり、陽性である場合は関節リウマチである可能性が高まります。ただし、高齢発症関節リウマチではいわゆる血清反応が陰性であることも多いため、これらが陰性だからといって関節リウマチが否定できるわけではないことに留意しておきましょう。
画像検査はPMRの診断において必須ではありませんが、診断の一助になる可能性があります。超音波検査やMRI、PETでは、前述の通り関節周囲構造である滑液包炎や腱鞘炎が客観的に確認できることがあります。特に両側の三角筋下/肩峰下滑液包炎はPMRに典型的ですが、関節リウマチや脊椎関節炎など他の炎症性疾患や非炎症性肩疾患でも認めることがあり、特異的とまではいえないことに注意が必要です。
診断
診断における一般論
PMRについては、EULAR/ACRが分類基準を提案しています。ただし、分類基準は主に臨床研究のために作られており、そのまま実際の診断に用いるには限界があることに留意しておく必要があります。
上記の基準を満たした場合、超音波なしの場合は感度68%、特異度78%、超音波ありの場合は感度66%、特異度81%と報告されています。繰り返しになりますがあくまで“分類”基準であり、診断の上では参考程度に留めるのが望ましいです。
PMRの診断を行う際、以下が全て存在するかは確認しておく必要があります。
・発症時の年齢が50歳以上
・45分以上持続する両側の肩、骨盤帯の疼痛が少なくとも2週間持続する
・近位部を主体としたこわばりを伴う
・CRP、血沈が上昇している
・低用量のグルココルチコイドにより症状が急速に改善する
また、PMRを診断する上で重要かつ難しいのが他疾患の除外です。特に関節リウマチとの鑑別は困難であり、治療を開始してから診断が変わることもしばしばあります。鑑別については次項で説明します。
病歴と身体診察
病歴と身体診察については、特に以下の点に注意を払い、包括的に行います。
・発症日を特定できるほどの急性発症であること
・肩と骨盤帯周囲といった近位部の疼痛やこわばりの有無
・発熱、体重減少などの全身症状、新規発症の頭痛、顎跛行、視力障害といったGCAを示唆する病歴
・ステロイド治療に影響のある疾患の合併(HT、DMなど)
・身体所見で肩、頸椎、股関節の可動域制限
血液検査
一般的な血液検査に加え、CRP、血沈は必ず評価を行います。また、TSH、CK、ビタミンD、カルシウム、RF、抗CCP抗体も合わせて評価を行うとよいです。
PMRでは感染性心内膜炎などの血流感染症が重要な鑑別となるため、基本的には血液培養を採取することが望ましいです。
画像検査
PMRの診断において、画像検査は必須ではありませんが、診断の一助となる可能性があります。特に超音波検査は低侵襲であり、技術こそ必要ですが有用といえます。
MRIにおける三角筋下/肩峰下滑液包炎
鑑別疾患
関節リウマチ
50代前半の比較的若い患者で、ある程度末梢関節炎が目立つ場合には関節リウマチを強く疑います。RFや抗CCP抗体の測定が診断に有用ですが、これらが陰性である血清反応陰性関節リウマチが存在することに留意する必要があります。超音波検査やMRIによる関節びらんがある場合は関節リウマチである可能性が高いです。また、関節リウマチではPMRの治療である低用量ステロイドの効果がない場合が多く、治療への反応性で判断することも重要です。
時にPMRと関節リウマチの鑑別は非常に困難です。とある研究では、最初にPMRと診断された患者の20%で関節リウマチに診断が変更されたと報告されています。
RS3PE症候群
RS3PE症候群では四肢末端のpitting edemaを伴う対称性滑膜炎を呈します。
近位関節の症状が強いことがあり、しばしばPMRとの鑑別が必要となることがあります。
複数の筋骨格系疾患の合併
非PMRの肩峰下/三角筋下滑液包炎や、腱板腱炎が両側性に発症するとPMRとの鑑別が困難となる場合があります。朝のこわばりがない点や採血で炎症所見の上昇がみられない点から鑑別が可能です。
骨疾患
多発性骨髄腫や副甲状腺機能亢進症による骨痛がPMRに類似した臨床像を呈することがあります。特に多発性骨髄腫では血沈の上昇もきたすため注意が必要です。
スタチンによる筋痛、筋炎
スタチンは脂質異常症の治療薬として頻用されており、それに伴う筋痛、筋炎も頻度が高いです。スタチンを内服している患者では鑑別に挙げ、休薬を試してみるのも手です。
炎症性筋疾患
皮膚筋炎または多発筋炎の患者では、対照的な近位筋力低下と筋痛を示し、PMRとの鑑別が必要になることがあります。筋酵素の上昇、筋電図異常、MRI所見で鑑別が可能です。
線維筋痛症
線維筋痛症の患者は広範な筋骨格系の疼痛、硬直、倦怠感を呈し、PMRに類似した症状を呈することがあります。線維筋痛症は慢性経過であることが多く、採血で炎症所見が陰性です。
感染症
感染性心内膜炎などの血流感染症ではPMRに類似した症状を呈することがあります。ステロイド治療を導入する前に絶対に除外しておく必要があります。心雑音や皮疹といった身体所見の確認に加え、血液培養の陰性を確認しておくとよいでしょう。
パーキンソン病
