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鉄剤不応性鉄欠乏性貧血(IRIDA)

  • 2024年3月10日
  • 2024年3月10日
  • 血液
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鉄はFe3+として食物中に存在しており、胃酸によってFe2+に還元されて、フェルロポルチンという鉄輸送体によって血中に取り込まれます。血中では再度Fe3+となりますが、このままでは生体にとって毒性が強いため、肝臓で産生された輸送タンパク質であるトランスフェリンと結合します。トランスフェリンに結合した鉄は骨髄でヘモグロビンとなり、赤血球が形成されます。赤血球の寿命は120日程度とされており、寿命が来たものは脾臓でマクロファージに貪食され分解されます。マクロファージに分解されて生まれた鉄や、肝臓などの組織中に存在する鉄はフェリチンと結合し、貯蔵鉄となります。貯蔵鉄はフェルロポルチンを通じ、必要に応じて血中に供給されます。

 

 

また、鉄動態で注目されているのがへプシジンという蛋白質です。これは元々は肝臓で産生される抗菌ペプチドとして発見され、現在では体内の鉄の恒常性維持に中心的な役割を果たす液性因子として知られています。へプシジンはフェロポルチンの発現を低下させることにより、マクロファージからの鉄の放出と腸管からの鉄の取り込みを抑制します。へプシジンは鉄負荷やIL-6などの炎症性サイトカインで増加し、低酸素状態や赤血球造血の亢進状態で低下します。膠原病や担癌患者など、慢性炎症が存在している患者さんでは、高へプシジン血症によって鉄の吸収/利用障害による貧血が問題となることがあります。

 

小球性貧血で、鉄欠乏状態であることが明らかであるにも関わらず、経口の鉄剤投与に反応しない症例を鉄剤不応性鉄欠乏性貧血(iron refractory iron deficiency anemia:IRIDA)と呼称します。後天性と先天性のものがありますが、先天性は極めて稀であるため、実臨床では後天性が問題となることがほとんどです。

後天性鉄剤不応性鉄欠乏性貧血

最も原因として頻度が高いのは、H.pyrori感染や自己免疫的機序による萎縮性胃炎です。萎縮性胃炎では胃酸の分泌が低下しており、Fe3+をFe2+に還元することができないため、十二指腸からの吸収が低下してしまいます。このため、萎縮性胃炎の鉄欠乏性貧血では、経口鉄剤では反応が見られないことも少なくありません。また、慢性的にプロトンポンプ阻害薬やP-CABを内服している患者でも同様のことが起こり得ます。このような症例では、フェジン®やフェインジェクト®、モノヴァー®といった静注鉄剤を検討します。ただし、経口鉄剤と比較するとヘモクロマトーシスのリスクが高まるため、過剰投与とならないよう注意が必要です。

 

経口鉄剤は消化器症状が強いため、自己判断で内服を中断してしまう例も多いです。経口鉄剤への反応が悪い場合、まず内服アドヒアランスの確認を必ず行うようにしましょう。

 

また、持続的な消化管出血や月経過多が持続している場合、当然鉄剤を投与しても貧血が改善しません。鉄欠乏性貧血では上下部内視鏡や腹部エコーによる出血源の検索を丁寧に行うようにしましょう。場合によっては通常の内視鏡では検索しにくい、小腸の精査も検討します。

先天性鉄剤不応性鉄欠乏性貧血

Matriptase-2をコードするTMPRSS6遺伝子の欠損によりIRIDAを呈するものを先天性鉄剤不応性鉄欠乏性貧血と呼称します(こちらが本来の意味でのIRIDAです)。この蛋白質はへプシジンを制御する因子の一つであり、欠損によってヘプシジンの作用が増強することで鉄欠乏性貧血を呈します。幼少期からの小球性貧血が特徴であり、血液検査では血清鉄低値、UIBC高値、フェリチン正常、ヘプシジン正常~高値となります。鉄欠乏状態にも関わらずヘプシジンが上昇しており、背景に慢性炎症をきたす疾患がないというのが診断へのキーとなります。家族性の貧血は本疾患を疑うきっかけになりますが、孤発例も少なくありません。経口鉄剤への反応は全くなく、静注製剤へは部分的に反応することがあります。

 

1)Haematologica. 2013 Jun; 98(6): 845–853.

2)UpToDate