高齢者において硬直、うつ症状、全身の疼痛をきたし、PMRとの鑑別が必要となることがあります。振戦などの神経学的異常を伴うことが多く、炎症反応が陰性であることから鑑別は容易です。
甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症では筋痛、こわばり、関節痛を呈することがあります。採血でTSHを確認しておくとよいでしょう。
治療
基本事項
PMRと診断された患者に対してては、初期治療として低用量のグルココルチコイドが推奨されています。PMRはグルココルチコイドへの反応性がよく、副作用の観点からも低用量での使用が望ましいです。多くの患者では1-2年でグルココルチコイドを中止できますが、より長期の治療が必要となることも珍しくありません。
近年はメトトレキサートやIL-6受容体抗体、リツキシマブといった、グルココルチコイド以外の治療も有効性が示されています。ただし、小規模な研究が多く、エビデンスが十分に蓄積されているとは言い難いため、一般的な選択肢とはなっていません。
低用量グルココルチコイド
初回用量としては12.5-20mg、多くても25mg/日のプレドニゾロンに十分に反応します。開始用量は患者の体重、症状の強さ、糖尿病などの合併症に応じて調整しますが、15mg/日から開始することが多いです。小柄かつ合併症が多い場合は7.5-10mg/日の低用量でもよい場合もあります。
治療への反応性は早く、しばしば劇的で、患者さんから大変感謝されます。反応性が悪い場合には他疾患の可能性やGCAの合併を考慮する必要があります。
治療開始後、1-2週間後に治療反応性を確認します。効果がある場合、2-4週間は初回用量のまま維持した後、漸減を開始します。症状をみながら2-4週間ごとに2.5mgずつ漸減し、10mg/日としたら、そこから4週ごとに1mgずつ慎重に漸減していきます。こうすることで、約半数の症例で約1-2年で治療を中止することができます。一方、1/3の症例では再燃してしまい、5mg/日程度での維持治療が必要となるとされています。
PMRの症状の再燃がないかを注意深くモニタリングする必要がありますが、合わせてGCAの症状がないかもよく確認しなければなりません。患者さんにGCAについて説明し、頭痛、顎跛行、視力障害などの症状が出たらすぐに報告するよう伝えておくことが重要です。
メトトレキサート
MTXの併用によるランダム化試験のデータはまちまちですが、グルココルチコイドの累積使用、再発率など、一般的に良好な結果が報告されています。用量は関節リウマチに対して使用されるもの(20-25mg/週)と比較し、低用量であること(7.5-10mg/週)に注意が必要です。
IL-6受容体遮断薬
サリルマブはグルココルチコイド依存性のPMR患者への治療として、FDAに承認されています(本邦では未承認)。再発性PMR患者118名を対象としたランダム化試験では、サリルマブを2週間ごとに投与するよう割り当てられた患者は、プラセボ群と比較し寛解維持率が高く(28.3% vs 10.3%)、再発が少なったです。また、トシリズマブも有効性が報告されています。
リツキシマブ
IL-6受容体遮断薬同様、リツキシマブも有効性が報告されています。ただし、エビデンスはまだ少なく、今後さらなる研究が必要です。
TNF阻害薬
TNF阻害薬についてはいくつか研究が行われていますが、グルココルチコイドと比較して有効性は実証できていません。現状、EULAR/ACRから使用しないことが推奨されています。
診断/治療のフローチャート
これまで述べてきた通り、PMRは診断の上で他疾患の除外が重要かつ困難であり、しばしば経過中に診断が変わることもあります。UpToDateに記載のあった、診断と治療におけるフローチャートを示します。
以上、PMRについて概要をまとめました。
PMRのゲシュタルトとしては、「70歳前後の高齢者が、発症日を特定できる程の急性発症の、両肩・股関節、首といった体幹周囲の疼痛、こわばりのため、家事や寝返りといった日常生活全般に支障をきたす疾患」ということになるかと思われます。
キーポイントとして、
・診断の基本は他疾患の除外
・高齢発症関節リウマチとの鑑別が特に難しい
・治療は低用量グルココルチコイド
・常にGCAの合併に留意する必要がある
あたりはしっかり押さえておきたい所です。
参考
・UpToDate
https://www.uptodate.com/contents/clinical-manifestations-and-diagnosis-of-polymyalgia-rheumatica
https://www.uptodate.com/contents/treatment-of-polymyalgia-rheumatica
・2015 Recommendations for the management of polymyalgia rheumatica: a European League Against Rheumatism/American College of Rheumatology collaborative initiative